M&Aで不動産の含み益はどう評価される?売却価格と税金への影響、売り手の3つの準備
公開日:2026.10.27
2026.10.27
更新日:2026.10.27
2026.10.27
不動産の含み益は、帳簿の金額と時価の差です。M&Aでは売却価格を押し上げる一方、買い手は将来の税金を差し引くよう求めることがあります。手法ごとの税金の違い、売り手の準備と注意点、相続への影響を解説します。

創業時に買った本社の土地が、今では何倍もの価値になっている。会社を売るとき、土地の値上がり分は価格にどう反映されるのか。不動産の含み益とは、帳簿に載っている金額と、現在の時価との差です。M&Aでは、含み益が売却価格を押し上げる一方で、買い手から将来の税金の分を差し引くよう求められることもあります。売り方によって、手元に残る金額も大きく変わります。
本記事では、含み益が売却価格に与える影響と、M&Aの手法ごとの税金の違いを解説します。あわせて、売り手が進める準備と注意点、相続への影響を示します。
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不動産の含み益とは
不動産の含み益とは、会社が持つ土地や建物の時価が、決算書に載っている帳簿の金額を上回っている部分のことです。反対に、時価が帳簿の金額を下回っている部分は含み損と呼ばれます。
土地は、取得した時の金額のまま帳簿に載り続けます。数十年前に取得した土地であれば、時価との差が大きく開いていることがあります。
地価は上昇傾向が続いています。国土交通省が2026年9月に公表した都道府県地価調査では、全国の全用途平均・住宅地・商業地のいずれも5年連続で上昇し、商業地は上昇幅が拡大しました。
全国の地価動向は全用途平均で5年連続上昇~令和8年都道府県地価調査~|国土交通省
| 項目 | 例 |
|---|---|
| 帳簿の金額(取得した時の金額) | 3,000万円 |
| 現在の時価 | 1億円 |
| 含み益 | 7,000万円 |
自社の不動産が帳簿の金額と比べていくらの価値があるのかを、売却を考え始めた段階で確かめます。
含み益はM&Aの売却価格を押し上げる
含み益は、会社の実際の価値に反映されるため、売却価格を押し上げる要因になります。評価方法ごとの影響は以下の3つです。
- 時価純資産法では含み益の分だけ株式価値が上がる
- 年買法では含み益を含む時価純資産が価格の土台になる
- 帳簿上は債務超過でも含み益で資産超過になる場合がある
それぞれを順に解説します。
時価純資産法では含み益の分だけ株式価値が上がる
資産と負債を時価で評価する時価純資産法では、不動産の含み益の分だけ株式の価値が上がります。 帳簿の金額ではなく、時価で資産を評価し直すためです。
中小企業庁のガイドラインも、中小企業のM&Aでは時価純資産法などで算定した価値をもとに譲渡額を交渉するケースが多いとしています。
先の例であれば、含み益の7,000万円が純資産に加わります。帳簿の純資産だけを見て価格を判断すると、会社の価値を低く見積もることになります。不動産の時価を反映した純資産を、売り手の側で先に計算します。
時価純資産法と他の評価方法の違いについては、下記で詳しく解説しています。
DCF法と時価純資産法の違いとは?5つの比較軸と実務の年倍法・マルチプル法を解説
年買法では含み益を含む時価純資産が価格の土台になる
時価純資産に数年分の利益を加える年買法でも、含み益は価格の土台に含まれます。 計算の出発点となる時価純資産に、不動産の時価が反映されるためです。
利益が少ない会社でも、含み益のある不動産を持っていれば、価格を一定の水準で支えられる場合があります。
一方で、利益を生まない不動産は、買い手候補から事業に必要な資産かどうかを問われることがあります。遊休地や賃貸物件は、事業の価値とは別に評価されることもあります。事業に使っている不動産と、使っていない不動産を分けて示します。
年買法の計算方法については、下記で解説しています。
帳簿上は債務超過でも含み益で資産超過になる場合がある
帳簿の上では負債が資産を上回る債務超過でも、含み益を加えると資産超過になる場合があります。 中小企業庁のガイドラインは、債務超過かどうかを、資産と負債を時価で評価した実態の貸借対照表で判断するとしています。
帳簿上の債務超過を理由に売却をあきらめる必要はありません。借入金が多くても、土地の時価が負債を上回っていれば、株式に価値が残るためです。
含み益の大きい不動産がある会社は、時価で作り直した貸借対照表をもとに、通常のM&Aが可能かを判断します。
債務超過の会社の株式価値の考え方については、下記もあわせてご覧ください。
債務超過の株式譲渡は0円・1円になる?株式価値の考え方と売却時の注意点を解説
買い手候補は含み益にかかる将来の税金を差し引くよう求める場合がある
含み益は、不動産を実際に売ったときに初めて利益になり、売った時点で会社に法人税がかかります。買い手候補は、含み益の全額ではなく、将来かかる税金の分を差し引いた金額で評価するよう求めることがあります。
同じ考え方は、相続税の株式の評価にもあります。国税庁の財産評価基本通達は、取引相場のない株式を純資産価額で評価する際に、含み益にあたる評価差額から、法人税等に相当する金額を差し引くとしています。差し引く割合は、2026年の通達の改正により、2026年4月1日以後の相続・遺贈・贈与から37%から38%に引き上げられました。
ただし、事業に使い続ける本社や工場であれば、すぐに売る予定はありません。売る予定のない不動産の税金を、全額差し引く必要があるかは交渉の余地があります。
差し引く税金の割合と根拠を、買い手候補に具体的に示してもらいます。
売却の進め方や仲介会社から提案を受けた際の注意点を、弁護士監修のガイドにまとめています。無料でダウンロードできます。
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M&Aの手法で含み益にかかる税金が変わる
含み益にかかる税金は、どの手法で会社を売るかによって大きく変わります。主な手法ごとの違いは以下の3つです。
- 株式譲渡では株主の譲渡益に申告分離課税がかかる
- 会社が不動産を売って清算すると法人税と配当の課税が重なる
- 事業譲渡では会社に譲渡益がかかり買い手には流通税がかかる
それぞれを順に解説します。
株式譲渡では株主の譲渡益に申告分離課税がかかる
株式譲渡では、不動産は会社の資産のまま買い手に移り、株主である経営者の株式の譲渡益に税金がかかります。 含み益を反映した価格で株式を売れば、含み益の分だけ譲渡益が増えます。
中小企業庁のガイドラインによると、株式の譲渡益は他の所得と分けて課税され、税率は所得税・住民税を合わせて20.315%です。
不動産の名義は会社のまま変わらないため、不動産の移転にかかる税金も生じません。含み益にかかる法人税は、将来不動産を売るときまで会社に残り、買い手が引き継ぎます。
会社が不動産を売って清算すると法人税と配当の課税が重なる
会社が不動産を売ってから会社を清算すると、税金が二重にかかります。 まず会社に、不動産の売却益に対する法人税がかかります。
次に、残った財産を株主に分配する際、一定の部分は配当とみなされ、給与などと合算する総合課税の対象になります。中小企業庁のガイドラインによると、総合課税の税率は所得税・住民税を合わせて最大で55.945%です。
株式譲渡と比べると、手元に残る金額が大きく減ることがあります。清算を考えている場合も、株式譲渡と手取りを比べてから決めます。
清算した場合の分配と税金については、下記で詳しく解説しています。
会社清算の残余財産の分配はどう決まる?流れと税金、手取りが減る3つの注意点を解説
事業譲渡では会社に譲渡益がかかり買い手には流通税がかかる
事業譲渡で不動産を移すと、会社に譲渡益への法人税がかかり、買い手には不動産の移転にかかる税金がかかります。 不動産を受け取る買い手には、不動産取得税と登録免許税がかかるためです。
買い手候補は、移転にかかる税金の分を譲渡価格から差し引くよう求めることがあります。
さらに、受け取った代金を経営者個人が受け取るには、配当などの形を経る必要があります。事業譲渡を提案された場合は、株式譲渡と比べた手取りを試算します。
含み益を踏まえて売り手が進める3つの準備
含み益のある不動産は、準備しだいで売却の結果が変わります。売り手が進める準備は以下の3つです。
- 不動産の時価を鑑定評価などで把握する
- 事業に使わない不動産は会社分割などで切り離すかを検討する
- 役員退職慰労金で株価と手取りを調整する
それぞれを順に解説します。
不動産の時価を鑑定評価などで把握する
最初に、不動産の時価を、不動産鑑定士の鑑定評価などで把握します。 根拠のある時価を示せなければ、買い手候補の評価に対して説明しにくくなります。
費用を抑えて目安をつかむなら、公示地価や相続税の路線価を参考にする方法もあります。
ただし、目安の金額は、交渉の場では根拠として弱くなります。個別の土地の形や接道、建物の状態は、目安の金額には反映されないためです。価格に大きく影響する不動産は、鑑定評価を取得します。
事業に使わない不動産は会社分割などで切り離すかを検討する
事業に使っていない不動産は、売却の前に会社から切り離すかを検討します。 買い手が必要としない不動産まで含めると、価格の交渉が難しくなるためです。
切り離す方法には、会社分割で別の会社に移す、経営者が買い取るなどがあります。
会社分割の後に株式を売る予定があると、税務上の取り扱いが不利になる場合もあります。切り離す方法ごとの税金を、税理士などの専門家と試算してから決めます。
不動産を切り離す方法と税金については、下記で詳しく解説しています。
M&Aで不動産を切り離すと税金はどうなる?3つの方法と課税の注意点を解説
役員退職慰労金で株価と手取りを調整する
経営者が退任する際に役員退職慰労金を受け取ると、株価と手取りを調整できます。 退職金を支払えば会社の純資産が減り、株式の価格が下がるためです。
国税庁によると、退職所得は、退職金から退職所得控除を差し引いた額の2分の1が課税の対象になります。株式の譲渡益とは税金のかかり方が異なります。
ただし、役員としての勤続年数が5年以下の場合などは、2分の1にならないことがあります。退職金と株式の代金の組み合わせを、税理士などの専門家と試算します。
役員退職慰労金の上限と損金算入の要件については、下記で解説しています。
役員退職慰労金はM&Aでいくらまで?功績倍率法と損金算入の3要件を解説
含み益のある不動産をM&Aで扱うときの3つの注意点
含み益のある不動産には、評価や手続きの面で注意点があります。主な注意点は以下の3つです。
- 評価の方法によって不動産の金額が大きく変わる
- 土壌汚染や建物の法令違反があると時価が下がる
- 借入の担保に入っている不動産は解除の手続きが要る
それぞれを順に解説します。
評価の方法によって不動産の金額が大きく変わる
同じ不動産でも、どの方法で評価するかによって金額が大きく変わります。 鑑定評価、公示地価、相続税の路線価、固定資産税評価額は、方法ごとに水準が異なります。
一般に、相続税の路線価は公示地価の8割程度が目安とされています。
売り手と買い手が違う方法で評価すれば、価格の差は埋まりません。買い手候補は低い水準の方法を、売り手は高い水準の方法を主張しがちです。どの方法で評価するかを、交渉の早い段階で買い手候補と決めます。
土壌汚染や建物の法令違反があると時価が下がる
土壌汚染や、建物の法令違反があると、不動産の時価が下がる可能性があります。 浄化や是正の費用がかかり、買い手候補が融資を受けにくくなる場合があるためです。
工場や、有害な物質を扱ってきた土地では、土壌汚染の調査を求められることがあります。
増築や用途の変更で、建物が法令に適合しなくなっている場合もあります。問題が見つかれば、是正の費用が価格から差し引かれる可能性があります。過去の使用の履歴と、建物の検査の記録を確認しておきます。
借入の担保に入っている不動産は解除の手続きが要る
会社の借入金の担保に入っている不動産は、担保の扱いを決める必要があります。 抵当権が残ったままでは、買い手が不動産を自由に使えないためです。
株式譲渡では、借入金も担保も会社に残るため、金融機関と買い手の間で扱いを調整します。買い手が借入金を返済して担保を外すこともあります。
経営者が個人で担保を提供している場合や、個人保証をしている場合は、解除の手順を最終契約の前に決めます。
含み益は売らずに相続した場合も株価を通じて相続税に響く
含み益は、会社を売らずに相続する場合にも影響します。取引相場のない株式は、会社の資産と負債をもとに評価されることがあり、不動産の値上がりは株式の評価額を押し上げるためです。
相続税の土地の評価に使う路線価も上がっています。国税庁が2026年7月に公表した路線価は、全国の標準宅地の平均で前年より2.9%上昇し、5年連続の上昇となりました。
会社を売らずに持ち続けても、地価が上がれば、後継者が負担する相続税は増えます。財産評価基本通達は、含み益にかかる法人税等の相当額を差し引くことを認めていますが、含み益の全額が評価から外れるわけではありません。
不動産の多い会社では、株式の評価額の多くを不動産の値上がりが占めることもあります。後継者が納税の資金をどう用意するかが課題になります。
売却と相続のどちらを選ぶかは、手取りと税負担の両方を比べて判断します。不動産の多い会社ほど、承継の方針を早めに決めておくことが大切です。
非上場株式の評価方法については、下記で解説しています。
非上場株式の評価とは?相続税・M&Aでの評価方法と違いをオーナー目線で解説
M&Aの不動産の含み益に関するよくある質問
含み益のある不動産を持つ会社の売却について、よく寄せられる質問を3つ取り上げます。含み損がある場合、不動産だけを持つ会社の場合、株式譲渡でも税率が変わる場合の3点です。
含み損がある不動産はM&Aでどう評価されますか?
時価純資産法などでは、含み損の分だけ株式の価値が下がります。ただし、不動産を売って損失が出れば、会社の法人税を減らす効果があります。買い手が税金を減らす効果をどう評価するかによって、価格への影響は変わります。含み損の大きい不動産は、売却前に処分するかどうかも含めて、税理士などの専門家と検討します。
不動産だけを持つ会社も株式譲渡で売れますか?
売れます。不動産の名義を変えずに会社ごと売るため、不動産を直接売るより手続きが少なくなる場合があります。買い手にとっても、不動産の移転にかかる税金を抑えられる利点があります。ただし、会社の資産の大半が土地である場合などは、株式の譲渡益の課税が通常と異なることがあるため、事前に確認します。
株式譲渡でも分離課税の税率にならない場合はありますか?
あります。国税庁によると、資産の70%以上が土地等である法人の株式で、一定の要件にあたるものを譲渡した場合などは、短期譲渡所得として所得税30%・住民税9%の税率で課税されます。土地を取得してからの期間が短い会社や、資産の大半が土地の会社は、売却の前に税理士などの専門家に確認します。
まとめ
不動産の含み益は、帳簿の金額と時価の差です。M&Aでは売却価格を押し上げる一方、買い手は将来の税金の分を差し引くよう求めることがあります。
要点は以下のとおりです。
- 時価純資産法や年買法では、含み益の分だけ価格の土台が上がる
- 買い手が差し引く税金の割合と根拠を確認し、交渉する
- 株式譲渡なら株主の譲渡益に申告分離課税、清算なら二重に課税される
- 不動産の時価を鑑定評価で把握し、事業に使わない不動産の扱いを決める
- 含み益は、相続の場合も株価を通じて相続税に影響する
含み益は、売り方しだいで手元に残る金額が大きく変わります。不動産の時価と、手法ごとの手取りを試算したうえで、売却の方法を選んでください。
売却前に押さえておきたい注意点は、資料でも確認できます。
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