役員退職慰労金はM&Aでいくらまで?功績倍率法と損金算入の3要件を解説
公開日:2026.08.05
2026.08.05
更新日:2026.08.05
2026.08.05
会社売却で退任する際に、役員退職慰労金をいくら・どう支給すればよいか迷う経営者もいます。
役員退職慰労金は、役員の退任時に会社が支給する退職金で、M&Aでは対価の一部を退職金として受け取る設計に用いられることがあります。ただし、金額が不相当に高額だと損金として認められなかったり、手続きに不備があると支給が認められなかったりする場合があります。
本記事では、役員退職慰労金の金額を決める功績倍率法、損金として認められる要件、支給の手続き、注意点までを売り手経営者の目線で解説します。退任するオーナー経営者の方に、金額設計と手続きの材料になる内容です。
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M&Aにおける役員退職慰労金とは
役員退職慰労金とは、役員の退任時に会社が支給する退職金です。M&Aでは、退任するオーナー役員に支給し、対価の一部を退職金として受け取る設計に用いられることがあります。
会社売却では、株式の譲渡対価だけでなく、退任する経営者に役員退職慰労金を支給する形が取られることがあります。退職金には退職所得としての課税の扱いがあり、譲渡対価とあわせて受け取り方を検討します。役員退職慰労金は、役員としての在任期間や役職などに応じて金額を決めます。
役員退職慰労金の金額を決める功績倍率法
役員退職慰労金の金額は、功績倍率法という方法で計算されることが多くあります。功績倍率法は、最終報酬月額、勤続年数、功績倍率をもとに金額を求める方法です。
主に次の3つの要素を確認します。
- 最終報酬月額をもとに計算する
- 勤続年数を反映する
- 役位に応じた功績倍率をかける
それぞれを順に解説します。
最終報酬月額をもとに計算する
功績倍率法では、最終報酬月額をもとに計算します。退任する時点での役員報酬の月額が、金額を求める基礎になるためです。
退任の直前の役員報酬の月額を用いて、勤続年数と功績倍率を掛け合わせて金額を求めます。退任の直前に役員報酬を引き上げると、金額の基礎が変わりますが、不自然な引き上げは税務上の否認につながる場合があるため、報酬の水準は慎重に扱う必要があります。
勤続年数を反映する
功績倍率法では、勤続年数を反映します。役員として在任した期間の長さを、金額に反映するためです。
役員に就任してから退任するまでの在任期間を、年数として金額の計算に用います。在任期間が長いほど、金額は大きくなります。使用人から役員になった場合など、勤続年数の数え方が論点になる場合は、専門家に確認することが望ましいです。
役位に応じた功績倍率をかける
功績倍率法では、役位に応じた功績倍率をかけます。社長や取締役など、役位ごとの会社への功績の度合いを、倍率として反映するためです。
最終報酬月額と勤続年数を掛け合わせた額に、役位に応じた功績倍率をかけて金額を求めます。功績倍率は、役位や会社の状況によって用いられる水準が異なり、法令で一律に定められた数値ではありません。功績が特に大きい場合に功労加算を行うこともありますが、金額が過大にならないよう注意します。
役員退職慰労金が損金として認められる要件
役員退職慰労金は、一定の要件を満たすと会社の損金に算入できます。金額が不相当に高額だと、損金として認められない部分が生じます。次の3つを確認します。
- 不相当に高額な部分は損金に算入されない
- 適正かどうかは功績倍率などで判断される
- 損金に算入できる時期が決まっている
それぞれを順に解説します。
不相当に高額な部分は損金に算入されない
役員退職慰労金のうち、不相当に高額な部分は損金に算入されません。法人税法では、役員退職給与のうち不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入しないとされています。
損金に算入できないと、その部分に会社の法人税がかかります。金額を決める際は、同じ規模や同じ業種の会社の水準、功績倍率法による金額などを踏まえ、不相当に高額とならないようにします。金額の根拠を示せるようにしておく必要があります。
※参考:国税庁「No.5211 役員に対する退職金の損金算入」
適正かどうかは功績倍率などで判断される
適正かどうかは、功績倍率などをもとに判断されます。最終報酬月額、勤続年数、功績倍率による金額や、同業他社の水準が、適正額の判断に用いられるためです。
税務では、役員退職慰労金の金額が、その役員の功績や在任期間に照らして適正かどうかが確認されます。功績倍率法による金額を大きく上回ると、超えた部分が不相当に高額と判断される場合があります。適正額の根拠を、専門家とともに確認することが望ましいです。
損金に算入できる時期が決まっている
役員退職慰労金を損金に算入できる時期は、原則として決まっています。株主総会の決議によって金額が確定した日を含む事業年度に損金へ算入するのが原則です。
実際に支給した日を含む事業年度に損金へ算入する扱いもあります。どちらの時期に算入するかによって、会社の税務の処理が変わります。損金算入の時期は、国税庁の情報や専門家とともに確認する必要があります。
※参考:国税庁「No.5208 役員の退職金の損金算入時期」
役員退職慰労金を支給するための手続き
役員退職慰労金を支給するには、会社法に沿った手続きが必要です。役員への退職慰労金は、原則として株主総会の決議によって定めます。
主に次の3つの手続きを確認します。
- 株主総会で支給を決議する
- 決議の内容を議事録に残す
- 決議に基づいて支給する
それぞれを順に解説します。
株主総会で支給を決議する
役員退職慰労金は、原則として株主総会の決議によって定めます。会社法では、役員の報酬や退職慰労金などは、定款に定めがない場合、株主総会の決議によって定めるとされているためです。
株主総会では、支給する金額や、支給の時期、支給の方法を決議します。金額の具体的な決定を取締役会などに委ねる場合は、その委ねる旨と基準を決議します。定款に定めがある場合を除き、株主総会の決議が必要になります。
決議の内容を議事録に残す
株主総会の決議の内容は、議事録に残します。決議があったことや、その内容を記録として残すためです。
株主総会の議事録には、決議の日時や場所、議事の経過の要領やその結果など、所定の事項を記載または記録します。作成した議事録は、本店などに備え置く必要があります。役員退職慰労金の支給の根拠として、議事録を残しておくことが重要です。
決議に基づいて支給する
役員退職慰労金は、決議に基づいて支給します。株主総会の決議で定めた金額や時期に沿って、会社が支給するためです。
決議の内容と異なる金額や時期で支給すると、支給の根拠が問われる場合があります。決議で定めた内容に沿って、支給の手続きを進めます。支給にあたっては、源泉徴収などの税務の手続きもあわせて行う必要があります。
役員退職慰労金規程の扱い
役員退職慰労金は、社内の規程がある場合とない場合で、金額の定め方が変わります。規程は金額の根拠にもなります。
主に次の3つを確認します。
- 規程があれば定めに沿って支給する
- 規程がなければ株主総会で個別に決議する
- M&Aの前に規程を整備しておく
それぞれを順に解説します。
規程があれば定めに沿って支給する
役員退職慰労金規程がある場合は、その定めに沿って支給します。規程に、最終報酬月額、勤続年数、功績倍率など、金額の算定の基準が定められているためです。
規程がある場合は、算定の基準に沿って金額を求め、株主総会の決議を経て支給します。規程に沿った金額であれば、金額の根拠を示しやすくなります。規程の内容が実態に合っているかも、あわせて確認しておくことが望ましいです。
規程がなければ株主総会で個別に決議する
役員退職慰労金規程がない場合は、株主総会で個別に金額を決議します。金額の算定の基準を定めた規程がなくても、株主総会の決議によって支給を定められるためです。
規程がない場合は、功績倍率法による金額や、同業他社の水準などを踏まえて金額を検討し、株主総会で決議します。金額の根拠を示せるよう、計算の過程を残しておく必要があります。規程がないまま高額な金額を決めると、税務上の否認につながる場合があります。
M&Aの前に規程を整備しておく
M&Aの前に、役員退職慰労金規程を整備しておく方法があります。規程を整えておくと、金額の算定の根拠を示しやすくなるためです。
M&Aでは、退任する役員への退職慰労金の金額や根拠が、買い手候補や税務の面で確認されることがあります。あらかじめ規程を整備し、算定の基準を定めておくことで、金額の妥当性を示しやすくなります。規程の整備は、専門家とともに進めることが望ましいです。
M&Aで役員退職慰労金を支給する際の注意点
M&Aで役員退職慰労金を支給する際は、注意しておきたい点があります。税務や資金に関わる論点です。
主に次の3つを確認します。
- 退任後も経営に関与すると否認される場合がある
- 支給する資金の原資を確保する
- 弔慰金や役員報酬と区別する
それぞれを順に解説します。
退任後も経営に関与すると否認される場合がある
退任後も経営に関与すると、退職慰労金として認められず否認される場合があります。役員退職慰労金は、実際に退任したことを前提に支給するものだからです。
役員を退任した後も、実質的に経営の実権を握り続けていると、退職の事実がないとして、退職給与として認められないことがあります。M&Aの後に会社に残る場合は、役職や関与の度合いを踏まえ、退職の実態があるかを確認することが重要です。
支給する資金の原資を確保する
役員退職慰労金を支給する資金の原資を、あらかじめ確保します。原資が用意できないと、決議をしても支給できない場合があるためです。
支給には、まとまった資金が必要になります。会社の現預金で支給する、金融機関からの借入で用意する、生命保険を原資とするなど、原資の確保の方法を検討します。原資の確保の見込みを立てないまま進めると、支給できないことがあります。支給の原資を、早めに確保しておくことが望ましいです。
弔慰金や役員報酬と区別する
役員退職慰労金は、弔慰金や役員報酬と区別します。これらは性質が異なり、税務上の扱いも異なるためです。
弔慰金は、役員や従業員の死亡などに伴って支給される金銭で、退職慰労金とは別のものです。役員報酬は、在任中の役務への対価で、退任に伴う退職慰労金とは区別されます。それぞれを混同すると、税務上の扱いを誤る場合があります。名目と実態が合っているかを確認する必要があります。
役員退職慰労金の設計を専門家に相談する
役員退職慰労金の設計は、専門家に相談する方法があります。適正額の判断や損金の扱い、手続きに専門的な検討が関わるためです。次の2つを確認します。
- 適正額と損金の判断を税理士と確認する
- 売り手の立場でFAに相談する
それぞれを順に解説します。
適正額と損金の判断を税理士と確認する
適正額と損金の判断は、税理士と確認します。金額が適正か、どこまで損金に算入できるかは、税務の判断が関わるためです。
功績倍率法による金額の算定、不相当に高額とならない水準、損金算入の時期などを、税理士とともに確認します。税務上の否認のリスクを踏まえて金額を検討することで、後の税務の負担を抑えやすくなります。適正額の根拠を、税理士とともに用意することが望ましいです。
売り手の立場でFAに相談する
役員退職慰労金を含む売却の条件は、売り手の立場でFAに相談する方法があります。譲渡対価と退職慰労金の配分など、売却全体の条件を売り手の意向で進めたい場合に適しています。
M&Aの支援には、売り手と買い手の双方から手数料を受け取る仲介と、依頼者側のみを支援するFAがあり、立場が異なります。FAは依頼者である売り手のみを支援するため、売り手の意向を踏まえた交渉方針を整理しやすくなります。FAサービスの内容は、以下の記事で解説しています。
「FAサービス」の売却アプローチとは?事業承継M&Aを有利に進めるための知識
役員退職慰労金とM&Aに関するよくある質問
役員退職慰労金とM&Aについて、よく寄せられる質問を確認します。
役員退職慰労金の相場はどのくらいですか?
役員退職慰労金の相場は、役位や勤続年数、会社の状況によって異なり、一律の相場はありません。金額は、最終報酬月額、勤続年数、役位に応じた功績倍率をもとに、功績倍率法で計算されることが多くあります。同業他社の水準も参考にされます。出典の定まらない相場の数値を前提にするより、自社の状況をもとに、専門家とともに金額を算定することが望ましいです。
役員退職慰労金と株式譲渡の対価はどう分けますか?
譲渡対価と役員退職慰労金の配分は、税引後の手取りを踏まえて検討します。株式の譲渡対価と退職慰労金では、課税の扱いが異なります。
退職慰労金には退職所得としての課税の扱いがあり、配分によって税引後の手取りが変わる場合があります。ただし、退職慰労金が不相当に高額だと損金に算入されない部分が生じるため、金額の妥当性もあわせて検討します。配分は、税理士とともに確認します。
役員退職慰労金が支払われないことはありますか?
役員退職慰労金が支払われないことは、あります。支給には株主総会の決議が必要なため、決議が得られないと支給できません。また、支給する原資が用意できない場合や、金額が不相当に高額として税務上問題になる場合もあります。
M&Aでは、退職慰労金の支給を売却の条件として、買い手候補とあらかじめ取り決めておくことが重要です。
退職慰労金を受け取るとどのくらい税金がかかりますか?
退職慰労金を受け取ると、退職所得として課税されます。退職所得には、勤続年数に応じた退職所得控除があり、控除後の金額の2分の1が課税の対象になるなど、税の負担が抑えられる扱いがあります。具体的な税額は、金額や勤続年数によって変わります。受け取り方や税額は、国税庁の情報や税理士に確認しながら進めます。
※参考:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
まとめ
役員退職慰労金は、役員の退任時に会社が支給する退職金で、M&Aでは対価の一部を退職金として受け取る設計に用いられることがあります。金額は、最終報酬月額、勤続年数、役位に応じた功績倍率をもとに、功績倍率法で計算されることが多くあります。
金額のうち不相当に高額な部分は、損金に算入されません。適正額は功績倍率などをもとに判断され、損金に算入できる時期も原則として決まっています。支給には、原則として株主総会の決議と議事録が必要で、規程がある場合はその定めに沿って支給します。
M&Aで支給する際は、退職の実態があるか、原資を確保できるか、弔慰金や役員報酬と区別できているかを確認します。役員退職慰労金の設計は、適正額や損金、売却全体の条件が関わるため、税理士や売り手の立場に立つFAへの相談が、円滑な設計につながりやすくなります。
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