会社分割と事業譲渡の違いとは?一部事業を売る売り手の5つの判断軸を解説
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- M&Aのスキーム
公開日:2026.08.05
2026.08.05
更新日:2026.08.05
2026.08.05
複数の事業や店舗のうち、一部だけを他社へ売りたいと考える売り手経営者もいます。事業の一部を売る手法には、会社分割と事業譲渡があり、どちらを選ぶかで従業員や税金、手続きの負担が変わります。
会社分割は権利義務を包括的に承継し、事業譲渡は資産や契約を個別に移す点が違いです。本記事では、会社分割と事業譲渡の違いを踏まえ、一部事業を売る際に判断の分かれ目となる5つの軸、会社分割の注意点までを売り手目線で解説します。一部事業の売却を検討している売り手経営者の方に、手法選びの材料になる内容です。
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会社分割と事業譲渡の違いはどこにあるか
会社分割と事業譲渡の最大の違いは、権利義務を包括的に承継するか、資産や契約を個別に移すかにあります。会社分割は包括承継、事業譲渡は特定承継です。
会社分割は、事業に関する権利義務をまとめて別の会社へ承継させる組織再編で、既存の会社へ承継させる吸収分割と、新しく設立する会社へ承継させる新設分割があります。事業譲渡は、譲渡する資産や契約を個別に選んで移す手法です。共通点として、いずれも事業の一部または全部を他社へ移す手段である点が挙げられます。
主な違いを次の表にまとめます。
| 項目 | 会社分割 | 事業譲渡 |
| 承継の方法 | 権利義務を包括的に承継 | 資産や契約を個別に移転 |
| 対価 | 株式や金銭 | 原則として金銭 |
| 従業員の同意 | 労働契約承継法により原則承継 | 個別の同意が必要 |
| 許認可 | 承継できる場合がある | 個別に再取得が必要な場合がある |
| 消費税 | 原則として課税対象外 | 課税資産の譲渡として課税対象 |
違いの詳細やメリット・デメリット、選び方の総論は、以下の記事で解説しています。
会社分割と事業譲渡の違い!メリットやデメリット、選択のポイントも解説
一部事業を売る売り手の5つの判断軸
事業の一部だけを売るとき、会社分割と事業譲渡のどちらが自社に合うかは、いくつかの軸で判断します。従業員や税金、手続きの負担が結論に直結します。
主に次の5つの軸を確認します。
- 従業員の個別同意が必要かで選ぶ
- 契約や許認可の引き継ぎ方で選ぶ
- 消費税の負担の違いで選ぶ
- 不動産取得税など流通税の負担で選ぶ
- 債権者保護手続きの要否で選ぶ
それぞれを順に解説します。
従業員の個別同意が必要かで選ぶ
事業譲渡は従業員の個別同意が必要で、会社分割は原則として同意なく承継されます。この違いが、従業員の多い事業を売る際の判断の分かれ目になります。
事業譲渡では、従業員の労働契約が当然には移らず、転籍に一人ひとりの同意が必要です。会社分割では、承継する事業に従事する従業員の労働契約が、労働契約承継法に基づき原則として承継会社へ承継されます。いずれの場合も、従業員への説明を適切な範囲とタイミングで進めることが望ましいです。従業員への影響の詳細は、以下の記事で解説しています。
事業譲渡が従業員に与える影響とは?転籍手続きや拒否された時の対応も紹介
契約や許認可の引き継ぎ方で選ぶ
会社分割は契約や許認可を包括的に承継できる場合があり、事業譲渡は個別に移す手続きが必要です。引き継ぐ契約や許認可が多い事業では、この違いが手間に影響します。
事業譲渡では、取引先との契約は契約上の地位を個別に移転し、相手方の承諾が必要になる場合があります。許認可も、事業譲渡では個別に再取得が必要になるものがあります。
会社分割では、契約や許認可を承継できる場合がある一方、許認可の種類によっては会社分割でも個別の手続きや届出が必要です。引き継ぐ契約や許認可の内容を、事前に確認する必要があります。
消費税の負担の違いで選ぶ
事業譲渡は消費税の課税対象になり、会社分割は原則として課税対象外です。売る資産に課税資産が多いほど、この違いが負担に影響します。
事業譲渡では、譲渡する資産のうち課税資産の部分が消費税の課税対象になります。会社分割は、組織再編として原則として消費税の課税対象外です。消費税の税率や課税の範囲は、国税庁の情報で確認します。課税資産の額が大きい事業では、消費税の負担を踏まえて手法を検討することが重要です。
※参考:国税庁「C6 企業組織再編関係」
※参考:国税庁「No.6117 「資産の譲渡等」とは」
不動産取得税など流通税の負担で選ぶ
会社分割は一定の要件を満たすと不動産取得税が非課税になる場合があり、事業譲渡は課税されます。不動産を含む事業を売る際に、この違いが負担に影響します。
事業譲渡で不動産を移すと、買い手候補に不動産取得税や登録免許税がかかります。会社分割では、一定の要件を満たす場合に不動産取得税が非課税になることがあります。要件や税率は税制改正で変わることがあるため、総務省や国税庁の最新の情報で確認する必要があります。不動産を含む事業では、流通税の負担を踏まえて検討することが望ましいです。
※参考:総務省「不動産取得税」
債権者保護手続きの要否で選ぶ
会社分割は原則として債権者保護手続きが必要で、事業譲渡は原則として不要です。手続きにかかる時間の差が、売却の進め方に影響します。
会社分割では、原則として、債権者が異議を申し出る機会を設ける債権者保護手続きが必要になり、一定の期間を要します。事業譲渡では、原則としてこの手続きは不要ですが、債務を移す場合は個別に債権者の承諾が必要になることがあります。手続きにかかる期間を踏まえて、手法とスケジュールを検討する必要があります。
※参考:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」
会社分割で一部事業を売る場合の注意点
会社分割で一部事業を売る場合、包括承継や手続きに関する注意点があります。次の3つを確認します。
- 簿外債務を包括的に承継する可能性がある
- 原則として株主総会の特別決議が必要になる
- 買い手候補との直接交渉のリスクに注意する
それぞれを順に解説します。
簿外債務を包括的に承継する可能性がある
会社分割では、包括承継の性質から、簿外債務も承継会社へ移る可能性があります。帳簿に表れていない債務が、分割する事業とともに移ることがあるためです。
簿外債務と偶発債務は、重なる場合もありますが同じ概念ではありません。承継する事業に、帳簿に表れていない債務や、将来請求される可能性のある債務がないかを、財務・法務・労務・税務のデューデリジェンスで確認します。買い手候補も同様に調査を行うため、売り手として、事前に債務の状況を把握しておくことが重要です。
原則として株主総会の特別決議が必要になる
会社分割は、原則として株主総会の特別決議が必要になります。会社の組織再編として、株主の承認を得る手続きが求められるためです。
特別決議では、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が求められます。ただし、承継させる資産の規模など一定の要件を満たす簡易分割や、特別支配関係にある会社間で行う略式分割では、株主総会の決議を省略できる場合があります。事業譲渡でも、事業の重要な一部の譲渡などに該当する場合は、原則として株主総会の特別決議が必要です。決議が必要かどうかを、事前に確認しておく必要があります。
買い手候補との直接交渉のリスクに注意する
会社分割を含むM&Aを、買い手候補と直接交渉で進める場合は、リスクに注意します。専門家を介さずに条件を決めると、不利な条件に気づきにくいためです。
買い手候補と直接交渉すると、譲渡価格や表明保証、補償条件などの論点を、売り手が自ら確認することになります。M&Aの経験がないと、条件の妥当性を判断しにくい場合があります。売り手として、専門家を介して交渉を進めることが望ましいです。
一部事業の売却を売り手目線で進めるなら専門家に相談する
一部事業の売却は、手法の選択や手続き、税務に専門的な検討が関わります。売り手目線で進めるなら、専門家に相談する方法があります。主に次の2つを確認します。
- 手法の選択と手続きを専門家に相談する
- 売り手の立場でFAに相談する
それぞれを順に解説します。
手法の選択と手続きを専門家に相談する
会社分割と事業譲渡のどちらを選ぶか、手続きをどう進めるかは、専門家に相談する方法があります。手法によって税務や法務の論点が変わるためです。
税務は税理士、契約や許認可、責任の分担は弁護士、登記や組織再編の手続きは司法書士、労務は社会保険労務士など、論点に応じた専門家に相談します。手法の選択を誤ると、税負担や手続きの負担が想定と変わることがあります。自社の状況に合う手法を、専門家とともに検討することが望ましいです。
売り手の立場でFAに相談する
一部事業の売却を売り手の立場で進めるなら、FAに相談する方法があります。売却の条件を、売り手の意向を踏まえて進めたい場合に適しています。
M&Aの支援には、売り手と買い手の双方から手数料を受け取る仲介と、依頼者側のみを支援するFAがあり、立場が異なります。FAは依頼者である売り手のみを支援するため、売り手の意向を踏まえた交渉方針を整理しやすくなります。FAサービスの内容は、以下の記事で解説しています。
「FAサービス」の売却アプローチとは?事業承継M&Aを有利に進めるための知識
会社分割と事業譲渡の違いに関するよくある質問
会社分割と事業譲渡の違いについて、よく寄せられる質問を確認します。
会社分割と事業譲渡の違いは税金だけですか?
会社分割と事業譲渡の違いは、税金だけではありません。承継の方法が、権利義務を包括的に承継するか、資産や契約を個別に移すかで異なります。従業員の同意の要否、契約や許認可の引き継ぎ方、株主総会の決議や債権者保護手続きの要否も異なります。税金は判断の一つの要素で、手続きや従業員への影響も踏まえて手法を選ぶことが望ましいです。
吸収分割と事業譲渡はどう違いますか?
吸収分割は既存の会社へ権利義務を包括的に承継し、事業譲渡は資産や契約を個別に移転します。吸収分割は会社分割の一つで、分割する事業に関する権利義務が、既存の承継会社へまとめて移ります。事業譲渡では、譲渡する資産や契約を個別に選んで移し、契約は相手方の承諾が必要になる場合があります。承継の範囲を包括的にするか個別にするかが、両者の違いです。
一部の店舗や拠点だけを売る場合はどちらが向いていますか?
一部の店舗や拠点だけを売る場合、どちらが向くかは事業の内容によって変わります。従業員が多い、許認可の引き継ぎが多いといった場合は、包括的に承継できる会社分割が検討しやすいケースがあります。売る範囲を柔軟に選びたい、手続きを簡素にしたいといった場合は、事業譲渡が合う場合があります。従業員数や許認可、不動産の有無を踏まえて、専門家とともに検討することが望ましいです。
会社分割と事業譲渡では買い手候補の見つけやすさは変わりますか?
会社分割と事業譲渡では、買い手候補の探し方や条件の設計が変わる場合があります。会社分割では、新設した会社の株式を譲渡する形など、手法が絡むことがあります。事業譲渡では、売る範囲を柔軟に選べるため、買い手候補が必要な事業だけを引き継ぎやすくなります。どちらの手法でも、買い手候補の意向や事業の内容によって、進め方が変わります。
まとめ
会社分割と事業譲渡の最大の違いは、権利義務を包括的に承継するか、資産や契約を個別に移すかにあります。事業の一部だけを売るときは、この違いが従業員や税金、手続きの負担に影響します。
自社に合う手法は、従業員の個別同意が必要か、契約や許認可の引き継ぎ方、消費税の負担、不動産取得税など流通税の負担、債権者保護手続きの要否という5つの軸で判断します。会社分割で一部事業を売る場合は、簿外債務の包括承継、原則として株主総会の特別決議が必要になる点、直接交渉のリスクに注意が必要です。
手法の選択や手続き、税務には専門的な検討が関わります。自社の状況に合う手法を、売り手の立場に立つFAや専門家とともに検討することが、納得度の高い売却につながりやすくなります。
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