M&Aでリース債務はどう扱われる?売却価格への影響と引き継ぎの手続き、売り手が必要な準備
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- M&Aのスキーム
公開日:2026.09.29
2026.09.29
更新日:2026.09.29
2026.09.29
リース債務は、残債として売却価格から差し引かれるのが一般的です。手法ごとの引き継ぎ方、価格への3つの影響、契約書で確認する4つの条項、経営者個人の保証を外す手順、デューデリジェンス前の準備を売り手視点で解説します。

社用車も複合機も機械もリースで導入している。帳簿に載っていない契約もあるが、売却でどう扱われるのか。リース債務は、残債として売却価格から差し引かれるのが一般的です。賃貸借処理していて貸借対照表に表れていない契約も、買い手候補の調査で把握されます。
本記事では、手法ごとの引き継ぎ方と価格への影響を示したうえで、契約書で確認する4つの条項を解説します。あわせて、経営者個人の保証を外す手順とデューデリジェンス前の準備を示します。
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M&Aではリース債務が残債として売却価格から差し引かれることが多い
リース契約は、将来にわたる支払義務を伴います。買い手候補は引き継いだ後も支払を続けるため、残債を負債として扱います。
株式価値を算定する際、有利子負債から現預金を差し引いた金額を控除する考え方が用いられます。リース債務も、実質的な有利子負債として同じ扱いを受けるのが一般的です。
問題になりやすいのは、賃貸借処理をしていて貸借対照表に表れていない契約です。帳簿に載っていなくても、契約が存在する以上は支払義務が残ります。買い手候補の調査で把握されれば、価格の見直しにつながります。
まずはリース契約書をすべて集め、残りの支払総額を集計します。
帳簿に載っていない債務(簿外債務)の扱いについては、下記で解説しています。
M&Aにおける簿外債務の対策とは?種類やリスク、売り手側の確認ポイントを解説
M&Aの手法によって変わるリース契約の引き継ぎ方
契約の移り方は、スキームで変わります。押さえる点は以下の3つです。
- 株式譲渡ではリース契約がそのまま残りリース会社への通知や承諾が条件になる
- 事業譲渡ではリース会社の承諾がないと契約上の地位を買い手候補に移せない
- 会社分割では承継対象に含めれば移るが債権者保護手続きが関わる
それぞれを順に解説します。
株式譲渡ではリース契約がそのまま残りリース会社への通知や承諾が条件になる
株式譲渡では、契約当事者は変わりません。 会社が存続するため、リース契約も会社に残ります。
ただし契約に支配権変更の条項があれば、リース会社への通知や承諾が必要になります。株主が替わることで契約を解除できる定めが置かれている場合もあります。
契約書の条項を確認し、通知の期限と承諾の要否を把握します。
事業譲渡ではリース会社の承諾がないと契約上の地位を買い手候補に移せない
事業譲渡では、契約を個別に移す必要があります。 契約上の地位の移転には、相手方の承諾が要るためです。
民法第539条の2でも、契約上の地位の譲渡について、相手方の承諾を要する旨を定めています。
承諾が得られなければ、買い手候補はリース物件を使えません。契約ごとに承諾の可否をリース会社へ確認します。
会社分割では承継対象に含めれば移るが債権者保護手続きが関わる
会社分割では、権利義務を包括的に承継できます。 承継対象に含めれば、個別の承諾なしに移転する形が原則です。
一方で、債権者保護手続きが必要になる場合があります。会社法第789条・第799条・第810条は、会社分割に際して債権者が異議を述べることができる場面を定めています。
手続きの要否は分割の内容によります。弁護士などの専門家へ確認し、必要な期間を工程に織り込みます。
手法ごとの違いについては、下記で詳しく解説しています。
M&Aにおける株式譲渡とは?メリットや注意点、手続きの流れを解説
会社分割と事業譲渡の違いとは?一部事業を売る売り手の5つの判断軸を解説
リース債務が売却価格に与える3つの影響
価格への影響は、複数の経路で生じます。押さえる点は以下の3つです。
- 残りのリース債務はネットデットに含めて株式価値から控除される
- 所有権移転外のリース物件は返却前提のため資産として評価されにくい
- 新リース会計基準を適用する買い手候補はすべてのリースをオンバランスで評価する
それぞれを順に解説します。
残りのリース債務はネットデットに含めて株式価値から控除される
残債は、株式価値から差し引かれます。 ネットデットとは、有利子負債から現預金などを差し引いた純額を指します。
企業価値からネットデットを控除した金額が株式価値になるため、リース債務が大きいほど手取りは減ります。賃貸借処理をしていた契約が加われば、想定より控除額が膨らみます。
契約ごとの残存期間と月額を集計し、残債の総額を先に把握します。
株式価値の算定とネットデットの考え方については、下記で解説しています。
会社の売却価格はどう決まる?決まり方の流れや価格を高める方法を売り手目線で解説
所有権移転外のリース物件は返却前提のため資産として評価されにくい
リース物件は、自社の資産ではありません。 所有権が移転しない契約では、期間満了後に返却するのが原則だからです。
買い手候補から見れば、設備を保有しているのではなく使用する権利を持っているだけです。時価純資産を基礎とする算定でも、資産としての評価は限定的になります。
保有設備とリース物件を区分した一覧を作り、資産の実態を示します。
新リース会計基準を適用する買い手候補はすべてのリースをオンバランスで評価する
買い手候補の会計基準によって、扱いが変わります。 企業会計基準委員会は2024年9月13日に、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等を公表しています。
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表|企業会計基準委員会
国際財務報告基準第16号との整合を図った基準で、借手はすべてのリースを貸借対照表に計上する扱いになります。2027年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。
買い手候補が同基準を適用する企業であれば、賃貸借処理していた契約も負債として評価されます。
売却前に確認しておくリース契約書の4つの条項
条項の確認は、交渉の前に済ませます。契約書の文言次第で、引き継ぎの可否も解約時の負担も変わります。見る条項は以下の4つです。
- チェンジオブコントロール条項の有無
- 中途解約時の規定損害金の計算方法
- リース期間満了時の再リース・返却・買取の条件
- 経営者個人の連帯保証の有無
それぞれを順に解説します。
チェンジオブコントロール条項の有無
株式譲渡で問題になるのが、支配権変更の条項です。 株主が替わることで、リース会社に解除権が生じる定めを指します。
確認する内容は次のとおりです。
- 通知が必要か、承諾が必要か
- 通知の期限
- 違反した場合の効果
該当する契約を抽出し、対応の時期をFAと決めます。
中途解約時の規定損害金の計算方法
解約する場合の負担も把握します。 リース契約では、中途解約時に残りのリース料相当額を支払う定めが置かれるのが一般的です。
計算方法は契約によって異なります。残存期間が長い契約ほど、負担は大きくなります。
解約を検討する契約について、リース会社へ規定損害金の見積を依頼します。
リース期間満了時の再リース・返却・買取の条件
満了後の扱いも、引き継ぎの論点です。 買い手候補は、満了時にどうなるかを含めて検討します。
確認する項目は次のとおりです。
- 再リースの可否と料率
- 返却時の原状回復や清掃の費用
- 買取りができる場合の価格
満了が近い契約は、買い手候補が更新の判断を迫られます。満了日を一覧化し、交渉の材料として共有します。
経営者個人の連帯保証の有無
個人保証が付いている契約もあります。 退任後も保証が残れば、責任が続きます。
リース契約は金融機関からの借入と異なるため、保証の存在を見落としやすい領域です。金額が小さい契約ほど、確認が漏れがちです。
契約書の署名欄と保証条項を確認し、個人保証の有無を洗い出します。
経営者個人のリース保証を外すための3ステップ
保証の解除は、交渉で進めます。ステップは以下の3つです。
- 経営者保証に関するガイドラインの事業承継時の特則に沿って解除を申し入れる
- 買い手候補または買い手候補の経営者への保証人変更をクロージングの条件にする
- 保証解除が難しい契約は残債を精算して契約を終了させる
それぞれを順に解説します。
経営者保証に関するガイドラインの事業承継時の特則に沿って解除を申し入れる
公的な指針を根拠に交渉できます。 中小企業庁は、事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則を示しています。
同特則は、前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めることを原則として禁止しています。保証している契約を一覧化し、解除の申し入れを行います。
経営者保証の解除の進め方については、下記で詳しく解説しています。
M&Aにおける経営者保証とは?解除方法やガイドライン、トラブル対策も解説
買い手候補または買い手候補の経営者への保証人変更をクロージングの条件にする
有効な方法は、契約条件に組み込むことです。 クロージングの前提条件とすれば、解除できなければ取引を実行しない形になります。
条件として定める内容は次のとおりです。
- 解除または保証人変更の対象となる契約
- 完了の期限
- 完了しない場合の取り扱い
買い手候補にとっては負担の引き受けです。早い段階で論点として提示します。
保証解除が難しい契約は残債を精算して契約を終了させる
解除に応じてもらえない場合もあります。 残債を精算して契約自体を終わらせる方法が選択肢になります。
検討する項目は次のとおりです。
- 規定損害金を含めた精算額
- 物件を買い取る場合の価格
- 精算の原資をどちらが負担するか
精算額が大きければ、価格交渉にも影響します。対象契約を絞り、精算額を試算します。
最終契約で確認したい項目は、弁護士監修のチェックリストにまとめています。無料でダウンロードできます。
【無料資料】最終契約前に弁護士と共に確認するべき契約書の項目
売り手が買い手候補のデューデリジェンス前に行う5つの準備
準備次第で、調査の進み方が変わります。行う準備は以下の5つです。
- リース契約の一覧表を作成する
- リース会社にM&A時の承諾条件と規定損害金を確認する
- 賃貸借処理しているリースを開示資料に載せる
- 使っていない物件は解約や返却を検討する
- 表明保証の範囲を売り手専属のFAと確認する
それぞれを順に解説します。
リース契約の一覧表を作成する
出発点は、契約の棚卸しです。 部署ごとに契約していれば、経営者も全体を把握していません。
一覧に記載する項目は次のとおりです。
- リース会社名と契約番号
- 物件の種類と設置場所
- 月額と残存期間、残債の総額
- 会計処理(売買処理か賃貸借処理か)
支払明細から拾えば、漏れを防げます。直近12か月の支払記録を確認します。
リース会社にM&A時の承諾条件と規定損害金を確認する
条件は、リース会社に確認します。 契約書の文言だけでは、実際の運用が読み取れない場合があります。
確認する内容は次のとおりです。
- 株主変更時の手続きと必要書類
- 契約上の地位の移転に応じてもらえるか
- 中途解約した場合の精算額
秘密保持に配慮しながら照会します。売却の事実を伏せた形で確認できるかを、FAと相談します。
賃貸借処理しているリースを開示資料に載せる
帳簿に載っていない契約こそ、先に開示します。 隠していたと受け取られれば、交渉全体の信頼を損ないます。
調査の過程で発覚すれば、価格の再交渉や補償条項の上乗せにつながります。自ら開示すれば、想定内の論点として扱われます。
賃貸借処理している契約を抽出し、残債とともに開示資料に含めます。
使っていない物件は解約や返却を検討する
稼働していない物件は、負債だけが残ります。 使わない設備のリース料を払い続ける状態です。
判断の材料は次のとおりです。
- 残存期間と残りの支払総額
- 中途解約した場合の規定損害金
- 解約により減る月額の負担
解約費用が残りの支払総額を下回れば、整理する意味があります。稼働状況を確認し、対象を絞ります。
売却前の準備全般(磨き上げ)については、下記で解説しています。
M&Aの磨き上げとは?売却価格を高める5つの領域と進め方を解説
表明保証の範囲を売り手専属のFAと確認する
最終契約では、リースについても保証を求められます。 開示した以外の契約が存在しないこと、債務不履行がないことなどが対象です。
確認する項目は次のとおりです。
- 保証の対象となる事項の範囲
- 違反した場合の補償の上限と期間
- 開示資料に記載した契約の扱い
開示が不十分であれば、後に補償の対象になります。売り手のみと契約するFAへ、範囲の妥当性を確認します。
表明保証条項の内容と、売り手専属のFAの役割については、下記で解説しています。
M&AにおけるセルサイドFAとは?業務内容や仲介との違いも解説
デューデリジェンス前に押さえておきたい注意点は、資料でも確認できます。
リース契約の引き継ぎで生じる税務上の扱い
リースの税務上の取り扱いは、契約の形態によって分かれます。所有権が移転するかどうかで扱いが変わり、会計上の処理と一致しない場合もあります。国税庁は、リース取引に関する法人税の取り扱いを公表しています。
会計上の処理と税務上の取り扱いが一致しない場合があり、申告の調整が必要になることもあります。事業譲渡で契約を移せば、以後のリース料は買い手候補側で計上されます。
中途解約に伴う規定損害金の取り扱いや、物件を買い取った場合の処理も論点になります。売却の前後で処理が変わる場面もあるため、契約の形態ごとに顧問税理士へ取り扱いを確認します。
M&Aとリース債務に関するよくある質問
M&Aとリース債務について、相談の現場で多く寄せられる質問を3つ取り上げます。売却前の買取の是非、引き継ぎを認められない場合、未開示の債務が見つかった場合の3点です。
売却前にリース物件を買い取っておいた方がよいですか?
一概には言えません。買い取れば資産として計上され、リース債務は消えますが、買取資金が必要になります。株式価値への影響は、控除されるリース債務と減少する現預金の関係で決まります。買取価格と残債を並べて試算し、税理士とFAへ相談します。
リース会社が契約の引き継ぎを認めない場合はどうなりますか?
代替の方法を検討します。事業譲渡で承諾が得られなければ、買い手候補が新たにリース契約を結び直す、物件を買い取って譲渡する、といった選択肢があります。いずれも費用と時間がかかるため、承諾の可否は早い段階で確認します。
開示しなかったリース債務が売却後に見つかると売り手はどうなりますか?
表明保証違反として補償の対象になりえます。最終契約では、開示した以外の債務が存在しないことを保証する条項が置かれるのが一般的です。金額によっては、補償の請求を受けます。把握している契約は、すべて開示するのが原則です。
まとめ
リース債務は、残債として売却価格から差し引かれます。賃貸借処理していて帳簿に表れていない契約も、買い手候補の調査で把握されます。
要点は以下のとおりです。
- 株式譲渡では契約が会社に残るが、支配権変更の条項に注意が要る
- 事業譲渡では、契約上の地位の移転にリース会社の承諾が必要になる
- 残債はネットデットに含まれ、株式価値から控除される
- 経営者個人の保証は、解除または保証人変更をクロージングの条件にする
- 帳簿に載っていない契約こそ、自ら先に開示する
準備の出発点は、契約の棚卸しです。まずは直近12か月の支払記録からリース契約を洗い出し、一覧表を作ることから始めてください。
売却前の準備と契約の確認点は、こちらの資料でも確認できます。
【無料資料】オーナー経営者がM&A仲介会社から事業売却の提案を受けたら、弁護士と一緒に最初に読むべき 事業承継・M&A完全ガイド
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