M&Aで不動産を切り離すと税金はどうなる?3つの方法と課税の注意点を解説

2026.09.04

公開日:2026.09.04

2026.09.04

2026.09.04

更新日:2026.09.04

2026.09.04

M&Aで不動産を切り離すと税金はどうなる?3つの方法と課税の注意点を解説

会社は売却したいが、会社名義の賃貸物件や土地は手元に残したい。そう考えたとき、気になるのが「切り離すと税金はどうなるのか」ではないでしょうか。

賃貸収入を老後の生活資金にしたい、先代から受け継いだ土地は手放したくない。そうした事情から不動産を売却対象から外す整理は、実務でも検討されるケースがある一方、方法の選び方しだいで税負担と手続きの重さが変わります。

本記事では、不動産を切り離す3つの方法、それぞれの税金、方法を選ぶ判断軸、そして実行段階の注意点までを売り手の立場から解説します。

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会社売却で不動産を切り離すとはどういうことか

会社売却における不動産の切り離しとは、売却対象の会社から不動産を外し、経営者側に残したうえで事業を売却する整理を指します。

切り離しが検討される動機は大きく3つあります。1つ目は、賃貸物件や思い入れのある土地を手放したくないという売り手側の事情です。2つ目は、買い手候補が事業だけを求めており、不動産まで買う意向がない場合です。3つ目は、不動産が含まれると株式の評価額が膨らみ、買い手候補の資金負担が重くなって検討が進みにくくなる場合です。

いずれの動機でも、切り離しには税金と手続きが伴います。どの方法で切り離すかの選択が、手取りとスケジュールの両方に関わるため、仕組みを知ったうえで検討することが重要です。

不動産を切り離す3つの方法

切り離しの方法は、主に以下の3つです。

  • 経営者個人や資産管理会社が会社から買い取る方法
  • 会社分割で不動産を別会社に移してから株式譲渡する方法
  • 切り離さずに売却対象へ含めて価格で調整する方法

3つ目は厳密には切り離さない選択ですが、比較の土台として並べて検討する価値があります。それぞれを順に解説します。

経営者個人や資産管理会社が会社から買い取る方法

売却の前に、対象会社から経営者個人や経営者の資産管理会社へ不動産を売却し、会社の資産から外す方法です。構造が分かりやすく、切り離した後の所有関係も明確になります。

注意したいのは、経営者と会社の間の売買が会社法上の利益相反取引(会社と取締役の利益がぶつかる取引)に当たるため、事前の承認手続きと、時価での取引が原則として求められる点です。承認機関は会社の機関設計で異なり、取締役会設置会社では取締役会、取締役会を置いていない会社では株主総会の承認が必要です。価格の妥当性は、後の税務調査や買い手候補の法務デューデリジェンスでも確認される論点になります。

また、買い取りには不動産の時価に見合う資金が要ります。資金の手当てと課税の両面から、実行可能性を確かめて選ぶ方法です。

会社分割で不動産を別会社に移してから株式譲渡する方法

新設分割などの会社分割で不動産を別会社へ移し、事業を営む会社の株式を買い手候補へ譲渡する方法です。不動産を持つ会社は経営者側に残り、賃貸収入もそのまま維持されます。

個人での買い取りと違って多額の資金を動かさずに切り離せる点が特徴ですが、会社分割には債権者保護などの法定の手続きがあり、一定の期間を要します。税務上の論点が多い方法でもあります。

会社分割の仕組みそのものを先に知っておきたい方は、以下の記事が参考になります。

M&Aにおける会社分割とは?吸収分割と新設分割の違いやメリットも解説

切り離さずに売却対象へ含めて価格で調整する方法

移転の税金や手続きをかけず、不動産込みの株式価値で買い手候補と交渉する方法もあります。切り離しのコストと手間を避けられる点が利点です。

一方で、買い手候補が不動産を必要としていない場合、不動産部分の評価がつきにくく、資金負担の重さから検討を見送られる場合もあります。不動産の性質と買い手候補の意向しだいで、この方法が3つの中で最も合理的な選択になることもあれば、切り離したほうが交渉が進みやすいこともあります。

事業の一部だけを売る場合の手法の使い分けは、以下の記事で詳しく解説しています。

会社分割と事業譲渡の違いとは?一部事業を売る売り手の5つの判断軸を解説

会社から不動産を買い取るときの税金

経営者個人や資産管理会社が会社から不動産を買い取る場合、税負担は売る側の対象会社と買い取る側の双方に生じます。

まず対象会社側です。帳簿価額より高い価格で売却すれば、その差額が譲渡益として法人税の課税対象になります。長年保有して含み益が大きくなった不動産ほど、この負担は大きくなります。

次に買い取る側です。不動産取得税や登録免許税といった移転に伴う税負担が生じます。登録免許税は、登記の種類ごとに課税標準と税率が定められており、不動産の所有権移転登記であれば、原則として固定資産課税台帳に登録された価格に税率を掛けて計算します。税率は国税庁の税額表で確認できます。不動産取得税は都道府県税のため、所在地の都道府県の案内で確認します。

そして価格の設定です。時価より著しく低い価格での取引は、会社側の寄附金の問題や、買い取る側が役員の場合の給与としての課税の問題が生じ得ます。「身内の取引だから安く」という発想は通用せず、時価の根拠を持った価格で行うことが原則です。実際の税負担は物件と取引条件で変わるため、実行前の税理士への確認が必要な領域です。

※参考:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表

会社分割で切り離すときの税金

会社分割で不動産を移す場合の課税は、その分割が税制適格に該当するかどうかで大きく変わります。

適格分割に該当する場合、移転する資産は帳簿価額で引き継がれ、譲渡損益への課税は繰り延べられます。非適格の場合は、時価での移転として譲渡損益が計上され、含み益に課税されます。この区分が、分割を使う切り離しの税負担を左右する分かれ目です。

注意したいのは、適格の要件には支配関係の継続などの見込みに関する要件が含まれる点です。分割の直後に株式を譲渡する計画では、この要件を満たすかどうかが重要な論点になり、スキームの設計しだいで結論が変わり得ます。

さらに、税負担の軽減だけを目的とした分割は、税務上の否認リスクが指摘され得る領域です。「分割すれば節税になる」と単純化せず、要件の判定とスキーム全体の妥当性を、実行前に税理士へ確認する必要があります。

※参考:国税庁「3 組織再編成

どの方法を選ぶかの判断軸

3つの方法の優劣は一律ではなく、自社の状況で決まります。判断軸は以下の3つです。

  • 不動産の含み益の大きさで税負担が変わる
  • 買い取り資金を用意できるかで選択肢が絞られる
  • 売却スケジュールに間に合うかで方法が決まる

それぞれを順に解説します。

不動産の含み益の大きさで税負担が変わる

帳簿価額と時価の差、つまり含み益が大きいほど、買い取りによる切り離しでは対象会社の法人税負担が大きくなります。含み益の把握が、方法選びの出発点です。

先代の時代に取得した土地は、帳簿価額が時価とかけ離れている場合があり、売買による移転では想定以上の課税が生じることがあります。含み益の大きい不動産ほど、課税の繰り延べが働き得る会社分割との比較検討に価値が出ます。

まずは不動産会社の査定や不動産鑑定士の評価で時価を掴み、帳簿価額との差を確認しておきます。

買い取り資金を用意できるかで選択肢が絞られる

個人や資産管理会社での買い取りには、時価に見合う資金が要ります。用意できなければ、この方法は選択肢から外れます。

見落とされやすいのは、資金が必要になるタイミングです。買い取りを売却前の整理として先に行う場合は、株式の売却対価を受け取る前に資金を用意することになります。手元資金で足りない場合は、金融機関からの借り入れを含めた資金計画が現実的かどうかを確かめる必要があります。一方、株式譲渡契約において、株式譲渡の実行後の義務として定めておき、売却対価を受け取った後に買い取る方法もあり、この場合は株式譲渡の相手先と協議・交渉の上で価格や実行のタイミングを決めることになります。

資金の壁がある場合は、会社分割か、価格調整で買い手候補と協議する方向に検討が移ります。

売却スケジュールに間に合うかで方法が決まる

会社分割には、株主総会の決議や債権者保護の手続きなど、法定の工程があり、一定の期間を要します。買い手候補との交渉が進んでから着手すると、クロージングの希望時期に間に合わない場合があります。

買い取りによる切り離しも、時価の査定、契約、登記、資金の手当てと段取りが連なります。どちらの方法でも、切り離しの方針は売却活動の初期に決めておくことが望ましいです。

交渉の本格化後に方針を変えると、買い手候補との条件協議がやり直しになり、取引全体の日程に影響します。

不動産の切り離しを買い手候補はどう見るか

売り手として、切り離しが買い手候補の目にどう映るかを知っておくと、範囲の設計と交渉を進めやすくなります。

事業に使っていない賃貸物件や遊休地が残っている場合、切り離しは歓迎される場合が多く見られます。不要な資産が外れることで株式の評価額が軽くなり、買い手候補の資金負担と検討のハードルが下がるためです。

一方、工場や店舗など事業に使っている不動産を切り離す場合は、売却後の利用関係が交渉の論点になります。切り離した不動産を対象会社に貸すのであれば、賃料の水準、契約期間、更新の条件、修繕の負担区分まで、買い手候補は事業コストとして細かく確認します。

つまり、「何を切り離すか」は売り手の都合だけでなく、承継後の事業への影響とセットで設計する論点です。不動産の扱いは株式の評価額にも直結するため、価格の決まり方と併せて理解しておくと交渉で役立ちます。

会社の売却価格はどう決まる?決まり方の流れや価格を高める方法を売り手目線で解説

不動産の切り離しで注意したいポイント

方法の選択と並んで、実行段階にも落とし穴があります。以下の3点は事前に押さえておく価値があります。

  • 時価から離れた価格での移転は課税リスクが生じる
  • 担保に入った不動産は金融機関の承諾なしに動かせない
  • 契約や登記の切り替えに想定より時間がかかる

それぞれを順に解説します。

時価から離れた価格での移転は課税リスクが生じる

切り離しの取引を時価で行うことは税金の章で触れたとおりですが、実行段階で問われるのは「その時価をどう証明するか」です。

不動産鑑定士による鑑定評価、複数の不動産会社の査定、固定資産税評価額や近隣の取引事例といった資料を残して取引すれば、価格の説明がしやすくなります。根拠のない価格設定は、税務調査での説明が難しくなるだけでなく、買い手候補の法務・税務デューデリジェンスでも過去の取引の適正さとして確認される場合があります。

金額の決め方に迷う物件ほど、鑑定評価の取得を検討する価値があります。

担保に入った不動産は金融機関の承諾なしに動かせない

切り離したい不動産が会社の借入の担保になっている場合、移転には金融機関の承諾が要ります。抵当権が付いたままでは、買い取りでも会社分割でも、切り離しは事実上進みません。

対応としては、借入の返済、別の資産への担保の差し替え、借り換えといった協議を金融機関と先行して進めることになります。いずれも金融機関側の審査を伴い、時間がかかります。

借入と担保の扱いはM&A全体の論点でもあるため、スキームごとの取り扱いを知っておくと協議を進めやすくなります。

M&Aで残債や借入金はどうなる?スキーム別の取り扱いと注意点を解説

契約や登記の切り替えに想定より時間がかかる

切り離しの実行には、所有権移転登記のほかに、細かな切り替え作業が連なります。賃貸中の物件であれば賃借人への通知や賃貸借契約の切り替え、火災保険の名義変更、管理会社との契約の巻き直し、水道光熱費の名義変更などです。

1つひとつは小さな作業ですが、漏れるとクロージング後に「誰の契約か分からない支払い」が残り、買い手側との精算で認識齟齬が生じます。切り替え対象を一覧にして、完了期限と担当を決めて管理することが有効です。

登記や契約の作業量は物件数に比例するため、複数の物件を切り離す場合は早めに着手します。

M&Aと不動産の切り離しでよくある質問

不動産の切り離しについて、売り手経営者からよく寄せられる質問に回答します。

不動産M&Aとは何が違うのですか?

不動産M&Aは、不動産の取得を主な目的として、不動産を所有する会社を株式ごと売買する手法です。買い手側が不動産を取得する文脈で使われる言葉です。

本記事で扱った切り離しは、事業を売却して不動産を手元に残すという、向きが逆の整理です。検索すると不動産M&Aの解説が多く出てきますが、論点が異なるため、専門家に相談する際は「不動産を残したい」という目的をそのまま伝えると話が早く進みます。

切り離した不動産を売却後も会社に貸せるのですか?

貸せます。事業で使う不動産を切り離して残す場合、売却後は対象会社との間で賃貸借契約を結び、対象会社から賃料収入を得ながら使い続けてもらう形が実務の定番です。

ただし、賃料の水準と契約条件は買い手候補との交渉事項になります。契約書の整備と賃料の根拠づくりを済ませてから提示すると、協議を進めやすくなります。

切り離しの相談はどの専門家にすればよいのですか?

適格・非適格の判定や課税の試算は税理士、移転の登記は司法書士と、それぞれの分野に専門家はいますが、ことM&Aにおいては、切り離しが売却の条件と価格にどう影響するかや、いつ切り離しを実行するのか等を踏まえたプロセス全体の設計が必要になり、FAやM&A支援会社の役割になります。

切り離しは単独の取引ではなく、M&A全体の設計の一部です。個別に相談を進めるより、売却の相談と一体で進めたほうが、スキームの手戻りを避けやすくなります。

まとめ

会社名義の不動産を経営者の手元に残したまま会社を売る方法は、経営者側での買い取り、会社分割による切り出し、価格調整による丸ごと売却の3つから選ぶことになります。税負担は含み益の大きさと適格・非適格の判定で変わり、資金とスケジュールの制約も加わるため、比較検討には専門家の関与が必要です。

実行段階では、時価の根拠、担保の承諾、契約や登記の切り替えという3つの落とし穴を早めに押さえておくと、取引全体を円滑に進めやすくなります。

なお、切り離しの課税と並んで、株式の売却対価にかかる税金も手取りを左右します。全体像を掴んでおきたい方は、以下の記事が参考になります。

会社売却後にかかる税金は?計算方法や確定申告、税引後手取りを増やす対策を解説

不動産をどうするかは、売却の設計そのものです。時価の把握と方針の決定を早めに進めることが、納得度の高い売却につながりやすくなります。

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ株式会社 )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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