年買法とは?M&Aでの計算方法と注意点を売り手目線で解説
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- M&Aの基礎
公開日:2026.06.24
2026.06.24
更新日:2026.07.02
2026.07.02
M&Aで自社を売却する際、中小企業の株式価値や売却価格の目安を見積もる方法として使われることがあるのが年買法です。
年買法とは、企業の時価純資産に、営業権(のれん)として利益の一定年数分を加えて、株式価値や売却価格の目安を算定する方法で、年倍法とも呼ばれます。計算が分かりやすいため、中小企業のM&Aで簡易的な目安として用いられることがあります。
年買法は手軽な一方で、営業権として加える年数の設定に理論的な根拠を置きにくく、自社の収益力や成長性が十分に反映されない評価につながることもあります。手法の特徴と限界を理解しておくことで、提示された評価をそのまま受け入れてよいかを判断しやすくなります。
本記事では、年買法の計算方法と中小企業で使われる理由に加え、評価手法としての限界や、売り手が安く評価されないために準備できることまで解説します。
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年買法とは
年買法は、企業の時価純資産に営業権(のれん)を加えて、株式価値や売却価格の目安を算定する簡易的な手法で、年倍法とも呼ばれます。営業権は、営業利益や経常利益などの利益の一定年数分を目安に計算されることが多いため、「利益の何年分を上乗せするか」という考え方から年買法・年倍法と呼ばれることがあります。
この手法は、貸借対照表の純資産という客観的な数字に、利益の数年分を上乗せするだけで計算できるため、専門的な知識がなくても理解しやすい点が特徴です。中小企業のM&Aでは、売り手と買い手が価格感を共有しやすい簡易的な目安として、年買法が用いられることがあります。
一方で、年買法は簡便な方法であるがゆえに、企業価値や株式価値を精緻に評価する手法としては限界があります。売り手としては、年買法がどのような前提に立つ手法かを理解したうえで、評価を確認することが重要です。
※参考:J-Net21(中小企業基盤整備機構)「M&Aにおける企業価値の評価方法について教えてください。」
年買法の計算方法
年買法は、時価純資産と営業権をそれぞれ求め、両者を合算して株式価値や売却価格の目安を算定します。手順を理解しておくと、自社がどのように評価されるかを把握しやすくなります。主な手順は以下の通りです。
- 時価純資産を算定する
- 営業権(のれん)を算定する
- 時価純資産と営業権を合算する
それぞれを順に解説します。
時価純資産を算定する
最初の手順は、企業の資産と負債を時価に評価し直し、その差額として時価純資産を求めることです。土地や有価証券は時価に直し、回収が見込めない売掛金や、帳簿に表れていない簿外債務・偶発債務がないかを確認します。この時価純資産が、年買法の土台になります。
売り手としては、自社が保有する資産に含み益がある場合、時価で評価し直すことで純資産が増える可能性がある点を理解しておくことが重要です。どの資産を時価に直すかによって評価額が変わるため、保有資産の現在価値を把握しておくことが望ましいです。
営業権(のれん)を算定する
次に、営業権(のれん)を算定します。営業権は、営業利益や経常利益などの利益に一定の年数を掛けて求めるのが一般的で、この年数は案件の業種、収益安定性、成長性、属人性、買い手ニーズなどによって変わります。たとえば営業利益が5,000万円で年数を3年とすれば、営業権は1億5,000万円となります。
営業権は、純資産には表れない収益力を価格に反映する部分であり、年買法で売却価格に大きく影響する要素です。売り手としては、この年数をどう設定するかが評価額に大きく影響することを理解しておくことが重要です。
利益に倍率を掛けて評価する考え方は、以下の記事でも詳しく解説しています。
EV/EBITDA倍率とは?計算方法や目安、業種別の平均を売り手目線で解説
時価純資産と営業権を合算する
最後に、時価純資産と営業権を合算し、株式価値や売却価格の目安とします。先の例で時価純資産が3億円、営業権が1億5,000万円であれば、株式価値や売却価格の目安は4億5,000万円と見積もられます。
売り手としては、この合算によって算出された金額が、あくまで簡便な目安である点を理解しておくことが重要です。自社のおおよその価値を知りたい場合は、以下の株価シミュレーターも参考になります。
年買法が中小企業のM&Aで使われる理由
年買法は、計算の手軽さから中小企業M&Aの簡易的な価格目安として使われることがあります。なぜ用いられるのかを理解しておくと、その手法の位置づけが見えてきます。主な理由は以下の通りです。
- 計算が簡単で分かりやすい
- 売り手と買い手が合意しやすい
- 客観的な数字をもとにしやすい
それぞれを順に解説します。
計算が簡単で分かりやすい
年買法は、時価純資産に利益の一定年数分を加える形で計算できるため、専門的な知識がなくても理解しやすい手法です。DCF法のように将来キャッシュフローや割引率を詳細に設定する必要がないため、評価の根拠を当事者が把握しやすくなります。
売り手としては、計算が分かりやすいことは、評価の内容を自分で確認できるという利点になります。一方で、簡単であるがゆえに、将来性、市場性、リスクなどが十分に反映されにくい点には注意が必要です。
売り手と買い手が合意しやすい
年買法は、利益の何年分という分かりやすい考え方をもとにするため、売り手と買い手の双方が評価の根拠を理解しやすく、価格交渉の出発点にしやすい手法です。中小企業のM&Aでは、当事者同士が納得できることが、交渉を進めるうえで重要になります。
売り手としては、合意しやすいことは交渉をスムーズに進める助けになりますが、提示された年数が妥当かどうかは別の問題です。合意のしやすさと、評価額が適正かどうかを分けて考えることが重要です。
客観的な数字をもとにしやすい
年買法は、貸借対照表の純資産と、実際の利益など、確認しやすい数字をもとに計算します。将来の予測に頼る部分が少ないため、評価の前提が客観的で分かりやすい点が特徴です。
売り手としては、客観的な数字を土台にできることは安心材料になりますが、その数字が過去または直近の実績に偏りやすい点を理解しておくことが重要です。将来の成長性は、別の方法で示す必要があります。
年買法の問題点と限界
年買法は手軽な一方で、企業価値を正確に評価する手法としては限界が指摘されています。特に売り手にとっては、評価が低く出やすい要因を理解しておくことが重要です。主な問題点は以下の通りです。
- 営業権の年数に理論的な根拠を置きにくい
- 将来の成長性が反映されない
- 市場性やリスクが反映されにくい
それぞれを順に解説します。
営業権の年数に理論的な根拠を置きにくい
年買法の大きな限界の一つは、営業権を算定する年数に、明確な理論的根拠を置きにくい点です。一定年数が目安として語られることはあるものの、なぜその年数なのかを理論的に説明することは難しく、当事者の交渉、業種特性、収益安定性、買い手ニーズなどによって決まる面があります。
売り手としては、この年数が交渉によって決まる以上、年数が低く設定されれば評価額も下がる点を理解しておくことが重要です。年買法は企業価値の評価というより、価格の目安にとどまるという指摘もあり、年数の根拠を確認する姿勢が欠かせません。
将来の成長性が反映されにくい
年買法は、直近の利益をもとに営業権を算定するため、企業が将来生み出す利益や成長性は、そのままでは評価に反映されません。今後の成長可能性が高い企業であっても、現在の利益が小さければ、評価額も低く算定されやすくなります。
売り手としては、自社に成長性がある場合、年買法だけで評価されると成長性が十分に反映されない価格になりやすい点を理解しておくことが重要です。将来性を価格に反映するには、後述する別の評価方法をあわせて用いる必要があります。
市場性やリスクが反映されにくい
年買法は、自社の時価純資産と利益を中心に見るため、業界の市場環境や、事業に固有のリスクといった要素が反映されにくい手法です。同じ利益でも、成長業界の企業と縮小業界の企業では本来の価値が異なる場合がありますが、年買法ではその差が表れにくくなります。
売り手としては、自社が将来性のある市場にいる場合、その強みが年買法では評価されにくい点を理解しておくことが重要です。市場での評価を反映するには、市場を基準にする手法もあわせて検討することが望ましいです。
年買法を補う企業価値の評価方法
年買法の限界を補うには、考え方の異なる評価方法をあわせて用いることが有効です。複数の手法で評価し、結果を照らし合わせることで、自社の価値をより多面的に把握しやすくなります。主な方法は以下の通りです。
- DCF法で将来性を反映する
- 類似会社比較法で市場性を反映する
- 純資産法で資産価値を確認する
それぞれを順に解説します。
DCF法で将来性を反映する
DCF法とは、企業が将来生み出すキャッシュフローを予測し、現在価値に割り引いて企業価値を算定する方法です。年買法が直近の利益をもとにするのに対し、DCF法は将来の事業計画を反映しやすいため、成長性のある企業の価値を示す際に参考になります。
売り手としては、自社の成長計画を価格に反映したい場合、DCF法をあわせて用いることで、年買法だけでは表れにくい将来の価値を説明しやすくなります。ただし、DCF法は将来計画の前提によって結果が変わるため、根拠のある計画を示すことが重要です。
類似会社比較法で市場性を反映する
類似会社比較法とは、評価対象会社と事業内容や収益構造が近い上場企業の株価指標を参考に、企業価値や株式価値を算定する方法です。市場での評価を参考にできるため、年買法では表れにくい業界の市場性を価格に反映できる場合があります。
売り手としては、自社が評価の高い業界にいる場合、類似会社比較法をあわせて用いることで、市場の評価を反映した価値を説明しやすくなります。類似会社比較法の詳しい仕組みについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
類似会社比較法とは?計算方法やマルチプル、注意点を売り手目線で解説
純資産法で資産価値を確認する
純資産法とは、企業の純資産を基準に株式価値を算定する方法です。年買法の土台となる時価純資産を正しく把握することは、評価の出発点を固めるうえで欠かせません。
売り手としては、保有資産の含み益を正しく時価に反映することで、年買法でも純資産の部分を適切に示せる点を理解しておくことが重要です。純資産法の詳しい内容については、以下の記事でも詳しく解説しています。
純資産法とは?M&Aでの種類や計算方法、注意点を売り手目線で解説
売り手が年買法で安く評価されないためにできること
年買法による評価は、売り手の準備によって、安く見積もられるリスクを抑えられる余地があります。
弊社が実施した調査では、希望通りの条件で売却できた経営者は半数以下にとどまっており、評価前提への理解や準備不足が、希望条件での売却を難しくする一因になっている可能性があります。手法の限界を理解し、準備を進めることが、納得できる売却につながります。主な取り組みは以下の通りです。
- 営業権の年数を高める根拠を示す
- 利益やEBITDAの正常化を整理する
- 売り手の立場で評価を検証できる支援者を選ぶ
それぞれを順に解説します。
※参考:【M&A経験者100人アンケート】希望通りの条件で売却できたのは半数以下
営業権の年数を高める根拠を示す
年買法で安く評価されるリスクを抑えるには、営業権を算定する年数の妥当性を示す根拠を整理することが重要です。安定した取引先、独自の技術、高い利益率といった強みは、将来も利益が続くことを裏づける材料になり、より長い年数を説明する根拠になります。
売り手としては、なぜ自社の利益が今後も続くのかを、数値や事実とともに説明できる状態にしておくことが重要です。根拠が明確であれば、買い手が提示する年数をそのまま受け入れるのではなく、上乗せ評価を主張しやすくなります。
利益やEBITDAの正常化を整理する
営業権の基準となる利益には、オーナー個人に紐づく経費や、本業と関係のない損益が含まれていることがあります。これらを調整する「正常化」を行うことで、正常収益力を示しやすくなります。
売り手としては、正常化によって基準となる利益が合理的に大きくなれば、同じ年数でも営業権の評価額が高まる可能性がある点を理解しておくことが重要です。どの費用を調整できるかは専門的な判断を要するため、デューデリジェンスの観点を踏まえて整理しておくことが望ましいです。
利益の正常化にも関わるデューデリジェンスについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)とは?目的や流れ、売り手側のポイントを解説
売り手の立場で評価を検証できる支援者を選ぶ
年買法による評価は、営業権の年数や時価純資産の扱いによって幅が出ます。提示された評価額が妥当かを売り手の立場で検証し、ほかの手法もあわせて評価前提を検証し、交渉を支援できる専門家がいるかどうかで、結果は変わります。M&Aの支援者には、売り手・買い手の間に立つ仲介会社と、売り手または買い手の一方に助言するFA(ファイナンシャル・アドバイザー)があります。
FAは依頼者の側に立って助言するため、売り手専属のFAであれば、利益相反が起こりにくい構造で、売り手側の観点から評価前提を検証しやすくなります。年買法の目安をうのみにせず、評価の前提を売り手の立場で確認できる支援者を選ぶことが、納得できる売却につながります。
売り手専属のFAの役割については、以下の記事でも詳しく解説しています。
M&AにおけるセルサイドFAとは?業務内容や仲介との違いも解説
まとめ
年買法は、時価純資産に営業権を加えて株式価値や売却価格の目安を算定する手法で、計算の手軽さから中小企業のM&Aで簡易的な目安として使われることがあります。一方で、営業権の年数に理論的な根拠を置きにくく、将来の成長性や市場性が反映されにくいという限界も指摘されています。
特に売り手にとっては、以下のような論点を踏まえたうえで進めることが重要です。
- 年買法はあくまで簡便な目安であることを理解すること
- 営業権の年数の妥当性を説明できる根拠を準備すること
- DCF法や類似会社比較法など他の手法もあわせて評価してもらうこと
- 売り手の立場で評価を検証できる支援者と連携すること
年買法は、便利な目安である一方で、それだけに頼ると自社の収益力や成長性が十分に反映されない評価になりやすい手法です。手法の限界を理解し、早い段階から売り手の立場に立てる専門家とともに複数の方法で評価を確かめることで、自社の価値を適切に評価してもらいやすくなります。
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