事業承継ファンドとは?仕組みと売り手が知っておきたい3つの注意点を解説

2026.11.04

公開日:2026.11.04

2026.11.04

2026.11.04

更新日:2026.11.04

2026.11.04

事業承継ファンドとは?仕組みと売り手が知っておきたい3つの注意点を解説

事業承継ファンドは、後継者のいない会社の株式を買い取り、経営を支えて企業価値を高めた後に売却する投資の仕組みです。運営主体による4つの種類、会社への関わり方、メリットと注意点、選ぶときに確かめたい点を解説します。

後継者が見つからず、ファンドから株式を買い取りたいという話が来た。ファンドと聞くと、会社を買ってすぐに売る相手という印象を持つ経営者もいます。事業承継ファンドは、後継者のいない会社の株式を買い取り、経営を支えて企業価値を高めた後に、別の買い手へ売却して投資を回収する仕組みです。事業会社に売る場合とは、買い手の目的も、売却後の会社の行方も異なります。

本記事では、事業承継ファンドの種類と仕組みを説明したうえで、売り手にとってのメリットと注意点を解説します。あわせて、ファンドを選ぶときに確かめたい点を示します。

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事業承継ファンドとは

事業承継ファンドとは、投資家から集めた資金で、後継者のいない中小企業の株式を買い取り、経営に関わって企業価値を高めたうえで、数年後に株式を売却して投資家に利益を分配する仕組みです。投資ファンドのうち、事業承継の受け皿となることを目的としたものを指します。

背景には、後継者がいない企業の多さがあります。帝国データバンクの2025年の調査では、全国約27万社のうち後継者が「いない」または「未定」の企業は13.8万社で、後継者不在率は50.1%でした。

全国「後継者不在率」動向調査(2025年)|帝国データバンク

同調査は、後継者不在率は前年から2.0ポイント低下して7年連続で改善しており、事業承継では親族以外への承継が進んでいるとしています。

親族や社内に後継者がいない会社にとって、ファンドは事業会社と並ぶ第三者への承継先の一つです。売却先の候補にファンドを含めるかを、承継の方針とあわせて検討します。

親族内承継・社内承継・M&Aの違いについては、下記で詳しく解説しています。

事業承継とM&Aの違いとは?3つの承継方法と後悔しない相談先の選び方を解説

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【無料資料】オーナー経営者がM&A仲介会社から事業売却の提案を受けたら、弁護士と一緒に最初に読むべき 事業承継・M&A完全ガイド

事業承継ファンドは運営する主体によって4つに分かれる

事業承継ファンドは、誰が運営するかによって性格が異なります。主な種類は以下の4つです。

  • 独立系の投資会社が運営するファンド
  • 銀行や証券会社のグループ会社が運営するファンド
  • 国や自治体が出資する官民ファンド
  • 個人の経営者候補が投資家の資金で会社を買うサーチファンド

それぞれを順に解説します。

独立系の投資会社が運営するファンド

独立系のファンドは、金融機関の系列に属さない投資会社が運営するファンドです。 年金基金や事業会社など、複数の投資家から資金を集めて運営します。

投資の判断が早く、業種や地域に特化した運営会社もあります。

運営会社ごとに得意な業種や投資の規模が異なります。過去の投資先と、投資後の売却先を確認します。

銀行や証券会社のグループ会社が運営するファンド

銀行や証券会社のグループ会社が運営するファンドもあります。 地域の金融機関が、地元の企業の事業承継を支える目的で設けている例も見られます。

取引のある金融機関から紹介を受けやすい点が特徴です。

一方で、借入金の取引などで親会社の金融機関と関係が続くことになります。金融機関との取引条件がどう変わるかも確認します。

国や自治体が出資する官民ファンド

国や自治体が出資し、民間の資金とあわせて運営するファンドもあります。 東京都は、中小企業の事業承継を支援する「TOKYO白馬の騎士ファンド」を2025年3月に設立しました。

「TOKYO白馬の騎士ファンド」の設立について|東京都

東京都の発表では、同ファンドは都の出資20億円と民間資金で40億円規模を目指し、存続期間は令和17年3月31日までの予定です。

政策目的を持つため、地域の雇用や技術の継承を重視する傾向があります。所在地の自治体に、使えるファンドがあるかを確認します。

個人の経営者候補が投資家の資金で会社を買うサーチファンド

サーチファンドは、経営者を目指す個人が投資家の支援を受けて承継先の会社を探し、買収して自ら経営する仕組みです。 会社を探して経営する個人は、サーチャーと呼ばれます。

東京都は、サーチファンドを活用した中小企業の事業承継支援を2024年度に始めています。

株式を買い取った個人が社長として常勤する点が、他のファンドとの大きな違いです。経営を託す人物の経歴と考え方を、面談で確かめます。

サーチファンドの仕組みと売り手側の注意点については、下記で解説しています。

サーチファンドとは?M&Aの仕組みや売り手側のメリット、注意点を解説

事業承継ファンドは株式の取得から売却まで3つの段階で会社に関わる

ファンドは、決まった期間の中で投資と回収を行います。どの段階にいるかで、ファンドが会社に求めることも変わります。会社への関わり方は以下の3つの段階に分かれます。

  • オーナーから株式を買い取る
  • 経営陣とともに企業価値を高める
  • 数年後に株式を売却して投資を回収する

それぞれを順に解説します。

オーナーから株式を買い取る

最初の段階で、ファンドはオーナーから会社の株式を買い取ります。 株式の全部を買い取る場合と、過半数だけを買い取ってオーナーに一部を残してもらう場合があります。

ファンドは、投資事業有限責任組合の形で組成されることが多く、運営会社が無限責任組合員として投資を判断します。東京都の官民ファンドも、投資事業有限責任組合の形をとっています。

投資事業有限責任組合契約に関する法律(e-Gov法令検索)

買取りの資金には、出資金のほか金融機関からの借入れが使われることもあります。株式の全部を売るか一部を残すかを、ファンドの提案を受ける前に考えておきます。

投資ファンドが過半数の株式取得を求める理由については、下記で解説しています。

事業売却の前に知るべき…買い手が投資ファンドだと「過半数の株式取得」が基本条件になる理由

経営陣とともに企業価値を高める

株式を取得した後、ファンドは経営陣とともに企業価値を高める取り組みを進めます。 売却時の価格を上げることが、ファンドの投資の成果になるためです。

取り組みの例は次のとおりです。

  • 管理部門の整備や、月次の業績管理の導入
  • 営業の仕組みの見直しや、新しい販路の開拓
  • 経営幹部の採用や、同業他社の買収

東京都の官民ファンドも、出資先企業への経営面の支援を行うとしています。どこまで関わるかはファンドごとに異なるため、具体的な支援の内容を確認します。

数年後に株式を売却して投資を回収する

最後の段階で、ファンドは株式を売却して投資を回収します。 ファンドには存続期間があり、期間内に投資家へ資金を返す必要があるためです。

主な売却先は次のとおりです。

  • 同業の事業会社
  • 別の投資ファンド
  • 株式の上場
  • 経営陣による買い戻し

売却先によって、売却後の会社の経営方針が変わる可能性があります。売却先の決め方に、元の経営陣の意見がどこまで反映されるかを確認します。

事業承継ファンドは事業会社と違い再び売る前提で会社を買う

事業承継ファンドと事業会社では、会社を買う目的が異なります。事業会社は、自社の事業と組み合わせて長く経営することを前提に買収するのが一般的です。ファンドは、企業価値を高めた後に再び売ることを前提に株式を取得します。

比べる点事業承継ファンド事業会社
買う目的企業価値を高めて売却し、投資家に分配する自社の事業と組み合わせて成長する
保有の期間ファンドの存続期間の範囲内原則として期限なし
経営の体制現経営陣を残し、ファンドが支援する例が多い買い手の方針で経営陣が入れ替わる場合がある
会社の独立性保有期間中は独立した会社として経営する買い手のグループに組み込まれる

東京都の官民ファンドの例でも、存続期間は令和17年3月31日までの予定とされており、期限が設けられています。

売り手にとって、ファンドへの売却は、承継の第一段階にあたります。数年後に誰が会社を引き継ぐのかまで見通して、ファンドと事業会社のどちらに売るかを比べます。

PEファンドと事業会社の違いについては、下記もあわせてご覧ください。

PEファンドへの会社売却とは?事業会社との違いと売り手が確認したい3つのポイント

売り手が事業承継ファンドに売る3つのメリット

ファンドへの売却には、事業会社への売却にはない利点があります。主なメリットは以下の3つです。

  • 現経営陣と従業員を残したまま株式を売却しやすい
  • 経営の専門家の支援を企業価値の向上に生かせる場合がある
  • 株式の一部を残せば再売却で得られる対価が増える場合がある

それぞれを順に解説します。

現経営陣と従業員を残したまま株式を売却しやすい

ファンドへの売却では、現在の経営陣と従業員を残したまま株式を売却できる場合が多くあります。 ファンドは自ら事業を営む会社ではないため、経営を担う人材を必要とするためです。

東京都の官民ファンドは、企業の理念や伝統を理解し、経営者や従業員と信頼関係を築いた後継者に事業を承継することを目的に掲げています。

社名や取引先との関係も変えずに済む場合があります。残したい人材と、変えたくない点を、ファンドとの面談で伝えます。

経営の専門家の支援を企業価値の向上に生かせる場合がある

ファンドの持つ経営の知見を、会社の成長に生かせる点もメリットです。 オーナー企業では手が回らなかった管理の仕組みや、人材の採用に支援を受けられます。

社長が一人で担ってきた判断を、組織で行う体制に移す機会にもなります。

ただし、支援の内容と質はファンドごとに異なります。過去の投資先でどのような支援をしたかを、具体的に聞きます。

株式の一部を残せば再売却で得られる対価が増える場合がある

株式の一部を手元に残せば、ファンドが売却するときに、残した株式からも対価を得られます。 保有期間中に企業価値が高まっていれば、最初に売った時より高い価格で売れる可能性があります。

一方で、企業価値が下がれば、残した株式の価値も下がります。

残す割合によって、受け取る金額の時期と大きさが変わります。全部を売った場合と一部を残した場合の手取りを、複数の想定で試算します。

売り手が事業承継ファンドに売る前に知っておきたい3つの注意点

ファンドへの売却には、事業会社への売却とは異なる注意点があります。知っておきたい点は以下の3つです。

  • 数年後に別の買い手へ再び売却される
  • 重要な経営判断にファンドの承認が必要になる
  • 業績の目標が設定され経営陣の負担が増える場合がある

それぞれを順に解説します。

数年後に別の買い手へ再び売却される

ファンドに売った会社は、原則として数年後に別の買い手へ再び売却されます。 次の買い手を、元のオーナーが選べるとは限りません。

次の買い手が事業会社であれば、売却の時点で経営の方針や人員の配置が変わる可能性があります。従業員にとっては、短い期間に二度、株主が変わることになります。

従業員の雇用や社名の維持を重視するなら、ファンドが売却する際の方針を、株式を売る前に確認します。

重要な経営判断にファンドの承認が必要になる

ファンドが株主になると、重要な経営判断にファンドの承認が必要になるのが一般的です。 株主間契約などで、事前の承認が必要な事項が定められるためです。

承認が必要になりやすい事項は次のとおりです。

  • 事業計画と予算
  • 一定額を超える投資や借入れ
  • 役員の選任や報酬

経営陣として会社に残る場合は、自由に決められる範囲が狭まります。承認が必要な事項の一覧を、契約の前に確認します。

株主間契約の主な条項については、下記で詳しく解説しています。

株主間契約とは?M&Aでの役割や主な条項、注意点を売り手目線で解説

業績の目標が設定され経営陣の負担が増える場合がある

ファンドは投資の成果を求めるため、売上や利益の目標が設定される傾向があります。 目標の達成状況は、月次や四半期ごとに報告を求められることが一般的です。

管理資料の作成や会議が増え、経営陣の負担が大きくなる場合があります。目標と経営陣の報酬が連動する仕組みが入ることもあります。

目標の水準と報告の頻度を事前に確認し、現在の体制で対応できるかを検討します。

事業承継ファンドを選ぶときに確かめたい3つの点

ファンドの方針は、運営会社ごとに異なります。価格の高さだけで選ぶと、売却後に想定と違う経営になることがあります。選ぶときに確かめたい点は以下の3つです。

  • 出口の方針と残りの存続期間を聞く
  • 経営への関わり方と役員派遣の範囲を聞く
  • 株主間契約で残る経営陣の権限を確かめる

それぞれを順に解説します。

出口の方針と残りの存続期間を聞く

最初に、ファンドがどのような売却先を想定しているかと、ファンドの存続期間があとどれだけ残っているかを聞きます。 残りの期間が短ければ、保有期間も短くなります。

東京都が2026年3月に設立を発表した別の官民ファンド(ベンチャー企業を投資先とする「中小企業の人手不足問題解決支援ファンド」)では、存続期間を令和18年3月6日までとし、最長2年間延長できるとしています。存続期間には、延長の定めが置かれることもあります。

「中小企業の人手不足問題解決支援ファンド」の設立について|東京都産業労働局

売却先として事業会社を想定しているのか、別のファンドを想定しているのかによって、会社の将来の姿が変わります。過去の売却先の実例を聞きます。

経営への関わり方と役員派遣の範囲を聞く

次に、ファンドが経営にどこまで関わるかを聞きます。 取締役を派遣するのか、日常の業務にも入るのかで、経営陣の働き方が変わります。

確認する内容は次のとおりです。

  • 派遣する取締役の人数と役割
  • 経営会議への参加の頻度
  • 外部から経営幹部を採用する方針

関わり方が強すぎれば、社内の混乱を招くおそれがあります。派遣される人物とも、契約の前に面談します。

株主間契約で残る経営陣の権限を確かめる

最後に、株主間契約で、会社に残る経営陣の権限がどう定められるかを確かめます。 株主間契約は、ファンドと残る株主との約束を定める契約です。

確認する主な条項は次のとおりです。

  • 経営陣が単独で決められる範囲と、ファンドの承認が必要な範囲
  • ファンドが売却する際に、残った株主もともに売却する義務(ドラッグ・アロング条項)があるか
  • 経営陣が退任する場合の株式の扱い

条項の内容は、契約を結んだ後に変えることが難しいため、交渉の段階で確認します。契約書の案を、弁護士などの専門家や売り手側のFAに確認してもらいます。

事業承継ファンドに関するよくある質問

ファンドへの売却を検討する経営者からは、似た質問が多く寄せられます。ここでは、小規模な会社でも売れるか、株式を売ったときの税金、どこに相談すればよいかの3つを取り上げます。

小規模な会社でも事業承継ファンドに売却できますか?

投資する会社の規模に下限を設けているファンドもあります。一定の利益が出ていない小規模な会社は、対象外となることがあります。対象外の場合は、サーチファンドや、自治体が出資する官民ファンドが選択肢になります。投資の条件を、ファンドごとに確認します。

事業承継ファンドに株式を売ったときの税金はどうなりますか?

株式の譲渡益は、他の所得と分けて税額を計算する申告分離課税の対象です。株式の一部を残し、後にファンドとともに売却した場合も、売却した年に同じ扱いで課税されます。税率は原則として20%(所得税15%、住民税5%)で、このほか復興特別所得税がかかります。取得費が分からない株式は、計算方法を税理士などの専門家に確認します。

No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)|国税庁

会社売却にかかる税金と手取りの考え方については、下記で解説しています。

会社売却後にかかる税金は?計算方法や確定申告、税引後手取りを増やす対策を解説

事業承継ファンドにはどこから相談できますか?

取引のある金融機関や、各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターで相談できます。自治体の官民ファンドは、自治体のホームページで案内されています。ファンドだけでなく事業会社も含めて比べたい場合は、売り手側の立場に立つFAに相談します。

まとめ

事業承継ファンドは、後継者のいない会社の株式を買い取り、経営を支えて企業価値を高めた後に、別の買い手へ売却する仕組みです。事業会社と違い、再び売ることを前提に会社を買います。

要点は以下のとおりです。

  • 運営主体によって、独立系、金融機関系、官民ファンド、サーチファンドに分かれる
  • 現経営陣と従業員を残したまま売却しやすく、経営の支援も受けられる場合がある
  • 株式の一部を残せば、再売却のときに対価を得られる場合がある
  • 数年後に別の買い手へ売却され、重要な判断にはファンドの承認が要る
  • 出口の方針、存続期間、株主間契約の内容を、売却前に確かめる

ファンドへの売却は、承継の第一段階にあたります。数年後の会社の姿まで見通したうえで、事業会社への売却と比べて判断してください。

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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