アセットパーチェスとは?株式譲渡との違いと売り手側の5つの注意点

2026.10.27

公開日:2026.10.27

2026.10.27

2026.10.27

更新日:2026.10.27

2026.10.27

アセットパーチェスとは?株式譲渡との違いと売り手側の5つの注意点

アセットパーチェスは、会社の株式ではなく事業や資産を個別に買い取るM&Aの手法です。株式譲渡との違い、買い手候補が選ぶ3つの理由、売り手に生じる負担、提案を受けた売り手が確認したい5つのことを売り手視点で解説します。

株式ではなく、事業と資産だけを買いたい。買い手候補からこう提案され、何が違うのか分からず判断に迷う経営者もいます。アセットパーチェスは、会社を丸ごと買うのではなく、必要な資産や契約を選んで買い取る手法です。買い手候補にとっては利点が多い一方で、売り手には税金と手続きの負担が残ります。本記事では、株式譲渡との違いと、買い手候補がアセットパーチェスを選ぶ理由を確認したうえで、売り手に生じる負担を解説します。あわせて、提案を受けた売り手が確認したい5つのことを示します。

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アセットパーチェスとは

アセットパーチェスとは、買い手が売り手の会社から、事業に必要な資産や負債、契約を個別に選んで買い取るM&Aの手法です。英語のAsset Purchaseに由来し、資産買収とも呼ばれます。日本の中小企業のM&Aでは、主に事業譲渡の形で行われます。

中小企業庁が示すガイドラインでは、事業譲渡について、譲渡の対象となる財産を選択でき、売り手の法人格から切り離すことができるため、簿外債務や偶発債務のリスクを遮断しやすい手法だとしています。

中小M&Aガイドライン|中小企業庁

売り手から見ると、買い手候補に渡すのは会社自体ではなく、会社が持つ資産と事業です。会社は売り手の手元に残り、対価も会社が受け取ります。

買い手候補からアセットパーチェスを提案されたら、何を渡して何が会社に残るのかを、最初に確認します。

事業譲渡の基本と実務のポイントは、下記で解説しています。

事業譲渡とは何か?オーナー経営者が知っておくべき基本と実務ポイント

アセットパーチェスと株式譲渡の違い

アセットパーチェスと、株式を買い取る株式譲渡は、売り手が受け取る対価や手続き、税金のかかり方が大きく異なります。主な違いは次のとおりです。

項目アセットパーチェス(事業譲渡)株式譲渡
買い手が取得するもの選んだ資産・負債・契約会社の株式(会社全体)
対価を受け取る人売り手の会社株主である経営者など
売り手の会社残る買い手の子会社になる
契約・許認可個別に移す、取り直しが必要な場合がある原則として会社に残る
消費税建物や設備などの課税資産に消費税がかかる株式の譲渡は非課税取引
対価にかかる税金会社の利益として法人税株主個人の譲渡所得として申告分離課税

事業譲渡の対価は、課税資産と非課税資産に合理的に区分して消費税を計算することが、国税庁の質疑応答事例で示されています。株式の譲渡は、消費税の非課税取引です。

営業の譲渡をした場合の対価の額(質疑応答事例)|国税庁

No.6201 非課税となる取引|国税庁

売り手にとっての差は、対価がどこに入るかです。株式譲渡では対価が経営者個人に直接入りますが、アセットパーチェスでは対価はいったん会社に入ります。

提案を受けたら、同じ売却額でも手取りがどう変わるかを、両方の手法で試算します。

売却の進め方や仲介会社から提案を受けた際の注意点を、弁護士監修のガイドにまとめています。無料でダウンロードできます。

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株式譲渡で売却した場合の税金と手取りは、下記で詳しく解説しています。

会社売却後にかかる税金は?計算方法や確定申告、税引後手取りを増やす対策を解説

事業譲渡の消費税は誰が払う?課税資産と計算方法、売り手の3つのポイントを解説

買い手候補がアセットパーチェスを選ぶ3つの理由

買い手候補がアセットパーチェスを提案するのには、理由があります。理由を知っておくと、売り手として交渉する論点を把握しやすくなります。主な理由は以下の3つです。

  • 引き継ぐ資産と負債を選べる
  • 簿外債務や偶発債務を引き継ぎにくい
  • 資産調整勘定を損金として償却できる場合がある

それぞれを順に解説します。

引き継ぐ資産と負債を選べる

第一の理由は、引き継ぐ資産と負債を選べることです。 買い手候補は、自社の事業に必要な資産や契約だけを取得し、不要なものは売り手に残せます。

同じガイドラインには、事業譲渡では取得する資産・負債を取捨選択できるという記載もあります。

選ばれやすいのは、利益を生む事業で使われる設備や店舗、取引先との契約です。反対に、使っていない土地や古い在庫は対象から外されやすくなります。

買い手候補が対象から外した資産は、売り手の会社に残ります。外された資産の一覧を受け取り、残った後の処分方法を検討します。

簿外債務や偶発債務を引き継ぎにくい

第二の理由は、帳簿に載っていない債務を引き継ぎにくいことです。 株式譲渡では、会社が抱える債務は会社に残ったまま、会社ごと買い手側に移ります。

対照的に株式譲渡については、未払残業代などの簿外債務や、紛争に関する損害賠償債務などの偶発債務のリスクが比較的高くなりやすいとガイドラインに記されています。

アセットパーチェスであれば、譲渡契約で引き継ぐと定めた債務以外は、原則として売り手の会社に残ります。

買い手候補のリスクが小さくなる分、売り手の会社に残る債務の処理が売り手の課題になります。残る債務の一覧を作り、返済の見通しを立てます。

帳簿に載っていない債務の種類と確認方法は、下記をご覧ください。

M&Aにおける簿外債務の対策とは?種類やリスク、売り手側の確認ポイントを解説

資産調整勘定を損金として償却できる場合がある

第三の理由は、税金の面で買い手候補に利点がある場合があることです。 支払った対価が、受け取った資産から負債を引いた時価を上回る場合、上回った部分は資産調整勘定として扱われます。

法人税法第62条の8は、一定の要件を満たす事業の譲受けについて、資産調整勘定を損金に算入する仕組みを定めています。

国税庁の申告書の記載要領では、資産調整勘定は60か月で均等に損金に算入する計算です。のれんにあたる部分を費用にできるため、買い手の税負担が軽くなる場合があります。

買い手候補の利点は、売り手の交渉材料にもなります。資産調整勘定の発生を見込んでいるかを買い手候補に確認します。

のれんの考え方は、下記で解説しています。

M&Aにおける「のれん」とは?償却期間や計算方法をわかりやすい解説

アセットパーチェスで売り手に生じる3つの負担

買い手候補の利点の裏側で、売り手には負担が生じます。いずれも、株式譲渡であれば生じにくい負担です。主な負担は以下の3つです。

  • 譲渡益に会社として法人税がかかる
  • 契約や従業員を一つずつ移す手続きが増える
  • 許認可を買い手が取り直す必要がある場合がある

それぞれを順に解説します。

譲渡益に会社として法人税がかかる

第一の負担は、譲渡益に会社として法人税がかかることです。 アセットパーチェスでは、対価を受け取るのは会社であり、譲渡益は会社の利益になります。

経営者個人が対価を受け取るには、会社から配当や退職金として受け取る必要があります。中小M&Aガイドラインは、配当などで受け取る場合は総合課税の対象になるとしています。一方、株式譲渡の譲渡益は、申告分離課税で課税関係が終了するとしています。

No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)|国税庁

会社と個人の二段階で税金がかかる可能性があります。会社で納める税金と、個人が受け取るまでの税金を合わせて試算します。

契約や従業員を一つずつ移す手続きが増える

第二の負担は、契約や従業員を一つずつ移す手続きが増えることです。 アセットパーチェスでは、会社ごと移る株式譲渡と違い、移す対象を個別に手続きする必要があります。

手続きが必要になる主な対象は次のとおりです。

  • 取引先との契約:相手方の同意を得て移す
  • 従業員:本人の承諾を得て転籍させる
  • 不動産:所有権の移転登記を行う
  • 賃貸借契約:貸主の承諾を得て移す

同意が得られない相手がいれば、当該契約は買い手候補に移りません。主要な契約の相手方を一覧にし、同意を得る段取りを買い手候補と決めます。

従業員の転籍の手続きは、下記で詳しく解説しています。

事業譲渡が従業員に与える影響とは?転籍手続きや拒否された時の対応も紹介

許認可を買い手が取り直す必要がある場合がある

第三の負担は、許認可を買い手が取り直す必要がある場合があることです。 事業譲渡では許認可なども原則として取り直す必要があると、ガイドラインに記されています。

取り直しに時間がかかれば、譲渡の時期が遅れます。許認可がないと営業できない事業では、空白期間が生じないよう段取りを組む必要があります。

売り手としても、取り直しの完了まで協力を求められることがあります。事業に必要な許認可を一覧にし、承継の特例が使えるかを専門家に確認します。

アセットパーチェスを提案された売り手が確認したい5つのこと

提案を受けたら、受け入れる前に条件を確かめます。確認したいことは以下の5つです。

  • 譲渡の対象になる資産と会社に残る資産を一覧で確認する
  • 会社に残る負債と従業員の扱いを確認する
  • 株式譲渡を選んだ場合と手取り額を比べる
  • 買い手候補の税メリットを譲渡価格の交渉に反映する
  • 会社分割など別の手法も比べて選ぶ

それぞれを順に解説します。

譲渡の対象になる資産と会社に残る資産を一覧で確認する

最初に、譲渡の対象になる資産と、会社に残る資産を一覧で確認します。 アセットパーチェスでは、何が譲渡価格に含まれているかが資産ごとに決まるためです。

確認する項目は次のとおりです。

  • 譲渡する設備、在庫、知的財産、契約
  • 会社に残る土地、建物、預金、売掛金
  • 残る資産の処分方法と見込み額

対象から外された資産は、譲渡の後に売り手が自ら処分します。残る資産の見込み額も含めて、売却全体の価値を判断します。

会社に残る負債と従業員の扱いを確認する

次に、会社に残る負債と従業員の扱いを確認します。 買い手候補が引き継がない負債は、譲渡の対価で返済することになります。

確認する項目は次のとおりです。

  • 金融機関からの借入金と経営者保証
  • 未払金、未払税金、退職金の支払い
  • 転籍しない従業員の処遇

対価で負債を返し切れなければ、手元に資金が残らない可能性があります。経営者保証が付いた借入金が残れば、個人の負担にもなります。残る負債の総額と、対価から返済した後の残額を試算します。

経営者保証の解除の進め方は、下記をご覧ください。

M&Aにおける経営者保証とは?解除方法やガイドライン、トラブル対策も解説

株式譲渡を選んだ場合と手取り額を比べる

三つ目に、株式譲渡を選んだ場合の手取り額と比べます。 同じ売却額でも、手法によって税金のかかり方が異なるためです。

比べる流れは次のとおりです。

  • アセットパーチェス:会社が法人税を納め、残りを配当や退職金として受け取る
  • 株式譲渡:経営者が株式の譲渡益に対する税金を納める

アセットパーチェスの後に会社を清算する場合は、清算にかかる費用と時間も差し引きます。両方の手取り額を税理士などの専門家に試算してもらい、差額を交渉の材料にします。

買い手候補の税メリットを譲渡価格の交渉に反映する

四つ目に、買い手候補が得る税金の利点を、譲渡価格の交渉に反映します。 アセットパーチェスで買い手候補が資産調整勘定を損金にできるなら、買い手候補は株式譲渡より税負担を軽くできる場合があります。

一方、売り手は株式譲渡より手取りが減る可能性があります。買い手候補だけが利点を得る形にならないよう、価格で調整を求めます。

求める内容は次のとおりです。

  • 買い手候補が見込む税負担の軽減額
  • 売り手の手取りの減少額
  • 差額を埋める譲渡価格の上乗せ

税務の試算をもとに、根拠を示して交渉します。

会社分割など別の手法も比べて選ぶ

最後に、会社分割など別の手法も比べて選びます。 事業の一部を切り出して売る方法は、事業譲渡だけではありません。

比べる手法の例は次のとおりです。

  • 会社分割:事業を別会社に移し、契約や従業員を包括的に引き継がせる
  • 会社分割と株式譲渡の組み合わせ:事業を新会社に移したうえで、新会社の株式を売る
  • 株式譲渡:会社全体を売る

手法によって、手続きの負担や税金、買い手候補のリスクが変わります。複数の手法を並べ、売り手の手取りと手続きの負担で比べたうえで選びます。

一部の事業を売る場合の手法の比べ方は、下記で解説しています。

会社分割と事業譲渡の違いとは?一部事業を売る売り手の5つの判断軸を解説

アセットパーチェスに関するよくある質問

アセットパーチェスの提案を受けた経営者からは、似た質問が繰り返し寄せられます。ここでは、反対の意味の言葉、個人事業主が事業を売る場合、事業の一部だけを売る場合の3つを取り上げます。

アセットパーチェスの反対の言葉は何ですか?

株式を買い取って会社を取得する手法は、シェアパーチェス(Share Purchase)と呼ばれます。資産を個別に買い取るアセットパーチェスに対し、シェアパーチェスは会社全体を株式の取得によって引き継ぎます。日本の中小企業のM&Aでは、株式譲渡がシェアパーチェスにあたります。

個人事業主の事業売却もアセットパーチェスになりますか?

なります。個人事業主には株式がないため、事業に使う資産や契約を個別に移す形になります。中小M&Aガイドラインも、個人事業主のM&Aは事業譲渡の手法を用いることが通常であるとしています。対価は事業主本人が受け取ります。

個人事業主の事業譲渡の流れは、下記をご覧ください。

個人事業主の事業譲渡(M&A)とは?方法や流れ、成功させるポイントを紹介

中小M&Aガイドライン|中小企業庁

事業の一部だけをアセットパーチェスで売ることはできますか?

複数の事業のうち一つだけ、または店舗の一部だけを譲渡することも可能です。売らない事業は会社に残り、経営を続けられます。ただし共通で使っている資産や従業員をどう分けるかを決める必要があるため、譲渡の範囲を早めに決めます。

まとめ

アセットパーチェスは、買い手が事業に必要な資産や契約を選んで買い取る手法で、日本の中小企業のM&Aでは主に事業譲渡として行われます。買い手にとっては、引き継ぐ範囲を選べ、帳簿にない債務を避けやすく、資産調整勘定による税金の利点もあります。

要点は以下のとおりです。

  • 対価は会社に入り、譲渡益には法人税がかかる
  • 経営者個人が受け取るまでに、会社と個人の二段階で税金がかかる可能性がある
  • 契約や従業員は個別に移し、許認可は取り直しが必要な場合がある
  • 会社に残る資産と負債を確認し、株式譲渡の場合と手取りを比べる
  • 買い手候補の税金の利点は、譲渡価格の交渉に反映する

アセットパーチェスの提案は、買い手候補に有利な条件となる場合があります。受け入れる前に手取りを比べ、売り手側の立場で条件を交渉してください。

事業譲渡契約で確認しておきたい項目は、弁護士監修のチェックリストでも確認できます。

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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