M&Aでコンプライアンス違反が発覚すると?6つの類型と価格への影響、売却前の点検

2026.09.29

公開日:2026.09.29

2026.09.29

2026.09.29

更新日:2026.09.29

2026.09.29

M&Aでコンプライアンス違反が発覚すると?6つの類型と価格への影響、売却前の点検

M&Aでは自社のコンプライアンス違反がデューデリジェンスで見つかると、価格と条件に反映されることがあります。

中小企業で見つかりやすい6つの類型、価格への3つの影響、売却前の点検、隠した場合に負う責任を売り手視点で解説します。

長年の慣行で続けてきたやり方が、調査で問題として指摘されるのではないか。売却を検討するオーナー経営者が抱える不安の一つです。未払残業代や許認可の不備は、中小企業のデューデリジェンスで実際に見つかります。ただし違反があれば売れないわけではなく、扱い方で結果は変わります。

本記事では、見つかりやすい6つの類型と価格への影響を示したうえで、売却前の点検の進め方を解説します。あわせて、隠した場合に売り手が負う責任と、買い手候補側の問題から身を守る方法を示します。

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M&Aでは自社のコンプライアンス違反がデューデリジェンスで見つかり価格と条件に反映される

買い手候補は、取得後に自社が責任を負う事項を洗い出すため調査を行います。中小M&Aガイドラインは、デューデリジェンスの種類として財務や法務のほか、ビジネス、税務、人事労務、知的財産、環境、不動産、ITを挙げています。

中小M&Aガイドライン|中小企業庁

指摘された事項は、価格の減額か契約条項への反映という形で処理されます。同ガイドラインは、調査が十分になされない場合、最終契約において売り手が負う表明保証の範囲や補償額・補償期間の負担が増える可能性があるとしています。

違反があれば売却できないわけではありません。把握して開示するか、発覚するかで結果が変わります。まずは自社の労務、許認可、税務、情報管理の4領域を点検します。

デューデリジェンスで確認される範囲と、簿外債務の扱いについては、下記で解説しています。

M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)とは?目的や流れ、売り手側のポイントを解説

M&Aにおける簿外債務の対策とは?種類やリスク、売り手側の確認ポイントを解説

中小企業のM&Aで見つかりやすいコンプライアンス違反の6つの類型

指摘は、特定の領域に集中します。見つかりやすい類型は以下の6つです。

  • 未払残業代や36協定の上限超過などの労務違反
  • 許認可の不備や無許可営業
  • 税務申告の誤りや役員への私的な支出
  • 個人情報や営業秘密の管理不備
  • 下請法や景品表示法などの取引上の違反
  • 環境・安全に関する法令違反

それぞれを順に解説します。

未払残業代や36協定の上限超過などの労務違反

指摘が集中するのが、労務の領域です。 勤怠の記録と実際の労働時間が一致していなければ、未払いの残業代が潜在的な債務になります。

確認される項目は次のとおりです。

  • 勤怠記録の管理方法と実態との一致
  • 割増賃金の計算方法と固定残業代の運用
  • 時間外労働に関する協定の締結と届出
  • 年次有給休暇の付与と取得の状況

社会保険労務士へ点検を依頼します。

M&Aに対応できる社会保険労務士については、下記で紹介しています。

M&Aの際に相談できる社会保険労務士2選!対応領域や強みも紹介

許認可の不備や無許可営業

事業の根幹に関わるのが、許認可です。 必要な許可を得ずに営業していれば、事業の継続自体が問われます。

確認する項目は次のとおりです。

  • 事業に必要な許認可の取得状況
  • 更新の期限と手続きの履行
  • 専任要件となる資格者の在籍
  • 届出事項に変更がないか

要件を満たす人材が退職していれば、要件を欠いた状態です。許認可の一覧を作り、要件と現状を突き合わせます。

税務申告の誤りや役員への私的な支出

公私の区分も、確認されやすい項目です。 会社の経費に個人的な支出が含まれていれば、税務上の問題として扱われます。

該当しやすいのは次のとおりです。

  • 事業に使っていない車両や不動産の費用
  • 実態のない親族への給与や地代
  • 会社から経営者個人への貸付金

修正申告が必要になれば、追加の納税が生じます。勘定科目内訳明細書を確認し、該当する残高を洗い出します。

個人情報や営業秘密の管理不備

情報の管理体制も調査の対象です。 顧客情報を扱う事業では、取得や第三者提供の手続きが適法かが問われます。

営業秘密についても、秘密として管理されている実態があるかが確認されます。管理の実態がなければ、法的な保護を受けられません。

ガイドラインに関するQ&A|個人情報保護委員会

過去の漏えい事故があれば、対応の記録も確認されます。利用目的の公表状況と、社内の管理規程の有無を点検します。

下請法や景品表示法などの取引上の違反

取引の条件にも規制があります。 発注側の立場で下請事業者(中小受託事業者)と取引していれば、支払期日や減額の禁止といった定めが関わります。下請法は2026年1月に「中小受託取引適正化法(取適法)」へ改正されており、改正後の規制内容で確認します。

広告表示についても、実際より著しく優良または有利であると示す表示は規制の対象です。取引基本契約と広告表現を、弁護士へ確認します。

環境・安全に関する法令違反

製造業や建設業では、環境と安全が論点になります。 廃棄物の処理、化学物質の管理、設備の点検などが対象です。

確認する項目は次のとおりです。

  • 産業廃棄物の処理委託先と管理票の記録
  • 消防設備や危険物の届出と点検
  • 労働安全衛生に関する届出と教育の実施

土壌汚染が判明すれば、対策費用は高額になります。過去の届出と点検記録をまとめます。

コンプライアンス違反が価格と契約条件に反映される3つの形

指摘は、3つの経路で条件に反映されます。押さえる点は以下のとおりです。

  • 是正費用や未払額が負債として価格から差し引かれる
  • 表明保証と特別補償の対象になって売却後も責任が残る
  • 許認可に関わる違反は前提条件やスキーム変更の理由になる

それぞれを順に解説します。

是正費用や未払額が負債として価格から差し引かれる

金額を見積もれる事項は、価格に反映されます。 未払残業代や追加の納税は、潜在的な債務として扱われるためです。

買い手候補は算定した金額を株式価値から控除します。見積もりが保守的であれば、実際の負担より大きく差し引かれることもあります。

自社で金額を算定し、根拠とともに提示します。買い手候補の一方的な見積もりを避ける材料になります。

表明保証と特別補償の対象になって売却後も責任が残る

金額が確定しない事項は、契約条項で処理されます。 表明保証とは、一定の事項が真実であると表明し保証する条項です。

違反が判明すれば、売り手は補償の義務を負います。特定の論点については、個別の補償条項が置かれる場合もあります。

補償の上限と期間は交渉事項です。範囲と金額の上限を、弁護士とFAで確認します。

表明保証条項の内容と、売り手が注意したい文言については、下記で解説しています。

M&Aにおける表明保証条項とは?重要性や内容、注意点を解説

表明保証で「売り手の知りうる限り…」はNG 事業売却を不利にする「最終契約書の要注意ワード」

最終契約で確認したい項目は、弁護士監修のチェックリストにまとめています。無料でダウンロードできます。

【無料資料】最終契約前に弁護士と共に確認するべき契約書の項目

許認可に関わる違反は前提条件やスキーム変更の理由になる

許認可の不備は、取引の実行自体を左右します。 買い手候補は許認可が有効に存続していることを前提に取得するためです。

是正がクロージングの前提条件とされる場合があります。是正できなければ、取引は実行されません。

事業譲渡では許認可を取り直す必要が生じ、スキームの選択にも影響します。許認可の状態を、交渉の初期に開示します。

売り手が売却前に行うコンプライアンスの点検

点検は、交渉の前に済ませます。進め方は以下の4つです。

  • 労務・許認可・税務・情報管理の順に自社で点検する
  • 是正できるものは基本合意前に是正して記録を残す
  • 是正できないものは開示資料に載せて条件交渉に回す
  • セラーズデューデリジェンスや弁護士の確認を検討する

それぞれを順に解説します。

労務・許認可・税務・情報管理の順に自社で点検する

着手の順序は、影響の大きさで決めます。 労務と許認可は金額も影響も大きく、是正にも時間がかかります。

進め方は次のとおりです。

  • 労務:勤怠記録と賃金台帳を照合する
  • 許認可:一覧を作り、要件と期限を確認する
  • 税務:勘定科目内訳明細書で公私の区分を点検する
  • 情報管理:規程の有無と運用状況を確認する

専門家へ依頼する範囲を先に決めます。

売却前の準備全般(磨き上げ)については、下記で詳しく解説しています。

M&Aの磨き上げとは?売却価格を高める5つの領域と進め方を解説

是正できるものは基本合意前に是正して記録を残す

是正は、早いほど有利です。 交渉が始まってからでは、指摘を受けて直す形になります。

是正の記録は、改善の姿勢を示す材料にもなります。実施した内容と日付を文書に残します。

未払残業代の精算など、金額を伴う是正は資金の手当ても要ります。優先順位と実施時期を決めます。

是正できないものは開示資料に載せて条件交渉に回す

直せない事項は、隠さず開示します。 調査で発覚すれば、交渉全体の信頼を損なうためです。

開示する内容は次のとおりです。

  • 事実関係と発生の経緯
  • 現時点での金額の見込み
  • 是正できない理由と今後の対応方針

自ら開示すれば、想定内の論点として条件交渉に載せられます。開示の方法と時期を、FAと相談します。

セラーズデューデリジェンスや弁護士の確認を検討する

自社で調査を行う方法もあります。 買い手候補の調査に先立ち、売り手側で専門家による点検を受ける形です。費用は生じますが、指摘を先回りして把握できます。是正の時間も確保できます。規模や論点の多さによって、実施の要否は変わります。費用と効果を、FAと検討します。

コンプライアンス違反を隠して売却した場合に売り手が負う責任

隠せば、後の負担が重くなります。金銭的な補償にとどまらず、信用にも影響が及びます。負う責任は以下の3つです。

  • 表明保証違反として補償請求を受ける
  • 知りながら隠した場合は契約の解除や損害賠償の対象になる
  • 買い手候補側で行政処分が起きれば売り手の信用も失われる

それぞれを順に解説します。

表明保証違反として補償請求を受ける

直接的な帰結が、補償の請求です。 最終契約で保証した内容に反する事実が判明すれば、補償の義務が生じます。

請求されれば、受け取った対価から支払うことになります。補償の上限が設定されていなければ、負担はさらに大きくなります。

契約の補償条項を確認し、上限と期間の設定を交渉します。

知りながら隠した場合は契約の解除や損害賠償の対象になる

認識していた事項を隠せば、扱いは重くなります。 補償の上限が適用されない旨の定めが置かれる場合もあります。

事実を認識していたかどうかは、社内の記録から推認されます。議事録やメールが証拠になりえます。

把握している事項は、すべて開示するのが原則です。判断に迷う事項は、弁護士などの専門家へ相談します。

買い手候補側で行政処分が起きれば売り手の信用も失われる

責任は金銭にとどまりません。 売却後に行政処分や報道が生じれば、前経営者の関与も問われます。違反の時期が在任中であれば、責任の所在は明らかです。地域や業界での評判に影響し、次の事業や社会的な活動にも支障が生じかねません。

金銭的な補償で済まない領域があることを踏まえ、開示の判断を下します。

買い手候補や仲介会社のコンプライアンス違反から売り手が身を守る方法

問題は、売り手側だけに生じるものではありません。身を守る方法は以下の3つです。

  • 最終契約の不履行を意図する不適切な買い手候補はガイドラインで排除の対象になっている
  • 仲介会社の説明義務は同じガイドラインとM&A支援機関登録制度で確認できる
  • 買い手候補の財務状況と過去の案件を売り手側からも調べる

それぞれを順に解説します。

最終契約の不履行を意図する不適切な買い手候補はガイドラインで排除の対象になっている

買い手候補側の問題も想定されています。 中小M&Aガイドラインは、譲り受け側に関する留意点を示しており、支援機関に対しても対応の指針を定めています。

中小M&Aガイドライン|中小企業庁

対価の支払や経営者保証の解除といった約束が履行されない事態も起こりえます。支援機関に対し、買い手候補の適格性をどう確認しているかを質問します。

M&Aで起こりうる詐欺的な手口と、経営者保証の解除については、下記で解説しています。

M&A詐欺とは?代表的な手口や被害事例、見抜くためのポイントも解説

M&Aにおける経営者保証とは?解除方法やガイドライン、トラブル対策も解説

仲介会社の説明義務は同じガイドラインとM&A支援機関登録制度で確認できる

支援機関にも守るべき基準があります。 中小M&Aガイドラインは、契約締結前に業務の範囲・内容、手数料、専任条項、テール条項などを記載した書面の交付と説明を求めています。

中小企業庁はM&A支援機関に係る登録制度を設けており、ガイドラインの遵守を宣言した機関が登録されています。依頼先が登録されているかを、契約の前に確認します。

買い手候補の財務状況と過去の案件を売り手側からも調べる

調査は、買い手候補だけが行うものではありません。 対価を支払う能力があるか、統合後の運営を担えるかは、売り手にとっても重要です。

確認する内容は次のとおりです。

  • 直近の決算書と資金調達の方法
  • 過去に譲り受けた会社の現在の状況
  • 経営陣の経歴と事業の実績

支援機関を通じて情報を求めます。開示に応じない相手は、姿勢自体が判断材料になります。

仲介とFAの違いと、支援機関の選び方については、下記で解説しています。

M&AにおけるセルサイドFAとは?業務内容や仲介との違いも解説

事業承継とM&Aの違いとは?3つの承継方法と後悔しない相談先の選び方を解説

M&A支援会社から提案を受けた際の注意点は、資料でも確認できます。

【無料資料】超大手企業も頼るM&Aのプロが厳選した注意点

M&Aとコンプライアンス違反に関するよくある質問

M&Aとコンプライアンス違反について、相談の現場で多く寄せられる質問を3つ取り上げます。是正済みの違反も開示が要るか、未払残業代があると売れないか、減額要求への対応の3点です。

過去に是正が済んでいる違反も開示する必要がありますか?

開示するのが原則です。是正済みであっても、過去に遡って責任が生じる可能性が残る事項はあります。是正の記録とともに開示すれば、改善の姿勢を示す材料にもなります。開示の要否は、表明保証の文言によっても変わるため、弁護士へ確認します。

未払残業代があると会社は売れませんか?

売れないわけではありません。金額を算定して開示し、価格や補償条項で処理する形が一般的です。むしろ問題になるのは、金額が把握できていない状態です。買い手候補は保守的に見積もるため、自社で算定して示すほうが有利になります。

買い手候補から違反を理由に減額を求められたら応じたほうがよいですか?

金額の根拠を確認したうえで判断します。買い手候補の算定が保守的であれば、自社の算定を示して交渉できます。是正済みであれば、是正の記録も材料になります。根拠を示さない一律の減額要求には、算定方法の開示を求めます。

まとめ

コンプライアンス違反は、デューデリジェンスで見つかり、価格と契約条件に反映されます。ただし違反があれば売れないわけではなく、把握して開示するか発覚するかで結果が変わります。

要点は以下のとおりです。

  • 指摘が集中するのは、労務、許認可、税務、情報管理、取引、環境・安全の6領域
  • 金額を見積もれる事項は価格から差し引かれ、確定しない事項は補償条項で処理される
  • 是正できるものは基本合意前に直し、記録を残す
  • 認識していた事項を隠せば、補償の上限が適用されない場合がある
  • 買い手候補と支援機関の側にも、ガイドラインと登録制度という確認の手段がある

点検の出発点は、労務と許認可です。まずは勤怠記録と許認可の一覧を確認してください。

売却前の点検と契約の確認点は、こちらの資料でも確認できます。

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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