主要取引先に依存した会社は売却できる?4つのリスクと売れる3つの条件を解説

2026.09.29

公開日:2026.09.29

2026.09.29

2026.09.29

更新日:2026.09.29

2026.09.29

主要取引先に依存した会社は売却できる?4つのリスクと売れる3つの条件を解説

1社への売上依存が高い会社は売却できるのか。取引依存度の定義と中小企業白書のデータをもとに、売却時の4つのリスクと売れる3つの条件を示し、売却前にできる準備と、依存したまま売る場合の交渉の工夫を売り手視点で解説します。

売上の大半を1社が占めている。会社を売れるのか、買い手候補はどう見るのか。依存度の高さは、多くの場合、交渉で論点になります。ただし、依存していれば売れないわけではありません。

本記事では、取引依存度の定義を公的データで確認したうえで、売却時に生じる4つのリスクと、依存度が高くても売却できる3つの条件を示します。あわせて、売却前にできる準備と、依存したまま売る場合の交渉の工夫を解説します。

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主要取引先への取引依存度とは

取引依存度とは、特定の販売先への依存の程度を示す指標です。中小企業庁の2020年版中小企業白書は、取引依存度を次の式で定義しています。

2020年版中小企業白書 第2部第3章第3節 取引関係と中小企業

取引依存度=最も多く取引している販売先への販売額÷総売上高×100

同白書は、販売先数が多い企業ほど取引依存度の低い企業の割合が高くなると分析しています。一方で販売先数が151社以上の企業などでは、取引依存度が30%超から50%の企業で売上高の増加率が高く、取引の中心となる企業を有していることが重要だとも指摘しています。

依存度の高さ自体が経営の失敗を意味するわけではありません。問題になるのは、会社売却で買い手候補がリスクと見る点です。直近3期の販売先別売上を集計し、上位1社と上位3社の構成比を算出します。

主要取引先に依存した会社の売却で生じる4つのリスク

依存度の高さは、交渉のあらゆる局面に影響します。価格だけでなく、候補先の数や対価の受け取り方にも及びます。売却で生じるリスクは以下の4つです。

  • 株主の交代を理由に取引が縮小・終了する可能性がある
  • 評価額が引き下げられやすい
  • 対価の一部が後払いになり売り手にリスクが残る
  • 買い手候補の範囲が狭まる

それぞれを順に解説します。

株主の交代を理由に取引が縮小・終了する可能性がある

主要取引先に依存した会社の売却で第一に警戒したいのは、取引の喪失です。 株主が代われば、取引先は発注方針を見直す機会と捉えるためです。

取引が細る経路は次のとおりです。

  • 買い手候補が取引先の競合にあたり、発注を引き揚げられる
  • 与信管理の観点から取引条件を厳しくされる
  • チェンジオブコントロール条項により解除権を行使される

主要取引先との契約書を取り出し、解除事由と通知義務の条項を確認します。

会社売却が取引先に与える影響と、伝え方については、下記で解説しています。

会社売却と廃業の取引先への影響とは?関係を守る3つの配慮と伝え方を解説

評価額が引き下げられやすい

主要取引先に依存した会社の売却では、評価額が抑えられる傾向があります。 買い手候補が将来のキャッシュフローの不確実性を価格に織り込むためです。

白書も、製造業では取引依存度が高くなるほど価格転嫁できなかったと回答する企業の割合が高まる傾向にあり、依存度の高さが価格転嫁交渉力を低下させる可能性を指摘しています。ただし同じ調査では、サービス業やその他の業種でこの傾向は見られず、依存度が50%超の企業で「概ね転嫁できた」と回答する割合が高くなっています。業種によって依存度と交渉力の関係は異なります。 

取引先別の粗利額を集計し、依存先の利益率が他社より低くないかを確認します。

対価の一部が後払いになり売り手にリスクが残る

主要取引先に依存した会社の売却では、対価の受け取り方にも条件が付きます。 買い手候補が取引継続を確認してから支払いたいと考えるためです。

用いられる仕組みは次のとおりです。

  • アーンアウト:一定期間の業績達成を条件に対価を追加で支払う
  • エスクロー:対価の一部を第三者(金融機関等)に預託し、条件成就後に売り手へ交付する
  • 分割払い:クロージング後に複数回に分けて支払う

クロージング時に確実に受け取る金額の下限を先に設定します。

アーンアウト条項の仕組みと注意点は、下記で詳しく解説しています。

アーンアウト条項とは?税務・会計処理や契約上の注意点を売り手目線で解説

買い手候補の範囲が狭まる

主要取引先に依存した会社の売却では、打診できる相手も限られます。 依存先と競合する企業は、取引の維持が見込めないため候補から外れるためです。

除外されやすいのは次のような企業です。

  • 主要取引先の直接の競合企業
  • 主要取引先と資本関係や系列関係にある企業
  • 依存先の業界と利害が対立する企業

候補が減れば、条件を比較する余地も減ります。主要取引先の競合企業をリスト化し、打診可能な範囲をFAと事前に確認します。

買い手候補の探し方については、下記で解説しています。

M&Aの買い手の探し方とは?5つのルートと打診の進め方を売り手目線で解説

売却前に押さえておきたい注意点は、資料でも確認できます。無料でダウンロードできます。

【無料資料】超大手企業も頼るM&Aのプロが厳選した注意点

依存度が高くても売却できる3つの条件

リスクがある一方で、依存度が高くても成約する会社はあります。買い手候補が納得しやすい条件は以下の3つです。

  • 主要取引先との契約が長期で更新実績がある
  • 代替が難しい技術や設備を持っている
  • 取引先との関係が社長個人ではなく組織で維持されている

それぞれを順に解説します。

主要取引先との契約が長期で更新実績がある

依存度が高くても売却できる第一の条件が、取引の継続実績です。 長く続いている取引は、買い手候補から見て途切れにくい取引と評価されます。

中小企業白書は、最も多く取引している販売先との取引継続年数について、10年以上の企業が全体の87.3%を占めていると示しています。主要販売先との取引関係は長期間継続する傾向にあります。もっとも、10年以上の継続はむしろ標準的な姿であり、それだけでは差別化になりません。買い手候補が見るのは年数そのものではなく、取引量の推移、契約の更新条件、直近の受注シェアの安定性です。 

2020年版中小企業白書 第2部第3章第3節 取引関係と中小企業

更新の履歴や取引量の推移も材料になります。取引開始年と契約更新の記録を年表にまとめます。

代替が難しい技術や設備を持っている

依存度が高くても売却できる第二の条件が、代替の困難さです。 切り替えられない理由があれば、依存は強みに転じます。

中小企業白書のコラムでは、他社に代替できない受注側事業者が「存在する」と回答した発注側事業者が、製造業で約半数、サービス業で3割以上を占めています。

該当しやすい要素は次のとおりです。

  • 専用設備や金型が必要で、移管に費用がかかる
  • 図面や仕様を共同開発しており、切り替えに検証が要る
  • 許認可や認証が要件となっている

該当する理由と裏づけ資料をそろえます。

取引先との関係が社長個人ではなく組織で維持されている

依存度が高くても売却できる第三の条件が、関係の非属人性です。 社長個人の人脈で保たれている取引は、退任とともに細るリスクを買い手候補が警戒します。

組織で維持されている状態とは、次のような形です。

  • 窓口担当者が社長以外に複数いる
  • 見積や納期の判断基準が文書化されている
  • 品質保証や技術対応の体制が部門として機能している

取引先の担当者と自社の担当者を対応表にまとめ、社長が関与している接点の数を数えます。

キーパーソンへの依存を下げる考え方は、下記もあわせてご覧ください。

M&Aでキーマンの処遇はどうなる?経営者と従業員を守る5つのポイント

売却前に依存度を下げる4つの準備

条件を満たしていない場合は、売却前の準備で状況を変えられます。取り組む準備は以下の4つです。

  • 取引先別の売上と利益の構成を数値で把握する
  • 既存取引先からの横展開で受注先を増やす
  • 口頭や慣行で続く取引を基本取引契約として書面化する
  • 社長個人の営業関係を組織の営業体制に置き換える

それぞれを順に解説します。

取引先別の売上と利益の構成を数値で把握する

売却前の準備は、現状を数値で押さえるところから始まります。 依存度は売上だけでなく、利益の構成でも測る必要があります。

集計する項目は次のとおりです。

  • 取引先別の売上高と構成比(直近3期)
  • 取引先別の粗利額と粗利率
  • 取引開始年と直近の取引量の増減

売上構成では2番手でも、利益では最大の取引先になっている場合があります。会計ソフトから得意先元帳を出力し、上記3項目を1枚の表にまとめます。

既存取引先からの横展開で受注先を増やす

売却前の準備の第2は、販売先数を増やす取り組みです。 中小企業白書は、取引依存度よりも販売先数の変化のほうが売上高増加率に与える影響が強いとしています。

同白書は、販売先数が増加した企業と減少した企業で差が大きいのは「提案力・企画力」だとも分析しています。

2020年版中小企業白書 第2部第3章第3節 取引関係と中小企業

新規開拓より、既存取引先の別部門や関連会社への横展開のほうが成果は早く出ます。打診先リストを作成します。

口頭や慣行で続く取引を基本取引契約として書面化する

売却前の準備の第3は、取引条件の書面化です。 契約書がない取引は、買い手候補から見て継続性を確認できません。

書面に落とす項目は次のとおりです。

  • 契約期間と自動更新の定め
  • 発注と納品の手順、検収の基準
  • 価格改定の協議ルール
  • 解除事由とチェンジオブコントロール条項の有無

新たに契約を結ぶ際は、依存先に売却を推測されないよう、進め方とタイミングに注意が必要です。取引先との契約書を有無で分類し、未締結の先から順に締結を打診します。

社長個人の営業関係を組織の営業体制に置き換える

売却前の準備の第4は、属人性の解消です。 社長が抜けても取引が続く体制を作れば、買い手候補のリスク認識は下がります。

進め方は次のとおりです。

  • 社長が担当している取引先に、営業担当者を追加で付ける
  • 商談の議事録と過去の交渉経緯を文書に残す
  • 価格決定の基準を社内ルールとして明文化する

引き継ぎには年単位の時間がかかります。売却を検討し始めた時点で着手し、担当者の引き継ぎ計画を四半期ごとの工程表に落とします。

売却前の準備全般(磨き上げ)については、下記で詳しく解説しています。

M&Aの磨き上げとは?売却価格を高める5つの領域と進め方を解説

依存したまま売却する場合の交渉と条件の工夫

準備が間に合わない場合でも、交渉の設計で条件は変えられます。工夫できる点は以下の4つです。

  • 主要取引先へ伝える時期を基本合意の前後で設計する
  • 株主の交代で承諾が必要になる契約を先に洗い出す
  • アーンアウトやエスクローの条件を売り手に不利にならない形で決める
  • 売り手専属のFAと相談して買い手候補の範囲を決める

それぞれを順に解説します。

主要取引先へ伝える時期を基本合意の前後で設計する

依存したまま売却する場合、伝える時期の設計が結果に影響します。 早く伝えれば代替先の検討を促し、遅すぎれば不信感を招きます。

中小M&Aガイドラインは、最終契約締結前に知らせる相手をごく一部に限り、残る関係者には原則クロージング後に知らせるべきだとしています。情報が伝わった後に交渉が頓挫すれば、取引先の喪失を招くためです。

※参考:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」第1章Ⅰ4(2)秘密保持の徹底 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf

ただし承諾が必要な契約がある場合は、前倒しの打診が避けられません。打診が必要な先と時期をFAと決めます。

取引先への説明の内容と時期については、下記で詳しく解説しています。

M&Aを取引先にどう説明する?タイミングや内容、売り手側の注意点を解説

株主の交代で承諾が必要になる契約を先に洗い出す

依存したまま売却する場合、契約上の承諾要件を先に把握します。 チェンジ・オブ・コントロール(COC)条項があれば、株主の異動によって相手方に解除権が生じる場合があります。

中小M&Aガイドラインは、同条項を株主の異動や支配権の変動によって契約の相手方に解除権が発生することなどを定める条項だと説明しています。

※参考:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」◆用語集 チェンジ・オブ・コントロール(COC)条項 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf

売上上位の契約から順に条項を点検します。該当した契約について、通知先と承諾取得に要する期間を書き出し、工程表に組み込みます。

アーンアウトやエスクローの条件を売り手に不利にならない形で決める

依存したまま売却する場合、後払い条項の中身を決めておく必要があります。 条件が曖昧では、売却後に手取り額を減らされる余地が残るためです。

交渉で確認する項目は次のとおりです。

  • 判定に使う指標と算定方法
  • 判定の対象期間と、途中で条件を変更できるか
  • 買い手候補側の経営判断で数値が下がった場合の扱い
  • 未達となった場合の減額幅の上限

指標は売り手が影響を及ぼせるものに限るのが原則です。下振れシナリオで手取り額を試算します。

最終契約で確認したい項目は、弁護士監修のチェックリストにまとめています。

【無料資料】最終契約前に弁護士と共に確認するべき契約書の項目

売り手専属のFAと相談して買い手候補の範囲を決める

依存したまま売却する場合、候補先の選び方が結果に影響します。 依存先との関係を踏まえた打診先の設計は、売り手側の立場でなければ組み立てにくい領域です。

検討する軸は次のとおりです。

  • 主要取引先と競合しない業界の企業
  • 依存先とは別の販路を持ち、売上分散に貢献できる企業
  • 主要取引先自身、または同社の関連会社

売り手のみと契約するFAは、条件設計と交渉に専念できる立場です。打診を避けたい企業名を先に伝え、除外リストを共有します。

売り手専属のFAの役割については、下記で解説しています。

M&AにおけるセルサイドFAとは?業務内容や仲介との違いも解説

主要取引先に依存した会社の売却に関するよくある質問

主要取引先に依存した会社の売却について、相談の現場で多く寄せられる質問を3つ取り上げます。依存度が何%を超えると難しくなるか、小規模でも買い手候補は見つかるか、依存先自身が買い手候補になる場合の注意点の3点です。

取引依存度が何%を超えると売却が難しくなりますか?

一律の基準はありません。買い手候補が見るのは割合の数値だけでなく、取引の継続性と代替の困難さです。依存度が50%を超えていても、専用設備や認証によって切り替えが難しい取引であれば評価されます。逆に依存度が30%でも、書面のない慣行で続く取引であれば不安視されます。

年商1億円ほどの会社でも買い手候補は見つかりますか?

見つかる可能性はあります。中小M&Aガイドラインは、赤字であるにもかかわらず成立した事例や、債務超過であるにもかかわらず成立した事例を挙げています。規模より、買い手候補にとっての意味が問われます。技術や許認可、人材、商流のうち評価されうる要素を書き出します。

赤字や小規模の会社の売却については、下記で解説しています。

赤字企業の売却はできる?売却できる企業の特徴や成功させるポイントを解説

スモールM&Aとは?メリット・デメリットや流れを解説

主要取引先が買い手候補になる場合に気をつけることはありますか?

交渉力の偏りに注意が要ります。依存先は自社の内情を把握しているため、価格や条件で優位に立ちやすい立場にあります。1社のみと交渉すると比較材料を持てません。他の候補先も並行して打診し、条件を比べられる状態を作ります。

まとめ

主要取引先への依存は、会社売却で多くの場合、論点になります。ただし依存していれば売れないわけではなく、取引の継続性と代替の困難さを示せるかで評価は変わります。

要点は以下のとおりです。

  • 取引依存度は、最も多く取引している販売先への販売額を総売上高で割って算出する
  • リスクは、取引の喪失・評価額の低下・対価の後払い・候補先の減少の4つ
  • 長期の取引実績、代替の困難さ、関係の非属人性の3点が売却できる条件となる
  • 準備が間に合わない場合も、開示時期の設計と後払い条項の決め方で条件は変えられる

自社の依存度がどの水準にあり、買い手候補にどう映るかは、数字を並べれば把握できます。まずは取引先別の売上と粗利を集計するところから始めてください。

売却前の準備と交渉の進め方は、こちらの資料でも確認できます。

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オーナーズ株式会社では、売り手に特化したFA(ファイナンシャル・アドバイザー)サービスを展開しています。専属のエージェントがお客様の理想の取引実現に向けて、お客様のご希望に即したサービスをとことん提供いたします。よりよい評価額での売却に向けたアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を削減した案件成約も実現可能です。 また、具体的な買いニーズを持っている企業のほか、業界・買い手企業分析に基づき事業親和性の高い企業を買い手候補としてご提案します。大手金融機関や大手M&A仲介、M&Aマッチングサービスとも連携しているため、買い手探索のルートが豊富です。 まずは一度、弊社の無料相談サービスをご利用ください。

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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