M&Aで司法書士に依頼できる業務とは?5つの支援内容と頼めない領域を解説

2026.09.04

公開日:2026.09.04

2026.09.04

2026.09.04

更新日:2026.09.04

2026.09.04

M&Aで司法書士に依頼できる業務とは?5つの支援内容と頼めない領域を解説

会社売却の話が進むなかで、「クロージングには司法書士が必要」と言われ、何を頼むことになるのか気になっている方は多いのではないでしょうか。

司法書士は、M&Aで合意した内容を登記や書類という形にして完成させる専門家です。一方で、交渉や税務は業務範囲の外にあり、どこまで頼めるのかを知らないまま進めると、依頼先の選択で認識齟齬が生じやすくなります。

本記事では、M&Aで司法書士に依頼できる5つの業務、依頼できない領域、費用の内訳、そして売却準備の段階での活用場面までを、売り手の立場から解説します。

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M&Aにおける司法書士の役割

M&Aにおける司法書士は、登記と法務書類の専門家として、合意された取引を法的な手続きとして完成させる役割を担います。

株式譲渡や会社分割といった取引は、契約の締結だけでは完結しません。役員の変更を登記に反映し、必要な議事録をそろえ、不動産があれば名義を移す。こうした仕上げの手続きが漏れると、取引の効力や対外的な信用に関わります。司法書士は、この実行部分を商業登記と不動産登記の両面から支える立場です。

交渉や助言の中心に立つ専門家ではありませんが、手続きの正確さは取引の土台であり、取引の完成に必要な存在です。

M&Aで司法書士に依頼できる5つの業務

司法書士に依頼できる業務は、登記を中心に広がりがあります。M&Aの場面で代表的なのは以下の5つです。

  • 株式譲渡や役員交代に伴う変更登記
  • 会社分割や合併など組織再編の登記
  • 不動産の所有権移転や担保抹消の登記
  • 株主総会や取締役会の議事録など書類の作成
  • 株主名簿の整備と名義株の解消の支援

それぞれを順に解説します。

株式譲渡や役員交代に伴う変更登記

株式譲渡そのものは登記事項ではありませんが、クロージング後には役員の変更、本店移転、商号変更などの変更登記が発生し、司法書士がその申請を担います。

株式が買い手に移ると、通常は経営体制が変わり、取締役や代表取締役が変更されます。役員の変更の登記は、変更が生じたときから2週間以内に申請することが会社法で定められています。

※参考:e-Gov法令検索「会社法」第915条第1項

登記の準備は議事録などの書類とセットで進むため、クロージング日程が決まった段階で司法書士に依頼の相談をしておくと、手続きを円滑に進めやすくなります。

※参考:法務省「役員の変更の登記を忘れていませんか? 再任の方も必要です

会社分割や合併など組織再編の登記

会社分割や合併といった組織再編を使うM&Aでは、登記の手続が増える傾向にあります。分割や合併は登記によって効力や対外関係が定まる場面があり、作成する書類の量も株式譲渡より多くなります。

事業の一部だけを切り出して売却する場合など、組織再編の登記はスケジュール管理も含めて経験の差が出やすい領域です。会社分割という手法自体の仕組みを知っておくと、司法書士との打ち合わせも進めやすくなります。

M&Aにおける会社分割とは?吸収分割と新設分割の違いやメリットも解説

不動産の所有権移転や担保抹消の登記

対象会社が不動産を持つ場合や、事業譲渡で不動産を個別に移す場合には、不動産登記の業務が発生します。

代表的なのは、事業譲渡に伴う所有権移転登記と、借入の完済に伴う抵当権抹消登記です。とくに抵当権の抹消は、買い手候補から取引の前提条件とされる場合があり、金融機関とのやり取りを含めて段取りが要ります。

商業登記と不動産登記の両方が絡む案件では、1つの事務所でまとめて対応できるかどうかも依頼先選びの観点になります。

株主総会や取締役会の議事録など書類の作成

M&Aの各場面では、譲渡承認、役員選任、定款変更などの決議が必要になり、その議事録や承認書類の作成を司法書士に支援してもらえます。

議事録は登記申請の添付書類にもなるため、記載の不備は登記の却下や補正につながり、クロージング後の日程に影響します。決議の内容と書類の整合を専門家の目で確認してもらう価値があります。

過去の議事録が残っていない会社では、作成支援と併せて現状の点検を受けておくと、後の手続きが進めやすくなります。

株主名簿の整備と名義株の解消の支援

株式を有効に譲渡できる株主を確定させる作業も、司法書士に支援を依頼できる領域です。

株主名簿が実態とずれている、他人名義のままの株式がある、といった状態では、株式譲渡の前提が固まりません。司法書士は、名簿の整備や必要書類の作成という面からこの確定作業を支えます。

株主名簿の整備や名義株の解消は、売却準備の段階で着手するほど選択肢が残ります。

M&Aのどの段階で司法書士が関わるか

司法書士とM&Aの接点はクロージング前後に集中しますが、実際には準備段階から完了後まで、関わる場面は各段階にあります。

段階司法書士が担う主な業務
売却準備段階株主名簿の整備、名義株の解消支援、相続登記や抵当権抹消など登記未了の解消、定款・議事録の点検
最終契約の準備段階譲渡承認などの議事録・承認書類の作成、登記書類の事前準備
クロージング役員変更・本店移転・商号変更などの変更登記、組織再編の登記、不動産の移転登記の申請
クロージング後登記完了の確認、登記事項証明書の取得、残った変更事項の登記

多くの売り手が司法書士と接するのは終盤ですが、価値が大きいのはむしろ準備段階の活用です。権利関係と登記が整理された会社は、買い手候補の法務デューデリジェンスでの指摘が減り、交渉を円滑に進めやすくなります。

司法書士に依頼できない業務

司法書士は万能の窓口ではなく、業務の範囲が法律で定められています。M&Aの場面で司法書士に依頼できない代表的な領域は以下の3つです。

  • 相手方との交渉や紛争対応の代理は弁護士が担う
  • 税務申告や税務相談は税理士の業務になる
  • 営業許可など許認可の手続きは行政書士が担う場合が多い

それぞれを順に解説します。

相手方との交渉や紛争対応の代理は弁護士が担う

買い手候補との契約交渉の代理や、紛争になった場合の代理は、弁護士の業務です。司法書士に依頼することは、簡易裁判所での一部の代理など例外的な範囲を除き、原則としてできません。

契約書の条項をめぐる駆け引きや、表明保証・補償をめぐる争いは、法律事務の中でも交渉と紛争の領域に入ります。売り手として、契約内容に不安がある場合の相談先は弁護士だと知っておくと、依頼先の振り分けで迷いにくくなります。

税務申告や税務相談は税理士の業務になる

株式の譲渡所得の申告や、売却に伴う税負担の相談は、税理士の業務です。司法書士が登記に伴う登録免許税の計算を行うことはありますが、これは登記手続きの一部であり、税務相談とは別のものです。

売却対価の手取りや税金の試算は、顧問税理士かM&Aの税務に対応できる税理士に確認する分担になります。

営業許可など許認可の手続きは行政書士が担う場合が多い

事業譲渡で建設業や運送業などの許認可を取り直す場合、その申請手続きは行政書士が担う場面が中心です。

実務では、会社の設立登記は司法書士、その後の許認可申請は行政書士というように、連続する手続きを分担して進める形が見られます。売り手側でどちらに何を頼むかを細かく判断する必要はなく、窓口となる専門家に業務の分担を確認すれば足ります。

司法書士に依頼する費用

司法書士に支払う費用は、登録免許税と司法書士報酬の2層に分かれます。この内訳を知っておくと、見積もりの妥当性を判断しやすくなります。

登録免許税は、登記の際に国に納める税金です。税額は登記の種類ごとに定められており、商業登記の役員登記のように1件あたりの定額になっているものがあります。誰に依頼しても金額は変わりません。

一方、司法書士報酬は事務所ごとに自由に定められており、案件の内容と書類の量によって変わります。同じ登記でも報酬には差があるため、依頼前に見積もりで確認する必要があります。

つまり、見積もりのうち「動かない部分」が登録免許税、「事務所によって変わる部分」が報酬です。具体的な税額は国税庁の税額表で確認できます。

※参考:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表

売り手が売却準備で司法書士を活用できる場面

司法書士はクロージングの手続き役としてだけでなく、売却前の体制整備の相談先としても活用できます。準備段階で役立つのは以下の3つの場面です。

  • 分散した株式や名義株の整理を進められる
  • 相続登記や担保の抹消など登記の未了を解消できる
  • 議事録や定款など会社書類の不備を直せる

それぞれを順に解説します。

分散した株式や名義株の整理を進められる

株式が親族や元役員に分散している会社や、設立時の事情で他人名義のままの株式がある会社は、売却の前に権利関係の確定が必要であり、司法書士はその整理を書類と手続きの面から支援します。

株式譲渡は「誰が株主か」が固まって初めて成立します。名簿の記載と実態がずれたまま交渉が進むと、法務デューデリジェンスで指摘され、解消までクロージングが待たされる展開になりがちです。

整理の進め方は、以下の2記事で詳しく解説しています。

M&Aに向けた株主名簿の整備とは?不備のリスクや売り手側の進め方を解説

名義株とは?M&Aで問題になる理由や実質株主の確認、解消方法を解説

なお、名義をめぐって当事者間に争いがある場合は、交渉や紛争の対応として弁護士の領域に移ります。

相続登記や担保の抹消など登記の未了を解消できる

先代からの相続で株式や不動産の名義変更が済んでいない、完済した借入の抵当権が登記に残っている。登記の未了は、買い手候補の法務デューデリジェンスで定番の指摘事項であり、売却前の解消に司法書士の支援が活きます。

未了の解消には、戸籍の収集や金融機関からの書類取り付けなど時間のかかる作業が含まれます。交渉が始まってから着手すると日程を圧迫するため、売却を検討し始めた段階での棚卸しが望ましいです。

議事録や定款など会社書類の不備を直せる

過去の株主総会議事録が欠けている、定款が実態と合っていない、役員変更の登記が漏れている。中小企業では珍しくないこうした不備も、司法書士による点検と補正の対象です。

書類の不備は、それ自体が取引を止めるとは限りませんが、買い手候補に「管理が行き届いていない会社」という印象を与え、評価に影響しやすい要素です。是正には決議のやり直しなど段取りを要するものもあるため、早めの点検が有効です。

M&Aに対応できる司法書士を選ぶポイント

司法書士事務所には得意分野の違いがあり、どこに頼んでも同じとは限りません。M&Aの場面では以下の3点を確認します。

  • M&Aや組織再編の登記の実績を確認する
  • 弁護士や税理士と連携できる体制があるかを見る
  • 見積もりの内訳が登録免許税と報酬に分かれているかを確かめる

それぞれを順に解説します。

M&Aや組織再編の登記の実績を確認する

登記業務の中でも、会社分割や合併の登記は取り扱いの多くない事務所があります。相談の際に、株式譲渡に伴う一連の登記や組織再編の登記について、類似案件の経験を確認しておくと依頼後の認識齟齬を抑えやすくなります。

不動産登記が中心の事務所と商業登記に強い事務所という違いもあるため、自社の案件に必要な領域と照らして選びます。

弁護士や税理士と連携できる体制があるかを見る

M&Aでは、契約は弁護士、税務は税理士、登記は司法書士と、複数の士業が同時に動きます。他士業やFA・M&A支援会社との協働経験がある事務所は、書類の受け渡しや日程調整が滑らかで、全体の進行を止めにくい傾向があります。

単独で完結しようとする事務所より、分担を前提に動ける事務所のほうが、M&Aの実務には合う場合が多く見られます。

見積もりの内訳が登録免許税と報酬に分かれているかを確かめる

費用の章で解説したとおり、司法書士費用は税金部分と報酬部分の2層です。見積もりがこの内訳で示されているかは、説明の誠実さを測る手がかりになります。

総額だけの見積もりでは、他の事務所との比較も、金額の妥当性の判断もできません。内訳の明示を求めても応じない事務所は、その後のやり取りでも説明が十分でない傾向があります。

M&Aと司法書士でよくある質問

M&Aと司法書士について、売り手経営者からよく寄せられる質問に回答します。

司法書士だけでM&Aを進められますか?

登記と書類の手続きは司法書士で完結しても、相手探し、条件交渉、税務、契約設計は業務範囲の外にあるため、司法書士だけで売却の全体を進めることは難しいのが実情です。

全体の進行はFAやM&A支援会社、契約は弁護士、税務は税理士という組み合わせのなかで、司法書士は手続きの実行を受け持ちます。専門家の全体像と選び方は、以下の記事が参考になります。

M&A専門家の選び方とは?種類や役割、失敗しないためのポイントも解説

弁護士と司法書士はどちらに先に相談しますか?

論点の性質で分かれます。契約条件への不安、相手方との争いの芽、表明保証の交渉といった論点があるなら、先に弁護士へ相談する場面です。一方、登記の段取り、株主名簿の整備、書類の不備の点検が中心なら、司法書士で足りる場合があります。

実際の売却では、FA経由で必要な士業に順次つながる流れが多く、売り手が最初から振り分けを判断しなければならない場面は多くありません。

変更登記を放置するとどうなりますか?

役員の変更などの登記を期間内に申請しなかった場合、代表者が100万円以下の過料に処される可能性があります。さらに、最後の登記から12年が経過した株式会社は休眠会社として整理作業の対象となり、法務大臣の官報公告から2か月以内に「事業を廃止していない」旨の届出も登記もしなければ、その期間の満了時に解散したものとみなされます。

売却の場面では、登記の放置は法務デューデリジェンスで発覚し、是正が済むまでクロージングを待たされるという実害もあります。心当たりがあれば、交渉が本格化する前に解消しておくことが望ましいです。みなし解散の仕組みは、以下の記事で解説しています。

休眠と廃業の違いとは?費用・手続き・3つの判断基準をわかりやすく解説

※参考:e-Gov法令検索「会社法」第472条第1項・第976条第1号

まとめ

M&Aにおける司法書士は、変更登記、組織再編の登記、不動産登記、議事録の作成、株主名簿の整備という5つの業務で取引の完成を支える専門家です。一方、交渉は弁護士、税務は税理士、許認可は行政書士と業務範囲が分かれており、使い分けを知っておくことが依頼の出発点になります。

売り手にとって価値が大きいのは、名義株や登記未了の解消といった準備段階の活用です。権利関係の整理された会社は、買い手候補の調査での指摘が減り、交渉を円滑に進めやすくなります。

依頼先を具体的に探す段階では、本記事で挙げた3点(M&Aや組織再編の登記の実績、他士業との連携体制、見積もりの内訳の明示)を相談時に確認しておくと、事務所選びの判断がつきやすくなります。M&Aの支援実績がある事務所は、以下の記事で紹介しています。

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また、具体的な買いニーズを持っている企業のほか、業界・買い手企業分析に基づき事業親和性の高い企業を買い手候補としてご提案します。大手金融機関や大手M&A仲介、M&Aマッチングサービスとも連携しているため、買い手探索のルートが豊富です。

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ株式会社 )

RISONAL編集部

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