医療関連サービス業界のM&A相場はいくら?売却の手法やコツも解説!

2026.11.04

公開日:2026.11.04

2026.11.04

2026.11.04

更新日:2026.11.04

2026.11.04

医療関連サービス業界のM&A相場はいくら?売却の手法やコツも解説!

医療関連サービス業界は、病院や診療所などの医療機関から、診療や入院に関わる周辺業務を受託する事業領域です。手術器具などの滅菌消毒、入院患者の食事の提供、患者の搬送、医療機器や医療用ガス供給設備の保守点検、寝具類の洗濯、院内の清掃、検体検査など、医療機関の日々の運営を裏側から支える多様なサービスが含まれます。

一方で、現場を担う人材の不足と人件費の上昇、医療機関の経営環境の厳しさを背景とした委託費の抑制、受託にあたって求められる基準や体制の維持、入札や契約更新による受託の不安定さ、経営者の高齢化と後継者不足など、複数の経営課題を抱えています。

こうした環境を背景に、受託先の医療機関や対応エリアの拡大、人材と専門ノウハウの確保、複数のサービスをまとめて提供する体制の構築などを目的として、同業の大手事業者やビルメンテナンス会社、設備保守会社などが中小の医療関連サービス事業者の取得を検討・実行するケースがあり、中小の事業者にとっても、売却や事業承継は検討対象となり得る選択肢の一つです。

本記事では、医療関連サービス業界のM&Aを行う際の相場の考え方をはじめ、業界の現状や代表的な売却手法について解説します。

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医療関連サービス業界の現状

医療関連サービス業界は、医療機関が本来業務である診療に集中できるよう、周辺の業務を専門の事業者が担う、アウトソーシングの事業領域です。全国規模で複数のサービスを展開する大手から、特定の地域や特定の業務(滅菌消毒、寝具類の洗濯、院内清掃など)に特化した中小事業者まで、幅広い事業者が存在します。

この業界の特徴は、委託の対象となる業務と委託先の条件が法律で定められている点にあります。医療法第15条の3第2項では、患者の入院等に著しい影響を与える業務として政令で定めるものを委託しようとするときは、当該業務を適正に行う能力のある者として厚生労働省令で定める基準に適合するものに委託しなければならないとされています。対象業務としては、医療機器等の滅菌消毒、食事の提供、患者等の輸送、医療機器の保守点検、医療ガスの供給設備の保守点検、患者等の寝具類の洗濯、施設の清掃が医療法施行令第4条の7で規定されています。検体検査の業務についても、登録を受けた衛生検査所の開設者など、法律で定められた者に委託することとされています(同条第1項)。

※参考:厚生労働省 医政局地域医療計画課「病院寝具類の受託洗濯施設における衛生基準について」(内閣府 国家戦略特区WG提出資料)、厚生労働省「病院、診療所等の業務委託について」

つまり、医療関連サービスの多くは、行政の「許可」を受ける事業ではない一方で、厚生労働省令の基準に適合していることが受託の前提条件となる事業です。人員、施設・設備、業務の実施方法などに関する基準を満たし続けることが、事業を続けるための条件になっています。

ただし、業務によっては個別の法令上の手続きも求められます。たとえば、患者等給食を受託する事業者は、院内調理であっても食品衛生法上の飲食店営業の許可を受ける必要があると整理されています。また、検体検査を衛生検査所で受託する場合は臨床検査技師等に関する法律に基づく登録が、寝具類の洗濯ではクリーニング業法に基づくクリーニング所の開設届出が関係します。

※参考:厚生労働省「医療法の一部を改正する法律の一部の施行について」(平成5年2月15日健政発第98号、最終改正:令和2年8月5日)第三の4(1)ウ

人材の面では、不足が課題とされています。医療関連サービス振興会の令和6年度の実態調査によれば、人材の充足状況について「やや不足」または「不足」と回答した割合は、「患者等給食」が87.2%で最も高く、「院内清掃」が81.6%、「患者搬送」が77.8%、「医療機器保守点検」が77.3%で続き、調査対象の16業種中12業種で6割を超えました。

※参考:一般財団法人医療関連サービス振興会「令和6年度 医療関連サービス実態調査の概要」、労働新聞社「【ピックアップ調査資料】医療関連サービス実態調査報告書(医療関連サービス振興会)」

医療機関の側も、人件費や物価の上昇のなかで経営の効率化を迫られており、委託費の見直しや、入札による委託先の選定を行う医療機関もあります。人件費が上がる一方で委託費を引き上げにくい構造は、中小の受託事業者にとって負担が大きくなる場合があります。

こうした環境のなかで、大手事業者による地域の受託事業者の取得、ビルメンテナンス会社や設備保守会社による医療分野への参入、複数の業務をまとめて受託できる体制を目指した統合など、医療関連サービス業界のM&Aは人材と受託先の確保を目的に検討・実行されるケースが見られ、事業承継や経営基盤の強化を目的にM&Aが選択肢として検討される場面があります。

関連する業界の相場については、下記もご参照ください。

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医療関連サービス業界でM&Aを行うのはなぜ?売却の理由を紹介

医療関連サービス業界でM&Aが検討される理由は、主に「事業承継」と「人材不足・委託費の抑制など業界固有の経営課題への対応」の二つが挙げられます。

まず、事業承継の観点では、帝国データバンクの調査によれば、2025年の全国の後継者不在率は50.1%と、なお半数の企業で後継者が決まっていない状況です。中小の医療関連サービス事業者でも、経営者の高齢化が進む一方で、医療機関との信頼関係や、業務の基準を満たす運営のノウハウを引き継げる後継者を確保できず、事業承継が課題となるケースがあるとみられます。

※参考:帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2025年)」

事業承継の選択肢の比較については、下記で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。

事業承継とM&Aの違いとは?3つの承継方法と後悔しない相談先の選び方を解説

次に、業界固有の経営課題への対応という観点では、現場の人材の採用と定着、人件費の上昇と委託費のバランス、設備の更新、基準に適合した運営体制の維持、医療機関からの要求水準の高まりへの対応などに、中小事業者が単独で取り組むには、資金面・人材面で負担が大きくなる場合があります。同業の大手やビルメンテナンス会社の傘下に入ることで、人材の採用力、複数業務の一括受託、設備投資の資金などについて、買い手候補の経営資源を活用できる可能性があります。

また、医療関連サービス業界のM&Aでは、委託先の基準を構成する人的要件が、承継を検討するうえで重要な確認事項となります。たとえば、滅菌消毒の業務では、受託責任者について原則として3年以上の滅菌消毒業務の実務経験が求められています。基準を満たす人材が経営者本人や特定の従業員に限られている場合、その人物が譲渡後も残るかどうかが、受託を続けられるかどうかに影響する可能性があります。

※参考:厚生労働省 医政局地域医療計画課「『医療法の一部を改正する法律の一部の施行について』の一部改正について(令和2年8月5日事務連絡)」

キーパーソンの処遇と承継については、下記もあわせてご覧ください。

M&Aでキーマンの処遇はどうなる?経営者と従業員を守る5つのポイント

患者等給食の受託では、受託者が業務を続けられなくなった場合に給食が滞らないよう、複数の調理加工施設を持つことや、あらかじめ代行業者と代行契約を結ぶことなど、必要な措置を講じておくことが求められています。こうした代行体制の取り決めも、譲渡後に引き継げるかを確認しておく必要があります。

なお、医療関連サービス振興会は、一定の基準を満たす事業者に「医療関連サービスマーク」を交付しています。厚生労働省は、省令で定める基準に適合している者であれば、医療機関がこのマークの交付を受けていない者に委託することも可能としていますが、医療機関が委託先を選ぶ際の判断材料として用いられることもあり、マークの認定状況と承継時の手続きも確認しておきたい事項です。

※参考:厚生労働省「病院、診療所等の業務委託について(平成5年2月15日指第14号)」

医療関連サービス業界での企業売却方法は?3種類を紹介

医療関連サービス業界のM&Aでは、売却対象(会社全体か、特定の業務・拠点か)、基準適合を支える人員と施設、衛生検査所の登録などの許認可、医療機関との受託契約、従業員との雇用関係の扱いによって、適した手法が変わります。

代表的な手法は以下の3つです。

  • 株式譲渡
  • 会社分割
  • 事業譲渡

医療関連サービス事業者のM&Aでは、業務ごとに求められる基準(受託責任者などの人員、施設・設備、業務の実施方法)を譲渡後も満たせるか、検体検査を行う場合の衛生検査所の登録の扱い、医療関連サービスマークの認定の継続、医療機関との受託契約の承継(契約上の承諾や資本関係の変動に関する条項)、患者等給食の代行契約、施設(滅菌センター・洗濯工場・給食センターなど)の権利関係、従業員の雇用の引き継ぎなどが論点となるため、手法選択にあたっては、これらをどのように承継するかを慎重に検討する必要があります。

それぞれの手法について解説します。

株式譲渡とは?中小企業M&Aで最も選ばれる手法の仕組みと特徴

株式譲渡とは、企業の株主が保有する株式を他者に譲渡することで、経営権を移転するM&Aの手法のひとつです。中小企業のM&Aにおいては最も多く活用されており、後継者不在や事業承継を目的としたケースでよく採用されています。

株式譲渡のメリット

株式譲渡において、売却対象となるのはあくまで「株式」であり、会社そのものの法人格や契約関係、資産・負債はそのまま引き継がれます。

そのため、以下のようなメリットがあります。

  • 従業員や取引先との契約を維持したまま、スムーズな引き継ぎが可能
  • 許認可や契約の再取得が原則不要で、実務上の負担が少ない
  • 法人格が継続するため、営業活動を中断せずに承継できる

とくに、現経営者が引退を検討している場合でも、事業を止めることなくバトンタッチできるため、後継者問題の有効な解決策となります。ただし、契約上のチェンジ・オブ・コントロール(COC)条項による相手方同意や、業種許認可の変更届・再許可が必要となる場合があるため、事前確認は不可欠です。

株式譲渡の注意点・デメリット

一方で、株式とともに過去の負債や簿外債務(帳簿に載っていないリスク)も引き継がれるという側面もあるため、買い手企業にとっては慎重な対応が必要です。

そのため、M&Aを進める際には、財務・法務・税務などに関するデューデリジェンス(詳細調査)を丁寧に実施し、リスクを洗い出すことが不可欠です。

会社分割とは?M&Aで活用される組織再編の手法と注意点

会社分割とは、企業が事業の一部を他の会社に移転することで、権利義務を承継させる法的な組織再編手続きです。M&Aにおいては、売却対象の事業を切り出してスムーズに移転させる手段として活用されています。

会社分割の主な種類

会社分割には、以下のような分類があります。

  • 新設分割:新たに設立した会社に事業を承継させる
  • 吸収分割:既存の他社に事業を承継させる

さらに、分割により得る対価の受け取り先によっても分類されます。

  • 分割型分割:対価を分割元会社の株主が受け取る
  • 分社型分割:対価を分割元会社自身が受け取る

会社分割のメリットと特徴

会社分割の最大の特徴は、契約・資産・負債などの権利義務を包括的に移転できる点です。これにより、個別契約ごとの承継手続きを省略でき、事業の引き継ぎが円滑に進められます。

また、分割によって整理された事業をその後に売却することで、M&Aの手続きも効率化されます。

税務上の注意点:適格分割と非適格分割の違い

会社分割には税務上の取り扱いに注意が必要です。「適格分割」であれば譲渡益の課税は繰り延べされますが、採用するスキームによっては「非適格分割」に該当します。

非適格分割では、資産が時価で評価され、譲渡益課税やみなし配当課税の対象となるため、税負担が発生します。

また、会社分割と株式譲渡をセットで行う場合、タイミングによって課税リスクが高まるため、スキーム設計は専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが重要です。

事業譲渡とは?M&Aで活用される承継手法と税務上の注意点

事業譲渡は、企業が事業の一部または全部を、契約に基づいて他社へ売却するM&A手法のひとつです。

譲渡の対象となる資産・負債・契約関係を個別に指定して承継する点が特徴であり、柔軟性が高い一方で、手続きは煩雑になりやすいという側面もあります。

事業譲渡のメリット:簿外債務を回避しやすい

事業譲渡では、契約書に記載されたものだけが承継対象となるため、買い手企業にとっては、不要な債務やリスクを回避しやすくなります。

特に、簿外債務の存在が懸念されるケースでは、株式譲渡ではなく事業譲渡を希望する買い手企業が多い傾向にあります。

売り手側の税務上の扱い:事業譲渡益に課税

事業譲渡によって得た対価のうち、譲渡対象資産・負債の簿価純額との差額は「事業譲渡益」として、売り手側に法人税が課税されます。

また、事業譲渡には以下のような消費税に関する注意点もあります。

課税資産と非課税資産の両方をまとめて譲渡するため、資産ごとの課税・非課税を区分し課税対象資産部分の消費税を計算する必要があり、それぞれの対価を合理的に区分し、課税・非課税の計算を行う必要があります。

事業譲渡のデメリット:承継手続きが煩雑

個別承継であるため、以下のような実務負担が大きい点はデメリットと言えます。

  • すべての契約(従業員との雇用契約含めて)を再締結する必要がある
  • 許認可や届出が一から取得し直しとなる場合がある

医療関連サービス業界の売却の流れは?3つのステップを紹介

医療関連サービス業界のM&Aを進める場合は、大きく3つのステップに分けて進められます。

  1. M&Aの準備と助言会社の選定
  2. 買い手候補先企業との接触、意向表明受領
  3. 詳細調査(DD)、最終契約とクロージング

それぞれの段階で必要となる準備や手続きが異なるため、流れを把握しておきましょう。

Step1.M&Aの準備と助言会社の選定

はじめに、売却目的と希望条件を整理したうえで、M&AアドバイザーやFAなどの助言会社を選定します。

この段階で重要なのは、想定される売却価格だけでなく、どのような買い手候補に、受託先の医療機関との関係、基準を満たす人員と施設、従業員をどのように承継したいのかを明確にしておくことです。

医療関連サービス事業者の場合、買い手候補の評価や取引条件に影響し得る論点として、受託している業務の種類と、業務ごとの基準への適合状況(受託責任者などの人員配置、施設・設備、業務の実施方法、業務案内書や標準作業書の整備)、受託先の医療機関の一覧(病院の規模・開設主体、契約期間と更新の時期、入札か随意契約かの別、売上依存度)、受託契約の内容(契約期間、価格改定の条件、解約・譲渡に関する条項、資本関係の変動に関する条項)、患者等給食を受託している場合の代行体制、衛生検査所の登録などの許認可、医療関連サービスマークの認定状況、施設(滅菌センター・洗濯工場・給食センターなど)の権利関係と設備の状態、従業員の体制(有資格者・受託責任者の人数と後任候補、パートタイム従業員の比率)、事故・感染・クレームの履歴と対応の記録などが挙げられます。

これらを事前に棚卸しし、資料として説明できる状態に整えておくことで、後工程での論点整理や条件交渉を進めやすくなる場合があります。

Step2.買い手候補先企業との接触、意向表明受領

次に、助言会社を通じて買い手候補へ打診を行います。初期段階では概要資料を提示し、関心を示した企業と秘密保持契約を締結したうえで、財務・事業などに関する詳細情報を段階的に開示します。

医療機関との契約上、委託業務に関する情報や患者に関わる情報に秘密保持義務が課されている場合があるため、開示の範囲と方法には特に注意が必要です。

秘密保持契約で定める内容については、下記で解説しています。

秘密保持契約(NDA)とは?重要性や締結メリットを解説

買い手候補からは、譲渡価格のレンジ、取引方法、引き継ぎ条件、売却後の運営方針などをまとめた意向表明書が提出されます。

売り手は、提示金額だけでなく、従業員の処遇、受託先の医療機関へのサービス水準の維持、現場の運営体制の方針なども含めて比較し、基本合意に進むかを判断します。

Step3.詳細調査(DD)、最終契約とクロージング

基本合意後は、買い手候補による詳細調査が行われます。

医療関連サービス事業者では、財務・税務・法務・労務・ビジネス面の確認に加えて、業務ごとの基準への適合状況と、受託責任者などの人的要件を譲渡後も満たせる見込み、受託契約の残存期間と更新の見込み、医療機関の承諾の要否、衛生検査所の登録やサービスマークの承継手続き、感染事故やクレームの履歴、施設・設備の老朽化と更新費用、人件費の上昇を委託費に反映できているかなどが重視されやすい点が特徴です。

デューデリジェンスの流れと売り手側の準備については、下記で解説しています。

M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)とは?目的や流れ、売り手側のポイントを解説

調査結果を踏まえて、譲渡価格、表明保証、補償条項、クロージング条件、医療機関の承諾や基準適合の確認を前提とする条件などを調整し、最終契約を締結します。

その後、対価の決済と引き渡しを行うクロージングをもって、取引が完了します。

M&Aの流れについてより詳しく知りたい方は以下のページをご覧ください。

M&Aのプロセス

医療関連サービス業界の売却の相場は?価値算定方法を解説

医療関連サービス業界のM&Aにおける売却価格は、「〇〇円が相場」と一律に決まるものではありません。

実務では、受託契約の内容と継続性、基準を満たす人員と施設の体制、受託先の分散度合い、収益力、負債、買い手候補の評価方針などを踏まえ、最終的には売り手と買い手候補の交渉によって価格が決まります。

医療関連サービスは、医療機関との契約に基づく継続的な受託収入が中心で、一度受託すると長く続きやすい一方、入札や契約更新のたびに失注のリスクを抱えます。そのため、「受託契約がどれだけ残っていて、更新される見込みがあるか」と「基準を満たす人員を譲渡後も確保できるか」が買い手候補の評価上重視されやすい点が特徴です。同規模の売上であっても、受託先が特定の病院に偏っていないか、随意契約で長期に続いているか、人件費の上昇を委託費に反映できているか、受託責任者を複数名確保しているかによって、買い手候補の評価に差が出る可能性があります。

特定の取引先への依存が売却に与える影響については、下記で解説しています。

主要取引先に依存した会社は売却できる?4つのリスクと売れる3つの条件を解説

特に、複数の医療機関から長期にわたって受託している事業者、基準への適合と品質管理の記録を整えている事業者、自前の滅菌センターや洗濯工場など代替しにくい施設を持つ事業者は、財務数値に加えて、受託基盤、人材の体制、施設などが評価上考慮される場合があります。

こうした理由から、医療関連サービス事業者のM&Aでは、まず企業価値を算定し、そのうえで負債や現金などを考慮しながら、株式価値を算定するのが一般的です。

以下では、その基本的な考え方について解説します。

1.企業価値を算定する

医療関連サービス業界のM&A実務において事業価値の算定には、大きく分けて2つの方法があります。

  • インカムアプローチ
  • マーケットアプローチ

インカムアプローチは、営業資産が生み出す将来キャッシュフローを評価の基礎とする方法です。代表的なディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法では、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を試算します。

理論的に優れた方法ではあるものの、将来キャッシュフローの見積もりや割引率の計算は非常に難易度が高く、経験を積んだ専門家でないと試算が困難で、初見では理解しづらいのが大きな欠点でしょう。

本稿では「価値の概算を簡単に知る」ことを目的にしていますので、インカムアプローチの詳細な説明は割愛します。

マーケットアプローチは、市場における取引価格を参考にして事業価値を算定する方法です。具体的には、以下のような方法が存在します。

  • 類似会社比較法
  • 類似取引比較法

類似会社比較法は、評価する対象の企業の類似会社にあたる上場会社の企業価値と、営業利益や収益力(EBITDA)といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで、事業価値を算出する方法です。

具体的には、以下のように算定します。

EBITDA×業界相場の倍率(EBITDAマルチプル)=企業価値 (EBITDAマルチプル=上場類似会社の企業価値/上場類似会社のEBITDA)

EBITDAは、営業利益に減価償却費を足して算出されるものです。

また、類似会社は、業界が同じ上場企業を選定するのはもちろんのことですが、ビジネスモデルや収益構造、顧客の層などの類似性から選定するパターンもあります。類似会社をどのように選ぶかによって、算定結果は大きく左右されます。

2.株式価値を算定する

企業価値を算出したら、株式価値を算出しましょう。株式価値は、以下のように算出します。

企業価値-有利子負債+現金同等物=株式価値

第三者に譲渡する場合に、どの程度の価値がつくかを把握しておくことは重要なため、理解しておきましょう。

なお、マーケットアプローチには、類似会社比較法のほか、類似するM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法という方法が存在します。

しかし、参照する過去の取引における対象会社が非上場である場合、入手可能な財務数値が限定的であるため、同方法が中小企業のM&Aで利用されることは少ないのが現状です。

M&Aにおける価値の算定については、下記で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。

うちの会社、結局いくらで売れるの?~事業オーナーの疑問に答えるコラム①~

また、自社の具体的な株式価値を知りたい場合には、株価シミュレーターを用意していますので、以下で試算可能です。ぜひご活用ください。

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医療関連サービス業界で企業を売却する3つのメリット

医療関連サービス業界でM&Aを活用するメリットは、経営者個人の利益にとどまりません。

適切な承継は、従業員の雇用や、医療機関の日々の業務の継続につながる可能性があります。

  • 従業員の雇用と専門ノウハウを維持しやすくなる
  • 経営者は売却対価を得られる可能性がある
  • 医療機関の業務を途切れさせずに継続しやすくなる

ここでは、売り手にとって特に重要な3つのメリットを解説します。

従業員の雇用と専門ノウハウを維持しやすくなる

医療関連サービス事業者は、感染対策や衛生管理の基準を守りながら正確に業務をこなす現場の従業員と、基準に沿った運営を管理する受託責任者によって支えられています。

廃業を選択した場合、従業員の雇用の継続が難しくなるほか、医療機関ごとの業務の手順や、感染対策の実務といった専門的なノウハウが失われる可能性があります。

M&Aにより事業が承継されれば、従業員の雇用を維持しながら受託業務を継続しやすくなる場合があります。売り手にとっては、人材や専門ノウハウを次の運営体制へ承継しやすくなる点がメリットです。

受託責任者の要件を満たす人材が限られている場合、当該人材の継続関与の可否は、買い手候補の評価だけでなく、譲渡後に受託を続けられるかどうかにも影響する可能性があります。

経営者は売却対価を得られる可能性がある

M&Aによる売却は、これまで築いてきた医療機関との受託関係、基準を満たす人員と施設、運営ノウハウを含む事業価値を、譲渡対価として回収する手段の一つです。

売却対価を得られた場合、引退後の生活資金、資産承継、次の事業への投資などに活用できる可能性があります。

後継者不在のまま廃業する場合、受託先の医療機関への説明と後任の事業者への引き継ぎの協力、受託契約の解約、施設や設備の処分、従業員との契約整理などが必要になる可能性があります。医療機関の業務に穴を空けないための調整には時間がかかり、契約の内容によっては解約に一定の予告期間が求められる場合もあります。

M&Aでは、買い手候補は一般的には事業の継続性を前提に価値を評価するため、経営者は計画的に出口を設計しやすくなります。

医療機関の業務を途切れさせずに継続しやすくなる

医療関連サービスは、手術や入院といった診療の根幹を支える業務であり、止まれば医療機関の運営に支障が生じるおそれがあります。

突然の廃業は、医療機関にとって代わりの受託事業者の確保、基準適合の確認、引き継ぎ期間中の業務の空白といった大きな負担につながる可能性があります。人材不足が深刻な業界では、代わりの事業者がすぐに見つかるとは限りません。

M&Aによって承継されることで、受託体制を維持しながら医療機関の業務を支え続けやすくなるため、医療機関や患者への影響を抑えながら事業を引き継ぎやすくなる点は、売り手にとってメリットの一つです。

売却と廃業で取引先への影響がどう違うかは、下記で解説しています。

会社売却と廃業の取引先への影響とは?関係を守る3つの配慮と伝え方を解説

医療関連サービス業界で企業を売却する際の3つのポイント

医療関連サービス業界でM&Aを円滑に進めるには、売上規模だけでなく、買い手候補が重視する論点を整理しておく必要があります。

買い手候補は、基準への適合と人的要件の維持、受託契約の継続性、感染事故などのリスク管理の状況を確認する傾向があります。

  • 基準適合・受託契約・人員・施設を棚卸しする
  • 受託責任者と現場運営の属人性を下げる
  • 信頼できるM&Aアドバイザー、弁護士、税理士などの専門家を活用する

ここでは、医療関連サービス事業者の売却を検討する際に、特に重要な3つのポイントを解説します。

基準適合・受託契約・人員・施設を棚卸しする

医療関連サービス事業者の買い手候補による評価は、財務数値に加えて、基準への適合状況、受託契約の内容、人員と施設の体制などに影響を受ける可能性があります。

買い手候補からは、これらが譲渡後も維持・活用できるかを確認されやすい傾向があります。

そのため、売却前に以下の点を棚卸しし、説明できる状態にしておくことが重要です。

  • 受託業務ごとの基準への適合状況(受託責任者などの人員配置、施設・設備、業務の実施方法)と、業務案内書・標準作業書などの整備状況
  • 受託先の医療機関の一覧(規模、開設主体、売上依存度)と、受託契約の内容(契約期間・更新時期、入札か随意契約かの別、価格改定・解約・譲渡に関する条項)
  • 衛生検査所の登録などの許認可、医療関連サービスマークの認定状況と更新時期
  • 受託責任者・有資格者の人数・年齢構成と後任候補、従業員の体制と採用・定着の状況
  • 施設(滅菌センター・洗濯工場・給食センターなど)の権利関係と設備の状態・更新計画、患者等給食の代行体制
  • 感染事故・異物混入・クレームの履歴と再発防止策、損害賠償責任保険の加入状況

これらの整理が不十分だと、DDを経て価格見直し、追加条件の設定、交渉停止などにつながる可能性があります。

受託責任者と現場運営の属人性を下げる

医療関連サービス事業者で買い手候補の評価に影響しやすい要因の一つが、経営者や特定の従業員への過度な依存です。

経営者本人が受託責任者を兼ね、医療機関との調整や現場の指揮まで担っている場合、買い手候補から、経営者が退いた時点で基準を満たせなくなるおそれのある事業と判断される可能性があります。

属人性による懸念を抑えるためには、以下のような取り組みが重要です。

  • 受託責任者の要件を満たす人材の複数名確保と、後任候補の計画的な育成
  • 業務ごとの標準作業書・マニュアルの整備と、従業員への教育の記録
  • 医療機関との窓口の複線化と、契約や協議の経緯の組織的な管理
  • 品質管理・感染対策の記録の体系的な保存

属人性を下げることで、経営者が交代しても基準と品質を維持しやすい体制として評価される可能性があります。また、買い手候補が検討しやすくなる場合もあります。

売却前の準備全般については、下記で詳しく解説しています。

M&Aの磨き上げとは?売却価格を高める5つの領域と進め方を解説

信頼できるM&Aアドバイザー、弁護士、税理士などの専門家を活用する

医療関連サービス事業者のM&Aでは、業務ごとの基準適合の確認、受託責任者などの人的要件の承継、医療機関との受託契約の承継、衛生検査所の登録やサービスマークの扱いなど、業種特有の論点が生じる場合があります。

準備やスキーム設計が不十分なまま進めると、譲渡条件の見直し、クロージング条件の追加、売却後の紛争などにつながる可能性があります。

そのため、以下のような専門家の支援を受けることが重要です。

  • 売り手側の立場で支援するFA・M&Aアドバイザー
  • 税務は税理士、契約・責任分担は弁護士、会計・財務DDは公認会計士、労務は社会保険労務士、許認可の手続きは行政書士などの専門家

売り手側のFAを活用することで、価格交渉や条件調整において、売り手の意向を踏まえた交渉方針を整理しやすくなります。

感情に左右された場当たり的な判断を避けるという観点でも、第三者による専門的な視点を取り入れることが望ましいです。

医療関連サービス業界での企業売却にかかる税金とは?

企業を売却する際には、売却益に対して税金が発生します。この税金の仕組みは、「個人オーナーが売却する場合」と「法人が株式を譲渡する場合」で異なるため、正しく理解しておくことが重要です。個人・法人別にわかりやすく解説します。

会社売却にかかる税金の計算や手取りを増やす対策については、下記で詳しく解説しています。

会社売却後にかかる税金は?計算方法や確定申告、税引後手取りを増やす対策を解説

個人オーナーの場合

個人が自社株などの株式を譲渡し、譲渡益(売却益)が発生した場合、その利益は「譲渡所得」として扱われます。

課税の仕組み

譲渡所得 = 売却価格 -(取得費 + 譲渡費用)

この譲渡所得には、以下の税が課せられます。

  • 所得税(復興特別所得税含む)
  • 住民税

給与所得などとは分離して課税されるため、所得の合算は不要ですが、確定申告が必要です。

ただし、ミニマムタックスに該当する場合は給与所得等の他の所得と合算して算出する必要があるため、適切に節税するためには、事前に税理士など専門家への相談が欠かせません。

法人の場合

法人が保有する株式を譲渡した場合、その売却益は法人の「益金(収益)」として扱われ、他の事業収益と合算されて法人税等が課税されます。

法人の場合の税務処理

  • 譲渡益は法人所得として計上され、通常の法人税率で課税
  • 譲渡損失が出た場合、他の所得と損益通算が可能
  • 所得と損失の調整により、柔軟な節税が可能

評価差額にも注意

帳簿価額と時価の差(含み益)がある場合、譲渡時に課税対象となる可能性があります。

まとめ

医療関連サービス業界は、医療機関の日々の運営を裏側から支える重要な事業領域である一方で、現場の人材の不足と人件費の上昇、委託費の抑制、受託に求められる基準と体制の維持、入札や契約更新による受託の不安定さ、経営者の高齢化と後継者不足など、複数の経営課題を抱えています。

医療関連サービスの多くは「許可」ではなく「基準への適合」を前提に成り立つ事業であり、その基準を支えるのは受託責任者をはじめとする人材です。経営者自身がその役割を担っている場合、準備が遅れると受託の継続に影響する可能性があります。そのため、中小の医療関連サービス事業者にとって、M&Aは事業継続や従業員・医療機関への影響を踏まえた選択肢の一つになり得ます。

売却を円滑に進めるためには、基準適合・受託契約・人員・施設の棚卸しに加えて、受託責任者の複数名体制の確保や標準作業書の整備を含めた準備を、M&Aアドバイザー、弁護士、税理士、社会保険労務士などの専門家に確認しながら早期に進めることが望ましいです。

RISONALでは、売り手に特化したFAサービスを提供しています。専属のエージェントがお客様の希望に沿った取引を実現するため、最適なサポートを行います。より高い評価額での売却を目指したアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を抑えた成約も可能です。

医療関連サービス業界のM&Aでは、買い手目線で条件調整が進みやすい仲介型の支援の場合、価格や引き継ぎ条件が売り手に不利になるケースもあります。そのため、誰の利益を最優先に交渉するのかを明確にした支援体制が重要です。

また、売却前に押さえておきたい注意点を、資料でも確認できます。

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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