サンドバッギング条項とは?売り手が交渉で確認したい5つのポイントを解説
公開日:2026.11.04
2026.11.04
更新日:2026.11.04
2026.11.04
サンドバッギング条項は、契約の相手方が契約前に知っていた事項について、表明保証違反の対象に含めるか否かを定める条項です。プロとアンチの違い、定めがない場合の裁判例、売り手が負うリスクと交渉で確認したい5つのポイントを解説します。なお、契約書上は両当事者について定めることが一般的ですが、ここではわかりやすく売り手の視点で解説します。

デューデリジェンス等を通じて伝えた事項なのに、売却後に表明保証違反として補償を求められた。株式譲渡契約書の中の一つの条項が、こうした事態を招くことがあります。サンドバッギング条項は、買い手が契約前に知っていた事項についても表明保証違反の対象とし、違反があれば売却後に補償を求められるかどうかを決める条項です。条文の見出しだけでは気づきにくい定めでもあります。
本記事では、プロとアンチの違いと、定めがない場合の裁判例の考え方を取り上げます。あわせて、問題になりやすい場面と売り手が負うリスク、交渉で確認したい5つのポイントを解説します。
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サンドバッギング条項とは
サンドバッギング条項とは、買い手が契約前に知っていた事項についても表明保証違反の対象とするか、すなわち違反があれば売却後に補償を求められるかどうかを定める条項です。表明保証とは、会社の財務や法令遵守などについて、一定の事項が真実であると当事者が表明し保証する条項を指します。
デューデリジェンス(DD)等を通じて事前に問題を把握しながら、価格をはじめとする諸条件には反映させずに契約を結び、損害が出た時点で補償を求める。買い手のこうした行動を認めるかどうかが、サンドバッギング条項で決まります。
中小企業庁が示した株式譲渡契約書サンプルは、本文にはサンドバッギング条項を設けていません。あわせて注記の中で、買い手の認識に応じて売り手の免責を認める条項と、認めない条項の2つの規定例を示しています。
中小M&Aガイドライン(参考資料7)各種契約書等サンプル(2025年12月15日時点版)|中小企業庁
契約書の案を受け取ったら、表明保証や補償の章に、買い手の認識に触れた条文があるかを確認します。
表明保証条項の基本や、M&Aで交わす契約書の種類と主な条項は、下記で解説しています。
仲介会社から提案を受けた際に確認したい点は、弁護士監修のガイドにまとめています。無料でダウンロードできます。
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プロ・サンドバッギング条項とアンチ・サンドバッギング条項の違い
サンドバッギング条項には、買い手の認識が補償に影響しない「プロ・サンドバッギング条項」と、影響する「アンチ・サンドバッギング条項」があります。
| 項目 | プロ・サンドバッギング条項 | アンチ・サンドバッギング条項 |
|---|---|---|
| 買い手が違反を知っていた場合 | 売り手は責任を免れない | 売り手は責任を免れる |
| 有利になる当事者 | 買い手 | 売り手 |
| 中小企業庁サンプルの規定例 | 買い手が違反を知り、又は知り得た場合でも、売り手の責任に影響しない | 買い手が認識し、又は認識し得た事実や、DDで提供を受けた情報に含まれる事実は違反とならない |
中小企業庁のサンプルは、買い手の立場からはプロ・サンドバッギング条項を希望することが多いと思われるとしています。一方で売り手にとっては、DDに協力して積極的に情報を開示しても、リスクが現実化すれば責任を免れられない帰結になると指摘しています。
自社の契約書案がどちらに当たるか、または定めがないかを確認します。
条項の定めがない場合は裁判例の考え方が参考になる
契約にサンドバッギング条項の定めがない場合、買い手が知っていた違反について補償を求められるかは、契約の解釈に委ねられます。
東京地方裁判所の平成18年1月17日判決は、株式譲渡の事案で、買い手が表明保証違反を知っていた場合や、重大な過失によって知らなかった場合に、売り手が責任を免れる余地があることに言及しました。平成27年9月2日の東京地裁判決も、一般的・抽象的な表明保証の違反について、買い手が善意無重過失であることが売り手の責任の要件となると解する余地を示しています。
※参考:東京地判平成18年1月17日(判例時報1920号136頁)、東京地判平成27年9月2日
もっとも、こうした考え方には議論があり、結論は事案ごとの事情によって変わります。定めがないことを売り手に有利な状態と考えず、アンチ・サンドバッギング条項を明記するよう求めます。
表明保証の「知る限り」などの文言で注意したい点は、下記で解説しています。
表明保証で「売り手の知りうる限り…」はNG 事業売却を不利にする「最終契約書の要注意ワード」
プロ・サンドバッギング条項が問題になりやすい3つの場面
中小企業庁のサンプルは、プロ・サンドバッギング条項が売り手に不利に働く具体例を挙げています。問題になりやすい場面は以下の3つです。
- 許認可の不足をDDで伝えていた場合
- 未払残業代のリスクを面談で伝えていた場合
- 計算書類の誤りを開示資料で示していた場合
それぞれを順に解説します。
許認可の不足をDDで伝えていた場合
許認可の不足をDDで伝えていても、プロ・サンドバッギング条項があれば売り手は責任を免れません。 中小企業庁のサンプルは、事業の一部に必要な許認可を取得しておらず、クロージング後に行政処分が下されて事業停止に陥った場合を例に挙げています。
DDで開示した資料や面談から買い手がリスクを認識していたとしても、売り手は免責されないとしています。
許認可は事業の継続に影響するため、損害額が大きくなる場合がある論点です。許認可の不足を把握している場合は、表明保証の除外事項として契約書に明記し、譲渡価格への反映を交渉します。
未払残業代のリスクを面談で伝えていた場合
未払残業代のリスクを面談で伝えていた場合も、同じ構図になります。 中小企業庁のサンプルは、未払残業代が存在するリスクがあり、クロージング後に従業員から請求を受けた場合を例に挙げています。
同サンプルは、中小M&AではDDの期間が限られ、開示される客観的な資料も不十分なことが少なくないとしています。口頭のやり取りでは、売り手が伝えたつもりでも、買い手候補に正確に伝わっていない場合もあると指摘しています。
面談で伝えた内容は、議事録やメールで記録に残します。
計算書類の誤りを開示資料で示していた場合
計算書類の誤りを開示資料で示していた場合も、条項の書き方しだいで責任が残ります。 中小企業庁のサンプルは、中小企業の場合、計算書類に誤りが含まれていることは多いとしています。
同サンプルは、事実と異なるところがあれば、表明保証の対象から除外する事項を契約書の中に別途明記する必要があるとしています。内容を理解せずに事実に反することを表明保証すれば、後に損害賠償等のトラブルになる可能性があると注意を促しています。
開示資料で示した誤りは、除外事項として条文に書き出します。
DDで売り手が準備しておきたい対応は、下記で解説しています。
事業売却で失敗しないための「デュー・デリジェンス(DD)」への対応
プロ・サンドバッギング条項で売り手が負う3つのリスク
プロ・サンドバッギング条項は、売却後の売り手の負担に影響します。売り手が負うリスクは以下の3つです。
- 条項の意味を理解しないまま署名すると売却後に争いになりやすい
- 補償の上限や期間が広いと売却後の負担が長く続く
- 補償の請求期間中は手取り額が確定しにくい
それぞれを順に解説します。
条項の意味を理解しないまま署名すると売却後に争いになりやすい
条項の意味を理解しないまま署名すると、売却後に争いになりやすくなります。 中小企業庁のサンプルは、プロ・サンドバッギング条項の意味内容を売り手が正しく理解していなければ、帰結に納得できず事後に紛争化しやすいとしています。
同サンプルは別紙の注記で、契約書のレビューのやり取りの中で、売り手が知らないうちに過剰な範囲で表明保証を行い、事後に紛争となる例もあるとしています。
署名前に、条文の意味を自分の言葉で説明できるかを確かめます。
補償の上限や期間が広いと売却後の負担が長く続く
補償の上限や期間が広いほど、売却後の負担は長く続きます。 プロ・サンドバッギング条項のもとでは買い手が知っていたリスクも補償の対象になるため、上限と期間が負担の大きさを決めます。
中小企業庁のサンプルは、補償の総額の上限について、譲渡価格の全額に近い上限が設定される場合には妥当性を慎重に吟味する必要があるとしています。
提示された上限と期間を、譲渡価格に対する割合と年数で書き出します。
補償の請求期間中は手取り額が確定しにくい
補償の請求期間が続く間は、手取り額が確定しにくくなります。 期間中に請求を受ければ、受け取った対価から補償を支払う可能性が残るためです。
プロ・サンドバッギング条項があれば、DDで開示した問題も請求の対象に含まれます。売り手が把握している問題が多いほど、手取りの不確実性は大きくなります。
請求期間が終わるまでは、受け取った対価の一部を手元に残しておく資金計画を立てます。
サンドバッギング条項で売り手が交渉時に確認したい5つのポイント
交渉の段階で、条項の扱いを具体的に決めます。確認したいポイントは以下の5つです。
- プロ・サンドバッギング条項は削除か修文を求める
- 買い手が認識したリスクは特別補償で切り分けるか譲渡価格で調整する
- 開示した事実は開示資料と書面で記録に残す
- 補償の上限と請求期間を契約で定める
- 売り手専属のFAと弁護士に条文を確認してもらう
それぞれを順に解説します。
プロ・サンドバッギング条項は削除か修文を求める
プロ・サンドバッギング条項が入っていれば、削除か修文を求めます。 中小企業庁のサンプルは、売り手として、当該条項が規定されている場合には意味内容をよく吟味の上で、削除や修文を求めることを検討する必要があるとしています。
修文の方向性は次のとおりです。
- アンチ・サンドバッギング条項に置き換える
- DD等で提供した情報に含まれる事実を補償の対象から除く
- 買い手が実際に認識していた事実に限って除外する
一方で同サンプルは、プロ・サンドバッギング条項自体に合理性がないわけではないとも述べています。修文の案と理由を、弁護士などの専門家と検討してから提示します。
買い手が認識したリスクは特別補償で切り分けるか譲渡価格で調整する
買い手が認識したリスクは、特別補償で切り分けるか譲渡価格で調整します。 中小企業庁のサンプルは、買い手が特に認識したリスクについて、特別補償という形で別途規定することもありえるとしています。
特別補償とは、特定のリスクについて、表明保証とは別に補償の範囲や金額を定める条項です。買い手側からすれば、DD等を通じて認識していたリスクについて、それが買収後に顕在化した場合にも補償を請求できない条件は受け入れにくい一方、売り手側にとっても、将来顕在化するか譲渡時点ではわからない損害を譲渡価格に反映することは受け入れにくいことが想定されます。そこで特別補償では、譲渡時に買い手が認識していた特定の事項について、譲渡後に顕在化した場合の補償請求を認めつつ、金額の上限や期間を定めます。
他方、特別補償で定めず、譲渡価格に反映して調整する方法もありますが、上記のとおり売り手側にとっては、顕在化するかわからない損害を予め譲渡価格に織り込むことになり、受け入れにくい方法ともいえます。
開示した事実は開示資料と書面で記録に残す
開示した事実は、開示資料と書面で記録に残します。 アンチ・サンドバッギング条項を入れても、何を開示したかを示せなければ免責を主張できません。
中小企業庁のサンプルは、口頭のやり取りでは、売り手が伝えたつもりでも買い手候補にニュアンスが正確に伝わっていない場合があるとしています。
記録に残す方法は次のとおりです。
- 開示資料に番号を付け、開示日を記録する
- 面談で伝えた内容を議事録にし、買い手候補の確認を得る
- 重要な問題は表明保証の除外事項として別紙に列挙する
DDの資料一覧を、契約書の別紙として添付するよう求めます。
補償の上限と請求期間を契約で定める
補償の上限と請求期間を、契約で定めます。 定めがなければ、売却後の負担がどこまで続くかが読めません。
中小企業庁のサンプルは、補償の請求期間について、クロージング日から数えて1回目から数回目の決算日に1か月程度を加えた時期を目安とする考え方を示しています。少額の損害を補償の対象から除く定めも例示しています。
交渉で定める内容は次のとおりです。
- 補償の総額の上限
- 請求できる期間
- 少額の損害を除外する基準額
上限と期間は、プロとアンチの交渉と合わせて一体で決めます。
売り手専属のFAと弁護士に条文を確認してもらう
売り手専属のFAと弁護士に、条文を確認してもらいます。 サンドバッギング条項は補償の章に一文で置かれる場合があり、見落としやすい定めです。
中小企業庁のサンプルは、売り手自身でも内容を確認の上、必要に応じて弁護士等の専門家のレビューを受け、どのような場合に補償責任を負うのかを正しく認識することが望ましいとしています。
弁護士は条文の意味とリスクを確認し、売り手専属のFAは修文の要求をどこまで通すかを交渉で判断します。契約書の案を受け取った時点で、両者に同時に共有します。
売り手側FAの役割や、仲介会社との立場の違いは、下記で解説しています。
M&AにおけるセルサイドFAとは?業務内容や仲介との違いも解説
M&A仲介とFAの違いとは?向いているケースや役割、失敗しない選び方も解説
サンドバッギング条項に関するよくある質問
サンドバッギング条項について、相談の現場で多く寄せられる質問を3つ取り上げます。「知る限り」の限定との違い、売り手に落ち度がない場合の扱い、表明保証保険との関係の3点です。
「知る限り」の限定とサンドバッギング条項は何が違いますか?
基準にする人の認識が異なります。「知る限り」の限定は、売り手の認識を基準に表明保証の範囲を絞る定めです。中小企業庁のサンプルは、「知る限り」よりも「知り得る限り」のほうが広い概念で、保証の範囲が広がるとしています。サンドバッギング条項は、主に買い手の認識が補償に影響するかを定めます。
売り手に落ち度がなくても補償を求められますか?
求められる場合があります。表明保証の補償は、保証した内容が事実と異なっていたことを理由に生じる設計が多く、売り手の故意や過失を要件としない例が多く見られます。表明保証に「知る限り」の限定を付けるか、除外事項を明記して備えます。
表明保証保険を使えば買い手が知っていた問題も補償されますか?
補償の対象外とされることが多いです。表明保証保険では、買い手が契約前に知っていた違反を補償の対象から除く設計が多く見られます。保険は未知の違反に備えるもので、既知の問題は特別補償や譲渡価格で扱う必要があります。約款の免責事由を確認します。
表明保証保険の補償内容や注意点は、下記で解説しています。
表明保証保険とは?補償内容や保険料、注意点を売り手目線で解説
まとめ
サンドバッギング条項は、買い手が契約前に知っていた事項について、表明保証違反の対象に含めるかを決める条項です。プロ・サンドバッギング条項が入っていれば、DDで開示した問題でも売り手は責任を免れません。
要点は以下のとおりです。
- プロは買い手に、アンチは売り手に有利に働く
- 定めがない場合の裁判例の考え方には議論があり、明記を求めることが望ましい
- 許認可の不足や未払残業代は、開示していても補償の対象になりうる
- 買い手が認識したリスクは、特別補償で切り分けるか譲渡価格で調整する
- 開示した事実を記録に残し、補償の上限と請求期間を定める
条文の見出しだけでは気づきにくい定めです。契約書の案を受け取ったら、表明保証と補償の章を売り手専属のFAと弁護士に確認してもらってください。
最終契約の前に確認したい契約書の項目は、弁護士監修のチェックリストにまとめています。
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