M&A仲介の提示価格の妥当性は?売り手が確かめたい5つの視点を解説

2026.10.27

公開日:2026.10.27

2026.10.27

2026.10.27

更新日:2026.10.27

2026.10.27

M&A仲介の提示価格の妥当性は?売り手が確かめたい5つの視点を解説

M&A仲介が示す価格は、確定した評価額ではありません。算定に使われる手法、実態とずれやすい3つの理由、妥当性を確かめる5つの視点、納得できないときの対応を、中小M&Aガイドラインと公的な集計をもとに売り手視点で解説します。

仲介会社から「御社なら数億円で売れます」と言われた。期待以上の金額だが、根拠はよく分からない。M&A仲介が初期に示す価格は、確定した評価額ではなく、交渉の出発点となる目安です。中小M&Aガイドラインは、売り手と買い手の双方と契約する仲介会社は、確定的な評価を行うべきではないとしています。

本記事では、提示価格の位置づけと算定に使われる手法を整理したうえで、実態とずれやすい理由を解説します。あわせて、妥当性を確かめる5つの視点と、納得できないときの対応を示します。

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M&A仲介が提示する価格は確定した評価額ではない

M&A仲介が提示する価格は、売却価格を約束するものではありません。中小M&Aガイドラインは、バリュエーションには一方当事者の意向が反映されやすいため、売り手と買い手の双方を依頼者とする仲介会社は、確定的なバリュエーションを実施すべきではないとしています。

中小M&Aガイドライン|中小企業庁

同ガイドラインは、仲介会社が参考資料として簡易に算定した概算額を示す場合、次の点を明示すべきだとしています。確定的な評価ではなく簡易な算定であること、一方当事者の意向を考慮した場合はその内容、そして士業等専門家に意見を求めることができることです。

また、算出された金額が直ちに譲渡額になるわけではなく、当事者同士が最終的に合意した金額が譲渡額になるとしています。

提示を受けたら、確定的な評価か簡易な算定か、どの資料をもとにしたかを書面で確認します。

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M&A仲介の提示価格の算定に使われる手法

提示額の妥当性は、使われた手法によって確かめ方が変わります。中小M&Aで用いられる主な手法は次のとおりです。

手法考え方確認したい点
簿価純資産法決算書の純資産を基にする資産の含み損益が反映されない
時価純資産法資産と負債を時価に置き換えた純資産を基にする時価の根拠
純資産に数年分の利益を加える方法純資産に任意の利益の数年分を加える何年分か、どの利益か
類似会社比較法(マルチプル法)類似する会社の倍率を当てはめる比較対象と倍率の根拠
DCF法将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く事業計画の前提

中小M&Aガイドラインは、中小M&Aでは簿価純資産法、時価純資産法、類似会社比較法で算定した価値を基に譲渡額を交渉するケースが多いとしています。純資産法で算出した金額に数年分の任意の利益を加算する場合もあるとしています。

M&A支援機関登録制度では、登録された仲介会社・FAから報告された成約実績が集計され、公表されています。

統計レポート(譲渡価格)|M&A支援機関登録制度

提示額に使われた手法を特定し、表の確認点を順に照らします。

算定手法ごとの違いは、下記で詳しく解説しています。

DCF法と時価純資産法の違いとは?5つの比較軸と実務の年倍法・マルチプル法を解説

年買法とは?M&Aでの計算方法と注意点を売り手目線で解説

M&A仲介の提示価格が実態とずれやすい3つの理由

提示額と実際の成約価格には、差が生じることがあります。差の原因を知れば、提示額をどこまで信頼できるかが判断できます。ずれやすい理由は以下の3つです。

  • 提示時点の資料が限られている
  • 受任前の提示額が高めに示される場合がある
  • 仲介会社は売り手と買い手の双方から報酬を受け取る

それぞれを順に解説します。

提示時点の資料が限られている

提示価格がずれやすい第一の理由は、提示時点の資料が限られていることです。 受任前や初期の段階では、決算書の数期分と経営者への聞き取りが中心になります。

価格に影響する次のような事項は、初期の段階ではまだ見えていません。

  • 未払残業代や簿外債務の有無
  • 主要取引先への依存度
  • 設備の老朽化や更新の必要性

買い手候補のデューデリジェンスで上記の事項が判明すれば、価格は見直されます。提示額が、どの資料と前提に基づいているかを確認します。

受任前の提示額が高めに示される場合がある

第二の理由は、受任前の提示額が高めに示される場合があることです。 依頼を獲得する段階で高い金額を示せば、売り手の関心を引きやすい構造があるためです。

中小企業庁が公表した資料には、仲介会社が提示した資料から譲渡価額が試算され、試算額に基づいて中間金が支払われたものの、後の算定額が当初の試算を下回っても中間金が返還されなかった、という情報提供の事例が挙げられています。

※参考:中小企業庁「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(2026年3月17日)

提示額の高さだけで依頼先を選ばず、算定の根拠を確認・比較することが大切です。

仲介会社は売り手と買い手の双方から報酬を受け取る

第三の理由は、仲介会社が売り手と買い手の双方から報酬を受け取る立場にあることです。 中小M&Aガイドラインは、譲渡価格が高いほど売り手に、低いほど買い手に望ましいため、仲介会社には構造的に利益相反のリスクがあるとしています。

同ガイドラインは、リピーターになりうる買い手の利益を優先する動機がある一方、譲渡額に連動して手数料が増える場合は売り手の利益を優先する動機もあると指摘しています。あわせて、仲介という業態を不適切と断ずることは現実的ではないとしています。

仲介会社がどちらから、いくら報酬を受け取るのかを契約前に確認します。

仲介とFAの違いと利益相反の構造は、下記で解説しています。

M&A仲介とFAの違いとは?向いているケースや役割、失敗しない選び方も解説

M&A仲介の提示価格の妥当性を確かめる5つの視点

提示額は、項目を分けて点検します。確かめたい視点は以下の5つです。

  • 算定に使った手法と前提を書面で確認する
  • 純資産に何年分の利益を加算したかを確認する
  • EBITDAと倍率の根拠を公的な集計と比べる
  • 簿外の資産や負債の扱いを確認する
  • 手数料と税金を差し引いた手取り額で確かめる

それぞれを順に解説します。

算定に使った手法と前提を書面で確認する

最初の視点は、算定に使った手法と前提を書面で確認することです。 中小M&Aガイドラインは、仲介会社・FAがバリュエーションを行う際、評価の手法や前提条件を事前に説明し、当該手法や価格帯が唯一のものではないことを明示すべきだとしています。

確認する内容は次のとおりです。

  • 使った算定手法と、選んだ理由
  • 基にした決算期と資料
  • 調整を加えた項目と金額

口頭の説明だけでは、後から比べられません。算定の過程を書面で受け取ります。

純資産に何年分の利益を加算したかを確認する

二つ目の視点は、純資産に数年分の利益を加算する手法を利用している場合は、何年分の利益を加算したかを確認することです。 中小M&Aでは、慣習的に、純資産に数年分の利益を加える方法が用いられることがあります。

加算する年数と利益の種類によって、金額は大きく変わります。確認する内容は次のとおりです。

  • 加算した年数
  • 使った利益の種類(営業利益、経常利益、税引後利益)
  • 一時的な利益や役員報酬の調整を加えたか

加算年数が多いほど提示額は上がります。年数の根拠を説明してもらい、同業種での考え方と比べます。

EBITDAと倍率の根拠を公的な集計と比べる

三つ目の視点は、EBITDAと倍率の根拠を公的な集計と比べることです。 EBITDAとは営業利益に減価償却費を加えた利益の指標で、企業価値をEBITDAの何倍とみるかで価格を算定する方法があります。

中小企業庁は、M&A支援機関登録制度に報告された中小M&Aの取引データを基に、業種と財務情報から株式価値の参考値を算出するツールの整備を進めています。参考値は、倍率の分析結果の第一四分位から第三四分位の幅で示されるとされています。

提示額に使われた倍率が、公的な集計の幅のどこに位置するかを確かめます。

EBITDA倍率の考え方は、下記で解説しています。

EV/EBITDA倍率とは?計算方法や目安、業種別の平均を売り手目線で解説

簿外の資産や負債の扱いを確認する

四つ目の視点は、簿外の資産や負債の扱いを確認することです。 決算書に載っていない項目は、提示額に反映されていない場合があります。

確認する項目は次のとおりです。

  • 退職給付の未計上額
  • リース債務や保証債務
  • 保険積立金や遊休不動産などの非事業用資産

中小企業庁が整備を進める株式価値の計算ツールでも、詳細な計算では非事業用資産や、退職給付の未計上額・リース債務などの負債類似項目を入力する設計とされています。簿外の項目を一覧にし、提示額での扱いを確認します。

簿外債務の種類と確認方法は、下記で詳しく解説しています。

M&Aにおける簿外債務の対策とは?種類やリスク、売り手側の確認ポイントを解説

手数料と税金を差し引いた手取り額で確かめる

五つ目の視点は、手数料と税金を差し引いた手取り額で確かめることです。 売り手にとって意味があるのは、譲渡価格より手元に残る金額です。

差し引く主な項目は次のとおりです。

  • 成功報酬と最低手数料
  • 着手金、中間金、月額報酬
  • 株式の譲渡益にかかる税金

中小企業庁の資料では、移動総資産を基準とする方式を採る支援機関の案件は、譲渡価格が同程度でも、他の方式を採る支援機関の案件に比べて、手数料が高い傾向にあるとされています。提示額と手数料体系を並べ、手取り額を試算します。

手数料と税金については、下記もあわせてご覧ください。

M&AにおけるFAの手数料とは?M&A仲介会社との違いや失敗しない選び方を解説

会社売却後にかかる税金は?計算方法や確定申告、税引後手取りを増やす対策を解説

M&A仲介の提示価格に納得できないときの3つの対応

根拠に納得できなければ、判断材料を補います。提示額を受け入れるかどうかは、補った材料で決めます。取りうる対応は以下の3つです。

  • 算定の根拠と資料の開示を求める
  • 公認会計士や事業承継・引継ぎ支援センターに意見を求める
  • 売り手専属のFAに相談して複数の買い手候補で比べる

それぞれを順に解説します。

算定の根拠と資料の開示を求める

最初の対応は、算定の根拠と資料の開示を求めることです。 根拠が示されなければ、提示額が高すぎるのか低すぎるのかも判断できません。

求める内容は次のとおりです。

  • 算定手法と前提条件
  • 基にした財務数値と調整の内容
  • 比較に使った会社や取引の情報

中小M&Aガイドラインは、簡易な算定を示す場合、簡易な算定である旨や考慮した一方当事者の意向を明示すべきだとしています。開示に応じない場合は、提示額を判断の材料から外します。

公認会計士や事業承継・引継ぎ支援センターに意見を求める

二つ目の対応は、第三者の専門家に意見を求めることです。 中小M&Aガイドラインは、仲介会社が依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える必要があるとしています。

相談先ごとの役割は次のとおりです。

  • 公認会計士:算定手法と前提の妥当性
  • 税理士:手取り額と税負担
  • 事業承継・引継ぎ支援センター:公的な立場からのセカンドオピニオン

同ガイドラインは、事業承継・引継ぎ支援センターで他の仲介会社・FAの助言についてセカンド・オピニオンを求められるとしています。提示を受けた書面を持参して相談します。

売り手専属のFAに相談して複数の買い手候補で比べる

三つ目の対応は、売り手専属のFAに相談し、複数の買い手候補で比べることです。 1社の提示額だけでは、市場でつく価格かどうかは分かりません。

実際の価格は、買い手候補が示す条件で決まります。複数の候補から条件を引き出せれば、提示額の妥当性を実勢で確かめられます。

売り手のみと契約するFAは、売り手側の条件の実現に専念できる立場にあります。候補先の探し方と比較の方法を、相談の段階で確認します。

売り手専属のFAの役割と、売却価格の決まり方は、下記で解説しています。

M&AにおけるセルサイドFAとは?業務内容や仲介との違いも解説

会社の売却価格はどう決まる?決まり方の流れや価格を高める方法を売り手目線で解説

M&A仲介の提示価格に関するよくある質問

M&A仲介の提示価格について、相談の現場で多く寄せられる質問を3つ取り上げます。希望価格を先に伝えてよいか、買い手の価格が低い理由、仲介手数料の水準の3点です。

仲介会社に希望価格を先に伝えてもよいですか?

伝えて構いませんが、根拠とあわせて伝えます。中小M&Aガイドラインは、譲り渡し側の希望条件を明確化し、可能な限り優先順位を付しておくことが望ましいとしています。希望額は譲れない下限として整理し、提示額は算定の根拠を確認してから比べます。

買い手候補から示された価格が仲介会社の提示額より低いのはなぜですか?

評価の前提が異なるためです。買い手候補は自社の資金計画や統合の費用、デューデリジェンスで判明したリスクを踏まえて価格を示します。仲介会社の提示額が初期の資料だけで簡易に算定されたものであれば、差が生じやすくなります。差の内訳を項目ごとに説明してもらいます。

M&A仲介の手数料はどのくらいかかりますか?

手数料体系と案件規模によって異なります。中小企業庁の資料(M&A支援機関登録制度の集計)では、譲渡側の純資産(時価)規模別に見た手数料率の中央値は、500万円超1,000万円以下で30.0%、5億円超で4.3%でした。規模が小さいほど最低手数料が適用され、手数料率は高くなる傾向にあるとされています。

まとめ

M&A仲介が提示する価格は、確定した評価額ではなく交渉の出発点です。中小M&Aガイドラインも、双方と契約する仲介会社は確定的な評価を行うべきではないとしています。

要点は以下のとおりです。

  • 提示額は、算定手法と前提を書面で確認してから判断する
  • 純資産に加えた利益の年数と、倍率の根拠を確かめる
  • 簿外の資産・負債の扱いと、手数料・税金を差し引いた手取り額で比べる
  • 納得できなければ、公認会計士や事業承継・引継ぎ支援センターに意見を求める
  • 最終的な価格は、複数の買い手候補との交渉で決まる

提示額の高さで依頼先を選ぶと、後から見直される可能性があります。根拠と手取りで比べ、信頼できる会社かどうか、売り手側の立場で判断してください。

売却前に押さえておきたい注意点は、資料でも確認できます。

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株価算定シミュレーター

この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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