実態貸借対照表とは?作り方と修正されやすい5つの科目を売り手目線で解説

2026.10.27

公開日:2026.10.27

2026.10.27

2026.10.27

更新日:2026.10.27

2026.10.27

実態貸借対照表とは?作り方と修正されやすい5つの科目を売り手目線で解説

実態貸借対照表は、決算書の貸借対照表を、資産と負債の実際の価値に置き換えて作り直したものです。使われる3つの場面、作る手順、修正されやすい5つの科目、売り手が売却前に作る利点と注意点を、国税庁の通達などをもとに解説します。

決算書では資産が負債を上回っているのに、買い手候補からは「実態は債務超過です」と言われた。売却や事業の立て直しを考え始めると、帳簿の数字と実際の会社の価値の差に直面します。実態貸借対照表は、決算書の貸借対照表を、資産と負債の実際の価値に置き換えて作り直したものです。会社の本当の財務の状態を示すため、M&Aの価格や事業再生の手続きに影響します。本記事では、実態貸借対照表が使われる場面と作る手順を示したうえで、修正されやすい5つの科目を解説します。あわせて、売り手が売却前に作る利点と注意点を示します。

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実態貸借対照表とは

実態貸借対照表とは、決算書の貸借対照表に載っている資産と負債を、実際の価値に置き換えて作り直した貸借対照表です。国税庁の質疑応答(平成22年度税制改正)は、実態貸借対照表を「法人の有する資産及び負債の価額により作成される貸借対照表」と説明しています。

法人税関係の質疑応答(平成22年度税制改正)|国税庁

決算書の貸借対照表との違いは次のとおりです。

比べる点決算書の貸借対照表実態貸借対照表
金額の基準取得した時の金額(帳簿価額)現時点の価値(時価や処分価格)
作る目的税務申告や決算の報告売却価格の算定、再生計画、税務の判定
作る時期決算期ごと必要な場面で、基準日を決めて作る
決まった様式会計の基準に沿う法定の様式はない

中小企業庁のガイドラインは、債務超過かどうかについて、帳簿の金額ではなく、資産と負債を時価で評価した実態貸借対照表上の状態で判断するとしています。

決算書の上では資産超過でも、実態貸借対照表では債務超過になることがあります。自社の数字が実態とどれだけ離れているかを、早めに確かめます。

純資産をもとにした評価方法は、下記で詳しく解説しています。

純資産法とは?M&Aにおける種類や計算方法、注意点を売り手目線で解説

実態貸借対照表が使われる3つの場面

実態貸借対照表は、会社の節目となる場面で使われます。場面ごとに、誰が何のために見るのかが異なります。主な場面は以下の3つです。

  • M&Aで会社の売却価格を算定する
  • 事業再生で債務超過の程度を確かめる
  • 解散した会社が期限切れ欠損金を使えるか判定する

それぞれを順に解説します。

M&Aで会社の売却価格を算定する

M&Aでは、実態貸借対照表が売却価格を算定する際の基礎資料の一つになります。 中小企業のM&Aでは、資産と負債を時価で評価した純資産をもとに価格を考える方法が用いられることがあります。

中小M&Aガイドライン|中小企業庁

中小企業庁のガイドラインも、中小企業のM&Aでは時価純資産法などで算定した価値をもとに譲渡額を交渉するケースが多いとしています。

売り手と買い手候補が同じ実態貸借対照表を見ていなければ、価格の話はかみ合いません。どの資産をいくらと見ているかを、交渉の前にそろえます。

時価純資産法とほかの評価方法の違いは、下記で解説しています。

DCF法と時価純資産法の違いとは?5つの比較軸と実務の年倍法・マルチプル法を解説

事業再生で債務超過の程度を確かめる

事業再生では、実質的にどれだけ債務超過になっているかを、実態貸借対照表で確かめます。 債権者が債務の減免に応じるかどうかを判断する材料になるためです。

中小企業の事業再生等に関するガイドラインは、事業再生計画に含めるべき数値の基準の一つとして、実質的な債務超過を解消するまでの年数を挙げています。

実質的な債務超過の額が大きいほど、計画で示す改善の幅も大きくなります。再生を検討する際は、まず実態貸借対照表で債務超過の額を把握します。

事業再生の手法の一つについては、下記で解説しています。

第二会社方式とは?事業再生の手法やメリット・デメリット、注意点を解説

解散した会社が期限切れ欠損金を使えるか判定する

解散した会社が、期限切れの欠損金を使えるかを判定する場面でも使われます。 法人税法は、解散した会社に残余財産がないと見込まれるときは、期限切れの欠損金を損金に算入できるとしています。

国税庁の同じ質疑応答は、残余財産がないと見込まれることを説明する書類の例として、各事業年度の終了の時の実態貸借対照表を挙げています。債務超過の状態にあれば、残余財産がないと見込まれるときに該当するとしています。

債務の免除を受けて会社を清算する場合は、事業年度ごとに実態貸借対照表を作り、判定の根拠を残します。

清算で残った財産の分配と税金は、下記で解説しています。

会社清算の残余財産の分配はどう決まる?流れと税金、手取りが減る3つの注意点を解説

実態貸借対照表を作る3つの手順

実態貸借対照表は、決算書を出発点に作ります。手順自体は単純ですが、修正の根拠をそろえる作業に時間がかかります。作る手順は以下の3つです。

  • 評価の基準日を決めて決算書の残高を確定させる
  • 資産と負債を科目ごとに時価へ修正する
  • 修正後の資産から負債を引いて実態の純資産を出す

それぞれを順に解説します。

評価の基準日を決めて決算書の残高を確定させる

最初に、評価の基準日を決め、基準日の決算書の残高を確定させます。 基準日が決まらなければ、資産と負債のどの時点の価値を評価するのかが定まりません。

決算日を基準日とすることが多いものの、売却の交渉中であれば直近の月末を使うこともあります。

基準日の残高を確定させる際は、計上が漏れている費用や負債がないかも確認します。月次の試算表を使う場合は、未払の費用を見積もって加えます。

資産と負債を科目ごとに時価へ修正する

次に、資産と負債を科目ごとに見直し、時価に修正します。 修正の対象は、帳簿の金額と実際の価値がずれやすい科目です。

見直す主な科目は次のとおりです。

  • 売掛金や貸付金などの債権
  • 在庫
  • 土地や建物
  • 保険積立金や有価証券
  • 帳簿に載っていない負債

科目ごとに、修正の理由と根拠の資料を残します。根拠のない修正は、買い手候補や債権者に受け入れられない可能性があります。

修正後の資産から負債を引いて実態の純資産を出す

最後に、修正後の資産の合計から負債の合計を引いて、実態の純資産を出します。 実態の純資産が、会社の財務の実態を表します。

実態の純資産がマイナスであれば、実質的な債務超過の状態です。決算書では資産超過でも、修正を重ねるとマイナスに転じることもあります。

決算書の純資産との差は、修正の内訳とあわせて一覧にします。差の大きな科目が、交渉や計画で問われる論点になる場合があります。

実態貸借対照表で修正されやすい5つの科目

帳簿の金額と実態がずれやすい科目には、傾向があります。修正されやすい科目は以下の5つです。

  • 売掛金は回収できない見込みの分を差し引く
  • 在庫は売れ残りや陳腐化した分を減額する
  • 不動産は鑑定評価などによる時価に置き換える
  • 役員への貸付金や仮払金は回収できるかで評価する
  • 退職金や保証債務など帳簿にない負債を加える

それぞれを順に解説します。

売掛金は回収できない見込みの分を差し引く

売掛金は、回収できない見込みの分を差し引きます。 帳簿に残っていても、実際には回収できない売掛金があるためです。

差し引く対象になりやすいのは次のような売掛金です。

  • 支払期日を大きく過ぎても入金がない
  • 取引先が倒産したり、連絡が取れなくなったりしている
  • 取引先との間で金額に争いがある

取引先ごとの入金の状況を一覧にし、回収の見込みを判断します。

在庫は売れ残りや陳腐化した分を減額する

在庫は、売れ残りや陳腐化した分を減額します。 長く倉庫に眠っている在庫は、帳簿の金額で売れるとは限りません。

減額の対象になりやすいのは、型落ちの商品や、季節を過ぎた商品、破損した製品です。

在庫の受け払いの記録から、長く動いていない品目を抽出します。実際に倉庫で現物を確かめ、売れる見込みの価格で評価し直します。帳簿の数量と現物の数量が合っているかも、あわせて確認します。

在庫の評価の考え方は、下記で解説しています。

事業譲渡の在庫評価はどう決まる?買い手候補が見る4つの基準と計算方法、譲渡前の準備を解説

不動産は鑑定評価などによる時価に置き換える

土地や建物は、不動産鑑定士の鑑定評価などによる時価に置き換えます。 昔に取得した土地は、帳簿の金額と時価が大きく離れていることがあります。

時価が帳簿の金額を上回れば含み益、下回れば含み損になります。

鑑定評価には費用と時間がかかるため、目的によっては公示価格や固定資産税評価額などを参考にすることもあります。どの方法で評価したかを、資料とあわせて示します。

役員への貸付金や仮払金は回収できるかで評価する

役員への貸付金や仮払金は、実際に回収できるかで評価します。 中小企業では、社長への貸付金が長年残っているケースがあります。

社長に返済する力がなければ、帳簿の金額どおりの価値はありません。仮払金も、精算されないまま残っていれば、資産としての実体がない場合があります。

貸付金と仮払金の残高の中身を確認し、売却や清算の前に精算する方法を検討します。

退職金や保証債務など帳簿にない負債を加える

帳簿に載っていない負債は、実態貸借対照表に加えます。 帳簿にない負債は、後から見つかると、価格見直しや追加条件の設定などにつながる可能性があります。

中小企業庁のガイドラインも、未計上の退職給付債務や未払残業代などの簿外債務が問題になるケースが多いとしています。

加える対象になりやすい負債は次のとおりです。

  • 従業員の退職金の未計上分
  • 未払の残業代
  • 他社の借入金の保証など、将来負担するおそれのある債務

就業規則の退職金の規程と、保証の契約書を確認します。

簿外債務の種類と売り手の確認ポイントは、下記で解説しています。

M&Aにおける簿外債務の対策とは?種類やリスク、売り手側の確認ポイントを解説

売り手が実態貸借対照表を売却前に作る3つの利点

実態貸借対照表は、買い手だけでなく売り手にも役立ちます。売却前に作る利点は以下の3つです。

  • 買い手候補のデューデリジェンスで減額される可能性のある項目を先に把握できる
  • 時価純資産から売却価格の目安をつかめる
  • 実質的な債務超過かどうかで選ぶ手法を判断できる

それぞれを順に解説します。

買い手候補のデューデリジェンスで減額される可能性のある項目を先に把握できる

買い手候補が調査で指摘しそうな項目を、売り手が先に把握できます。 買い手候補はデューデリジェンスで実態貸借対照表を作り、価格を見直すことがあるためです。

先に把握していれば、指摘への説明や、反論の資料を準備できます。売却前に解消できる項目は、売り手の側で先に手を打てます。

交渉の終盤で減額を求められてから対応するより、論点整理や条件交渉を進めやすくなる場合があります。

デューデリジェンスへの備えは、下記で解説しています。

M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)とは?目的や流れ、売り手側のポイントを解説

時価純資産から売却価格の目安をつかめる

実態貸借対照表から、売却価格の目安をつかめます。 時価で評価した純資産は、価格を考える出発点になるためです。

実際の価格は、時価純資産に将来の収益力を加味して決まることもあります。収益力のある会社ほど、時価純資産を上回る価格がつく余地があります。

買い手候補から価格の提示を受けたときに、自社の時価純資産と比べて、提示の妥当性を判断できます。

売却の進め方や仲介会社から提案を受けた際の注意点を、弁護士監修のガイドにまとめています。無料でダウンロードできます。

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実質的な債務超過かどうかで選ぶ手法を判断できる

実質的に債務超過かどうかによって、売却の進め方が変わります。 債務超過であれば、株主と買い手候補の合意だけでは取引を進めにくくなるためです。

資産超過であれば通常のM&Aを、債務超過であれば債権者の協力を得る再生型のM&Aを検討します。

どちらに当たるかを早く知れば、相談する専門家と準備の内容も早く決められます。

債務超過の会社の株式譲渡については、下記で解説しています。

債務超過の株式譲渡は0円・1円になる?株式価値の考え方と売却時の注意点を解説

実態貸借対照表を作るときの3つの注意点

実態貸借対照表は、作り方しだいで金額が大きく変わります。注意したい点は以下の3つです。

  • 目的によって資産を時価と処分価額のどちらで評価するかが変わる
  • 不動産や在庫は評価の方法で金額が大きく変わる
  • 含み益には将来の税金の負担を考える

それぞれを順に解説します。

目的によって資産を時価と処分価額のどちらで評価するかが変わる

資産を、事業を続ける前提の時価で評価するか、すぐに売り払う前提の処分価額で評価するかは、目的によって変わります。 同じ資産でも、使い続ける場合と、急いで売る場合では価値が異なります。

国税庁の質疑応答は、解散した会社の実態貸借対照表では、資産を処分価格で評価するとしています。ただし、事業譲渡などで資産が他の会社の事業に引き続き使われる見込みなら、使い続ける前提の価額によるとしています。

M&Aの価格を考える場面と、清算を前提とする場面では、評価の前提をそろえ直します。

不動産や在庫は評価の方法で金額が大きく変わる

不動産や在庫は、どの方法で評価するかによって、金額が大きく変わります。 不動産であれば、鑑定評価、公示価格、固定資産税評価額のいずれを使うかで差が出ます。

在庫も、通常の価格で売れる前提か、処分のために値引きして売る前提かで金額が変わります。

売り手と買い手候補が別々の方法で評価すれば、価格の差が埋まりにくくなります。評価の方法を事前に買い手候補とすり合わせ、根拠となる資料を共有します。

含み益には将来の税金の負担を考える

不動産などの含み益は、将来の税金の負担も考えて評価します。 含み益のある資産を売れば、譲渡益に法人税がかかるためです。

実態貸借対照表で純資産が増えても、税金を差し引くと手元に残る額は減ります。

買い手候補も、取得した会社が将来負担する税金を価格の交渉で持ち出すことがあります。含み益の大きい資産は、売却した場合の税額を試算しておきます。

実態貸借対照表に関するよくある質問

実態貸借対照表について、経営者から寄せられることの多い質問を3つ取り上げます。決まった様式はあるか、誰に作ってもらえばよいか、清算貸借対照表と何が違うかの3点です。

実態貸借対照表に決まった様式はありますか?

法律で定められた様式はありません。決算書の貸借対照表と同じ科目の並びで、修正の内容と修正後の金額を横に並べる形が一般的です。国税庁も、期限切れ欠損金の判定では、裁判所や公的機関が関わる手続きの中で作られた書類を使えるとしています。

実態貸借対照表は誰に作ってもらえばよいですか?

公認会計士や税理士などの専門家に依頼するケースが多く見られます。中小企業庁のガイドラインも、公認会計士が実態貸借対照表や清算貸借対照表を作成することがあるとしています。売却の場面では、買い手に説明できる根拠を示せる専門家を選びます。

清算貸借対照表とは何が違いますか?

清算貸借対照表は、会社を清算することを前提に、資産をすぐに売り払った場合の処分価格で評価したものです。会社法施行規則第144条第2項は、清算を始めた会社の財産目録に、原則として処分価格を付すとしています。実態貸借対照表は、目的に応じて時価で評価する場合もある点が異なります。

まとめ

実態貸借対照表は、決算書の貸借対照表を、資産と負債の実際の価値に置き換えて作り直したものです。M&Aの価格、事業再生の計画、解散時の税務の判定に使われます。

要点は以下のとおりです。

  • 基準日を決め、科目ごとに時価へ修正して、実態の純資産を出す
  • 売掛金、在庫、不動産、役員への貸付金、帳簿にない負債が修正されやすい
  • 事業を続ける前提か清算する前提かで、時価と処分価額のどちらで評価するかが変わる
  • 売却前に作れば、買い手候補の調査で減額される可能性のある項目を先に把握できる
  • 含み益には、将来の税金の負担も考える

実態貸借対照表は、会社の本当の財務の姿を映します。売却や再生を考え始めた段階で作り、交渉の前に自社の数字を把握してください。

売却前に押さえておきたい注意点は、資料でも確認できます。

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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