PMIのITシステム統合とは?3つの方式と売り手が渡す情報、現場に起きる問題を解説
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公開日:2026.10.08
2026.10.08
更新日:2026.10.08
2026.10.08
ITシステム統合は買い手が主導しますが、契約条件や管理者アカウントの情報は売り手しか持っていません。対象となるシステム、3つの統合方式と現場への影響、クロージング前に渡す情報、Day1で止めてはいけない業務を解説します。

会計ソフトも販売管理も、長年かけて自社の業務に合わせてきた。売却後にすべて入れ替えられたら、現場は回るのか。ITシステムの統合は買い手が主導しますが、契約の条件や管理者アカウントの情報は売り手しか持っていません。情報共有が足りなければ、統合がうまく進みづらいでしょう。
本記事では、対象となるシステムと3つの統合方式を示したうえで、クロージング前に共有する情報を解説します。あわせて、止めてはいけない業務と現場に起きやすい問題を示します。
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PMIのITシステム統合は買い手が主導するが売り手の協力がないと進まない
中小企業庁は、PMIについて、主にM&A成立後に行われる統合に向けた作業であり、M&Aの目的を実現させ統合の効果を最大化するために必要なプロセスだと説明しています。
ITシステムの統合も買い手が主導します。ただし、どのシステムを誰が契約し、どんな条件で使っているかを把握しているのは売り手だけです。
中小PMIガイドラインは、現状を把握する際の留意点として、デューデリジェンスでは検知できないことがある、属人化している業務がある、規程等の不存在や実態との乖離があるという3点を挙げています。
まずは自社で使っているシステムとサービスを、契約単位で一覧に書き出します。
PMIの全体像と進め方については、下記で解説しています。
M&AにおけるPMIとは?重要性や進め方、売り手が知っておきたいポイントを解説
M&Aの100日プランとは?売り手経営者が関わる3つの場面と準備を解説
ITシステム統合で対象になる主なシステム
統合の対象は、基幹業務から日常の連絡手段まで広がります。部署が個別に契約したサービスも含まれるため、範囲は想定より広くなります。主なシステムは以下の4つです。
- 会計と経理のシステム
- 販売・受発注・在庫のシステム
- 人事・給与・勤怠のシステム
- メール・ファイル共有・アカウントの基盤
それぞれを順に解説します。
会計と経理のシステム
統合で最初に手が入るのが、会計のシステムです。 買い手は連結決算のため、勘定科目や会計処理の方針をそろえる必要があります。
対象になるのは次のとおりです。
- 会計ソフトと補助元帳
- 請求書の発行と債権管理
- 経費精算とワークフロー
科目の付け替えは移行の負担になります。使用中の会計ソフトと勘定科目体系を、買い手へ早めに共有します。
販売・受発注・在庫のシステム
業務への影響が大きいのが、販売系のシステムです。 受注から出荷までの流れが止まれば、取引先に直接迷惑がかかります。
対象になるのは次のとおりです。
- 販売管理、受発注、見積作成
- 在庫管理と倉庫のシステム
- 取引先との専用のEDIや発注サイト
取引先側のシステムと接続している場合は、相手方の協力も要ります。接続先の一覧と相手方の担当者を一覧にします。
人事・給与・勤怠のシステム
給与計算は、止められない業務の代表です。 支給日に間に合わなければ、社員の生活に影響します。
対象になるのは次のとおりです。
- 給与計算と年末調整
- 勤怠管理と休暇の申請
- 社会保険の手続きと人事情報の管理
買い手の制度に合わせる場合、就業規則の変更を伴うこともあります。給与計算の締日と支給日を買い手へ伝えます。
メール・ファイル共有・アカウントの基盤
見落とされやすいのが、日常の基盤です。 メールアドレスやファイルの保管場所が変わる場合は、社員全員の作業が変わります。
対象になるのは次のとおりです。
- メールとグループウェア
- ファイルサーバーやクラウドストレージ
- 社内のアカウント管理と権限設定
ドメイン名が変わる場合は、取引先への周知も必要になります。現在のアカウント数と保有データの量を把握します。
ドメインの名義と引き継ぐ権限については、下記で詳しく解説しています。
M&Aでドメインの名義変更は必要?手法別の手続きと売却前に確認する3つの名義パターン
ITシステム統合の3つの方式と売り手の会社への影響
統合の進め方には型があります。方式は以下の3つです。
- 買い手のシステムに寄せると売り手の業務のやり方が変わる
- 両社のシステムを残して連携させると当面の業務は変わらない
- 新しいシステムを導入すると両社とも移行の負担が生じる
それぞれを順に解説します。
買い手のシステムに寄せると売り手の業務のやり方が変わる
実務で多いのが、買い手側へ統一する方式です。 買い手にとって管理が一本化でき、連結の業務も軽くなります。
一方、売り手の現場は手順から変わります。長年使ってきた画面と操作が入れ替わるため、慣れるまで生産性は落ちます。
自社の業務で、買い手のシステムでは対応できない処理がないかを洗い出します。特殊な運用があれば、早い段階で買い手へ伝えます。
両社のシステムを残して連携させると当面の業務は変わらない
現場の負担が軽いのが、併存させる方式です。 売り手は従来の手順を続けられます。
一方で、データの受け渡しに仕組みが必要になります。連結決算のために、月次で集計したデータを買い手へ渡す作業が発生します。
当面の業務は変わりませんが、将来の統合が先送りされているだけとも言えます。併存する期間の目安を買い手へ確認します。
移行期間中に売り手が業務を提供する取り決め(TSA)については、下記で解説しています。
新しいシステムを導入すると両社とも移行の負担が生じる
双方が入れ替える方式もあります。 統合を機に、両社とも新しいシステムへ移行する形です。
負担は両社に生じますが、売り手だけが変わる不公平感は生まれません。一方で、導入の費用と期間はかさみます。
選択は買い手の判断によります。どの方式を想定しているかを、トップ面談またはデューデリジェンスの段階で質問します。
売り手がクロージング前に買い手へ渡す情報
統合の準備は、成立前から始まります。渡す情報は以下の4つです。
- システムとサービスの一覧と利用している部署
- ベンダーやサービスとの契約の期間・解約条件・承継の条項
- 管理者アカウントとパスワードの管理状況
- 法令で保存が必要なデータと保存期間
それぞれを順に解説します。
システムとサービスの一覧と利用している部署
出発点は、使っているものの棚卸しです。 部署が個別に契約したサービスは、経営者も把握していない場合があります。
一覧に書き出す項目は次のとおりです。
- サービス名と提供事業者
- 契約者名義と支払方法
- 利用している部署と利用者数
- 月額または年額の費用
直近12か月の支払から、IT関連の支出をすべて抜き出します。
ベンダーやサービスとの契約の期間・解約条件・承継の条項
契約条件は、統合の可否を左右します。 解約に違約金がかかれば、移行の判断にも影響します。
確認する項目は次のとおりです。
- 契約期間と自動更新の定め
- 中途解約の可否と違約金
- 支配権の変動に関する条項の有無
- 買い手への名義変更が可能か
株主が替わることで解除権が生じる条項があれば、事前の協議が必要です。契約書を集め、上記4項目を一覧化します。
ベンダーへの依存度と、独自開発システムの権利関係については、下記で解説しています。
M&Aでシステムベンダー依存はどう評価される?4つの判断基準と依存度を下げる手順
M&Aでソースコードの著作権は誰のもの?帰属の3パターンと売却前に整える契約を解説
管理者アカウントとパスワードの管理状況
引き継げないと止まるのが、管理者権限です。 退職者しか知らないアカウントがあれば、統合の途中で作業が止まります。
中小PMIガイドラインは、資金管理業務を一手に担っていた人物の退職により支払が滞留した失敗例を挙げています。システムの管理も同じ構図です。
各システムの管理者アカウントを洗い出します。
法令で保存が必要なデータと保存期間
捨ててはいけないデータもあります。 帳簿や書類には、法令で保存期間が定められているものがあります。
システムを入れ替える際、過去データの扱いを決めておかなければ、保存義務を果たせなくなる可能性があります。移行の前に、保存が必要な範囲と期間を税理士へ確認します。
Day1で止めてはいけない業務と段階的な進め方
統合には順序があります。クロージング当日から変えるものと、時間をかけて移すものを分ける発想が要ります。押さえる点は以下の3つです。
- 受発注・請求・入金・給与の業務はクロージング後も同じ手順で回す
- 最初の数か月で現状を把握して統合の順番を決める
- 会計や報告の仕組みから段階的に統合する
それぞれを順に解説します。
受発注・請求・入金・給与の業務はクロージング後も同じ手順で回す
止めてはいけない業務は、変えないのが原則です。 日々の取引と給与は、1日でも止まれば影響が外部に及びます。
クロージング当日から変えない業務は次のとおりです。
- 受注、出荷、請求、入金の処理
- 仕入先への発注と支払
- 給与計算と支給
社内の担当者に「当面は従来どおり」と明示します。変更の予定がある業務は、時期を分けて伝えます。
最初の数か月で現状を把握して統合の順番を決める
順番を決める前に、現状を把握します。 中小企業庁は、PMI実践ツールとしてPMI分析ワークシート、PMIアクションプラン、統合方針書の3つを公表しています。
分析ワークシートは、M&Aの目的と譲渡側等の現状を確認し、優先課題と対応方針を整理するツールとされています。売り手として、現状の説明に必要な資料を用意します。
会計や報告の仕組みから段階的に統合する
着手の順序は、影響の小さいものからです。 会計や報告は社内で完結するため、外部への影響が限られます。
進め方の目安は次のとおりです。
- 会計処理の方針と報告の様式をそろえる
- 人事・給与の仕組みを移行する
- 販売・在庫など現場の基幹システムを移行する
取引先と接続しているシステムは、最後に回すのが安全です。統合の順番を買い手と確認し、社員へ周知します。
統合時に取引先を離さないための伝え方は、下記で解説しています。
M&A後の顧客離反を防ぐには?取引先が離れる4つの原因と伝え方、売り手の役割を解説
ITシステム統合で売り手の現場に起きやすい問題
進め方を誤れば、負荷は売り手の現場に集中します。人・データ・運用の3方向で問題が起きます。起きやすい問題は以下の3つです。
- システムを熟知した社員が統合の負担で辞める
- 移行時にデータが欠けて請求や在庫が合わなくなる
- 従業員への説明が足りず新しい手順が定着しない
それぞれを順に解説します。
システムを熟知した社員が統合の負担で辞める
負担が集中するのは、システムに詳しい社員です。 通常業務に加えて移行作業を担うため、長時間労働になりがちです。
中小PMIガイドラインは、従業員の退職に伴い重要な技術・ノウハウを喪失した失敗例を挙げています。システムを理解している社員が抜ければ、移行の作業が止まります。
担当する社員の氏名を買い手へ伝え、負担の配分と処遇を協議します。
キーパーソンの処遇と、統合時に社員が離れない伝え方については、下記で解説しています。
M&Aでキーマンの処遇はどうなる?経営者と従業員を守る5つのポイント
PMIの企業文化統合とは?社員が辞めない伝え方と売り手ができる準備を解説
移行時にデータが欠けて請求や在庫が合わなくなる
データの移行は、抜けが起きやすい作業です。 形式の違いや項目の不一致で、一部のデータが移らない場合があります。
影響が出やすいのは次の場面です。
- 過去の取引履歴が引き継がれず、請求の根拠を示せない
- 在庫の数量が実地と合わない
- 取引先ごとの単価設定が反映されない
移行後の検証が必要です。移行前後で件数と金額を突き合わせる手順を、買い手と取り決めます。
従業員への説明が足りず新しい手順が定着しない
説明が不足すれば、運用は元に戻ります。 使い方を理解できないまま切り替えれば、手作業での対応が増えます。
中小PMIガイドラインは、譲受側の「当たり前」を次々に導入した結果、譲渡側従業員から協力を得られなかった失敗例を挙げています。
操作研修の実施と手順書の整備を、移行計画に組み込むよう買い手へ求めます。
ITシステム統合の費用が価格と契約に入る形
統合の費用は、譲渡価格と契約条件の両方に影響します。買い手にとっては投資額の一部だからです。押さえる点は以下の2つです。
- 統合に必要な費用の見込みが買い手の評価に織り込まれる
- 移行期間中の売り手の協力が契約に定められる
それぞれを順に解説します。
統合に必要な費用の見込みが買い手の評価に織り込まれる
統合費用は、買い手の投資額の一部です。 システムの入れ替えに多額の費用がかかると見込まれれば、譲渡価格の交渉材料になります。
費用が膨らみやすいのは次の場合です。
- 独自開発のシステムを使っている
- 契約の中途解約に違約金がかかる
- データの形式が特殊で変換に手間がかかる
情報を出し渋れば、買い手は保守的に見積もります。契約条件と解約条項を先に開示し、想定を共有します。
移行期間中の売り手の協力が契約に定められる
協力の義務が、契約に書き込まれる場合があります。 売り手オーナーや担当社員が、一定期間は移行に関与する定めです。
確認する項目は次のとおりです。
- 協力する期間と関与の範囲
- 対価の有無と算定方法
- 完了の判定基準
範囲が曖昧なままでは、想定を超える負担を負います。協力の内容を具体的に書き込むよう、最終契約の交渉で求めます。
最終契約で確認したい項目は、弁護士監修のチェックリストにまとめています。無料でダウンロードできます。
【無料資料】最終契約前に弁護士と共に確認するべき契約書の項目
PMIのITシステム統合に関するよくある質問
PMIのITシステム統合について、相談の現場で多く寄せられる質問を2つ取り上げます。売り手のシステムを買い手が引き続き使うことはあるのか、統合にどのくらいの期間がかかるのかの2点です。
売り手が使ってきたシステムを買い手がそのまま使うことはありますか?
売り手のシステムのほうが業務に適していれば、買い手側が寄せる判断もあります。特に業種特化型のシステムを使っている場合に起こります。自社のシステムの優位性を説明できる資料を用意しておくと、判断材料になります。
システムの統合にはどのくらいの期間がかかりますか?
一律の目安はありません。対象システムの数やデータ量、契約の残存期間で大きく変わります。中小PMIガイドラインは、PMIをM&A成立後おおむね1年の集中実施期を経て継続的に実施される取組と整理しています。
子会社になった後の管理体制の変化については、下記で解説しています。
PMIのガバナンス統合とは?子会社になって変わる5つの項目と売り手の準備を解説
まとめ
ITシステムの統合は買い手が主導しますが、契約条件や管理者アカウントの情報は売り手しか持っていません。渡す情報が不足すれば、統合は止まります。
要点は以下のとおりです。
- 対象は会計・販売・人事のほか、メールやアカウントの基盤まで広がる
- 方式は、買い手へ寄せる・併存させる・新規導入の3つ
- クロージング前に、契約条件と管理者アカウントの情報をそろえる
- 受発注・請求・入金・給与は、当面は従来どおりの手順で回す
- 統合費用の見込みは、買い手の評価と価格交渉に影響する
情報の棚卸しは、交渉が始まる前から着手できます。まずはIT関連の支払を12か月分抜き出し、一覧を作るところから始めてください。
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