M&Aにおける自己株式の税金とは?みなし配当の仕組みと3つの落とし穴を解説

2026.09.04

公開日:2026.09.04

2026.09.04

2026.09.04

更新日:2026.09.04

2026.09.04

M&Aにおける自己株式の税金とは?みなし配当の仕組みと3つの落とし穴を解説

M&Aの準備を進めるなかで、「先に少数株主の株式を集約しましょう」と助言され、会社で買い取る案を検討していないでしょうか。そこで顧問税理士から「みなし配当」という聞き慣れない言葉が出てきて、不安になっている売り手の方もいるはずです。

会社が自社の株式を買い取る取引には、第三者に株式を売る場合とは別の課税の仕組みが働きます。仕組みを知らないまま買い取りを実行すると、株主の手取りが想定を下回り、集約そのものが滞る場合があります。

本記事では、M&Aで自己株式の税金が問題になる場面、みなし配当課税の仕組み、注意したい落とし穴、相続株式の特例、そして売り手ができる対策を解説します。株式の集約を検討し始めた売り手の方は、実行前の確認にお役立てください。

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M&Aで自己株式の税金が問題になる場面

M&Aで自己株式の税金が関わるのは、対象会社が自社の株式を株主から買い取る場面です。代表的なのは以下の3つです。

  • 売却前の株式集約として、対象会社が少数株主から株式を買い取る場面
  • オーナーが保有株式の一部を会社へ売って現金化する場面
  • 相続した株式を会社に買い取らせる場面

いずれも「株主が会社に株式を売る」取引であり、買い手候補という第三者に売る通常の株式譲渡とは、税務上の扱いが変わります。この違いを知らずに進めると、後から手取りの差に気づくことになります。

株式が分散した背景に名義株がある会社では、買い取りの前に実質的な権利者の確認という別の論点もあります。名義株の確認と解消の進め方は、以下の記事で解説しています。

名義株とは?M&Aで問題になる理由や実質株主の確認、解消方法を解説

自己株式の取得で生じるみなし配当課税の仕組み

株主が発行会社に株式を売った場合、対価のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は、税務上、配当とみなされます。これがみなし配当と呼ばれる仕組みです。

「株式を売ったのだから譲渡の税金だろう」という直感に反して、対価の一部が配当として扱われる点が、この論点の分かりにくさの核心です。会社の利益の蓄積を株主に払い出す実質があるため、配当と同じ扱いに揃えるという考え方に基づいています。

個人株主が受け取るみなし配当は配当所得として扱われ、原則として総合課税の対象になります。給与や不動産収入など他の所得と合算して累進税率が適用されるため、所得の大きい株主ほど負担が重くなりやすい構造です。総合課税を選んだ配当所得には配当控除(配当を受けた人の税額から一定割合を差し引く制度)の適用がありますが、控除率は10%または5%であり、累進税率の高さを打ち消すには至りません。自分がいくら課税されるかは、対価の内訳と株主ごとの所得状況で変わるため、買い取り実行前の個別の試算が要ります。

※参考:国税庁「No.1536 株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる場合-法人の合併等、自己株式の取得等の場合-

第三者に売る場合との税負担の違い

同じ株式を同じ価額で手放しても、売り先が第三者か発行会社かで、個人株主の税金の枠組みは変わります。

項目買い手候補など第三者への譲渡発行会社への譲渡
所得の区分株式等に係る譲渡所得等みなし配当部分は配当所得、残りは譲渡所得等
課税方式申告分離課税配当所得部分は原則として総合課税
税率の考え方20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%。2026年8月時点)他の所得と合算した累進税率が適用される

第三者への譲渡は、他の所得と切り離した申告分離課税で、税率は一定です。発行会社への譲渡は、みなし配当部分が総合課税となるため、所得水準によっては第三者に売る場合より手取りが減る場合があります。「どこに売るか」が税負担の設計そのものだという点を、集約の検討前に押さえておくことが重要です。

株式譲渡の税金の計算方法と確定申告は、以下の記事で解説しています。第三者へ売る場合の基本を確認する際にお読みください。

会社売却後にかかる税金は?計算方法や確定申告、税引後手取りを増やす対策を解説

※参考:国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)

※参考:国税庁「No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)

自己株式の取得で注意したい3つの落とし穴

自己株式の取得には、税金の重さだけでなく、会社法や価額の設定に関わる見落としやすい論点があります。注意したい落とし穴は以下の3つです。

  • 株式集約で少数株主の手取りが想定より減る
  • 分配可能額が足りないと買い取り自体ができない
  • 時価とかけ離れた価額での買い取りは別の課税を招く

それぞれを順に解説します。

株式集約で少数株主の手取りが想定より減る

売却前の株式集約で対象会社が少数株主から買い取ると、少数株主側にみなし配当課税が生じ、手取りが本人の想定を下回る場合があります。買い取り価額の総額だけを見て応じた株主が、納税後の金額を知って不満を持つという行き違いが起こりやすい場面です。

手取りへの不満は、買い取り交渉の難航、応じない株主の発生、集約の停滞という形でM&A全体の日程に波及します。売り手としては、誰にどの課税が生じるかを買い取りの提案前に整理し、株主ごとの説明材料を用意しておくことが、集約を円滑に進めることにつながります。

分配可能額が足りないと買い取り自体ができない

自己株式の取得には、会社法上の財源規制があります。会社が株主に払い出せる分配可能額の範囲内でしか、原則として株式を買い取れません。

利益の蓄積が薄い会社や、直前期に赤字を計上した会社では、税金の検討より前に、そもそも買い取りの原資を確保できないという壁に当たる場合があります。分配可能額の計算は決算書の数字から機械的に読み取れるものではないため、買い取りを検討する段階で、会計士や税理士に金額の確認を依頼してください。

時価とかけ離れた価額での買い取りは別の課税を招く

買い取り価額の設定にも落とし穴があります。時価より著しく低い価額や高い価額で買い取ると、みなし配当とは別に、贈与とみなされる課税などの問題が生じる場合があるためです。

非上場株式の時価は、買い取る側の立場や評価方式によって考え方が分かれ、判断の専門性が高い領域です。「親族だから安くていいだろう」といった感覚で価額を決めると、後から想定外の課税を指摘されかねません。価額の設定は税理士の関与のもとで行う必要があります。低い価額での譲渡に伴う贈与税の仕組みは、以下の記事で解説しています。

株式譲渡で贈与税はかかる?課税ケースや計算方法、事業承継での注意点も解説

相続した株式を会社へ売る場合の特例

相続した非上場株式を発行会社へ売る場合には、税負担を左右する特例が設けられています。

相続または遺贈により財産を取得して相続税を課された人が、相続の開始があった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、相続税の課税対象となった非上場株式をその発行会社に譲渡した場合、みなし配当課税を適用せず、対価の全額を株式等に係る譲渡所得等の収入金額とする特例です。総合課税ではなく譲渡の課税の枠組みで扱われるため、手取りが変わり得ます。

この特例を使うには、譲渡の時までに発行会社へ所定の届出書を提出する手続きが要ります。相続した株式を納税資金の確保などのために会社へ売る場面では、期限と手続きの確認が手取りに直結するため、実行前に税理士へ相談してください。

※参考:国税庁「No.1477 相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例

売り手ができる3つの対策

自己株式の税金をめぐる行き違いは、買い取りの実行前の準備で抑えられます。売り手が打てる手は以下の3つです。

  • 株式集約の方法を税負担込みで比較する
  • 集約は売却プロセスの早い段階で終える
  • 買い取り前に課税関係の試算を株主へ示す

それぞれを順に解説します。

株式集約の方法を税負担込みで比較する

株式集約の設計では、対象会社が買い取る方法だけでなく、オーナー個人が買い取る方法、M&Aの実行時に買い手候補へ直接譲渡してもらう方法まで並べて、税負担込みで比較することが重要です。誰が買い取るかによって、少数株主側の課税の枠組みも、オーナー側の資金負担も変わるためです。

会社による買い取りは資金を会社から出せる半面、みなし配当課税と財源規制が関わります。個人による買い取りは買い取り資金の手当てが課題になります。集約後の手取りと実行のしやすさの両面から、税理士やFAとともに試算して選んでください。少数株主からの買い取りの進め方は、以下の記事で解説しています。

株式集約で少数株主の株式を買い取る進め方と3つの注意点を解説

集約は売却プロセスの早い段階で終える

株式の集約は、買い手候補との交渉が始まる前に終えておくのが定石です。基本合意の前後など、買い手候補との間で株価の水準がほぼ固まった段階で、それより低い価額の買い取りを行うと、価額の差をめぐる課税リスクを指摘される場合があるためです。

また、交渉が進んでから応じない株主が現れると、譲渡対象株式を揃えられず、クロージングの条件に影響します。相手探しを始める前に集約まで済ませておくことで、価額の論点も日程の論点も抑えやすくなります。

買い取り前に課税関係の試算を株主へ示す

少数株主への買い取り提案では、買い取り価額だけでなく、課税後の手取りの試算まで示すことが、交渉の行き違いを抑える手立てになります。「受け取れる金額」の認識が最初から揃っていれば、実行後の不満や紛争に発展しにくくなるためです。

あわせて、株主側に生じる確定申告の要否や、発行会社側の手続きの段取りも案内できると、株主は判断しやすくなります。試算の作成は税理士に依頼し、株主ごとの所得状況までは踏み込まずに、仕組みと概算を丁寧に説明する形が現実的です。

M&Aと自己株式の税金でよくある質問

自己株式の税金について、売り手からよく寄せられる疑問に回答します。

会社が自己株式を保有しているとM&Aの価格に影響するのですか?

対象会社が保有する自己株式には議決権がなく、1株当たりの価値を考える際は発行済株式数から除いて計算するのが通常です。過去に買い取ったまま保有している自己株式があると、譲渡対象となる株式数や持分割合の計算に関わります。

売却の検討を始めたら、株主名簿とあわせて自己株式の有無と数を確認し、買い手候補への説明資料に反映しておくと、価格協議の前提を揃えやすくなります。

自己株式の取得に消費税はかかるのですか?

国税庁は、法人が自己株式を取得する場合(証券市場での買入れによる取得を除く)の、株主から発行会社への株式の引渡しについて、消費税法上の「資産の譲渡等」に該当しないとしています。つまり課税の対象外(不課税)であり、株式を売る株主側にも消費税は生じません。

ただし、非課税売上として課税売上割合の計算に含めるのか、不課税として含めないのかといった経理上の処理は誤りやすい部分です。実行時の処理は顧問税理士に確認してください。

※参考:国税庁 質疑応答事例「自己株式の取扱い

みなし配当の税金は誰がどのように納めるのですか?

みなし配当には、配当を支払う側である発行会社に源泉徴収の手続きが生じ、株主側は所得の状況に応じて確定申告を行います。上場株式等以外の配当等の源泉徴収税率は20.42%(所得税および復興特別所得税。住民税の特別徴収はなし。2026年8月時点)で、会社はこれを差し引いた金額を株主へ支払います。会社と株主の双方に手続きが発生する点が、通常の株式譲渡との違いです。

発行会社側の源泉徴収を失念すると、後から会社が追徴の対象になるおそれもあります。買い取りを実行する前に、源泉徴収の要否と金額、株主への通知書類、申告の段取りまでを税理士に確認しておく必要があります。

まとめ

M&Aで自己株式の税金が問題になるのは、株式集約・一部現金化・相続株式の買い取りという、会社が株主から株式を買い取る場面です。発行会社への譲渡では、対価のうち資本金等の額を超える部分がみなし配当として原則総合課税となり、第三者への譲渡の申告分離課税とは手取りの構造が変わります。財源規制と買い取り価額の妥当性という落とし穴もあるため、集約の方法は税負担込みの比較で選び、実行は売却プロセスの早い段階で終えることが重要です。

株式を整理する前提として、株主名簿の確認から始める進め方は以下の記事で解説しています。

M&Aに向けた株主名簿の整備とは?不備のリスクや売り手側の進め方を解説

株式集約の設計は、税務と売却交渉の両方にまたがる論点です。税理士と連携できる売り手側の専門家に早めに相談することが、手取りと日程の両方を守ることにつながりやすくなります。

オーナーズ株式会社では、売り手に特化したFAサービスを展開しています。専属のエージェントがお客様の理想の取引実現に向けて、お客様のご希望に即したサービスをとことん提供いたします。よりよい評価額での売却に向けたアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を削減した案件成約も実現可能です。

また、具体的な買いニーズを持っている企業のほか、業界・買い手企業分析に基づき事業親和性の高い企業を買い手候補としてご提案します。大手金融機関や大手M&A仲介、M&Aマッチングサービスとも連携しているため、買い手探索のルートが豊富です。

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ株式会社 )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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