DCF法とは?M&Aでの計算方法やメリット・デメリットを売り手目線で解説
公開日:2026.07.02
2026.07.02
更新日:2026.07.02
2026.07.02
企業の将来性を価格に反映しやすい評価手法として知られているのがDCF法です。
DCF法とは、企業が将来生み出すフリーキャッシュフローを予測し、それを現在価値に割り引いて企業価値を算定する方法で、インカムアプローチに分類されます。
特に売り手にとっては、DCF法は成長性を価格に反映しやすい一方で、事業計画や割引率といった前提の置き方によって、算定結果が大きく変わります。手法の仕組みを理解しておくことで、提示された評価が自社の実力に見合っているかを判断しやすくなります。
本記事では、DCF法の構成要素と計算手順に加え、メリット・デメリットや、売り手が評価に活かすために準備できることまで解説します。
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DCF法とは
DCF法は、企業が将来生み出すキャッシュフローを予測し、それを現在価値に割り引いて企業価値を算定する手法で、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法の略です。会社が将来どれだけのキャッシュフローを生み出すかをもとに価値を求めるため、インカムアプローチに分類されます。
DCF法の特徴は、過去の実績や現在の資産ではなく、将来のキャッシュフローを価値の基礎にする点です。そのため、将来の成長性や収益力を評価に反映しやすく、M&Aの場面でも、将来性を価格に反映するための代表的な手法の一つとして用いられます。
一方で、DCF法は将来の予測をもとにする以上、事業計画や割引率といった前提の置き方によって、結果が変わります。売り手としては、どのような前提に立って評価されているかを理解したうえで、確認することが重要です。
※参考:J-Net21(中小企業基盤整備機構)「M&Aにおける企業価値の評価方法について教えてください。」
DCF法の3つの構成要素
DCF法を理解するには、計算に用いる3つの要素を押さえることが重要です。それぞれが企業価値の算定に影響します。主な構成要素は以下の通りです。
- フリーキャッシュフロー(FCF)
- 割引率(WACC)
- 残存価値(ターミナルバリュー)
それぞれを順に解説します。
フリーキャッシュフロー(FCF)
フリーキャッシュフロー(FCF)とは、企業が事業活動を通じて生み出し、事業維持に必要な投資などを差し引いた後に残るキャッシュフローを指します。営業利益を出発点に、税金、減価償却費、運転資本の増減、設備投資などを調整して求め、DCF法では、事業計画をもとに将来の各年のFCFを予測します。このFCFが、DCF法における企業価値算定の土台になります。
売り手としては、将来のFCFをどのような事業計画で予測するかが、評価額を左右する点を理解しておくことが重要です。根拠のある計画にもとづいてFCFを示せるかどうかが、価値の評価に影響します。
割引率(WACCなど)
割引率とは、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くために使う率で、加重平均資本コストとも呼ばれます。将来のキャッシュフローは、時間価値や事業リスクを考慮して現在価値に割り引きます。他の条件が同じであれば、割引率が高いほど算定される企業価値は低くなります。
売り手としては、この割引率の設定によって評価額が変わりやすい点を理解しておくことが重要です。事業のリスクが高いと見なされると割引率が高く設定され、評価額が低く算定されやすくなるため、その前提が妥当かを確認することが重要です。
残存価値(ターミナルバリュー)
残存価値(ターミナルバリュー)とは、事業計画の期間が終わったあとも、企業が生み出し続ける価値を指します。実務では、事業計画期間を3〜5年程度で置くことがありますが、計画期間後の価値をまとめて見積もったものが残存価値です。DCF法では、企業価値に占める残存価値の割合が大きくなる場合があります。
売り手としては、残存価値の前提によって全体の評価額が動きやすい点を理解しておくことが重要です。計画期間後の成長をどう見込むかによって価値が変わるため、その前提が現実的かどうかを確認することが望ましいです。
DCF法の計算方法と手順
DCF法は、将来のFCFを予測し、割引率で現在価値に直し、残存価値も加味して企業価値を求めます。手順を理解しておくと、自社がどのように評価されるかを把握しやすくなります。主な手順は以下の通りです。
- 事業計画からフリーキャッシュフローを予測する
- 割引率を使って現在価値に割り引く
- 残存価値を加えて企業価値を算定し、株式価値に調整する
それぞれを順に解説します。
事業計画からフリーキャッシュフローを予測する
最初の手順は、事業計画をもとに、将来の各年のフリーキャッシュフローを予測することです。通常は5年程度の計画を作り、売上や利益の見通しから、各年にフリーキャッシュフローがいくら生まれるかを見積もります。この予測の精度が、評価全体の信頼性を左右します。
売り手としては、将来のFCFを示す事業計画に、客観的な根拠を持たせることが重要です。過度に楽観的な計画は買い手に受け入れられにくく、逆に保守的すぎると評価が低くなるため、実態に即した計画を用意することが望ましいです。
割引率を使って現在価値に割り引く
次に、予測した各年のフリーキャッシュフローを、割引率を使って現在価値に直します。将来のキャッシュフローは時間価値やリスクを考慮する必要があるため、割引率で割り引くことで、現時点での価値に換算します。各年の現在価値を合計したものが、計画期間中のキャッシュフロー価値になります。
売り手としては、この割引率がどのように設定されているかを確認することが重要です。割引率はわずかな違いでも結果に影響しやすいため、設定の根拠を理解しておくことが、評価の妥当性を判断する材料になります。
残存価値を加えて企業価値を算定し、株式価値に調整する
最後に、計画期間後の残存価値を現在価値に割り引いて加え、事業全体の価値を求めます。ここから有利子負債を差し引き、現預金などを加えることで、株主が受け取る株式価値の目安が算定されます。残存価値は企業価値に占める割合が大きいため、その前提も結果を左右します。
売り手としては、これらの手順を理解しておくことで、提示された評価額がどの前提から導かれたかを確認しやすくなります。自社のおおよその価値を知りたい場合は、以下の株価シミュレーターも参考になります。
DCF法のメリットとデメリット
DCF法は理論的な整合性が高い手法とされる一方で、使ううえでの弱点もあります。両方を理解しておくことで、評価をどう受け止めるべきかが見えてきます。主な内容は以下の通りです。
- DCF法のメリット
- DCF法のデメリット
それぞれを順に解説します。
DCF法のメリット
DCF法の大きな利点は、企業の将来性を価格に反映しやすい点です。過去の実績や現在の資産だけでなく、これから生み出す収益力をもとに評価するため、成長が見込まれる企業の価値を説明しやすくなります。理論的な裏づけがあり、M&Aの評価で用いられる代表的な手法の一つです。
売り手としては、自社に成長性がある場合、DCF法は純資産法や年買法では表れにくい将来の価値を説明しやすいことを理解しておくことが重要です。成長計画を価格に反映したい場合に参考になる手法です。
DCF法のデメリット
DCF法のデメリットは、事業計画や割引率といった前提の置き方によって、結果が大きく変わる点です。将来の予測には不確実さが伴い、計画の作り方や割引率の設定に、評価する人の判断が入る余地があります。また、計算が複雑で、専門的な知識を要する点も負担になります。
売り手としては、買い手が保守的な前提を置くと、評価が低く算定される場合があります。前提の妥当性を売り手の立場で確認できるかどうかが、評価額を検証するうえで重要です。
DCF法と他の評価手法との違い
企業価値の評価手法はDCF法だけではなく、考え方の異なる手法があります。DCF法はインカムアプローチに分類され、ほかに資産を基準にする方法や、市場を基準にする方法があります。主な比較対象は以下の通りです。
- 純資産法との違い
- 類似会社比較法との違い
- 年買法との違い
それぞれを順に解説します。
純資産法との違い
純資産法とは、企業の時価純資産を基準に株式価値を算定する方法で、コストアプローチに分類されます。現時点の資産・負債を基準にする純資産法に対し、DCF法は将来の収益を基準にする点が大きな違いです。
売り手としては、純資産法では将来の成長性が反映されにくいのに対し、DCF法では成長計画を価格に反映しやすい点を理解しておくことが重要です。純資産法の詳しい内容については、以下の記事でも詳しく解説しています。
純資産法とは?M&Aでの種類や計算方法、注意点を売り手目線で解説
類似会社比較法との違い
類似会社比較法とは、事業内容や収益構造が近い上場企業の株価指標を参考に、企業価値や株式価値を算定する方法で、マーケットアプローチに分類されます。市場での評価を基準にする類似会社比較法に対し、DCF法は自社の事業計画を基準にする点が異なります。
売り手としては、類似会社比較法は市場の評価を、DCF法は自社固有の将来性を反映するという違いを理解しておくことが重要です。実務では両方の手法で評価し、結果を照らし合わせることもあります。
類似会社比較法の詳しい仕組みについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
類似会社比較法とは?計算方法やマルチプル、注意点を売り手目線で解説
年買法との違い
年買法とは、時価純資産に営業権として利益の一定年数分を加えて、株式価値や売却価格の目安を算定する簡便な方法です。直近の利益をもとにする年買法に対し、DCF法は将来の事業計画をもとにする点が大きな違いです。
売り手としては、年買法は手軽な一方で将来性が反映されにくく、DCF法は将来性を反映しやすい分、前提の置き方が結果を左右する点を理解しておくことが重要です。
年買法の詳しい内容や限界については、以下の記事でも詳しく解説しています。
年買法とは?M&Aでの計算方法と、過信できない理由を売り手目線で解説
売り手がDCF法を評価に活かすためにできること
DCF法による評価は、売り手の準備によって、将来性や収益力を評価に反映してもらえる余地が広がります。M&A経験者の9割以上が取引に何らかの後悔を感じたという当社調査では、売り手と買い手の情報格差が後悔の一因になっている可能性が示されています。前提の置き方を理解し、準備を進めることが、納得できる売却につながります。主な取り組みは以下の通りです。
- 根拠のある事業計画を用意する
- 割引率や前提を売り手の立場で確認する
- 売り手の立場で評価を検証できる支援者を選ぶ
それぞれを順に解説します。
※参考:M&A経験者の9割以上が「後悔あり」。売り手と買い手の情報格差がトラブルの引き金に
根拠のある事業計画を用意する
DCF法で将来性を評価に反映してもらうために重要なことは、根拠のある事業計画を用意することです。売上や利益の見通しに、過去の実績や市場の状況といった裏づけを持たせることで、将来のフリーキャッシュフローの見通しを説明しやすくなります。
売り手としては、計画の前提を数値や事実で説明できる状態にしておくことが重要です。買い手が納得できる計画であれば、将来性を価格に反映してもらえる可能性が高まります。
計画の裏づけにも関わるデューデリジェンスについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)とは?目的や流れ、売り手側のポイントを解説
割引率や前提を売り手の立場で確認する
DCF法の評価額は、割引率や残存価値といった前提によって大きく変わります。買い手から提示された評価が、どのような前提に立っているかを確認することで、評価額が過度に低く算定されていないかを確認しやすくなります。
売り手としては、割引率が過度に高く設定されていないか、計画期間後の成長がどう見込まれているかを確認することが重要です。前提の妥当性を確かめる姿勢が、評価額を検証することにつながります。
売り手の立場で評価を検証できる支援者を選ぶ
DCF法は計算が複雑で、前提の置き方によって結果が変わるため、専門的な視点での検証が欠かせません。提示された評価額が妥当かを売り手の立場で検証し、交渉を支援できる専門家がいるかどうかは、結果に影響します。M&Aの支援者には、売り手・買い手の間に立つ仲介会社と、売り手または買い手の一方に助言するFA(ファイナンシャル・アドバイザー)があります。
FAは依頼者の側に立って助言するため、売り手専属のFAであれば、利益相反が起こりにくい構造で、売り手側の観点から前提を検証しやすくなります。評価の前提を売り手の立場で確認できる支援者を選ぶことが、納得できる売却につながります。
売り手専属のFAの役割については、以下の記事でも詳しく解説しています。
M&AにおけるセルサイドFAとは?業務内容や仲介との違いも解説
まとめ
DCF法は、企業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算定する手法で、企業の将来性を価格に反映しやすい点が特徴です。フリーキャッシュフロー、割引率、残存価値という構成要素や計算の手順を理解しておくことで、自社がどのように評価されるかを把握しやすくなります。
特に売り手にとっては、以下のような論点を踏まえたうえで準備を進めることが重要です。
- DCF法は前提の置き方で評価が変わることを理解すること
- 根拠のある事業計画を用意して将来キャッシュフローの妥当性を示すこと
- 割引率や残存価値の前提が妥当かを確認すること
- 売り手の立場で評価を検証できる支援者と連携すること
DCF法による評価は、事業計画や割引率という前提次第で結果が変わる手法です。前提の仕組みを理解し、早い段階から売り手の立場に立てる専門家とともに準備を進めることで、自社の将来性を適切に評価してもらいやすくなります。
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