M&Aの分割払いは売り手に未回収のリスクがある?代金を回収するための5つの備え

2026.09.29

公開日:2026.09.29

2026.09.29

2026.09.29

更新日:2026.09.29

2026.09.29

M&Aの分割払いは売り手に未回収のリスクがある?代金を回収するための5つの備え

M&Aの分割払いは、売り手が未回収のリスクを負う仕組みです。

アーンアウトとの違い、買い手が提案する理由、4つのリスク、支払能力の確かめ方、回収するための5つの備え、代金を受け取り終える前に納税時期が来る仕組みを解説します。

希望額での合意に近づき、買い手から「3年に分けて支払いたい」と言われたが、総額が変わらないなら応じてよいのか。

分割払いは、代金を受け取り終えるまで売り手がリスクを負い続ける仕組みです。会社は先に引き渡し、残代金は買い手の資力に委ねられます。しかも税金は、受け取り終える前に課されます。

売り手の立場では、分割払いもアーンアウトも原則として避けたい条件です。一括で受け取れる買い手候補を探すほうが、手取りの確実性は高まります。やむを得ず応じる場合に備えを固める、という順序で考えます。

本記事では、アーンアウトとの違いと買い手が提案する理由を示したうえで、売り手が負う4つのリスクを解説します。あわせて、支払能力の確かめ方、回収のための5つの備え、納税の時期を示します。

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M&Aの分割払いとは?売却代金をクロージング後に分けて受け取る方法

分割払いとは、売却代金の全額を引き渡しの時点で受け取らず、複数回に分けて受け取る取り決めを指します。契約で総額と支払の時期を定め、残代金を後日受け取ります。

売り手から見ると、会社の支配は先に移ります。株式を引き渡し、経営権は買い手に移った状態で、残代金の支払を待つことになります。

中小M&Aガイドライン(第3版)|中小企業庁

代金を受け取り終えるまでの間、買い手の資力と誠実さに依存します。一括払いであれば引き渡しと同時に取引が完結しますが、分割払いでは関係が続きます。

総額が同じであれば条件は変わらないと考えがちですが、売り手が負うリスクは大きく異なります。売り手にとって望ましいのは、クロージング時に全額を受け取る形です。分割払いに応じる必要がある場合でも、支払の総額と回数、各回の金額と時期を書面で確認し、受け入れられる内容か検討します。

M&Aの分割払いとアーンアウトの違い

似た仕組みに見えて、性質は異なります。ただし対価を全額受け取れない可能性がある点は共通し、どちらも原則としては避けたい条件です。 

違いは以下の3点です。

  • 分割払いは契約時に受け取る総額が決まっている
  • アーンアウトは業績の目標を達成したときだけ追加の対価を受け取る
  • 分割払いは支払の遅れが争いになりアーンアウトは目標の解釈が争いになりやすい

それぞれを順に解説します。

分割払いは契約時に受け取る総額が決まっている

分割払いでは、受け取る金額が最初に確定します。 支払の時期を分けるだけで、総額は契約で定められているためです。

条件が成就するかどうかという不確実性はありません。残るのは、定めたとおりに支払われるかという一点です。

中小M&Aガイドライン(第3版)|中小企業庁

契約書に総額と各回の金額、支払期日が明記されているかを確認します。

アーンアウトは業績の目標を達成したときだけ追加の対価を受け取る

アーンアウトは、条件付きの追加対価です。 一定期間の業績が目標に達した場合にのみ、追加で支払われる仕組みを指します。

目標に届かなければ、受け取れません。売却後の経営は買い手が担うケースも多いため、売り手が結果を左右できない面もあります。

提案を受けた場合は、指標と算定方法、判定の期間を書面で確認します。

アーンアウト条項の仕組みと注意点は、下記で詳しく解説しています。

アーンアウト条項とは?税務・会計処理や契約上の注意点を売り手目線で解説

分割払いは支払の遅れが争いになりアーンアウトは目標の解釈が争いになりやすい

争いの生じ方も異なります。 分割払いでは、支払われるかどうかが論点です。

アーンアウトでは、目標を達成したかどうかの判定が論点になります。会計処理の方法や、算入する費用の範囲で見解が分かれます。

どちらの仕組みかによって、契約で定める条項も変わります。提案の性質を確認し、FAと条項案を検討します。

売り手専属のFAの役割については、下記で解説しています。

M&AにおけるセルサイドFAとは?業務内容や仲介との違いも解説

買い手がM&Aの分割払いを提案する主な理由

提案には背景があります。いずれも買い手側の事情であり、売り手の利益になる理由ではありません。

理由が分かれば、条件交渉で何を求めるかも分かります。

主な理由は以下の3つです。

  • 調達資金が売却代金に届かない
  • 表明保証の違反に備えて代金の一部を手元に残したい
  • 売り手の経営者に引き継ぎへの協力を続けてほしい

それぞれを順に解説します。

調達資金が売却代金に届かない

多く見られるのが、資金の不足です。 手元資金と借入で総額に届かない場合、支払を分けることで取引を成立させようとします。

売り手にとっては、買い手の資力が十分でないという情報でもあります。資金の調達方法を確認する契機になります。

提案を受けたら、買収資金をどう用意する計画かを質問します。

表明保証の違反に備えて代金の一部を手元に残したい

買い手側の保険としての側面もあります。 引き渡し後に簿外債務や未払残業代が判明した場合、補償を求める原資として残代金を確保する狙いです。

補償の請求と残代金を相殺する定めが置かれることもあります。条項の有無で、回収できる金額が変わります。

契約書に相殺の定めがあるかを確認し、範囲と上限を交渉します。

表明保証条項と簿外債務の扱いについては、下記で解説しています。

M&Aにおける表明保証条項とは?重要性や内容、注意点を解説

M&Aにおける簿外債務の対策とは?種類やリスク、売り手側の確認ポイントを解説

売り手の経営者に引き継ぎへの協力を続けてほしい

引き継ぎへの動機づけとして使われる場合もあります。 残代金が残っていれば、売り手は協力を続ける立場になります。

協力の内容が曖昧なまま支払の条件とされれば、負担が際限なく広がります。求められる関与の範囲と期間を明確にする必要があります。

協力の内容、期間、業務量を契約書に具体的に書き込みます。

売却後に前オーナーが在籍する期間(ロックアップ)については、下記で解説しています。

M&Aにおけるロックアップとは?期間の相場・従業員への影響と売り手が知るべき注意点を解説

M&Aの分割払いで売り手が負う未回収のリスク

引き渡しが先行する以上、リスクは売り手に集中します。負うリスクは以下の4つです。

  • 買い手の資金繰りや業績が悪化すると支払が止まる
  • 契約の解釈の違いを理由に減額や支払の拒否を主張される
  • 契約を解除できても会社を取り戻すのは難しい
  • 買い手が倒産すると担保のない残代金は優先して回収できない

それぞれを順に解説します。

買い手の資金繰りや業績が悪化すると支払が止まる

支払は、買い手の資力に依存します。 契約時点で問題がなくても、数年の間に状況は変わります。

影響しやすいのは次の要因です。

  • 買い手本体の業績悪化
  • 買収した事業が想定どおり伸びない
  • 他の投資や借入の返済が重なる

支払期間が長いほど、状況が変わる余地は大きくなります。期間を短くする交渉が、最初の備えになります。

契約の解釈の違いを理由に減額や支払の拒否を主張される

解釈の違いが、支払の停止に使われる場合もあります。 表明保証の違反や引き継ぎの不履行を理由に、支払を留保すると主張される形です。

主張の当否を争えば、時間と費用がかかります。決着するまで残代金は入りません。

表明保証の範囲と補償の上限、相殺の可否を契約で明確にします。

契約を解除できても会社を取り戻すのは難しい

解除しても、原状回復は容易ではありません。 引き渡しから時間が経つほど、会社の状態は変わります。

従業員が入れ替わり、取引先との関係も変化する可能性があります。買い手が新たな借入を起こしていれば、財務内容も異なります。

中小M&Aガイドライン 参考資料7 各種契約書等サンプル|中小企業庁

解除は最後の手段であり、実効性は限られます。解除に頼らない備えを用意する必要があります。

買い手が倒産すると担保のない残代金は優先して回収できない

避けたいのが、買い手の倒産です。 残代金の債権は、担保がなければ他の債権者と同じ扱いになります。

金融機関の借入には担保が付いているのが通常です。担保のない債権は、配当を受けられたとしても一部にとどまります。

買い手の信用状態は、契約の時点で確認できても数年先までは読めません。担保や保証の要否を検討します。

担保や保証を確保するかどうかが、回収の可否を分けます。

M&Aの分割払いを受け入れる前に買い手候補の支払能力を確かめる方法

受け入れる前に、相手を調べます。分割払いを提案された以上、買い手候補の資力を確認します。確かめる方法は以下の3つです。

  • 買収資金を自己資金と借入のどちらで用意するかを確認する
  • 買い手候補の決算書と税務申告書で財務状況を確認する
  • 過去のM&Aでトラブルを起こしていないかを確認する

それぞれを順に解説します。

買収資金を自己資金と借入のどちらで用意するかを確認する

資金の出どころを確認します。 自己資金であれば、支払の確実性は高くなります。

確認する内容は次のとおりです。

  • 初回の支払に充てる資金の出どころ
  • 借入の場合、金融機関との協議の状況
  • 残代金をどの資金から支払う計画か

中小M&Aガイドライン(第3版)|中小企業庁

回答が曖昧であれば、資力に懸念があります。書面での提示を求めます。

買い手候補の決算書と税務申告書で財務状況を確認する

買い手候補の財務も調べます。 売り手だけが調査を受ける立場ではありません。

確認する項目は次のとおりです。

  • 直近3期の売上、利益、純資産
  • 借入の残高と返済の状況
  • 手元の現預金

開示を求めるのは、分割払いを提案された以上は当然の要請です。開示に応じない相手は、姿勢自体が判断材料になります。

過去のM&Aでトラブルを起こしていないかを確認する

過去の行動も参考になります。 同じ相手が繰り返す可能性があるためです。

確認する経路は次のとおりです。

  • 支援機関を通じた照会
  • 過去に譲り受けた会社の現在の状況
  • 公開されている情報や報道

中小M&Aガイドライン|中小企業庁

支援機関に対し、買い手候補の適格性をどう確認しているかを質問します。

買い手候補の探し方と打診の進め方は、下記で解説しています。

M&Aの買い手の探し方とは?5つのルートと打診の進め方を売り手目線で解説

買い手候補を見極める際の注意点は、資料でも確認できます。無料でダウンロードできます。

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分割払いの売却代金を回収するための5つの備え

やむを得ず条件を受け入れる場合は、備えを用意します。取りうる手段は以下の5つです。

  • 初回の支払額を大きくして支払期間を短くする
  • 支払が遅れたら残額を一括で請求できる条項を入れる
  • 買い手の代表者などに連帯保証人になってもらう
  • 強制執行認諾文言付きの公正証書を作成する
  • 残代金を払い終えるまで売却した株式に質権を設定する

それぞれを順に解説します。

初回の支払額を大きくして支払期間を短くする

基本となる備えが、支払条件の交渉です。 分割払いを受け入れると決めた後も、一括に近づける交渉は続けます。受け取り終えるまでの期間が短いほど、リスクにさらされる時間も短くなります。

交渉する項目は次のとおりです。

  • クロージング時に受け取る金額の割合
  • 分割の回数と完済までの期間
  • 各回の支払期日

初回で大部分を受け取れれば、未回収となる金額も限られます。譲れない下限を決め、交渉に臨みます。

支払が遅れたら残額を一括で請求できる条項を入れる

遅延に備える条項も置きます。 期限の利益の喪失とは、支払を分割で行う権利を失い、残額を直ちに支払う義務が生じることを指します。

民法第137条には期限の利益の喪失に関する定めがありますが、実務では契約で事由を具体的に定めます。

民法(e-Gov法令検索)

1回でも支払が遅れた場合、他の債務で差押えを受けた場合などを事由として列挙します。遅延損害金の率も併せて定めます。

買い手の代表者などに連帯保証人になってもらう

人的な担保を確保する方法もあります。 買い手が法人であれば、代表者個人に連帯保証を求めます。

連帯保証人は、買い手と同じ責任を負います。法人の資力が尽きても、個人の資産から回収できる余地が残ります。

買い手が投資会社などであれば、親会社による保証を求める形もあります。

保証人の資産状況も確認します。形だけの保証では意味がありません。

強制執行認諾文言付きの公正証書を作成する

回収の手続きを短縮する方法もあります。 公正証書とは、公証人が作成する公文書です。

金銭の支払について、債務者が直ちに強制執行に服する旨の文言を入れておけば、支払がなかった場合に訴訟を経ずに強制執行を申し立てられるとされています(民事執行法第22条第5号)。

日本公証人連合会

作成には買い手の協力が必要です。契約交渉の段階で、作成を条件として提示します。

残代金を払い終えるまで売却した株式に質権を設定する

物的な担保を確保する方法もあります。 譲渡した株式に質権を設定し、支払がなければ実行できる状態にします。

会社法第146条以下は、株式への質権の設定と対抗要件について定めを置いています。

会社法(e-Gov法令検索)

設定には所定の手続きが必要です。株式に譲渡制限が付されていれば、会社の承認も関わります。

買い手が応じるかは交渉によります。設定の可否と手続きを弁護士などの専門家へ確認し、条項案を検討します。

最終契約で確認したい項目は、弁護士監修のチェックリストにまとめています。

【無料資料】最終契約前に弁護士と共に確認するべき契約書の項目

分割払いで受け取る売却代金に税金がかかる時期

代金の受け取りと納税の時期は、一致しません。押さえる点は以下の3つです。

  • 個人が株式を売ると原則として引き渡した日に代金の総額が収入になる
  • 法人が株式を売ると契約をした日の事業年度に譲渡損益を計上する
  • 代金を受け取り終える前に納税の時期が来ることがある

それぞれを順に解説します。

個人が株式を売ると原則として引き渡した日に代金の総額が収入になる

個人の場合、引き渡しの日が基準です。 国税庁の通達は、株式等に係る譲渡所得等の総収入金額の収入すべき時期について、株式等の引渡しがあった日によるとしています。

ただし納税者の選択により、譲渡に関する契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときは、当該申告も認められるとされています。

措置法関係通達|国税庁

実際に受け取った金額ではなく、契約で定めた総額が収入金額になります。

法人が株式を売ると契約をした日の事業年度に譲渡損益を計上する

法人の場合は、契約の日が基準です。 法人税法第61条の2第1項は、有価証券の譲渡による損益について、譲渡に係る契約をした日の属する事業年度に計上する旨を定めています。

法人税法(e-Gov法令検索)

一定の要件のもとで引渡日を基準とする扱いも認められています(法人税基本通達2-1-22)。

法人税基本通達|国税庁

いずれにせよ、代金の入金時期とは連動しません。自社が法人株主であれば、計上の時期を税理士へ確認します。

代金を受け取り終える前に納税の時期が来ることがある

手元にない代金にも、税金がかかります。 3年に分けて受け取る契約でも、課税は引き渡しの年に生じます。

初回の受取額が小さければ、納税資金が不足します。残代金が支払われなければ、受け取っていない金額に対して納税した状態が残ります。

初回の受取額を決める際は、納税額を先に試算します。税理士へ概算を依頼し、初回で納税資金を確保できる条件を交渉します。

会社売却にかかる税金の計算と確定申告については、下記で詳しく解説しています。

会社売却後にかかる税金は?計算方法や確定申告、税引後手取りを増やす対策を解説

M&Aの分割払いに関するよくある質問

M&Aの分割払いについて、相談の現場で多く寄せられる質問を3つ取り上げます。途中で支払が止まった場合の対応、回数や期間の目安、支援機関への説明の求め方の3点です。

買い手が分割払いの途中で支払を止めたらどう対応すればよいですか?

まず書面で支払を請求し、記録を残します。次に契約書の期限の利益の喪失条項を確認し、残額の一括請求が可能かを判断します。公正証書があれば強制執行の申立てを検討できます。対応の順序を誤ると回収が遠のくため、早い段階で弁護士へ相談します。

分割払いの回数や期間に目安はあるのですか?

一律の目安はありません。買い手の資力と交渉によって決まります。売り手として重要なのは回数より、クロージング時に受け取る割合と完済までの期間です。分割払いは、原則として受け入れないことが望ましいです。受け入れる場合でも、最低限納税資金を初回で確保できるかを基準に、条件を組み立てます。

M&Aの支援機関に分割払いのリスクの説明を求めることはできるのですか?

支援機関には、依頼者への説明が期待される事項があります。分割払いの条件を提示された場合は、未回収となる可能性と対応策について、書面での説明を求めます。口頭の説明だけでは記録が残りません。

中小M&Aガイドライン 参考資料12 最終契約におけるリスク事項についての説明書サンプル|中小企業庁

まとめ

M&Aの分割払いでは、会社を先に引き渡し、残代金は買い手の資力に委ねられます。総額が同じでも、一括払いとは負うリスクが異なります。売り手の立場では、分割払いもアーンアウトも、原則として避けたい条件です。

要点は以下のとおりです。

  • 分割払いは総額が確定しており、争点は支払われるかどうかに絞られる
  • 解除しても会社を取り戻すのは難しく、倒産すれば担保のない債権は回収しにくい
  • 備えは、初回額と期間の交渉、一括請求条項、連帯保証、公正証書、質権の5つ
  • 個人の場合、原則として引き渡した日に代金の総額が収入金額になる
  • 代金を受け取り終える前に納税の時期が来るため、初回額で資金を確保する

まず検討したいのは、分割払いを前提としない買い手候補を探すことです。 条件を受け入れるかは、備えとセットで判断します。

まずは提示された支払条件と、初回に必要な納税額を並べて確かめてください。

支払条件を含む売却の進め方と注意点は、こちらの資料でも確認できます。

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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