「支援する人が一人から二人になった」——調印から1時間後、社長が社員に語ったこと
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- 成約実績
公開日:2026.09.21
2026.09.21
更新日:2026.09.21
2026.09.21
| 企業名 | 株式会社ソルトワークス |
|---|---|
| 事業内容 | WEB・アプリサービスの企画・制作・運営事業 |
| ホームページ | https://saltworks.jp |
2026年3月17日、札幌。株式会社ソルトワークスでは、正午の株式譲渡契約の調印から1時間後に、社員約50人を集めた全社説明会が開かれました。説明に立ったのは、社長を続投する創業オーナーの鶴尾 康氏と、譲受側であるオーナーズ代表の作田 隆吉です。
あの日、社員には何が語られたのか。その後、何が変わり、何が変わらなかったのか。鶴尾氏と、当社代表の作田の両名に伺いました。
正午に調印、13時に全社説明会
――発表当日の流れを教えてください。
鶴尾社長: 正午に調印し、その1時間後の13時から全社説明会を開きました。
全社発表の前には、経営幹部、GM層の順に背景を説明しました。
――会場の雰囲気はいかがでしたか。
鶴尾社長:社員は当然、かなり緊張していました。僕自身も、もし納得できないという社員がいれば、夜中まででも話をするつもりでした。それくらい、きちんと自分の言葉で説明することが大事だと思っていました。
「支援する人が一人から二人になった」――会社は変わらないと伝えるために
――どのような言葉で伝えたのですか。
鶴尾社長:「株は譲渡したけれど、僕はそのまま社長を続けるし、会社が大きく変わるわけではない。簡単に言えば、みんなを支援する人が一人から二人になったと思ってほしい」と説明しました。
――作田さん本人が話すことに、どのような意図があったのですか。
鶴尾社長:作田さんにも、ご本人の口から社員に説明していただきました。
新しい株主がどんな考えで会社を引き受けたのか。それを株主本人から直接聞けるかどうかで、社員の安心感は大きく違うと思ったからです。
――社員からは、どのような質問や反応がありましたか。
鶴尾社長:多かったのは、本社からどのような指示を受けるのか、という趣旨の質問です。ただ、経営はある程度僕に任されていますから、「今は何一つ変えなくていい」と説明しています。
説明会は2回実施し、必要なメンバーには個別の説明も行いました。まだ2カ月ですが、(※2026年5月時点)この件を理由に辞めた社員はゼロで、強い不安の声が上がったこともありません。
「任せる経営」は、承継の前から始まっていた
――社員が動揺しなかった背景を、どう見ていますか。
鶴尾社長:3、4年前に経営のやり方を大きく変えたことが背景にあると思います。経営陣を一新し、僕より15歳から20歳ほど若いメンバーに権限を委譲していきました。昨年は年賀状シーズンに限ってマネージャー職まで経営会議に加わってもらい、各部門のKPIをすべて開示。KPIに届かない理由がUIにあるのか商品にあるのか、マネージャー単位で議論する会議に変えました。
その頃から、至る所で立ち話や議論が生まれ、改善のスピードが格段に速くなり、会社が本当に変わったと実感していました。
――現場から新しい事業が生まれるようになったそうですね。
鶴尾社長:数年前から、会社の経営をトップダウンからボトムアップへ変えてきました。その結果、現場から新しいサービスや事業のアイデアが生まれるようになりました。
僕が指示して生まれたものではなく、社員自身が考え、形にしていったものです。
その姿を見て、「この会社は、僕が全部決めなくても成長していける」と感じるようになりました。
年賀状以外の新しい事業についても、このやり方なら必ず成果につながっていく。今は確信に近いものを持っています。
後継者の壁は「資金」だった。承継後に進んだのは経営の「見える化」
――社員が会社を継ぐことには、どのような壁がありましたか。
作田:MBOによって承継を実現するケースも実際にあります。ただ、これまで個人保証や借入を背負ってきたわけではない社員が突然大きな資金負担を求められると、財務面のハードルは非常に高い。自分に経営が務まるのかという心理的な不安も大きいものです。
社内承継支援機構の形であれば、まず経営の仲間が増え、チームで経営する体制を作りながら、後継者が実際に経営を担ってみることができます。リスクを一度に背負うのではなく、試しながら進め、その先の形を我々と一緒に考えていくことができます。
――鶴尾社長は、移行までの期間をどう考えていますか。
鶴尾社長:永続保有という形で株式を持っていただく以上、迷惑をかけるわけにはいきません。企業としてきちんと成り立つ状態にして渡したい。だからこそ一定期間は僕が社長を続け、次の世代が担えるようになるまで務めなければならないと考えています。
――発表から約2カ月。社内で変わったことはありますか。
鶴尾社長:当社はもともと財務が弱く、経理は僕の兼務で、小口現金を扱うスタッフが一人いるだけの体制でした。現在はオーナーズからCFOとして入っていただいており、非常に助かっています。
事業部の仕事の進め方や社風に大きな変化はありません。一方で、予実管理や事業計画の策定といった、これまで明確に運用してこなかった管理面の整備が進み始めました。負荷は決して軽くありませんが、むしろ良いことの方が多いと受け止めています。
「思い切りやれる環境」を、次の経営世代へ
――「永続保有」という方針を、社員はどう受け止めていますか。
鶴尾社長:「自分たちはここにいていい」「価値がある会社だと認められた」——そのように受け止めてくれたと感じています。大きな安心材料になったと思います。
――最後に、次の世代への期待を聞かせてください。
鶴尾社長:“オタク”と呼ばれるくらい何かに夢中になれる人は、自分が本当にやりたいことに取り組んだとき、ものすごい力を発揮します。野球でもサッカーでも、上達する一番の理由は「好きだから」だと思うんです。ビジネスも同じです。
だから僕がこれからやるべきことは、社員に細かく指示することではなく、次の世代が自分たちの好きなこと、やりたいことに思い切り挑戦できる環境を残すことだと思っています。
その中から、ソルトワークスの次の時代をつくる人たちが出てきてくれたら、それが一番うれしいですね。
作田:鶴尾社長が当面続投されることで、後継者の選定と育成には時間的な余裕が生まれています。鶴尾社長と連携して、じっくり次期経営体制を検討していきたいと考えています。
編集後記
調印から1時間後の全社説明会と、株主本人による方針説明。社員が「知らないうちに決まっていた」と感じる時間を最小化する設計でした。
約2カ月時点で退職者が出ていない事実は、その設計と、数年前から進んでいた権限委譲・KPI全社開示という土台に支えられています。
株式の移転は、既に始まっていた「任せる経営」に資本の裏付けを与えたものといえます。
株式譲渡は「会社が売られた」という受け身の出来事とは限りません。買取資金という最大の壁を仕組みで外し、段階的に経営を担い始められる形が用意されたとき、承継は社員が経営の当事者に近づく入口になり得ます。
ソルトワークスの社内承継に関する鶴尾社長の思いを伺った前編記事はこちらからご覧ください。
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