第三者への譲渡検討から役員によるMBOへ──専門商社オーナーが納得の価格で実現した社内承継の舞台裏

2026.07.17

公開日:2026.07.17

2026.07.17

2026.07.17

更新日:2026.07.17

2026.07.17

第三者への譲渡検討から役員によるMBOへ──専門商社オーナーが納得の価格で実現した社内承継の舞台裏

後継者不在に悩む金属部品専門商社のオーナーは、当初、第三者への譲渡を検討していました。しかし、価格を含む提案を役員に共有したところ、「自らが会社を買い取りたい」という申し出があり、役員によるMBO(社内承継)へと方針が転換します。

相続税評価に基づく低い株価と、M&A実務における株価との価格ギャップをどう乗り越え、納得のいく価格で承継を実現したのか。本案件を担当した吉田・小野木が、その舞台裏を語ります。

株価算定シミュレーター

案件概要

業種金属部品専門商社
所在地首都圏
従業員数約30名
譲渡理由後継者不在に伴う事業承継
成約時期2026年3月
成約スキーム役員によるMBO(SPC設立・金融機関融資による株式譲渡)
案件担当者吉田 一陽・小野木 幹人

オーナー様が事業承継を検討された背景を教えてください。

吉田:先代が創業された会社を、中継ぎの経営者を挟んで代表取締役として長年経営されてきた中で、事業承継の方法を模索されていました。当初は第三者への譲渡をご希望されており、実際に候補先企業から意向表明書を受領し、その候補先とプロセスを進めることを検討されていました。

小野木:最初にご相談いただいた際には、親族内に後継者がいない中で、事業承継の方法としてM&Aによる外部売却を念頭に検討されていました。ただ、株式の大半を保有されていたご親族のご意向もあり、すぐに売却へ動ける状況ではありませんでした。そのため当初は、ご家族内での合意形成が進むまで、オーナー様との関係維持を念頭に、状況の確認程度に留めていました。

第三者への譲渡から、役員によるMBOへ方針が変わった経緯は?

小野木:ご家族内での合意形成が進み、オーナー様がM&Aを進めようと考えられたタイミングで、改めてご相談をいただきました。外部売却でプロセスを進め、実際に候補先から価格を含む提案を受けることとなりました。しかし、その提案を共有した役員の中から、自身がオーナー社長として会社を承継したいという方が現れ、売り手であるオーナー様への支援という形で、社内承継のご支援がスタートしました。

吉田:後継社長候補として考えられていた役員の方にその話をご相談されたところ、第三者に譲渡するのではなく、自らが会社を買い取るMBOを行いたいという申し出があったのです。候補先から意向表明書という具体的な提案をもらっていたからこそ、案件が動き出したように思います。オーナー様としては、長く続いてきた会社であるため、従業員や取引先が守られる形での事業承継を望まれており、MBOという形でその実現が叶ったことは良かったと考えています。

オーナー様が重視されていたことは何ですか?

小野木:優先順位が高かったのは、価格とスケジュールです。売却の相手が社内の役員の方でしたので、交渉に時間をかけることは避けたい。価格については、外部売却で進めた場合の価格提案と大きな乖離がなければ、という判断軸で、速やかな合意を重視されていました。

吉田:すでに第三者の候補先から価格を含む提案を受領していたこともあり、MBOだからといって譲渡対価が大きく見劣りすることは避けたい、というご希望がありました。また、後継者の方とMBOの協議を進める中では意見の相違が出る場面もあり、できるだけ速やかにプロセスを進めたいというご要望も強くお持ちでした。私たちとしても、後継者の方がスムーズに事業承継を行い、速やかに新体制でスタートできるよう、時間軸を見据えてプロセスが円滑に進む助言を心がけました。

本案件で最も苦労された点を教えてください。

吉田:後継者候補の方が金融機関と協議した結果として、株価の提案を受けた場面が最大の難所でした。金融機関側が紹介した税理士の方も同席され、相続税評価額に基づく株価の説明がなされたのですが、これはM&Aの実務における株価とは前提が大きく異なるものでした。当社もその面談に同席していたため、相続税評価額とM&Aにおける株価は全く別のものであることを後継者候補と税理士の双方にご説明し、両者が納得できる着地点を探るところに苦労しました。

小野木:買い手である役員の方はM&Aに関する専門知識をお持ちでない中で、株価の算定を金融機関から紹介された税理士に依頼されていました。その算定ロジックがM&Aのプラクティスとは異なる税務上の評価によるもので、しかも外部候補先の提案よりも低い水準だったため、この価格ギャップのすり合わせが本案件最大の論点となりました。

その価格ギャップを、どのように乗り越えたのですか?

吉田:細かい論点の積み重ねです。本案件の前提となった第三者からの提案の存在、後継者の方が保守的に見積もっていた事業計画の前提、そして現金同等物として評価されるべき科目の計上漏れ。こうした点を一つひとつ指摘し、適切な株価評価がなされるよう助言を行いました。

小野木:MBOを行う役員の方は、ご自身が引き継いだ後の資金繰りを非常に気にされていました。そこで、価格を引き上げてローンの残高が増えたとしても資金が十分に回ることを示すため、金融機関が作成した事業計画では考慮されていなかった税務上のメリットや現預金同等物を漏れなく織り込んだキャッシュフローモデルを当社で作成し、役員の方にご提示しました。買い手側が論拠とされていた内容を具体的に精査し、納得せざるを得ないロジックと事実を積み上げた結果、役員の方にもご納得いただいた上で、価格の上乗せに合意いただくことができました。

売り手側のFAだからこそできたことはありますか?

吉田:そもそもMBOは、M&A仲介が関与するような案件ではなく、仲介では支援が難しい領域だと考えています。

当社は売り手専属のFAですから、税務上の評価に基づく低い株価が示された際にも、M&Aの実務における株価とは異なることを明確に指摘することができました。

小野木:MBOでは、買い手側にローンを実行する金融機関の意見が、株価算定にも強く反映されやすい構造があります。保守的な事業計画を前提とすれば、株価は低い水準になりがちです。その中で、買い手側と利害関係のない当社だからこそ、売り手であるオーナー様のために一歩も引かずに交渉することができたと考えています。

価格以外に調整が必要だった論点はありますか?

吉田:退任される役員の方への退職慰労金の整理がありました。役員退職金規程が整備されており、過去の退任役員への支給事例もあったため、規程に則った金額を支給する方針とし、支給額によって手取りがどのように変化するかのシミュレーションも行った上で結論を出しています。

小野木:退任役員の方には、過去の事例に基づく手取り額のご期待がありました。そこで、退職慰労金と自社株式の買取りを組み合わせる形で、双方が納得できる着地点を探りました。

成約の結果と、成約後のオーナー様のご様子を教えてください。

吉田:ご希望の水準の株価を確保し、4月から新体制で事業をスタートさせることもでき、当初のご希望をすべて満たす形で成約に至りました。株式譲渡契約書や、引き継ぎに関する業務委託契約書の内容も確認させていただき、安心いただける契約になったと考えています。

オーナー様は、気になることがあれば電話やメールでよくご連絡をくださる方で、その都度すぐにお答えするようにしていました。成約後には、社内の人間への譲渡であっても売主と買主という立場での交渉は確かに存在し、初めてのM&Aで慣れないことも多かったものの、「不安に思ったことにすぐ回答をもらえて、安心してプロセスを進めることができた」とのお言葉をいただきました。

小野木:価格やスケジュールだけでなく、売却後のオーナー家の役員の方々の会社への関わり方についても、その後の人生設計のご希望に沿った形で業務委託契約に反映できるよう助言できたことは、大きな成果だったと考えています。

照会事項への素早く丁寧な対応についても、非常に心強く助かったとの感謝のお言葉をいただきました。

M&Aや社内承継を検討中のオーナー様へ、伝えたいことはありますか?

吉田:本件に限らず、社内の役職員によるMBOの事例は増えています。

第三者への譲渡だけでなく、MBOであっても十分な対価を受け取った上で事業承継を実現できるようになっています。ただ、MBOで直面する課題の一つが、正当な価格をどう評価するかということです。

本件のように、実際に第三者から受領した意向表明書などの提案が、MBOを公平な価格で実現するためのベンチマークになるケースを複数見てきました。社内承継を考えているものの、どう進めて良いか分からないという段階でも、お気軽にご相談いただければと思います。

小野木:MBOは、相手が身内であるがゆえに、売り手のオーナーが交渉面で心情的に強く出にくく、普段顔を合わせるやりにくさもあります。適切なアドバイザーがいない場合には、お互いの議論が噛み合わず、話が前に進まないことも起こり得ます。外部への売却に限らず、売却後に後悔することがないよう、MBOにおいても当社のようなFAを付けることをぜひご検討いただきたいと思います。

本案件の担当者より

吉田 一陽

吉田 一陽

パートナー・執行役員

小野木 幹人

小野木 幹人

ディレクター

吉田 一陽

第三者へのM&Aの検討から、役職員によるMBOへと事業承継の方針が変わる中で、お客様の柔軟なご対応とお考えのおかげで、スムーズな成約につなげることができたと考えております。MBOの進め方についても私自身多くを学ばせていただいた案件となりました。この度は当社をご任用いただき、誠にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

小野木 幹人

中小企業のオーナーの方にとって、親族外である役員の方への会社の売却は、選択肢として漠然と考えることはあっても、実際に実行に移すとなると、経済条件や交渉面で難しい局面が数多く存在します。そのことを、今回オーナー様へのアドバイスを通じて改めて学ばせていただきました。外部売却の検討からMBOへという経緯の中で、当社のサービスを続けてご利用いただき、ご評価いただけたことに大変感謝しております。

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ株式会社 )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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