分割承継法人とは?分割法人との違いと売り手が知っておきたい5つの税務の論点
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- M&Aのスキーム
公開日:2026.11.04
2026.11.04
更新日:2026.11.04
2026.11.04
分割承継法人は、会社分割で事業や資産を受け取る側の会社を指す法人税法上の言葉です。分割法人との違い、会社法での呼び方、売り手が分割承継法人を使う場面、確認したい5つの税務の論点、契約と従業員の扱いを解説します。

税理士から「分割承継法人の株式を売るなら、適格にならないかもしれない」と言われた。会社分割を使った売却を考え始めると、聞き慣れない言葉が次々に出てきます。分割承継法人は、会社分割で事業や資産を受け取る側の会社を指す、法人税法上の言葉です。受け取る側と渡す側のどちらの立場かで、税金のかかり方が変わります。本記事では、分割承継法人の意味と会社法上の呼び方を説明したうえで、売り手が分割承継法人を使う場面を解説します。あわせて、確認したい5つの税務の論点と、契約と従業員の扱いを示します。
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分割承継法人とは
分割承継法人とは、会社分割によって、分割法人から資産や負債の移転を受けた法人のことです。法人税法で定められた言葉で、事業を受け取る側の会社を指します。
反対に、分割法人とは、会社分割によって自社の資産や負債を移転した法人のことです。事業を渡す側の会社を指します。
| 用語 | 立場 | 売り手から見た例 |
|---|---|---|
| 分割法人 | 事業を渡す側 | 事業を切り出す売り手の会社 |
| 分割承継法人 | 事業を受け取る側 | 事業を受け入れる買い手の会社、または新しく作る会社 |
法人税法第2条第12号の2と第12号の3は、分割法人を分割により資産及び負債の移転を行った法人、分割承継法人を分割により分割法人から資産及び負債の移転を受けた法人と定めています。
会社分割の税務では、分割法人と分割承継法人のそれぞれに課税関係が生じます。自社がどちらの立場になるのかを、検討の最初に確認します。
分割承継法人は会社法では承継会社や設立会社と呼ばれる
同じ会社を指していても、法人税法と会社法では呼び方が異なります。会社法では、会社分割の方法によって次のように呼び分けます。
| 分割の方法 | 事業を渡す会社 | 事業を受け取る会社 |
|---|---|---|
| 吸収分割(既存の会社に移す) | 吸収分割会社 | 吸収分割承継会社 |
| 新設分割(新しい会社を作って移す) | 新設分割会社 | 新設分割設立会社 |
法人税法上の分割承継法人は、会社法上の吸収分割承継会社と新設分割設立会社の両方を含む言葉です。
法人税法では、分割の対価を誰が受け取るかによっても区分します。対価を分割法人が受け取る場合を分社型分割、分割法人の株主が受け取る場合を分割型分割と呼びます。
契約書は会社法の言葉で、税務の書類は法人税法の言葉で書かれます。書類を読むときは、両方の呼び方を対応させて確認します。
会社分割の仕組みや吸収分割と新設分割の違いについては、下記で詳しく解説しています。
M&Aにおける会社分割とは?吸収分割と新設分割の違いやメリットも解説
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売り手が会社分割で分割承継法人を使う3つの場合
売り手の立場から見ると、分割承継法人を使う場面は大きく3つあります。代表的な場面は以下のとおりです。
- 事業の一部を買い手の会社に移して売る場合
- 新しい会社に事業を移してから株式を売る場合
- グループ内で事業を分けてから売却する場合
それぞれを順に解説します。
事業の一部を買い手の会社に移して売る場合
買い手の会社を分割承継法人として、事業の一部を直接移す方法があります。 吸収分割と呼ばれる方法です。
売り手の会社が分割法人、買い手の会社が分割承継法人になります。売り手の会社は、移した事業の対価として、買い手の株式や金銭を受け取ります。
事業譲渡と同じく一部の事業を売れますが、契約や従業員が分割契約に従ってまとめて移る点が異なります。移す事業の範囲と対価の形を、買い手候補と協議します。
一部の事業を売る際の会社分割と事業譲渡の選び方は、下記で解説しています。
会社分割と事業譲渡の違いとは?一部事業を売る売り手の5つの判断軸を解説
新しい会社に事業を移してから株式を売る場合
新しく作った会社に事業を移し、新しい会社の株式を売る方法もあります。 新設分割で分割承継法人を設立し、株式譲渡で買い手に渡す二段階の方法です。
買い手は、売り手の会社のうち必要な事業だけが入った会社を、株式譲渡で取得できます。売り手には、譲らない事業を元の会社に残せる利点があります。
一方で、後述のとおり税務上の論点が多い方法です。株式を売る予定を含めて、分割の前に税理士などの専門家と手順を設計します。
グループ内で事業を分けてから売却する場合
グループ内で事業を分けてから、一部の会社を売却する場合もあります。 複数の事業を持つ会社が、売る事業と残す事業を別の会社に分けておく使い方です。
売却の候補を探す前に事業を分けておけば、買い手候補に示す事業の範囲が明確になります。事業ごとの損益も把握しやすくなります。
分けた後に株式の持ち方がどう変わるかで、税務の扱いが変わります。グループの株式の保有関係を図にして、分割の後の姿を確認します。
事業の一部を切り出して売却する方法については、下記もあわせてご覧ください。
カーブアウトM&Aとは?事業の一部を売却する3つのスキームと注意点を解説
M&Aによるホールディングス化とは?スキームやメリット、注意点も解説
分割承継法人で売り手が確認したい5つの税務の論点
会社分割の税務は、売り手の手取りに影響します。分割の手順を決めた後では変えにくい論点ばかりです。確認したい論点は以下の5つです。
- 適格分割か非適格分割か
- 新設分割の後の株式の売却
- 新設の分割承継法人の消費税の納税義務
- 減価償却資産の引き継ぎ方
- 賃上げ促進税制の調整
それぞれを順に解説します。
適格分割か非適格分割かで分割法人の課税が変わる
会社分割が税務上の適格分割にあたるかどうかで、分割法人にかかる税金が変わります。 適格分割であれば、移す資産や負債は帳簿価額で引き継がれ、分割の時点では譲渡益に課税されません。
非適格分割であれば、資産や負債を時価で移したものとして扱われ、含み益があれば分割法人に法人税がかかります。
適格分割にあたるのは、主に次の3つの類型です(法人税法第2条第12号の11)。
- 完全支配関係がある場合
- 支配関係があり、従業者のおおむね80%以上の引き継ぎなどの要件を満たす場合
- 共同で事業を行うための分割として一定の要件を満たす場合
どの類型に当てはまるかを、分割の計画段階で税理士などの専門家に確認します。
新設分割の後に株式を売る予定があると適格要件を満たしにくい
新設分割で作った分割承継法人の株式を売る予定があると、適格分割の要件を満たしにくくなります。 適格分割の多くは、分割の後も支配関係が続く見込みを要件としているためです。
国税庁の質疑応答事例は、分割型の単独新設分割が適格分割となるには、分割の後に同一の者と分割承継法人との間の完全支配関係が継続することが見込まれている必要があるとしています。
分割の時点で株式を第三者に売る予定があれば、支配関係の継続は見込めません。非適格分割になれば、分割の時点で含み益に課税されます。売却を前提とする場合は、事業譲渡や吸収分割と税負担を比べてから手法を決めます。
※参考:単独新設分割における「同一の者による完全支配関係」の判定について|国税庁
組織再編で税務上の問題が生じやすい場面については、下記で解説しています。
M&Aにおける組織再編の税務リスクとは?生じやすい3つの場面と売り手の対策
新しく設立された分割承継法人の消費税の納税義務は分割法人の売上で判定される場合がある
新設分割で設立された分割承継法人は、設立1期目から消費税の課税事業者になる場合があります。 本来、設立したばかりの会社は基準期間がないため、資本金が1,000万円未満であれば、原則として納税義務が免除されます。
消費税法第12条には、分割等があった場合の納税義務の免除の特例が設けられています。新設分割で設立された会社は、分割した側の会社の課税売上高をもとに計算した金額が1,000万円を超えると、設立1期目から納税義務を負います。
分割承継法人を新しく作る場合は、分割した側の会社の過去の課税売上高を確認し、設立初年度の消費税の扱いを事前に試算します。
減価償却資産の引き継ぎ方が適格か非適格かで変わる
分割承継法人が受け取る減価償却資産の扱いも、適格か非適格かで変わります。 適格分割では、分割法人の帳簿価額を引き継ぐのが基本です。
耐用年数の扱いは、分割の種類によっても異なります。国税庁の解説によると、適格分社型分割では、法定耐用年数、移転時の見積耐用年数、分割法人が使っていた見積耐用年数のいずれかを選べます。適格分割型分割では、分割法人が使っていた耐用年数(法定耐用年数、または分割法人が見積耐用年数を使っていた場合はその耐用年数)を引き継ぐとされています。
非適格分割であれば、時価で取得したものとして償却の基礎が変わります。移す資産の一覧を作り、分割の後の償却費を試算します。
※参考:適格合併等により移転を受けた減価償却資産の耐用年数(耐用年数通達1-5-13の解説)|国税庁
賃上げ促進税制などの適用で分割による調整が必要になる場合がある
会社分割があった事業年度に賃上げ促進税制を使う場合は、計算の調整が必要になることがあります。 賃上げ促進税制は、当期の給与等の支給額を前期と比べて税額控除の可否を判定する制度です。
分割で従業員が移れば、前期と当期の比較の前提が変わります。一定の組織再編成が行われた場合は、比較の基準となる給与等の支給額を調整して計算することとされています。
調整の計算は見落としやすいため、分割の前後で税額控除を予定している場合は、調整の要否を税理士などの専門家に確認します。
分割承継法人に移る契約と従業員の扱い
会社分割では、事業譲渡と異なり、権利と義務がまとめて移ります。個別の承諾が要らない代わりに、法定の手続きが多くなります。押さえたい点は以下の3つです。
- 契約や権利義務は分割契約に従って包括的に承継される
- 主に従事する従業員の労働契約は承継される
- 債権者保護の手続きが必要になる
それぞれを順に解説します。
契約や権利義務は分割契約に従って包括的に承継される
分割承継法人は、分割契約や分割計画に定めた権利と義務を包括的に承継します。 事業譲渡のように、契約の相手方から一つずつ承諾を得る必要は原則としてありません。
ただし、契約の中に、合併や分割、支配権の変動を理由に相手方が解除できる条項があれば、相手方との調整が要ります。
許認可も、業法の定めによって承継できるものとできないものがあります。たとえば建設業の許可は、建設業の全部を承継させる分割について事前に認可を受ければ、分割承継法人が建設業者としての地位を承継できます(建設業法第17条の2第3項)。一方、承継の規定がない許認可は、分割承継法人で新たに取得し直す必要があります。主要な契約の条項と許認可の承継の可否を、分割契約の作成前に確認します。
主に従事する従業員の労働契約は承継される
承継される事業に主として従事する従業員は、分割契約に定めがあれば、労働契約が分割承継法人に移ります。 手続きは労働契約承継法が定めています。
扱いは次のように分かれます。
- 主に従事し、分割契約に承継の定めがある:本人の同意なく承継される
- 主に従事するが、承継の定めがない:本人が異議を申し出れば承継される
- 主に従事していないが、承継の定めがある:本人が異議を申し出れば分割法人に残る
分割会社は、通知の前に、承継される事業に従事する従業員と労働契約の承継の有無などについて協議し、そのうえで対象の従業員に期限までに書面で通知します。株主総会の承認を要する株式会社では、通知期限日は株主総会の日の2週間前の前日です。通知の期限から逆算して日程を組みます。
※参考:労働契約承継法施行規則・指針の改正(リーフレット)|厚生労働省
債権者保護の手続きが必要になる
会社分割では、債権者を保護するための手続きが必要になる場合があります。 分割によって、債権者が回収できる財産が変わる可能性があるためです。
異議を述べることができる債権者がいる場合、会社は官報で公告し、把握している債権者には個別に催告します。債権者が異議を述べられる期間は、1か月以上と定められています。
異議を述べた債権者には、弁済や担保の提供などの対応が必要になります。債権者の一覧を作り、手続きの対象になる債権者を確認します。
分割承継法人に関するよくある質問
分割承継法人について、経営者から寄せられることの多い質問を3つ取り上げます。分割承継法人の仕訳の考え方、新設分割での事業年度の始まり、手続きにかかる期間の3点です。
分割承継法人の仕訳はどのように考えればよいですか?
受け入れた資産と負債を計上し、対価として交付した株式や金銭との差額を処理します。適格分割であれば分割法人の帳簿価額で、非適格分割であれば時価で受け入れるのが基本です。会計と税務で扱いが異なる場合もあるため、税理士などの専門家に確認します。
新設分割で設立された分割承継法人の事業年度はいつから始まりますか?
新設分割で設立された会社の最初の事業年度は、会社の設立の日から始まります。会社の設立の日は、設立の登記をした日です。最初の事業年度の終わりは、定款で定めた事業年度の末日になります。決算期の設定によっては、最初の事業年度が短くなります。
法人税基本通達1-2-1(設立第1回事業年度の開始の日)|国税庁
会社分割の手続きにはどのくらいの期間がかかりますか?
債権者が異議を述べられる期間が1か月以上必要なため、少なくとも1か月以上はかかります。株主総会の準備や従業員への通知、分割契約の作成を含めると、数か月かかる場合があります。売却の時期から逆算して着手します。
会社分割の登記の書類や流れについては、下記で解説しています。
まとめ
分割承継法人は、会社分割で分割法人から事業や資産を受け取る側の会社を指す、法人税法上の言葉です。会社法では、吸収分割承継会社や新設分割設立会社と呼ばれます。
要点は以下のとおりです。
- 適格分割なら帳簿価額で引き継がれ、非適格分割なら分割法人の含み益に課税される
- 新設分割の後に分割承継法人の株式を売る予定があると、適格の要件を満たしにくい
- 新設の分割承継法人は、設立1期目から消費税の課税事業者になる場合がある
- 主に従事する従業員の労働契約は、分割契約の定めに従って承継される
- 債権者が異議を述べられる期間は1か月以上で、手続きには数か月を見込む
会社分割を使った売却は、手順の順番で税負担が変わる場合があります。売却を前提にする場合は、分割の前に事業譲渡や株式譲渡と比べ、売り手に有利な手順を選んでください。
売却前に押さえておきたい注意点は、資料でも確認できます。
オーナーズ株式会社では、売り手に特化したFA(ファイナンシャル・アドバイザー)サービスを展開しています。専属のエージェントがお客様の理想の取引実現に向けて、お客様のご希望に即したサービスをとことん提供いたします。よりよい評価額での売却に向けたアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を削減した案件成約も実現可能です。 また、具体的な買いニーズを持っている企業のほか、業界・買い手企業分析に基づき事業親和性の高い企業を買い手候補としてご提案します。大手金融機関や大手M&A仲介、M&Aマッチングサービスとも連携しているため、買い手探索のルートが豊富です。 まずは一度、弊社の無料相談サービスをご利用ください。
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