食品卸業界のM&A相場はいくら?売却の手法やコツも解説!
公開日:2026.10.26
2026.10.26
更新日:2026.10.26
2026.10.26
食品卸業界は、食品メーカーや生産者から加工食品・菓子・冷凍食品・調味料・飲料・酒類・業務用食材などを仕入れ、スーパーや小売店、外食店、給食事業者などへ販売する事業領域です。商品の仕入れと販売だけでなく、多品目の在庫を持ち、温度帯に応じた保管と配送を行い、取引先の売場づくりや商品提案まで担うことで、メーカーと小売・外食をつなぐ役割を果たしています。
一方で、大手卸への取引の集約と取引先である小売業の再編、プライベートブランド(PB)の拡大による収益の圧迫、物流費と人件費の上昇、ドライバーや倉庫作業員の確保、取引先からの値下げや協賛の要請、経営者の高齢化と後継者不足など、複数の経営課題を抱えています。
こうした環境を背景に、取引先や商圏の獲得、取扱カテゴリーの補完、物流網の効率化などを目的として、大手・中堅の食品卸や食品メーカー、商社などが中小の食品卸の取得を検討・実行するケースがあり、中小の食品卸にとっても、売却や事業承継は検討対象となり得る選択肢の一つです。
本記事では、食品卸業界のM&Aを行う際の相場の考え方をはじめ、業界の現状や代表的な売却手法について解説します。
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食品卸業界の現状
食品卸業界は、全国規模でフルラインの商品を扱う大手卸と、特定の地域やカテゴリー(菓子、冷凍食品、業務用食材、酒類など)、特定の業態(外食・給食向けなど)に強みを持つ中小の卸で構成されています。中小の卸は、大手が効率よくカバーしにくい地域の小売店や外食店への小口配送、地場の生産者・メーカーとの関係を強みとしてきました。
市場環境をみると、販売額は名目では増加しています。経済産業省の商業動態統計によれば、2025年の卸売業の販売額は477兆4,630億円で前年比1.3%増となり、卸売業・小売業ともに5年連続の増加となりました。業種別では、食料・飲料卸売業の販売額は2025年10月に前年同月比6.7%増、12月に同3.8%増と、前年を上回る月がみられます。
※参考:経済産業省「商業動態統計 時系列データ」、同「商業動態統計 統計表一覧」、経済産業省 経済解析室「2025年小売業販売を振り返る」
ただし、この伸びには食品価格の上昇の影響が含まれているとみられ、取り扱う数量が増えているとは限りません。仕入価格の上昇分を取引先への販売価格に十分に転嫁できなければ、売上が増えても利益は残りにくくなります。取引先である小売業の再編が進むなかで、大手チェーンとの取引では価格や取引条件の交渉力が限られ、中小の卸ほど利益率の確保に苦しみやすい構造です。
物流面では、制度の変化がコストを押し上げています。トラック運転者については、2024年4月から時間外労働の上限が1年960時間以内とされ、拘束時間の上限も原則として1年3,300時間・1か月284時間・1日13時間とされました。多品目を小口で頻繁に届けることが求められる食品卸にとって、配送の効率化とドライバーの確保は避けて通れない課題です。
※参考:国土交通省 近畿運輸局「トラック運転者の改善基準告示(2024年4月適用)解説」
こうした環境のなかで、大手・中堅卸による地域卸の取得、食品メーカーや商社による流通機能の取り込み、物流網や取扱カテゴリーの補完を目的とした統合など、食品卸業界のM&Aは業界再編と結びついて検討・実行されるケースが見られ、事業承継や経営基盤の強化を目的にM&Aが選択肢として検討される場面があります。
関連する業界の相場については、下記もご参照ください。
食品卸業界でM&Aを行うのはなぜ?売却の理由を紹介
食品卸業界でM&Aが検討される理由は、主に「事業承継」と「取引条件の圧迫・物流コストの上昇など業界固有の経営課題への対応」の二つに整理できます。
まず、事業承継の観点では、帝国データバンクの調査によれば、2025年の全国の後継者不在率は50.1%と、なお半数の企業で後継者が決まっていない状況です。地域の食品卸でも、経営者の高齢化が進む一方で、メーカー・生産者や取引先との長年の関係、地域の商習慣を引き継げる後継者を確保できず、事業承継が課題となるケースがあるとみられます。
事業承継の選択肢の比較については、下記で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
事業承継とM&Aの違いとは?3つの承継方法と後悔しない相談先の選び方を解説
※参考:帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2025年)」
次に、業界固有の経営課題への対応という観点では、取引先からの値下げや協賛の要請への対応、物流拠点や冷凍・冷蔵設備の更新、配送体制の見直し、受発注のシステム化、取引先の与信管理などに、中小企業が単独で取り組むには、資金面・人材面で負担が大きくなる場合があります。大手・中堅卸の傘下に入ることで、仕入条件の改善、共同配送、物流センター、システムなどについて、買い手候補の経営資源を活用できる可能性があります。
また、食品卸業界のM&Aでは、扱う商品や施設に応じた許認可の承継方法が、スキームによって異なる点に注意が必要です。
一つは食品衛生法です。冷凍・冷蔵の保管や食品の小分けなど、扱い方や施設によっては、食品衛生法に基づく営業の許可や届出が必要となります。令和5年12月13日以降、食品衛生法に関する許可または届出に関する事業の全部を第三者に譲渡した場合には、譲受人が新たに許可申請や届出を行う必要はなく、地位の承継届を提出することで営業者を変更できるようになりました。ただし、事前に保健所へ相談することが求められています。なお、地位の承継が認められるのは許可・届出に関する営業の全部を譲渡する場合に限られ、一部の譲渡には適用されません。
※参考:東京都保健医療局「事業譲渡による営業許可・届出の地位の承継について」
もう一つは酒類の販売業免許です。国税庁は、酒類卸売業免許について「分離分割及び営業の譲受けの場合の免許審査項目」を設けており(法令解釈通達 第2編第9条第1項関係15「営業の譲受けに伴う酒類卸売業免許の取扱い」)、卸売業では営業の譲受けに伴う免許の審査の枠組みがあります。一方で、酒類小売業免許では「営業の譲受」は行うことができないとされているため、卸と小売の両方の免許を持つ事業者が事業譲渡を選ぶ場合は、免許ごとに扱いが異なる点を事前に確認する必要があります。法人格が継続する株式譲渡であれば、役員変更等の異動申告で足りるのが原則です。
※参考:国税庁「酒類販売業免許の新規取得者名等一覧(免許審査項目)」、国税庁「免許通知書の項目に変更があった場合等の主な手続き一覧」
食品卸業界での企業売却方法は?3種類を紹介
食品卸業界のM&Aでは、売却対象(会社全体か、特定のカテゴリーや拠点か)、食品衛生法上の許可・届出や酒類販売業免許、物流拠点と車両、取引先・仕入先との契約、従業員との雇用関係の扱いによって、適した手法が変わります。
代表的な手法は以下の3つです。
- 株式譲渡
- 会社分割
- 事業譲渡
食品卸のM&Aでは、食品衛生法上の許可・届出の承継(事業の全部の譲渡の場合の地位承継届)、酒類卸売業・小売業免許の承継方法の違い、メーカーとの特約店・代理店契約の承継、取引先との取引基本契約とリベート・センターフィー・返品などの取り決め、物流拠点・冷凍冷蔵設備・車両の権利関係、配送委託契約、在庫と売掛金の扱いなどが論点となるため、手法選択にあたっては、これらをどのように承継するかを慎重に検討する必要があります。
それぞれの手法について解説します。
株式譲渡とは?中小企業M&Aで最も選ばれる手法の仕組みと特徴
株式譲渡とは、企業の株主が保有する株式を他者に譲渡することで、経営権を移転するM&Aの手法のひとつです。中小企業のM&Aにおいては最も多く活用されており、後継者不在や事業承継を目的としたケースでよく採用されています。
株式譲渡のメリット
株式譲渡において、売却対象となるのはあくまで「株式」であり、会社そのものの法人格や契約関係、資産・負債はそのまま引き継がれます。
そのため、以下のようなメリットがあります。
- 従業員や取引先との契約を維持したまま、スムーズな引き継ぎが可能
- 許認可や契約の再取得が原則不要で、実務上の負担が少ない
- 法人格が継続するため、営業活動を中断せずに承継できる
とくに、現経営者が引退を検討している場合でも、事業を止めることなくバトンタッチできるため、後継者問題の有効な解決策となります。ただし、契約上のチェンジ・オブ・コントロール(COC)条項による相手方同意や、業種許認可の変更届・再許可が必要となる場合があるため、事前確認は不可欠です。
株式譲渡の注意点・デメリット
一方で、株式とともに過去の負債や簿外債務(帳簿に載っていないリスク)も引き継がれるという側面もあるため、買い手企業にとっては慎重な対応が必要です。
そのため、M&Aを進める際には、財務・法務・税務などに関するデューデリジェンス(詳細調査)を丁寧に実施し、リスクを洗い出すことが不可欠です。
会社分割とは?M&Aで活用される組織再編の手法と注意点
会社分割とは、企業が事業の一部を他の会社に移転することで、権利義務を承継させる法的な組織再編手続きです。M&Aにおいては、売却対象の事業を切り出してスムーズに移転させる手段として活用されています。
会社分割の主な種類
会社分割には、以下のような分類があります。
- 新設分割:新たに設立した会社に事業を承継させる
- 吸収分割:既存の他社に事業を承継させる
さらに、分割により得る対価の受け取り先によっても分類されます。
- 分割型分割:対価を分割元会社の株主が受け取る
- 分社型分割:対価を分割元会社自身が受け取る
会社分割のメリットと特徴
会社分割の最大の特徴は、契約・資産・負債などの権利義務を包括的に移転できる点です。これにより、個別契約ごとの承継手続きを省略でき、事業の引き継ぎが円滑に進められます。
また、分割によって整理された事業をその後に売却することで、M&Aの手続きも効率化されます。
税務上の注意点:適格分割と非適格分割の違い
会社分割には税務上の取り扱いに注意が必要です。「適格分割」であれば譲渡益の課税は繰り延べされますが、採用するスキームによっては「非適格分割」に該当します。
非適格分割では、資産が時価で評価され、譲渡益課税やみなし配当課税の対象となるため、税負担が発生します。
また、会社分割と株式譲渡をセットで行う場合、タイミングによって課税リスクが高まるため、スキーム設計は専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが重要です。
事業譲渡とは?M&Aで活用される承継手法と税務上の注意点
事業譲渡は、企業が事業の一部または全部を、契約に基づいて他社へ売却するM&A手法のひとつです。
譲渡の対象となる資産・負債・契約関係を個別に指定して承継する点が特徴であり、柔軟性が高い一方で、手続きは煩雑になりやすいという側面もあります。
事業譲渡のメリット:簿外債務を回避しやすい
事業譲渡では、契約書に記載されたものだけが承継対象となるため、買い手企業にとっては、不要な債務やリスクを回避しやすくなります。
特に、簿外債務の存在が懸念されるケースでは、株式譲渡ではなく事業譲渡を希望する買い手企業が多い傾向にあります。
売り手側の税務上の扱い:事業譲渡益に課税
事業譲渡によって得た対価のうち、譲渡対象資産・負債の簿価純額との差額は「事業譲渡益」として、売り手側に法人税が課税されます。
また、事業譲渡には以下のような消費税に関する注意点もあります。
課税資産と非課税資産の両方をまとめて譲渡するため、資産ごとの課税・非課税を区分し課税対象資産部分の消費税を計算する必要があり、それぞれの対価を合理的に区分し、課税・非課税の計算を行う必要があります。
事業譲渡のデメリット:承継手続きが煩雑
個別承継であるため、以下のような実務負担が大きい点はデメリットと言えます。
- すべての契約(従業員との雇用契約含めて)を再締結する必要がある
- 許認可や届出が一から取得し直しとなる場合がある
食品卸業界の売却の流れは?3つのステップを紹介
食品卸業界のM&Aを進める場合は、大きく3つのステップに分けて進められます。
- M&Aの準備と助言会社の選定
- 買い手候補先企業との接触、意向表明受領
- 詳細調査(DD)、最終契約とクロージング
それぞれの段階で必要となる準備や手続きが異なるため、流れを把握しておきましょう。
Step1.M&Aの準備と助言会社の選定
はじめに、売却目的と希望条件を整理したうえで、M&AアドバイザーやFAなどの助言会社を選定します。
この段階で重要なのは、想定される売却価格だけでなく、どのような買い手候補に、取引先・仕入先との関係、物流網、従業員をどのように承継したいのかを明確にしておくことです。
食品卸の場合、買い手候補の評価や取引条件に影響し得る論点として、取引先の一覧(スーパー・小売店・外食・給食などの別、取引年数、売上依存度)、仕入先の一覧とメーカーとの特約店・代理店契約の内容、カテゴリー別・温度帯別(常温・冷蔵・冷凍)の売上と粗利、取引先との取引基本契約と、リベート・センターフィー・物流協力金・返品・協賛金などの取り決めとその実績、メーカーから受け取るリベートや販売奨励金の条件、物流拠点と冷凍冷蔵設備の状態、配送車両の台数・年式と配送ルート、配送の自社・委託の別、在庫の金額・回転日数・賞味期限管理の状況、売掛金の回収サイトと与信管理、食品衛生法上の許可・届出と酒類販売業免許の内容、受発注システムの状況、従業員の体制などが挙げられます。
これらを事前に棚卸しし、資料として説明できる状態に整えておくことで、後工程での論点整理や条件交渉を進めやすくなる場合があります。
Step2.買い手候補先企業との接触、意向表明受領
次に、助言会社を通じて買い手候補へ打診を行います。初期段階では概要資料を提示し、関心を示した企業と秘密保持契約を締結したうえで、財務・事業などに関する詳細情報を段階的に開示します。取引先ごとの取引条件は、競合にあたる買い手候補にとって価値の高い情報であるため、開示の範囲と段階には特に注意が必要です。
情報開示の前に結ぶ秘密保持契約については、下記で解説しています。
買い手候補からは、譲渡価格のレンジ、取引方法、引き継ぎ条件、売却後の運営方針などをまとめた意向表明書が提出されます。
売り手は、提示金額だけでなく、従業員の処遇、取引先との取引の継続方針、物流拠点や配送体制の運営方針なども含めて比較し、基本合意に進むかを判断します。
Step3.詳細調査(DD)、最終契約とクロージング
基本合意後は、買い手候補による詳細調査が行われます。
食品卸では、財務・税務・法務・労務・ビジネス面の確認に加えて、リベート・センターフィー・返品・協賛金などを差し引いた実質的な粗利の水準、帳簿外の取り決めや慣行の有無、メーカーとの特約店契約の承継可否、在庫の実在性と賞味期限切れ品の評価、売掛金の回収可能性、物流拠点と設備の老朽化、ドライバーの労働時間管理、許可・届出と酒類免許の承継方法などが重視されやすい点が特徴です。
在庫の評価の考え方については、下記で詳しく解説しています。
事業譲渡の在庫評価はどう決まる?買い手候補が見る4つの基準と計算方法、譲渡前の準備を解説
調査結果を踏まえて、譲渡価格、表明保証、補償条項、クロージング条件、取引先の了解や許認可の承継を前提とする条件などを調整し、最終契約を締結します。
その後、対価の決済と引き渡しを行うクロージングをもって、取引が完了します。
M&Aの流れについてより詳しく知りたい方は以下のページをご覧ください。
食品卸業界の売却の相場は?価値算定方法を解説
食品卸業界のM&Aにおける売却価格は、「〇〇円が相場」と一律に決まるものではありません。
実務では、取引先と仕入先の基盤、実質的な粗利の水準、物流網と設備、在庫と売掛金の状態、収益力、負債、買い手候補の評価方針などを踏まえ、最終的には売り手と買い手候補の交渉によって価格が決まります。
食品卸は、売上が大きくても利益率が低くなりやすい業態であり、取引先へ支払うリベートやセンターフィー、メーカーから受け取るリベート、返品の負担などによって、帳簿上の粗利と実際に残る利益が大きく異なることがあります。そのため、「すべての取引条件を反映した実質的な粗利がいくらか」と「その取引が譲渡後も続くか」が買い手候補の評価上重視されやすい点が特徴です。同規模の売上であっても、取引先の分散度合い、特定カテゴリーでの強み、物流網の効率、冷凍冷蔵の設備の有無によって、買い手候補の評価に差が出る可能性があります。
特定の取引先への依存度が高い場合の評価については、下記で解説しています。
主要取引先に依存した会社は売却できる?4つのリスクと売れる3つの条件を解説
特に、地域の外食・給食など大手が入り込みにくい取引先を多く持つ事業者、特定カテゴリーで地場のメーカー・生産者と強い関係を持つ事業者、温度帯別の物流網を自前で持つ事業者は、財務数値に加えて、取引先基盤、仕入ルート、物流機能などが評価上考慮される場合があります。
こうした理由から、食品卸のM&Aでは、まず企業価値を算定し、そのうえで負債や現金などを考慮しながら、評価の全体像を整理するのが一般的です。
以下では、その基本的な考え方について解説します。
1.企業価値を算定する
食品卸業界のM&A実務において事業価値の算定には、大きく分けて2つの方法があります。
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
インカムアプローチは、営業資産が生み出す将来キャッシュフローを評価の基礎とする方法です。代表的なディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法では、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を試算します。
理論的に優れた方法ではあるものの、将来キャッシュフローの見積もりや割引率の計算は非常に難易度が高く、経験を積んだ専門家でないと試算が困難で、初見では理解しづらいのが大きな欠点でしょう。
本稿では「価値の概算を簡単に知る」ことを目的にしていますので、インカムアプローチの詳細な説明は割愛します。
マーケットアプローチは、市場における取引価格を参考にして事業価値を算定する方法です。具体的には、以下のような方法が存在します。
- 類似会社比較法
- 類似取引比較法
類似会社比較法は、評価する対象の企業の類似会社にあたる上場会社の企業価値と、営業利益や収益力(EBITDA)といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで、事業価値を算出する方法です。
具体的には、以下のように算定します。
EBITDA×業界相場の倍率(EBITDAマルチプル)=企業価値 (EBITDAマルチプル=上場類似会社の企業価値/上場類似会社のEBITDA)
EBITDAは、営業利益に減価償却費を足して算出されるものです。
また、類似会社は、業界が同じ上場企業を選定するのはもちろんのことですが、ビジネスモデルや収益構造、顧客の層などの類似性から選定するパターンもあります。類似会社をどのように選ぶかによって、算定結果は大きく左右されます。
2.株式価値を算定する
企業価値を算出したら、株式価値を算出しましょう。株式価値は、以下のように算出します。
企業価値-有利子負債+現金同等物=株式価値
第三者に譲渡する場合に、どの程度の価値がつくかを把握しておくことは重要なため、理解しておきましょう。
なお、マーケットアプローチには、類似会社比較法のほか、類似するM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法という方法が存在します。
しかし、参照する過去の取引における対象会社が非上場である場合、入手可能な財務数値が限定的であるため、同方法が中小企業のM&Aで利用されることは少ないのが現状です。
M&Aにおける価値の算定については、下記で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
うちの会社、結局いくらで売れるの?~事業オーナーの疑問に答えるコラム①~
また、自社の具体的な株式価値を知りたい場合には、株価シミュレーターを用意していますので、以下で試算可能です。ぜひご活用ください。
売却の進め方や仲介会社から提案を受けた際の注意点を、弁護士監修のガイドにまとめています。無料でダウンロードできます。
【無料資料】オーナー経営者がM&A仲介会社から事業売却の提案を受けたら、弁護士と一緒に最初に読むべき 事業承継・M&A完全ガイド
食品卸業界で企業を売却する3つのメリット
食品卸業界でM&Aを活用するメリットは、経営者個人の利益にとどまりません。
適切な承継は、従業員の雇用や、取引先への安定した供給の継続につながる可能性があります。
- 従業員の雇用と営業・物流のノウハウを維持しやすくなる
- 経営者は売却対価を得られる可能性がある
- 取引先への安定した供給を継続しやすくなる
ここでは、売り手にとって特に重要な3つのメリットを解説します。
従業員の雇用と営業・物流のノウハウを維持しやすくなる
食品卸は、取引先の売場や献立に合わせて商品を提案する営業担当者、多品目の在庫を正確に管理する倉庫担当者、決められた時間に小口で届けるドライバーによって支えられています。
廃業を選択した場合、従業員の雇用の継続が難しくなるほか、取引先ごとの好みや発注の傾向、効率的な配送ルートといったノウハウが失われる可能性があります。
M&Aにより事業が承継されれば、従業員の雇用を維持しながら事業を継続しやすくなる場合があります。売り手にとっては、人材やノウハウを次の運営体制へ承継しやすくなる点がメリットです。
取引先との関係や仕入れの判断が特定の営業担当者に依存している場合、当該人材の継続関与の可否は、買い手候補の評価や譲渡後の運営に影響する可能性があります。
経営者は売却対価を得られる可能性がある
M&Aによる売却は、これまで築いてきた取引先・仕入先との関係、物流網、許認可、地域での信頼を含む事業価値を、譲渡対価として回収する手段の一つです。
売却対価を得られた場合、引退後の生活資金、資産承継、次の事業への投資などに活用できる可能性があります。
後継者不在のまま廃業する場合、取引先への説明と代替の仕入先の確保への協力、在庫の処分(賞味期限のある食品は値引きや廃棄を伴いやすい)、売掛金の回収、物流拠点や車両の処分、従業員との契約整理などが必要になる可能性があります。また、取引先基盤や仕入ルートが事業として評価されにくくなる場合があります。
M&Aでは、買い手候補は一般的には事業の継続性を前提に価値を評価するため、経営者は計画的に出口を設計しやすくなります。
取引先への安定した供給を継続しやすくなる
食品卸は、地域の小売店や外食店、給食事業者にとって、日々の食材や商品を届ける欠かせない存在です。
突然の廃業は、取引先にとって代替の仕入先の確保、取扱商品の見直し、配送の時間や頻度の変更などの負担につながる可能性があります。大手卸が対応しにくい小口の取引先ほど、代わりを見つけることは容易ではありません。
M&Aによって承継されることで、仕入れと配送の体制を維持しながら供給を継続しやすくなるため、取引先や地域の食への影響を抑えながら事業を引き継ぎやすくなる点は、売り手にとってメリットの一つです。
売却と廃業で取引先への影響がどう違うかは、下記で解説しています。
会社売却と廃業の取引先への影響とは?関係を守る3つの配慮と伝え方を解説
食品卸業界で企業を売却する際の3つのポイント
食品卸業界でM&Aを円滑に進めるには、売上規模だけでなく、買い手候補が重視する論点を整理しておく必要があります。
買い手候補は、取引条件を反映した実質的な粗利、取引先・仕入先との関係の継続性、物流網と許認可の状況を慎重に確認します。
- 取引条件・物流・在庫・許認可を棚卸しする
- 営業と仕入の属人性を下げる
- 信頼できるM&Aアドバイザー、弁護士、税理士などの専門家を活用する
ここでは、食品卸の売却を検討する際に、特に重要な3つのポイントを解説します。
取引条件・物流・在庫・許認可を棚卸しする
食品卸の買い手候補による評価は、財務数値に加えて、取引条件の実態、物流網、在庫と売掛金の状態、許認可の状況などに影響を受ける可能性があります。
買い手候補は、これらが譲渡後も維持・活用できるかを慎重に確認します。
そのため、売却前に以下の点を棚卸しし、説明できる状態にしておくことが重要です。
- 取引先ごとの取引基本契約と、リベート・センターフィー・物流協力金・返品・協賛金などの取り決めと実績(口頭や慣行による取り決めも含めて書き出す)
- メーカーとの特約店・代理店契約の内容と、メーカーから受け取るリベート・販売奨励金の条件
- カテゴリー別・温度帯別・取引先別の売上と実質的な粗利の推移
- 物流拠点・冷凍冷蔵設備の状態と更新計画、配送車両と配送の自社・委託の別、ドライバーの労働時間の記録
- 在庫の金額・回転日数・賞味期限管理の状況、売掛金の回収サイトと延滞・貸倒れの履歴
- 食品衛生法上の許可・届出の内容、酒類卸売業・小売業免許の有無と内容、受発注システムの状況
これらの整理が不十分だと、DDを経て価格見直し、追加条件の設定、交渉停止などにつながる可能性があります。特に、帳簿に表れていなかった取引条件がDDの段階で判明すると、買い手候補の信頼を大きく損ない、価格の引き下げにつながりやすい点に注意が必要です。
営業と仕入の属人性を下げる
食品卸で買い手候補の評価に影響しやすい要因の一つが、経営者や特定の担当者への過度な依存です。
主要な取引先との関係やメーカーとの交渉、取引条件の取り決めが経営者個人に集中している場合、買い手候補から、経営者が退いた後に取引条件が見直されたり、取引が離れたりするリスクが高い事業と判断される可能性があります。
属人性による懸念を抑えるためには、以下のような取り組みが重要です。
- 取引先・仕入先ごとの取引条件と交渉経緯の文書化、窓口の複線化
- 受発注・在庫・売上・粗利のデータをシステムで管理し、取引先別に把握できる体制の整備
- 配送ルートと倉庫作業の手順の標準化
- 営業担当者・仕入担当者の育成と権限移譲
属人性を下げることで、経営者が交代しても取引を維持しやすい体制として評価される可能性が高くなり、買い手候補が検討しやすくなるというプラスの効果があります。
売却前の準備全般については、下記で詳しく解説しています。
M&Aの磨き上げとは?売却価格を高める5つの領域と進め方を解説
信頼できるM&Aアドバイザー、弁護士、税理士などの専門家を活用する
食品卸のM&Aでは、取引条件の実態の整理、特約店契約の承継、食品衛生法上の地位の承継、酒類販売業免許の扱い、在庫と売掛金の評価、ドライバーの労務の整理など、業種特有の論点が生じる場合があります。
準備やスキーム設計が不十分なまま進めると、譲渡条件の見直し、クロージング条件の追加、売却後の紛争などにつながる可能性があります。
そのため、以下のような専門家の支援を受けることが重要です。
- 売り手側の立場で支援するFA・M&Aアドバイザー
- 税務は税理士、契約・責任分担は弁護士、会計・財務DDは公認会計士、労務は社会保険労務士、許認可の手続きは行政書士などの専門家
売り手側のFAを活用することで、価格交渉や条件調整において、売り手の意向を踏まえた交渉方針を整理しやすくなります。
感情に左右された場当たり的な判断を避けるという観点でも、第三者による専門的な視点を取り入れることが望ましいです。
食品卸業界での企業売却にかかる税金とは?
企業を売却する際には、売却益に対して税金が発生します。この税金の仕組みは、「個人オーナーが売却する場合」と「法人が株式を譲渡する場合」で異なるため、正しく理解しておくことが重要です。個人・法人別にわかりやすく解説します。
会社売却にかかる税金の計算や手取りを増やす対策については、下記で詳しく解説しています。
会社売却後にかかる税金は?計算方法や確定申告、税引後手取りを増やす対策を解説
個人オーナーの場合
個人が自社株などの株式を譲渡し、譲渡益(売却益)が発生した場合、その利益は「譲渡所得」として扱われます。
課税の仕組み
譲渡所得 = 売却価格 -(取得費 + 譲渡費用)
この譲渡所得には、以下の税が課せられます。
- 所得税(復興特別所得税含む)
- 住民税
給与所得などとは分離して課税されるため、所得の合算は不要ですが、確定申告が必要です。
ただし、ミニマムタックスに該当する場合は給与所得等の他の所得と合算して算出する必要があるため、適切に節税するためには、事前に税理士など専門家への相談が欠かせません。
法人の場合
法人が保有する株式を譲渡した場合、その売却益は法人の「益金(収益)」として扱われ、他の事業収益と合算されて法人税等が課税されます。
法人の場合の税務処理
- 譲渡益は法人所得として計上され、通常の法人税率で課税
- 譲渡損失が出た場合、他の所得と損益通算が可能
- 所得と損失の調整により、柔軟な節税が可能
評価差額にも注意
帳簿価額と時価の差(含み益)がある場合、譲渡時に課税対象となる可能性があります。
まとめ
食品卸業界は、販売額が名目で増加を続ける一方で、その伸びには食品価格の上昇の影響が含まれており、中小の卸は大手への取引の集約と小売業の再編、取引条件の圧迫、物流費と人件費の上昇、ドライバーの確保、経営者の高齢化と後継者不足など、複数の経営課題を抱えています。
食品卸の利益は、帳簿や契約書に表れにくい取引条件によって大きく左右されます。それらを整理しないまま売却に臨めば、DDの段階で価格の引き下げにつながるおそれがあります。また、食品衛生法上の地位の承継や酒類免許の扱いなど、許認可ごとにスキームによる扱いも異なります。そのため、中小の食品卸にとって、M&Aは事業継続や従業員・取引先への影響を踏まえた選択肢の一つになり得ます。
売却を円滑に進めるためには、取引条件・物流・在庫・許認可の棚卸しに加えて、取引条件の文書化や営業・仕入の属人性の低減を含めた準備を、M&Aアドバイザー、弁護士、税理士、行政書士などの専門家に確認しながら早期に進めることが望ましいです。
RISONALでは、売り手に特化したFAサービスを提供しています。専属のエージェントがお客様の希望に沿った取引を実現するため、最適なサポートを行います。より高い評価額での売却を目指したアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を抑えた成約も可能です。
食品卸業界のM&Aでは、買い手目線で条件調整が進みやすい仲介型の支援の場合、価格や引き継ぎ条件が売り手に不利になるケースも少なくありません。そのため、誰の利益を最優先に交渉するのかを明確にした支援体制が重要です。
また、売却前に押さえておきたい注意点を、資料でも確認できます。
無料相談が可能です。実際にどの程度の価格で売却できるのか、また、どのようにすればより高く売却できるのかを、ぜひご確認ください。
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