会社売却と廃業で従業員への影響はどう違う?雇用や退職金など5つの違いと伝え方を解説
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- M&Aの進め方
公開日:2026.09.29
2026.09.29
更新日:2026.09.29
2026.09.29
廃業では全員の解雇が前提ですが、会社売却なら雇用契約は原則として続きます。
解雇予告や退職金、未払賃金立替払制度、失業給付の扱いという5つの違いを示し、伝え方の設計と、雇用を守るために売り手ができる準備を解説します。

会社を畳むか譲るかを決めきれない理由の多くは、従業員の顔が浮かぶからです。長年働いてきた社員に何と伝えるのか、雇用はどうなるのか。廃業と会社売却では、従業員が受ける影響がまったく異なります。
本記事では、雇用・解雇予告・退職金・失業給付など5つの違いを示したうえで、それぞれの場合に従業員に何が起きるかを解説します。あわせて、伝え方の設計と、雇用を守るために売り手ができる準備を示します。
オーナーズ株式会社では、売り手に特化したFA(ファイナンシャル・アドバイザー)サービスを展開しています。専属のエージェントがお客様の理想の取引実現に向けて、お客様のご希望に即したサービスをとことん提供いたします。よりよい評価額での売却に向けたアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を削減した案件成約も実現可能です。 また、具体的な買いニーズを持っている企業のほか、業界・買い手企業分析に基づき事業親和性の高い企業を買い手候補としてご提案します。大手金融機関や大手M&A仲介、M&Aマッチングサービスとも連携しているため、買い手探索のルートが豊富です。 まずは一度、弊社の無料相談サービスをご利用ください。
会社売却と廃業で従業員への影響が分かれる5つの違い
廃業は雇用関係を終わらせる選択であり、会社売却は雇用の担い手を入れ替えて継続させる選択です。従業員から見た違いは、以下の5点に集約されます。
| 比較項目 | 廃業 | 会社売却(株式譲渡) |
|---|---|---|
| 雇用契約 | 解雇により終了する | 原則として存続する |
| 解雇予告 | 30日前までの予告または手当が必要 | 売却を理由とした解雇は前提としない |
| 退職金 | 規程があれば支払い義務が生じる | 制度を引き継ぐか最終契約で定める |
| 未払賃金 | 立替払制度の対象となる場合がある | 会社に残り、買い手へ引き継がれる |
| 失業給付 | 離職理由によって扱いが変わる | 離職しないため対象外 |
いずれの項目でも、廃業は従業員に新たな負担を生じさせます。会社売却であれば、雇用の継続を交渉の条件に据えられます。まずは従業員名簿に勤続年数と保有資格を書き加え、影響を受ける人数を把握します。
廃業を選んだ場合に従業員に起きること
廃業では、全従業員との雇用関係を終わらせる手続きが必要になります。起きることは以下の4点です。
- 解雇予告は原則として30日前までに行う必要がある
- 退職金は就業規則の規程があれば支払い義務が生じる
- 未払いの給与は未払賃金立替払制度の対象になる場合がある
- 失業給付は会社都合の離職として扱われる
それぞれを順に解説します。
解雇予告は原則として30日前までに行う必要がある
廃業に伴う解雇にも、原則として労働基準法第20条の解雇予告の手続きが求められます。 厚生労働省は、使用者が労働者を解雇しようとする場合に少なくとも30日前に予告しなければならず、予告をしない場合は30日分以上の平均賃金を支払わなければならないと説明しています。
予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合に短縮できます。解雇日まで30日の余裕がないときは、不足する日数分の解雇予告手当を支払います。
廃業予定日から30日以上前を予告の期限として、カレンダーに書き込みます。
退職金は就業規則の規程があれば支払い義務が生じる
退職金は、社内の定めによって義務の有無が変わります。 就業規則や退職金規程に支給の定めがあれば、労働条件の一部として支払う義務が生じます。
確認する項目は次のとおりです。
- 就業規則や退職金規程に支給条件と算定方法の定めがあるか
- 勤続年数や退職事由による支給率の違い
- 中小企業退職金共済など外部積立の有無
規程があるにもかかわらず資金が足りなければ、清算の障害になります。全従業員の退職金見込額を算出し、手元資金で賄えるかを確認します。
未払いの給与は未払賃金立替払制度の対象になる場合がある
給与を支払えないまま退職させる場合、国の制度が使える場合があります。 事業主の倒産等により賃金が支払われないまま退職した労働者に対し、国が事業主に代わって未払賃金の一部を弁済する制度です。
廃業の局面では、退職金より先に毎月の給与が払えなくなるケースがあります。制度の存在を知らずに従業員が申請の機会を失う事態を避けるため、会社側から案内する意味があります。
対象となる要件や立替払の範囲は制度で定められています。未払いが生じる見込みの段階で、労働基準監督署へ相談します。
失業給付は会社都合の離職として扱われる
廃業による解雇は、従業員の失業給付にも影響します。 雇用保険の基本手当は離職理由によって扱いが分かれ、倒産や解雇による離職は自己都合退職と区別されます。
従業員にとっては、受給開始までの期間と給付日数が生活設計を左右します。離職理由の記載を誤ると、従業員が不利益を被ります。
給付日数や受給開始時期は、離職理由と被保険者期間によって決まります。離職票に記載する離職理由を正確に選び、従業員へ受給手続きの窓口を案内します。
会社売却を選んだ場合に従業員に起きること
売却では、雇用の枠組みが残ります。起きることは以下の4点です。
- 株式譲渡なら雇用契約はそのまま続く
- 事業譲渡では従業員ごとの同意を得て転籍する
- 労働条件は売却直後に一方的には変えられない
- 退職金と勤続年数は引き継ぎ方を最終契約で決める
それぞれを順に解説します。
株式譲渡なら雇用契約はそのまま続く
会社売却で雇用への影響が小さいのが、株式譲渡です。 株主が入れ替わるだけで会社の法人格は変わらないため、雇用契約の当事者も会社のままです。
変わらないものは次のとおりです。
- 雇用契約の内容と勤続年数の通算
- 社会保険の適用事業所としての地位
- 就業規則や給与体系(変更手続きを経るまで)
従業員から見れば、株主と経営陣が替わる出来事です。雇用が続く点を最初に伝えられるよう、説明の骨子を買い手候補と事前に作ります。
事業譲渡では従業員ごとの同意を得て転籍する
事業譲渡を選ぶ場合、雇用の移り方が変わります。 厚生労働省の指針は、事業譲渡における権利義務の承継が特定承継であることから、労働契約を譲受会社等に承継させる場合には承継予定労働者から個別の承諾を得る必要があるとしています。
同指針は、過半数労働組合または過半数代表者との協議などにより、労働者の理解と協力を得るよう努めることが適当だとしています。
事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針(厚生労働省)
同意が得られなければ、従業員は元の会社に残ります。転籍対象者を特定し、説明の順序と時期を弁護士などの専門家と設計します。
事業譲渡での転籍手続きと、従業員に拒否された場合の対応は、下記で解説しています。
事業譲渡が従業員に与える影響とは?転籍手続きや拒否された時の対応も紹介
労働条件は売却直後に一方的には変えられない
売却後も、労働条件の変更には手続きが要ります。 買い手に替わったことだけを理由に、給与や労働時間を不利益に変更することはできません。
変更に必要となるのは、労働者との合意か、就業規則の変更による方法です。就業規則の不利益変更には、労働契約法第10条により、変更の必要性や内容の相当性といった要件が問われます。
買い手候補との面談で、給与体系と賞与の算定方法をいつ変える予定かを質問します。回答を候補先の比較材料に加えます。
退職金と勤続年数は引き継ぎ方を最終契約で決める
退職金制度の扱いは、交渉で決まります。 株式譲渡では制度が会社に残りますが、買い手が将来的に自社の制度へ統一する場合もあります。
取り決めておく項目は次のとおりです。
- 既存の退職金規程を存続させるか、いつ見直すか
- 勤続年数を通算するか、売却時点で打ち切るか
- 中小企業退職金共済などの外部積立をどう引き継ぐか
曖昧なまま進めると、売却後に従業員の不満が表面化します。上記3項目を最終契約の条項として明記するよう、支援機関へ依頼します。
売却後の従業員の処遇については、下記で解説しています。
M&A後の社長や従業員はどうなる?変化や成功のポイントと紹介
会社売却と廃業で違う従業員への伝え方
影響の違いは、伝え方の設計にも表れます。押さえる点は以下の3つです。
- 廃業では解雇予告と同時に決定事項と未定事項を分けて説明する
- 会社売却では基本合意後から最終契約後にかけて段階的に開示する
- どちらの場合もキーパーソンには個別に先に説明する
それぞれを順に解説します。
廃業では解雇予告と同時に決定事項と未定事項を分けて説明する
廃業の説明では、確定している内容とそうでない内容を分けます。 すべてを曖昧に伝えると、憶測が広がって離職が早まります。
分けて示す内容は次のとおりです。
- 決定事項:廃業する事実、最終営業日、解雇日、給与の支払日
- 未定事項:退職金の支給時期、再就職支援の具体策
未定の項目については、いつまでに回答するかを併せて伝えます。説明会の資料に決定と未定の区分を明記し、質問への回答期限を示します。
会社売却では基本合意後から最終契約後にかけて段階的に開示する
売却の説明は、交渉の進み方に合わせて段階を踏みます。 交渉が固まる前に情報が漏れると、成立前に離職が発生します。
中小M&Aガイドラインは、最終契約締結前に知らせる相手をごく一部に限り、残る関係者には原則クロージング後に知らせるべきだとしています。
※参考:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」第1章Ⅰ4(2)秘密保持の徹底 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf
開示の段階と対象者を一覧化し、買い手候補と合意したうえで進めます。
従業員への説明の順番と時期については、下記で詳しく解説しています。
M&Aを従業員に説明する適切なタイミングは?役職別の順番と3つの注意点
どちらの場合もキーパーソンには個別に先に説明する
廃業でも売却でも、中核人材への対応は個別に行います。 全体説明の場で初めて知らせると、動揺が周囲へ波及するためです。
対象となるのは次のような従業員です。
- 主要取引先を担当し、関係を握っている人材
- 有資格者や、許認可の要件となっている人材
- 現場を統括し、他の従業員から信頼されている人材
誰が抜けると事業が止まるかを名前で特定します。個別面談の順序と、伝える内容を事前に決めます。
キーパーソンの処遇と引き継ぎについては、下記もあわせてご覧ください。
M&Aでキーマンの処遇はどうなる?経営者と従業員を守る5つのポイント
廃業ではなく会社売却で雇用を守るために売り手が準備すること
雇用を残したいのであれば、売却を成立させる準備が要ります。着手できるのは以下の3つです。
- 従業員の雇用維持を最終契約の条件として交渉する
- 労務デューデリジェンスに備えて未払残業代や有給の管理を整える
- 売り手専属のFAに相談して雇用を重視する買い手候補を選ぶ
それぞれを順に解説します。
従業員の雇用維持を最終契約の条件として交渉する
雇用を維持するための最初の手段は、契約への明記です。 口頭の約束では、売却後に方針が変わっても追及できません。
条項として求める内容は次のとおりです。
- 一定期間の雇用維持と、整理解雇を行わない旨
- 給与水準を引き下げない旨と、対象となる期間
- 事業所の統廃合を行う場合の事前協議
買い手候補にとっては将来の裁量を狭める条項です。譲れない範囲を先に決め、価格との優先順位を決めて交渉に臨みます。
最終契約で確認したい項目は、弁護士監修のチェックリストにまとめています。無料でダウンロードできます。
【無料資料】最終契約前に弁護士と共に確認するべき契約書の項目
労務デューデリジェンスに備えて未払残業代や有給の管理を整える
労務の不備は、売却の障害になります。 買い手候補は買収後に負担する債務として、未払残業代や社会保険の未加入を確認の対象にします。
点検する項目は次のとおりです。
- 勤怠記録と実際の労働時間の一致
- 割増賃金の計算方法と固定残業代の運用
- 年次有給休暇の付与日数と取得状況
- 社会保険と雇用保険の加入漏れ
指摘されれば、価格の引き下げか補償条項の上乗せにつながります。社会保険労務士へ点検を依頼し、解消できる項目から着手します。
デューデリジェンスで確認される範囲と、簿外債務の対策については、下記で解説しています。
M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)とは?目的や流れ、売り手側のポイントを解説
M&Aにおける簿外債務の対策とは?種類やリスク、売り手側の確認ポイントを解説
売り手専属のFAに相談して雇用を重視する買い手候補を選ぶ
雇用を維持するには、買い手候補の選び方が重要です。 価格だけで選べば、統合後に人員整理が行われる可能性を排除できません。
中小M&Aガイドラインは、どのような候補先の紹介を受けられるかは支援機関の力量に左右されると指摘しています。売り手のみと契約するFAは、価格と雇用のどちらを優先するかという売り手の意向を、候補先の選定に反映できる立場にあります。
※参考:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」第1章Ⅱ3(4)②譲り受け側の選定 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf
雇用維持を優先する意向を初回相談で伝え、候補先の選定基準に組み込みます。
売り手専属のFAの役割と仲介との違いについては、下記で解説しています。
M&AにおけるセルサイドFAとは?業務内容や仲介との違いも解説
買い手候補を選ぶ際の注意点は、資料でも確認できます。
会社売却と廃業の従業員への影響に関するよくある質問
会社売却と廃業の従業員への影響について、相談の現場で多く寄せられる質問を3つ取り上げます。売却後の解雇の可能性、廃業時に支払う手当、廃業から売却への切り替えの3点です。
会社売却の後に買い手が従業員を解雇することはありますか?
可能性は残ります。売却後の人事は買い手の判断に委ねられるためです。ただし解雇には法律上の制約があり、整理解雇は人員削減の必要性、解雇回避の努力、人選の合理性、手続きの妥当性の4つの観点から有効性が判断されます。売り手としては、一定期間の雇用維持を最終契約の条項に入れるよう交渉します。あわせて、買い手の過去の買収案件で人員整理が行われたかを支援機関を通じて確認します。
廃業のときに解雇予告手当のほかに支払う手当はありますか?
就業規則の内容によって変わります。退職金規程があれば退職金の支払い義務が生じ、未消化の年次有給休暇について買取りの定めがあれば支払いが必要です。慣行として支給してきた手当も、労働条件の一部と判断される場合があります。就業規則と過去の支給実績を洗い出し、社会保険労務士へ確認します。
廃業を決めた後でも会社売却に切り替えられますか?
時期によります。解散を決議して清算に入ると、事業継続を前提とした売却は難しくなります。従業員が退職し、取引が途切れた後では、買い手にとっての価値も下がります。切り替えを検討するなら、解雇予告を出す前、解散を決議する前が分かれ目です。
廃業の手続きと、廃業以外の選択肢については、下記で解説しています。
会社の廃業手続きと必要な費用は?手続きの全体像や廃業を検討すべきケースを紹介
休眠と廃業の違いとは?費用・手続き・3つの判断基準をわかりやすく解説
まとめ
廃業と会社売却では、従業員が受ける影響が根本から異なります。廃業は雇用関係を終わらせる選択であり、会社売却は雇用の担い手を入れ替えて継続させる選択です。
要点は以下のとおりです。
- 廃業では30日前までの解雇予告か、不足日数分の解雇予告手当が必要になる
- 退職金は規程があれば支払い義務が生じ、資金の手当てが要る
- 株式譲渡なら雇用契約は原則として存続し、勤続年数も通算される
- 事業譲渡では労働契約の承継に従業員本人の個別の承諾が必要になる
- 雇用を維持するには、最終契約への明記と労務の整備、買い手候補の選定が重要になる
従業員の雇用を維持しやすいかどうかは、決断の順序で変わります。解雇予告を出す前に、売却の可能性を確かめてください。
廃業と会社売却の比較と、売却の進め方は、こちらの資料でも確認できます。
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