M&Aの表明保証における税務とは?争いになりやすい5つの論点と対策を解説
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- 条件交渉
公開日:2026.08.25
2026.08.25
更新日:2026.08.25
2026.08.25
株式譲渡の最終契約書の案を受け取り、税務に関する表明保証条項の多さに身構えている方は多いのではないでしょうか。
過去の申告をすべて保証するように読める条文を前に、「税務調査で何か指摘されたら、売却後も自分の責任になるのか」と不安を感じるのは自然なことです。ただ、表明保証は一方的に義務を負わされるものではなく、開示や限定によって売り手を守る設計ができる条項でもあります。
本記事では、税務に関する表明保証の内容、争いになりやすい5つの論点、違反時の補償金の税務処理、そして契約前にできる対策までを解説します。
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M&Aにおける表明保証とは
表明保証とは、M&Aの最終契約において、売り手が対象会社の財務や法務などの状態について事実と相違ないことを表明し、相違があった場合に補償などの責任を負う条項です。
買い手候補は、外部からは見えない対象会社のリスクを契約で手当てするために表明保証を求めます。なかでも税務は、財務と並んで表明保証の中心になる分野です。過去の申告の内容は決算書だけでは検証しきれず、承継後に追徴という形で表面化し得るためです。
本記事はこの税務の部分に絞って解説します。表明保証という条項そのものの全体像を先に確認したい方は、以下の記事が参考になります。
税務に関する表明保証の主な内容
税務の表明保証で売り手が求められる表明は、おおむね型が決まっています。主なものは以下の4つです。
- 申告と納税の適正な履行
- 税務調査での指摘や係争の不存在
- 源泉徴収や消費税の適正な処理
- 繰越欠損金など税務上の前提の正確さ
それぞれを順に解説します。
申告と納税の適正な履行
税務の表明保証の土台になるのは、対象会社が法人税、消費税、地方税などの税金を期限内に適正に申告し、納付してきたことの表明です。
条文としては短いものの、「適正に」という言葉が対象とする範囲は広く、過去の申告内容の全体に及びます。売り手にとって責任範囲が読みにくい条項であり、後述する開示や限定の交渉が意味を持つ場面でもあります。
自社の申告状況に不安のある論点があるなら、この条項を提案どおり受けるのではなく、対応を検討したうえで契約に臨むことが重要です。
税務調査での指摘や係争の不存在
過去の税務調査で重大な指摘を受けていないこと、税務当局との間で未解決の争いがないことの表明も、定番の項目です。
注意したいのは、過去に修正申告をした経験がある場合の扱いです。該当する事実があるのに表明してしまうと、後から違反を問われかねません。過去の指摘や修正申告は、契約に添付する開示別紙に記載して表明の例外にしておくのが実務の定石です。
事実を確認せずに署名することがないよう、過去の調査の履歴を先に洗い出しておきます。
源泉徴収や消費税の適正な処理
給与、報酬、配当などにかかる源泉徴収と、消費税の課税区分の処理が適正であることの表明です。
これらは日常の経理業務そのものが対象になる点に特徴があります。外部の個人への報酬の源泉徴収や、取引ごとの消費税の区分判定は、処理の誤りが積み重なりやすい領域です。誤りが小さくても、対象期間の全体に同じ処理が続いていれば、金額はまとまった規模になり得ます。
心当たりのある処理があれば、顧問税理士と事前に点検しておくことが望ましいです。
繰越欠損金など税務上の前提の正確さ
対象会社が持つ繰越欠損金の金額や、適用している優遇税制の要件充足が正しいことの表明が求められる場合もあります。
買い手候補が繰越欠損金の存在を価格の前提に織り込んでいるケースでは、この表明の重みが増します。金額の誤りや、承継後に利用が制限される事情があると、買い手候補の期待と結果がずれ、補償の議論に発展しやすくなります。
繰越欠損金の残高と発生の経緯を説明できる資料を用意しておくと、交渉を進めやすくなります。
税務の表明保証が重視される理由
税務が表明保証の中心になるのは、税務リスクが決算書に表れにくいためです。申告漏れや、税務当局に処理を否認されるリスクは、帳簿の外に潜んでいます。
加えて、株式譲渡では対象会社の法人格が変わらないため、過去の税務リスクは対象会社に残り続けます。承継後に追徴が生じれば、買い手が経済的にその負担を負うことになります。買い手候補が契約でリスクの分担を求めるのは、この構造があるためです。
決算書に載らない債務への備えという意味で、税務の論点は簿外債務の議論とも隣り合っています。簿外債務の種類と売り手側の確認ポイントは、以下の記事で解説しています。
M&Aにおける簿外債務の対策とは?種類やリスク、売り手側の確認ポイントを解説
税務デューデリジェンスと表明保証の役割分担
税務のリスクへの手当ては、表明保証だけで行われるわけではありません。税務デューデリジェンスという調査と、役割を分担しています。
税務デューデリジェンスは、買い手候補が対象会社の申告書や税務調査の履歴を調べ、リスクを発見するための手続きです。そこで発見された問題は、価格への反映や、特定のリスクを対象にした特別補償という形で個別に手当てされます。一方、調査を尽くしても発見しきれない部分が残るため、その残りを受け持つのが表明保証です。
売り手として、この分担を理解しておくと交渉で役立ちます。税務デューデリジェンスで開示され議論された論点は、「既知の事項」として補償の対象から外す交渉がしやすくなるためです。調査への対応は、単なる受け身の作業ではなく、後の契約条件を形づくる工程だと捉えられます。
デューデリジェンス全体の流れと売り手側の対応は、以下の記事で解説しています。
M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)とは?目的や流れ、売り手側のポイントを解説
税務で争いになりやすい5つの論点
税務の表明保証をめぐる争いには、実務上のパターンがあります。
- 役員関連の経費処理が否認される場合がある
- 源泉徴収の漏れが後から発覚しやすい
- 繰越欠損金が想定どおり使えない場合がある
- グループ内取引の価格設定が問題になる場合がある
- 第2次納税義務は表明保証では防ぎきれない
いずれも中小企業の足元の実務に潜む論点です。それぞれを順に解説します。
役員関連の経費処理が否認される場合がある
役員報酬、役員退職金、交際費といった役員関連の経費処理は、税務調査で否認されやすい代表的な領域であり、表明保証違反の火種になりやすい論点です。
オーナー企業では、経営者個人と会社の支出の線引きが曖昧になりがちです。税務当局に経費性を否認されれば追徴が生じ、それが売却後であれば、買い手側から表明保証違反として補償を求められる可能性があります。
売却を検討し始めた段階で、役員関連の処理を顧問税理士と点検し、説明できる根拠を残しておくことが望ましいです。
源泉徴収の漏れが後から発覚しやすい
源泉徴収は、要否の判定を誤りやすく、しかも誤りが長期間気づかれにくいという性質があります。
たとえば、外部の個人事業主への業務委託報酬や、海外の相手先への支払いは、源泉徴収が必要かどうかの判断が難しい場面です。1件あたりの金額が小さくても、同じ処理を続けていれば累積額は膨らみ、承継後の税務調査で一括して表面化する場合があります。
支払いの種類ごとに源泉徴収の処理を見直しておくと、発覚後に慌てる事態を避けやすくなります。
繰越欠損金が想定どおり使えない場合がある
繰越欠損金は、承継後の状況によって利用が制限される場合があり、「使える前提」が崩れたときに争いへ発展しやすい論点です。
税法には、支配関係の変化や組織再編の態様によって繰越欠損金の利用を制限する定めがあります。買い手候補が利用を前提に価格を組み立てていた場合、制限の発覚は価格や補償の議論に直結します。
売り手がこの制限の詳細を判定する立場になる必要はありませんが、繰越欠損金を「確実に使える資産」として交渉材料にする書き方や説明は避け、利用の可否は買い手候補側の税務検討に委ねる姿勢が安全です。
グループ内取引の価格設定が問題になる場合がある
対象会社と経営者の親族が営む会社との取引や、関連会社間の取引は、その価格設定が時価から離れていると、税務上の問題として指摘される場合があります。
時価より著しく有利または不利な価格での取引は、寄附金として損金算入を否認されるなどの取り扱いを受けることがあり、追徴の原因になります。オーナー企業では意識されにくい論点ですが、税務デューデリジェンスでは定番の確認項目です。
グループ内の取引について、価格の決め方と根拠を説明できるようにしておくことが重要です。
第2次納税義務は表明保証では防ぎきれない
第二次納税義務とは、本来の納税者から税金を徴収しきれない場合に、一定の関係者が納税義務を負うことがあるという国税徴収法上の制度です。M&Aとの関係では、事業を譲り受けた特殊関係者の第二次納税義務(同法38条)や、無償または著しく低い額で財産を譲り受けた者の第二次納税義務(同法39条)が、事業譲渡や資産の切り離しを伴うスキームで論点になり得ます。
これは法律の定めによって生じる義務であり、売り手と買い手候補の契約で発生そのものをなくせる性質のものではありません。表明保証や補償条項は当事者間の負担の分担を決めるだけで、税務当局との関係までは変えられないという限界があります。
該当し得る状況がないか、制度の適用場面を含めて税理士や弁護士に確認しておくことが望ましいです。
表明保証違反の補償金と税務処理
表明保証違反が起きた場合、売り手が買い手に補償金を支払うことがあります。このとき見落とされがちなのが、補償金そのものの税務処理です。
支払われた金銭が税務上どのような性質を持つか、つまり損害賠償金なのか、それとも譲渡対価の調整なのかによって、課税上の取り扱いは変わり得ます。国税庁のタックスアンサーでも、損害賠償金が資産の譲渡の対価に当たるかどうかはその名称ではなく実質によって判定する、という考え方が消費税の取り扱いに関する解説のなかで示されています。名目が「解決金」や「補償金」であっても、実質で判断されるということです。
実際に、M&Aの表明保証違反をめぐって支払われた金銭の課税上の性質が、裁判で争われた事例もあります。個人の売り手が補償金を支払った場合に、株式の譲渡所得の計算にどう影響するかも、事案によって扱いが分かれ得る論点です。
補償の支払いや受け取りが現実になった場合は、金額の交渉と並行して、合意書での性質の書き方を含めて税理士に確認する必要があります。契約段階から税務の視点を入れておくと、後の手取りへの想定外の影響を抑えやすくなります。
※参考:国税庁「No.6257 損害賠償金」
売り手が契約前にできる対策
税務の表明保証は、契約前の設計次第で売り手のリスクを小さくできます。
- 保証しきれない事項は事前に開示して例外にする
- 表明の範囲に限定の文言を付ける
- 補償の上限と期間の設定を交渉する
- 税務調査が入った場合の関与を契約に定めておく
それぞれを順に解説します。
保証しきれない事項は事前に開示して例外にする
過去の修正申告や、税務当局と見解が分かれた処理は、開示別紙に記載して表明保証の例外にしておくことが、守りの出発点になります。開示された事項は表明の対象から外れるため、後から違反を問われにくくなります。
守秘義務や開示のタイミングを踏まえつつ、適切な範囲で先に開示しておくことは、取り繕った末に発覚するリスクと比べて、売り手にとって負担の小さい選択である場合が多く見られます。発覚後の対応は、補償だけでなく信頼の問題として交渉全体に波及します。
何を開示別紙に載せるかは、税務デューデリジェンスへの対応と並行して、FAや弁護士と検討していきます。
表明の範囲に限定の文言を付ける
表明保証には、「売り手の知る限り」という認識による限定や、「重要な点において」という重要性による限定を付ける交渉の余地があります。
限定がない表明は、売り手が把握しようのない事項まで責任範囲に含みかねません。認識の限定が付けば、売り手が知らなかった事項について責任を負う場面を狭められます。どこまでの限定が通るかは、案件の規模、買い手候補の方針、税務デューデリジェンスの深さによって変わる交渉事項です。
条文の一言一句が責任の範囲を決めるため、文言の調整は弁護士と進めることが望ましいです。
補償の上限と期間の設定を交渉する
違反時の補償についても、無制限に応じる必要はありません。補償の範囲、上限、期間、免責となる少額の基準、既知事項の除外といった要素を組み合わせて設計するのが標準的な実務です。
税務に固有の論点は期間の設定です。国税の更正・決定には期間の制限があり、原則は法定申告期限から5年、偽りその他不正の行為による場合は7年とされています。税務に関する補償の期間は、この制限を踏まえて協議されるのが通常です。過去のどの事業年度まで、いつまで責任を負うのかを具体的に確認しておきます。
上限や期間の相場は案件によって異なるため、自社の条件が妥当かどうかは専門家の助言を受けながら判断する形が現実的です。
税務調査が入った場合の関与を契約に定めておく
売却後、対象会社に税務調査が入った場合の対応を、買い手側だけに委ねない工夫も売り手の守りになります。
調査への対応方針は補償の金額に直結します。売り手が関与できないまま、買い手側が指摘を安易に受け入れてしまうと、その結果としての追徴が補償請求として売り手に回ってくる展開があり得ます。
そこで、クロージング後に対象期間の税務調査があった場合の通知義務、売り手の立ち会いや意見表明の機会、和解や修正申告への事前協議を契約に定めておく対応が検討されます。契約書の交渉段階で、この条項の有無を確認しておくことが重要です。
表明保証保険という備えもある
表明保証違反への備えとして、表明保証保険という選択肢もあります。違反による損害を保険でカバーする仕組みで、売り手にとっては、売却後に補償請求を受ける不安を和らげ、対価を手元に確定させやすくする効果が期待できます。
かつては大型案件向けの商品が中心でしたが、中小企業のM&Aを対象にした商品も見られるようになっています。ただし、保険には補償の対象外となる事項や引き受けの条件があり、税務の論点がどこまでカバーされるかは商品ごとに異なります。案件規模や補償範囲によっては、活用を検討できる場合があるという位置づけで捉えておくのが適切です。
保険の仕組みと注意点は、以下の記事で詳しく解説しています。
表明保証保険とは?補償内容や保険料、注意点を売り手目線で解説
表明保証の税務でよくある質問
税務の表明保証について、売り手経営者からよく寄せられる質問に回答します。
税務の表明保証はどこまで細かく求められるのですか?
案件の規模と買い手候補の方針によって差があります。中小企業のM&Aでは、重要な項目に絞った表明にとどまる例もある一方、買い手候補が投資ファンドの場合や取引金額が大きい場合は、網羅的な表明を求められる傾向があります。
求められた条文を提案どおり受け入れる必要はなく、自社の実態に合わせて開示と限定を交渉するのが通常の進め方です。条文の重さに驚く前に、どこを調整できるかを専門家と確認することが望ましいです。
顧問税理士に任せていれば違反は起きないのですか?
適正に申告してきた会社でも、違反のリスクがゼロになるわけではありません。税務には、税務当局と見解が分かれ得る処理が存在するためです。
経費性の判断や取引価格の妥当性のように、申告時点では適正と考えていた処理が、後の税務調査で否認される場合があります。「申告済みだから安全」と考えるのではなく、見解が分かれ得る論点を把握したうえで、開示と限定で守りを固めておく発想が必要です。
売却後の税務調査は売り手の責任になるのですか?
調査の対象がクロージング前の事業年度であれば、その結果生じた追徴は表明保証や補償の対象になり得ます。一方、クロージング後の期間の処理は、原則として買い手側の経営のもとでの事柄です。
もっとも、実際にどこまで売り手の責任になるかは、契約で定めた補償の範囲、上限、期間によって決まります。だからこそ、契約前の条項の設計が売却後の生活の安定に直結します。署名の前に、責任の範囲を具体的に確認しておくことが重要です。
まとめ
税務に関する表明保証は、過去の申告と納税の適正さを広く表明する条項であり、争点は役員関連の経費、源泉徴収、繰越欠損金、グループ内取引といった足元の実務に潜んでいます。
売り手の守り方は契約前の設計に集約されます。見解が分かれ得る事項の開示、表明範囲の限定、補償の上限と期間の交渉、税務調査への関与の定めという4つの対策を、税理士、弁護士、FAと連携しながら組み立てていくことが、納得度の高い契約につながりやすくなります。
なお、表明保証への対応と並んで、売却対価にかかる税金の全体像を知っておくことも、手取りの計画に重要な視点です。以下の記事で確認しておくと、契約交渉と資金計画を並行して進めやすくなります。
会社売却後にかかる税金は?計算方法や確定申告、税引後手取りを増やす対策を解説
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