管工事業界のM&A相場はいくら?売却の手法やコツも解説!
公開日:2026.07.29
2026.07.29
更新日:2026.07.29
2026.07.29
管工事業界は、建物や施設における冷暖房・空調設備、給排水・給湯設備、衛生設備、ガス配管、ダクト、浄化槽など、暮らしと経済活動を支えるライフラインとなる配管設備の設置・改修・維持を手がける事業領域です。管工事は建設業法上の許可業種の一つであり、一定規模以上の工事を請け負うには建設業許可が必要です。
一方で、就業者の高齢化と担い手不足、時間外労働の上限規制をはじめとする働き方改革への対応、資材価格や労務費の上昇、下請構造のなかでの価格転嫁の難しさ、経営者の高齢化と後継者不足など、複数の経営課題を抱えています。
こうした環境を背景に、資格を持つ技術者の確保、施工エリアの拡大、設備工事の内製化などを目的として、大手設備工事会社やゼネコン、ビルメンテナンス・不動産管理会社、異業種企業が中小の管工事会社の買収を検討・実行するケースがあり、中小の管工事業者にとっても、売却や事業承継は検討対象となり得る選択肢の一つです。
本記事では、管工事業界のM&Aを行う際の相場の考え方をはじめ、業界の現状や代表的な売却手法について解説します。
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管工事業界の現状
管工事業界は、新築建物への設備の設置工事に加え、既存建物の設備更新・改修、修繕・メンテナンスまでを担う事業領域です。事業者は、設計から施工・保守までを一貫して手がける大手の総合設備工事会社(サブコン)から、地域密着で給排水や空調の工事を請け負う中小の専門工事業者まで幅広く存在し、元請・下請の重層的な構造のなかで事業が営まれています。
市場環境をみると、国土交通省の「令和7年度(2025年度)建設投資見通し」では、2025年度の建設投資は前年度比3.2%増の75兆5,700億円と見込まれています。新築需要に加え、高度経済成長期に整備された建物・インフラの老朽化に伴う設備更新や改修の需要が続いており、管工事は新設・改修の両面で必要とされる工事分野です。
※参考:国土交通省「令和7年度(2025年度)建設投資見通し」
事業者数については、国土交通省の調査によれば、令和7年3月末時点の建設業許可業者数は48万3,700業者で2年連続の増加となった一方、ピーク時(平成12年3月末)と比較すると19.5%の減少となっています。管工事業はそのなかの主要な許可業種の一つであり、中小規模の事業者が多数を占めるとみられます。
※参考:国土交通省「建設業許可業者数調査の結果について(令和7年3月末現在)」
課題面では、担い手の確保が最も大きな論点です。国土交通省の資料によれば、建設業就業者は55歳以上が36.6%を占める一方、29歳以下は11.9%にとどまり、高齢化の進行と次世代への技術承継が大きな課題とされています。時間外労働の上限規制への対応を含む働き方改革も、中小事業者の経営に影響を与えています。
※参考:国土交通省「参考資料集(建設業を巡る現状)」
また、資材価格や労務費の上昇も収益を圧迫しやすい状況です。帝国データバンクの集計では、物価高を要因とする倒産は2025年に949件と過去最多を更新し、業種別では建設業が240件と最も多くなっています。下請構造のなかで価格転嫁が進みにくい事業者ほど、影響を受けやすいとみられます。
※参考:帝国データバンク「倒産集計 2025年報」
こうした構造的課題と安定した設備需要を背景に、大手設備工事会社やゼネコン、ビルメンテナンス・不動産管理会社、異業種企業などが、資格を持つ技術者の確保、施工エリアの補完、工事の内製化を目的として、中小の管工事会社の買収を検討・実行するケースも見られ、管工事業界でも、事業承継や人材確保を目的にM&Aが選択肢として検討される場面があります。
管工事業界でM&Aを行うのはなぜ?売却の理由を紹介
管工事業界でM&Aが検討される理由は、主に「事業承継」と「人材確保・働き方改革・コスト上昇など業界固有の経営課題への対応」の二つに整理できます。
まず、事業承継の観点では、帝国データバンクの調査によれば、2025年の建設業の後継者不在率は57.3%と、業種別で最も高い水準にあります(全国全業種平均は50.1%)。地域の中小管工事業者でも、経営者の高齢化が進む一方で親族や従業員への承継が難しく、廃業を検討せざるを得ないケースがあるとみられます。
※参考:帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2025年)」
特に、経営者本人が建設業許可の要件となる経営業務の管理責任者や専任技術者を兼ねている会社では、経営者の引退がそのまま許可の維持に関わるため、後継体制の準備は事業継続に直結する課題です。
次に、業界固有の経営課題への対応という観点では、施工管理技士など資格を持つ技術者の確保・育成、時間外労働の上限規制への対応、資材価格・労務費の上昇への対応、DX・省人化投資などに、中小事業者が単独で取り組むには、人材面・資金面で負担が大きくなる場合があります。大手設備工事会社などの傘下に入ることで、人材の融通、受注基盤の拡大、管理業務の効率化などについて、買い手候補の経営資源を活用できる可能性があります。
また、管工事業界のM&Aでは、建設業許可の取扱いが手法によって異なる点が重要です。株式譲渡であれば法人格が継続するため許可は原則としてそのまま維持されますが、事業譲渡・合併・会社分割の場合には、令和2年10月施行の改正建設業法により、事前の認可を受けることで許可の空白期間を生じさせずに建設業者としての地位を承継できる制度が設けられています。国土交通省の調査によれば、令和6年度の承継制度の認可件数は1,060件となっています。こうした許可・経営事項審査・入札参加資格の承継、資格者の在籍状況をどのように維持できるかは、M&Aを検討するうえで重要な確認事項です。
※参考:国土交通省「建設業者の地位の承継について(建設業法第17条の2・3)」、国土交通省「建設業許可業者数調査の結果概要(令和7年3月末現在)」
管工事業界での企業売却方法は?3種類を紹介
管工事業界のM&Aでは、売却対象、技術者・職人との雇用関係、建設業許可・経営事項審査・入札参加資格の承継、元請・取引先との関係の扱いによって、適した手法が変わります。
代表的な手法は以下の3つです。
- 株式譲渡
- 会社分割
- 事業譲渡
管工事会社のM&Aでは、建設業許可の維持・承継(株式譲渡では法人格継続により原則維持、事業譲渡・合併・会社分割では事前認可制度の活用)、経営業務の管理責任者・専任技術者の要件維持、施工管理技士等の資格者の雇用契約、経営事項審査や入札参加資格の取扱い、進行中工事や瑕疵担保(契約不適合責任)の承継などが論点となるため、手法選択にあたっては、これらをどのように承継するかを慎重に検討する必要があります。
それぞれの手法について解説します。
株式譲渡とは?中小企業M&Aで最も選ばれる手法の仕組みと特徴
株式譲渡とは、企業の株主が保有する株式を他者に譲渡することで、経営権を移転するM&Aの手法のひとつです。中小企業のM&Aにおいては最も多く活用されており、後継者不在や事業承継を目的としたケースでよく採用されています。
株式譲渡のメリット
株式譲渡において、売却対象となるのはあくまで「株式」であり、会社そのものの法人格や契約関係、資産・負債はそのまま引き継がれます。
そのため、以下のようなメリットがあります。
- 従業員や取引先との契約を維持したまま、スムーズな引き継ぎが可能
- 許認可や契約の再取得が原則不要で、実務上の負担が少ない
- 法人格が継続するため、営業活動を中断せずに承継できる
とくに、現経営者が引退を検討している場合でも、事業を止めることなくバトンタッチできるため、後継者問題の有効な解決策となります。ただし、契約上のチェンジ・オブ・コントロール(COC)条項による相手方同意や、業種許認可の変更届・再許可が必要となる場合があるため、事前確認は不可欠です。
株式譲渡の注意点・デメリット
一方で、株式とともに過去の負債や簿外債務(帳簿に載っていないリスク)も引き継がれるという側面もあるため、買い手企業にとっては慎重な対応が必要です。
そのため、M&Aを進める際には、財務・法務・税務などに関するデューデリジェンス(詳細調査)を丁寧に実施し、リスクを洗い出すことが不可欠です。
会社分割とは?M&Aで活用される組織再編の手法と注意点
会社分割とは、企業が事業の一部を他の会社に移転することで、権利義務を承継させる法的な組織再編手続きです。M&Aにおいては、売却対象の事業を切り出してスムーズに移転させる手段として活用されています。
会社分割の主な種類
会社分割には、以下のような分類があります。
- 新設分割:新たに設立した会社に事業を承継させる
- 吸収分割:既存の他社に事業を承継させる
さらに、分割により得る対価の受け取り先によっても分類されます。
- 分割型分割:対価を分割元会社の株主が受け取る
- 分社型分割:対価を分割元会社自身が受け取る
会社分割のメリットと特徴
会社分割の最大の特徴は、契約・資産・負債などの権利義務を包括的に移転できる点です。これにより、個別契約ごとの承継手続きを省略でき、事業の引き継ぎが円滑に進められます。
また、分割によって整理された事業をその後に売却することで、M&Aの手続きも効率化されます。
税務上の注意点:適格分割と非適格分割の違い
会社分割には税務上の取り扱いに注意が必要です。「適格分割」であれば譲渡益の課税は繰り延べされますが、採用するスキームによっては「非適格分割」に該当します。
非適格分割では、資産が時価で評価され、譲渡益課税やみなし配当課税の対象となるため、税負担が発生します。
また、会社分割と株式譲渡をセットで行う場合、タイミングによって課税リスクが高まるため、スキーム設計は専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが重要です。
事業譲渡とは?M&Aで活用される承継手法と税務上の注意点
事業譲渡は、企業が事業の一部または全部を、契約に基づいて他社へ売却するM&A手法のひとつです。
譲渡の対象となる資産・負債・契約関係を個別に指定して承継する点が特徴であり、柔軟性が高い一方で、手続きは煩雑になりやすいという側面もあります。
事業譲渡のメリット:簿外債務を回避しやすい
事業譲渡では、契約書に記載されたものだけが承継対象となるため、買い手企業にとっては、不要な債務やリスクを回避しやすくなります。
特に、簿外債務の存在が懸念されるケースでは、株式譲渡ではなく事業譲渡を希望する買い手企業が多い傾向にあります。
売り手側の税務上の扱い:事業譲渡益に課税
事業譲渡によって得た対価のうち、譲渡対象資産・負債の簿価純額との差額は「事業譲渡益」として、売り手側に法人税が課税されます。
また、事業譲渡には以下のような消費税に関する注意点もあります。
課税資産と非課税資産の両方をまとめて譲渡するため、資産ごとの課税・非課税を区分し課税対象資産部分の消費税を計算する必要があり、それぞれの対価を合理的に区分し、課税・非課税の計算を行う必要があります。
事業譲渡のデメリット:承継手続きが煩雑
個別承継であるため、以下のような実務負担が大きい点はデメリットと言えます。
- すべての契約(従業員との雇用契約含めて)を再締結する必要がある
- 許認可や届出が一から取得し直しとなる場合がある
管工事業界の売却の流れは?3つのステップを紹介

管工事業界のM&Aを進める場合は、大きく3つのステップに分けて進められます。
- M&Aの準備と助言会社の選定
- 買い手候補先企業との接触、意向表明受領
- 詳細調査(DD)、最終契約とクロージング
それぞれの段階で必要となる準備や手続きが異なるため、流れを把握しておきましょう。
Step1.M&Aの準備と助言会社の選定
はじめに、売却目的と希望条件を整理したうえで、M&AアドバイザーやFAなどの助言会社を選定します。
この段階で重要なのは、想定される売却価格だけでなく、どのような買い手候補に、技術者・職人の体制、元請・取引先との関係、許可・資格をどのように承継したいのかを明確にしておくことです。
管工事会社の場合、買い手候補の評価や取引条件に影響し得る論点として、建設業許可の業種・区分(一般・特定)と有効期限、経営業務の管理責任者・専任技術者の該当者と後任候補の有無、施工管理技士・技能士など資格者の人数と年齢構成、経営事項審査の結果や入札参加資格・公共工事の実績、主要な元請・取引先(ゼネコン、設備工事会社、官公庁、管理会社など)との取引関係と売上依存度、公共・民間、新設・改修別の売上構成、協力会社・職人のネットワーク、保有機材・車両、労務管理・社会保険の加入状況、受注残・進行中工事、工事代金の回収条件などが挙げられます。
これらを事前に棚卸しし、資料として説明できる状態に整えておくことで、後工程での論点整理や条件交渉を進めやすくなる場合があります。
Step2.買い手候補先企業との接触、意向表明受領
次に、助言会社を通じて買い手候補へ打診を行います。初期段階では概要資料を提示し、関心を示した企業と秘密保持契約を締結したうえで、財務・事業などに関する詳細情報を段階的に開示します。
買い手候補からは、譲渡価格のレンジ、取引方法、引き継ぎ条件、売却後の運営方針などをまとめた意向表明書が提出されます。
売り手は、提示金額だけでなく、技術者・従業員の処遇、主要取引先との取引継続方針、施工体制や社名・ブランドの運営方針なども含めて比較し、基本合意に進むかを判断します。
Step3.詳細調査(DD)、最終契約とクロージング
基本合意後は、買い手による詳細調査が行われます。
管工事会社では、財務・税務・法務・労務・ビジネス面の確認に加えて、資格者の定着と許可要件の維持可否、経営事項審査・入札参加資格の取扱い、進行中工事の原価管理と契約不適合責任、労務管理・社会保険の加入状況などが重視されやすい点が特徴です。
調査結果を踏まえて、譲渡価格、表明保証、補償条項、クロージング条件、進行中工事・受注残の取扱いなどを調整し、最終契約を締結します。
その後、対価の決済と引き渡しを行うクロージングをもって、取引が完了します。
M&Aの流れについてより詳しく知りたい方は以下のページをご覧ください。
管工事業界の売却の相場は?価値算定方法を解説
管工事業界のM&Aにおける売却価格は、「〇〇円が相場」と一律に決まるものではありません。
実務では、建設業許可や資格者の体制、元請・取引先との取引関係、公共・民間の受注構成、収益力、負債、買い手候補の評価方針などを踏まえ、最終的には売り手と買い手候補の交渉によって価格が決まります。
管工事会社は、施工管理技士など資格者の人数と年齢構成、経営事項審査の評点や入札実績、元請との継続的な取引関係、改修・メンテナンスなど反復受注の比率、施工エリアなどが買い手候補の評価上重視されやすく、同規模の売上であっても、資格者の厚み、公共工事の実績、改修・保守などストック型収益の比率、労務管理の水準によって、買い手候補の評価に差が出る可能性がある業態です。
特に、若手を含む資格者を安定して確保している事業者や、特定エリア・特定分野(空調、給排水、プラント配管など)で実績を持つ事業者、属人化を抑えて施工管理体制を整えた事業者は、財務数値に加えて、資格者の体制、取引先との関係、施工実績、労務管理の状況などが評価上考慮される場合があります。
こうした理由から、管工事会社のM&Aでは、まず企業価値を算定し、そのうえで負債や現金などを考慮しながら、評価の全体像を整理するのが一般的です。
以下では、その基本的な考え方について解説します。
1.企業価値を算定する
管工事業界のM&A実務において事業価値の算定には、大きく分けて2つの方法があります。
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
インカムアプローチは、営業資産が生み出す将来キャッシュフローを評価の基礎とする方法です。代表的なディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法では、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を試算します。
理論的に優れた方法ではあるものの、将来キャッシュフローの見積もりや割引率の計算は非常に難易度が高く、経験を積んだ専門家でないと試算が困難で、初見では理解しづらいのが大きな欠点でしょう。
本稿では「価値の概算を簡単に知る」ことを目的にしていますので、インカムアプローチの詳細な説明は割愛します。
マーケットアプローチは、市場における取引価格を参考にして事業価値を算定する方法です。具体的には、以下のような方法が存在します。
- 類似会社比較法
- 類似取引比較法
類似会社比較法は、評価する対象の企業の類似会社にあたる上場会社の企業価値と、営業利益や収益力(EBITDA)といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで、事業価値を算出する方法です。
具体的には、以下のように算定します。
EBITDA×業界相場の倍率(EBITDAマルチプル)=企業価値
(EBITDAマルチプル=上場類似会社の企業価値/上場類似会社のEBITDA)
EBITDAは、営業利益に減価償却費を足して算出されるものです。
また、類似会社は、業界が同じ上場企業を選定するのはもちろんのことですが、ビジネスモデルや収益構造、顧客の層などの類似性から選定するパターンもあります。類似会社をどのように選ぶかによって、算定結果は大きく左右されます。
2.株式価値を算定する
企業価値を算出したら、株式価値を算出しましょう。株式価値は、以下のように算出します。
企業価値-有利子負債+現金同等物=株式価値
第三者に譲渡する場合に、どの程度の価値がつくかを把握しておくことは重要なため、理解しておきましょう。
なお、マーケットアプローチには、類似会社比較法のほか、類似するM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法という方法が存在します。
しかし、参照する過去の取引における対象会社が非上場である場合、入手可能な財務数値が限定的であるため、同方法が中小企業のM&Aで利用されることは少ないのが現状です。
M&Aにおける価値の算定については、下記で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
うちの会社、結局いくらで売れるの?~事業オーナーの疑問に答えるコラム①~
また、自社の具体的な株式価値を知りたい場合には、株価シミュレーターを用意していますので、以下で試算可能です。ぜひご活用ください。
管工事業界で企業を売却する3つのメリット
管工事業界でM&Aを活用するメリットは、経営者個人の利益にとどまりません。
適切な承継は、技術者・職人の雇用や、取引先・施主に対する施工・保守対応の継続につながる可能性があります。
- 技術者・職人の雇用と施工ノウハウを維持しやすくなる
- 経営者は売却対価を得られる可能性がある
- 取引先・施主への対応を継続しやすくなる
ここでは、売り手にとって特に重要な3つのメリットを解説します。
技術者・職人の雇用と施工ノウハウを維持しやすくなる
管工事会社は、施工管理を担う技術者や、配管・設備の施工を担う職人の存在が重要です。
廃業を選択した場合、技術者・職人の雇用の継続が難しくなるほか、長年にわたって培われた施工ノウハウや安全・品質管理の知見が、事業として承継されにくくなる可能性があります。
M&Aにより事業が承継されれば、技術者・職人の雇用を維持しながら施工を継続しやすくなる場合があります。売り手にとっては、人材や施工ノウハウを次の運営体制へ承継しやすくなる点がメリットです。
施工管理や見積り、元請対応のノウハウが特定の技術者に蓄積されている場合、当該人材の継続関与の可否は、買い手候補の評価や譲渡後の運営に影響する可能性があります。
経営者は売却対価を得られる可能性がある
M&Aによる売却は、これまで築いてきた元請・取引先との関係、資格者の体制、施工実績や許可・入札資格を含む事業価値を、譲渡対価として回収する手段の一つです。
売却対価を得られた場合、引退後の生活資金、資産承継、次の事業への投資などに活用できる可能性があります。
後継者不在のまま廃業した場合、進行中工事の引き継ぎ対応、元請・施主への説明、従業員・協力会社との契約整理、機材・車両の処分などが必要になる可能性があります。また、取引先との関係や施工実績が事業として評価されにくくなる場合があります。
M&Aでは、買い手候補は一般的には事業の継続性を前提に価値を評価するため、経営者は計画的に出口を設計しやすくなります。
取引先・施主への対応を継続しやすくなる
管工事会社は、元請や施主、建物の管理会社などに対して、施工だけでなく、竣工後の点検・修繕・緊急対応などを継続的に担っているケースが少なくありません。
突然の廃業は、取引先にとって新たな施工会社の確保、進行中工事の引き継ぎ、保守対応先の切り替えなどの負担につながる可能性があります。
M&Aによって承継されることで、施工・保守体制を維持しながら対応を継続しやすくなるため、取引先・施主への影響を抑えながら事業を引き継ぎやすくなる点は、売り手にとってメリットの一つです。
管工事業界で企業を売却する際の3つのポイント
管工事業界でM&Aを円滑に進めるには、売上規模だけでなく、買い手候補が重視する論点を整理しておく必要があります。
買い手候補は、建設業許可・資格者の体制、元請・取引先との取引継続の見込み、労務管理の状況を慎重に確認します。
- 許可・資格者・取引先・労務を棚卸しする
- 経営者・キーパーソンへの属人性を下げる
- 信頼できるM&Aアドバイザー、弁護士、税理士などの専門家を活用する
ここでは、管工事会社の売却を検討する際に、特に重要な3つのポイントを解説します。
許可・資格者・取引先・労務を棚卸しする
管工事会社の買い手候補による評価は、財務数値に加えて、建設業許可と資格者の体制、元請・取引先との取引関係、労務管理の状況などに影響を受ける可能性があります。
買い手候補は、これらが譲渡後も維持・活用できるかを慎重に確認します。
そのため、売却前に以下の点を棚卸しし、説明できる状態にしておくことが重要です。
- 建設業許可の業種・区分(一般・特定)・有効期限、経営業務の管理責任者・専任技術者の該当者と後任候補
- 施工管理技士・技能士など資格者の一覧、年齢構成、雇用形態、退職・離職リスク
- 経営事項審査の結果、入札参加資格、公共・民間別の施工実績
- 主要な元請・取引先の一覧、取引条件、発注実績、売上依存度、改修・保守など反復受注の状況
- 協力会社・職人のネットワーク、保有機材・車両、安全管理体制
- 労務管理・社会保険の加入状況、進行中工事・受注残と原価管理の状況
これらの整理が不十分だと、DDを経て価格見直し、追加条件の設定、交渉停止などにつながる可能性があります。
経営者・キーパーソンへの属人性を下げる
管工事会社で買い手候補の評価に影響しやすい要因の一つが、経営者や特定の技術者への過度な依存です。
特に、経営者本人が経営業務の管理責任者や専任技術者を兼ねている場合や、見積り・施工管理・元請対応が一部のキーパーソンに集中している場合、買い手候補から、譲渡後に許可要件の維持や運営に支障が生じるリスクが高い事業と判断される可能性があります。
属人性による懸念を抑えるためには、以下のような取り組みが重要です。
- 経営業務の管理責任者・専任技術者の後任候補の育成と、資格取得の計画的な支援
- 見積り・施工管理・安全管理の手順の標準化と文書化
- 元請・取引先対応の組織的な管理(担当の複数化など)
- 図面・施工記録・原価データ・保守履歴の体系的な管理
属人性を下げることで、人員交代後も許可要件と事業を維持しやすい体制として評価される可能性が高くなり、買い手候補が検討しやすくなるというプラスの効果があります。
信頼できるM&Aアドバイザー、弁護士、税理士などの専門家を活用する
管工事会社のM&Aでは、建設業許可の承継(事業譲渡・合併・会社分割における事前認可申請を含む)、経営事項審査・入札参加資格の取扱い、資格者の雇用契約の承継、進行中工事の責任分担など、業種特有の論点が生じる場合があります。
準備やスキーム設計が不十分なまま進めると、譲渡条件の見直し、クロージング条件の追加、売却後の紛争などにつながる可能性があります。
そのため、以下のような専門家の支援を受けることが重要です。
- 売り手側の立場で支援するFA・M&Aアドバイザー
- 税務は税理士、契約・責任分担は弁護士、会計・財務DDは公認会計士、労務は社会保険労務士、建設業許可の手続きは行政書士などの専門家
売り手側のFAを活用することで、価格交渉や条件調整において、売り手の意向を踏まえた交渉方針を整理しやすくなります。
感情に左右された場当たり的な判断を避けるという観点でも、第三者による専門的な視点を取り入れることが望ましいです。
管工事業界での企業売却にかかる税金とは?
企業を売却する際には、売却益に対して税金が発生します。この税金の仕組みは、「個人オーナーが売却する場合」と「法人が株式を譲渡する場合」で異なるため、正しく理解しておくことが重要です。個人・法人別にわかりやすく解説します。
個人オーナーの場合
個人が自社株などの株式を譲渡し、譲渡益(売却益)が発生した場合、その利益は「譲渡所得」として扱われます。
課税の仕組み
譲渡所得 = 売却価格 -(取得費 + 譲渡費用)
この譲渡所得には、以下の税が課せられます。
- 所得税(復興特別所得税含む)
- 住民税
給与所得などとは分離して課税されるため、所得の合算は不要ですが、確定申告が必要です。
ただし、ミニマムタックスに該当する場合は給与所得等の他の所得との合算して算出する必要があるため、適切に節税するためには、事前に税理士など専門家への相談が欠かせません。
法人の場合
法人が保有する株式を譲渡した場合、その売却益は法人の「益金(収益)」として扱われ、他の事業収益と合算されて法人税等が課税されます。
法人の場合の税務処理
- 譲渡益は法人所得として計上され、通常の法人税率で課税
- 譲渡損失が出た場合、他の所得と損益通算が可能
- 所得と損失の調整により、柔軟な節税が可能
評価差額にも注意
帳簿価額と時価の差(含み益)がある場合、譲渡時に課税対象となる可能性があります。
まとめ
管工事業界は、建物・インフラの老朽化に伴う更新・改修需要を背景に安定した必要性がある事業領域である一方で、就業者の高齢化と担い手不足、働き方改革への対応、資材価格・労務費の上昇、経営者の高齢化と後継者不足など、複数の経営課題を抱えています。
中小の管工事業者にとっては、単独でこれらに対応する負担が大きくなる場合があります。そのため、M&Aは事業継続や関係者への影響を踏まえた選択肢の一つになり得ます。
売却を円滑に進めるためには、建設業許可・資格者・取引先・労務の棚卸しに加えて、許可要件を担う人材の後任確保や属人性の低減を含めた準備を、M&Aアドバイザー、弁護士、税理士、行政書士などの専門家に確認しながら早期に進めることが望ましいです。
RISONALでは、売り手に特化したFAサービスを提供しています。専属のエージェントがお客様の希望に沿った取引を実現するため、最適なサポートを行います。より高い評価額での売却を目指したアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を抑えた成約も可能です。
管工事業界のM&Aでは、買い手目線で条件調整が進みやすい仲介型の支援の場合、価格や引き継ぎ条件が売り手に不利になるケースも少なくありません。そのため、誰の利益を最優先に交渉するのかを明確にした支援体制が重要です。
無料相談が可能です。実際にどの程度の価格で売却できるのか、また、どのようにすればより高く売却できるのかを、ぜひご確認ください。
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