会社分割の債権者保護手続とは?5つの手順と不要・省略になる条件を解説
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- M&Aのスキーム
公開日:2026.11.04
2026.11.04
更新日:2026.11.04
2026.11.04
会社分割では、債権者が異議を述べる機会を設ける債権者保護手続が必要です。対象となる債権者の範囲、公告から登記までの5つの手順、手続きが不要になる場合と個別の催告を省略できる条件、売り手が注意したい点を会社法の条文に沿って解説します。

会社分割で事業を切り出したいが、債権者への公告や催告がどこまで必要なのか分からない。手続きを誤ると、分割の効力に影響したり、思わぬ責任を負ったりするおそれがあります。会社分割の債権者保護手続は、分割によって不利益を受けるおそれのある債権者に、異議を述べる機会を与える手続きです。会社法は、対象となる債権者の範囲、公告の内容、期間を細かく定めています。本記事では、手続きの対象となる債権者と5つの手順を説明したうえで、手続きが不要になる場合と個別の催告を省略できる条件を解説します。あわせて、売り手が注意したい点を示します。
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会社分割の債権者保護手続とは
会社分割の債権者保護手続とは、会社分割によって不利益を受けるおそれのある債権者に対し、分割について異議を述べる機会を与える手続きです。債権者異議手続とも呼ばれます。
会社分割では、分割の契約や計画に定めた権利と義務が、債権者の個別の承諾なしにまとめて移ります。債権者から見ると、自分の債務者が知らないうちに変わったり、会社の財産が減ったりするおそれがあります。
会社法は、異議を述べることができる債権者がいる場合に、分割をする会社に対して、官報への公告と、把握している債権者への個別の催告を求めています。債権者は、定められた期間内に異議を述べることができます。
手続きの規定は、分割の方法と立場によって次のように分かれます。
- 吸収分割をする会社(分割会社):会社法第789条
- 吸収分割で事業を受け入れる会社(承継会社):会社法第799条
- 新設分割をする会社:会社法第810条
会社分割を検討する段階で、自社がどの立場で、どの規定の手続きを行うのかを確認します。
会社分割の仕組みや吸収分割と新設分割の違いについては、下記で詳しく解説しています。
M&Aにおける会社分割とは?吸収分割と新設分割の違いやメリットも解説
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債権者保護手続の対象になる債権者は分割会社と承継会社で異なる
異議を述べることができる債権者の範囲は、事業を渡す分割会社と、事業を受け入れる承継会社で異なります。
| 立場 | 異議を述べることができる債権者 |
|---|---|
| 分割会社 | 分割の後に、分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる債権者 |
| 分割会社(分割の対価を株主に分配する場合) | 分割会社のすべての債権者 |
| 承継会社 | 承継会社のすべての債権者 |
分割会社の側では、債務が承継会社に移り、分割会社に請求できなくなる債権者が対象です。会社法は、分割会社が承継会社と連帯して保証債務を負う場合を含め、分割会社に請求できる債権者は対象外としています。
ただし、分割の対価として受け取った株式を株主に配当するなどの定めがある場合は、分割会社のすべての債権者が対象になります。
承継会社の側では、受け入れる債務の分だけ財産の状態が変わるため、承継会社のすべての債権者が対象です。
どの債権者が対象になるかは、分割の契約で債務をどう割り振るかで決まります。移す債務の一覧を作り、対象となる債権者を特定します。
M&Aの手法ごとの借入金の扱いについては、下記で解説しています。
M&Aで残債や借入金はどうなる?スキーム別の取り扱いと注意点を解説
会社分割の債権者保護手続を進める5つの手順
債権者保護手続は、会社法の定める順序で進めます。手順は以下の5つです。
- 官報に分割の内容と異議を述べられる旨を公告する
- 知れている債権者に個別に催告する
- 1か月以上の異議申述期間を置く
- 異議を述べた債権者に弁済や担保の提供をする
- 公告と催告をした証明書類を登記の申請に添付する
それぞれを順に解説します。
官報に分割の内容と異議を述べられる旨を公告する
最初に、官報に分割の内容を公告します。 会社法第789条第2項は、吸収分割の場合に公告する事項として次の4つを定めています(新設分割の場合は第810条第2項によります)。
- 吸収分割をする旨
- 相手方の会社の商号と住所
- 両社の計算書類に関する事項
- 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
官報への掲載は、申込みから掲載まで日数がかかります。分割の効力を生じさせたい日から逆算し、公告の申込みの時期を決めます。
計算書類に関する事項は、決算公告をしているかどうかで書き方が変わります。決算公告の状況を、公告の準備と同時に確認します。
知れている債権者に個別に催告する
公告とあわせて、会社が把握している債権者には、個別に催告します。 会社法第789条第2項は、知れている債権者に各別に催告しなければならないと定めています。
催告の対象になるのは、異議を述べることができる債権者のうち、会社が把握している者です。
把握している債権者の例は次のとおりです。
- 借入れのある金融機関
- 買掛金や未払金のある取引先
- リース会社や賃貸人
催告を送った債権者の一覧と、送付の記録を残します。各別の催告を受けなかった債権者は、分割後に分割会社へ請求できない取り決めになっていても、分割会社に対しては効力発生日に有していた財産の価額を限度として、承継会社に対しては承継した財産の価額を限度として、債務の履行を請求できるためです。
1か月以上の異議申述期間を置く
債権者が異議を述べられる期間は、1か月以上としなければなりません。 会社法第789条第2項ただし書は、公告する異議の期間について、1か月を下ることができないと定めています。
債権者が期間内に異議を述べなかったときは、分割を承認したものとみなされます(同条第4項)。
期間は、公告と催告の両方が済んだ時点から1か月以上確保できるように設定します。期間の満了日と、分割の効力を生じさせる日の順序を、日程表で確認します。
異議を述べた債権者に弁済や担保の提供をする
異議を述べた債権者には、弁済や担保の提供などの対応をします。 会社法第789条第5項は、異議を述べた債権者に対し、次のいずれかを行わなければならないと定めています。
- 債務を弁済する
- 相当の担保を提供する
- 弁済を受けさせることを目的に、信託会社などに相当の財産を信託する
ただし、分割をしても債権者を害するおそれがないときは、対応は不要です。害するおそれがないと判断する場合は、判断の根拠を説明できるよう資料を整えます。
異議が出そうな債権者には、公告の前に分割の内容を説明しておくと、手続きが円滑に進みやすくなります。
公告と催告をした証明書類を登記の申請に添付する
分割の登記の申請には、債権者保護手続を行ったことを証する書面を添付します。 商業登記法第85条は、吸収分割について、公告と催告をしたことや、異議を述べた債権者に弁済などをしたことを証する書面の添付を求めています。
添付する書面の例は次のとおりです。
- 公告が掲載された官報
- 催告書の控えと、催告した債権者の一覧
- 異議を述べた債権者への弁済の領収書や担保提供の書類、または分割をしても当該債権者を害するおそれがないことを証する書面
書面が揃わなければ、原則として登記の申請は受理されません。手続きの各段階で、証拠となる書類を保管します。
会社分割の登記の書類や費用については、下記で解説しています。
分割会社が引き続き債務を負う場合は分割会社の債権者保護手続が原則として不要になる
分割会社の側の債権者保護手続は、分割の後も分割会社に請求できる債権者に対しては不要です。会社法が、異議を述べることができる分割会社の債権者を、分割の後に分割会社に請求できなくなる債権者に限っているためです。
たとえば、承継会社に移す債務について、分割会社も引き続き債務を負う形にすれば、債権者は分割会社に請求を続けられます。分割会社も債務を負い続ける場合、分割会社の債権者には異議を述べる権利がありません。
移す債務のすべてについて分割会社も債務を負い続けるのであれば、原則として、分割会社の側では公告や催告を行う必要がなくなります。
ただし、次の場合は手続きが必要なままです。
- 分割の対価を株主に配当するなどの定めがある場合
- 承継会社の側の手続き
承継会社の債権者は、分割会社の債務の扱いにかかわらず異議を述べることができます。新設分割では、設立される会社にまだ債権者がいないため、承継する側の手続きは問題になりません。
分割会社が債務を負い続けるかどうかは、分割の契約で定めます。手続きの負担と、分割会社に残る責任の重さを比べて、契約の内容を決めます。なお、債権者保護手続が不要な場合でも、承継会社に承継されない債務の債権者(残存債権者)を害することを知って分割をしたときは、残存債権者は承継会社に対し、承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求できます(会社法第759条第4項)。
官報と日刊新聞紙か電子公告で公告すれば個別の催告を省略できる
知れている債権者への個別の催告は、公告を二つの方法で行えば省略できる場合があります。会社法第789条第3項は、官報に加えて、定款で定めた日刊新聞紙への掲載か電子公告で公告をするときは、各別の催告を要しないとしています。
官報とあわせて二つの方法で公告することから、二重公告と呼ばれます。債権者が多い会社では、催告書を一つずつ送る手間を省けます。
二重公告で催告を省略するには、次の条件を満たす必要があります。
- 定款で、公告の方法を日刊新聞紙か電子公告と定めていること
- 官報と定款で定めた方法の両方で公告すること
定款の公告の方法が官報のみの会社が二重公告を使うには、原則として、株主総会の特別決議で定款を変更し、公告方法の変更の登記をしておく必要があります。また、電子公告で行う場合は、公告期間中に法務大臣の登録を受けた調査機関の調査を受ける必要があります(会社法第941条)。
ただし、吸収分割をする会社の不法行為によって生じた債務の債権者には、二重公告をしても個別の催告を省略できません。新設分割をする会社についても同じ例外が定められています(会社法第810条第3項)。事故の損害賠償などを負っている会社は、該当する債権者に個別に催告します。
実務では、官報と電子公告の二重公告で手続きを行う例も見られます。自社の定款の公告の方法を確認し、二重公告を使うかを決めます。
売り手が会社分割の債権者保護手続で注意したい3つの点
手続きに不備があると、分割の後に会社が責任を問われる可能性があります。売り手が注意したい点は以下の3つです。
- 催告から漏れた債権者には分割会社と承継会社の両方が責任を負う
- 残る債権者を害する会社分割は承継会社に履行を請求される
- 決算公告をしていないと公告に貸借対照表の要旨を載せる必要がある
それぞれを順に解説します。
催告から漏れた債権者には分割会社と承継会社の両方が責任を負う
個別の催告を受けなかった債権者は、分割の契約の定めにかかわらず、分割会社と承継会社の両方に請求できます。 会社法第759条第2項・第3項は、催告を受けなかった債権者が、次の範囲で債務の履行を請求できると定めています。
- 分割会社に対して:分割の効力が生じた日に分割会社が持っていた財産の価額まで
- 承継会社に対して:承継した財産の価額まで
分割の契約で「当該債務は承継会社だけが負う」と定めていても、催告から漏れた債権者には通用しません。
なお、二重公告によって各別の催告を省略した場合、この責任の対象になるのは、催告を省略できない不法行為によって生じた債務の債権者に限られます。
売り手にとっては、事業を切り出した後も、思わぬ債務の請求を受けるおそれがあります。会計帳簿や契約書から債権者を洗い出し、漏れのない催告先の一覧を作ります。
残る債権者を害する会社分割は承継会社に履行を請求される
分割会社に残る債権者を害すると知りながら会社分割をすると、承継会社が債務の履行を請求される可能性があります。 会社法第759条第4項は、残存債権者が、承継会社に対して、承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求できると定めています。
典型的なのは、採算のよい事業だけを承継会社に移し、借入金を分割会社に残す分割です。分割会社に残った債権者が回収できなくなるため、規制の対象になる可能性があります。
吸収分割で、承継会社が債権者を害することを知らなかった場合は、請求の対象になりません。
この請求は、残存債権者が詐害的な分割であることを知った時から2年以内に請求や請求の予告をしない場合や、効力発生日から10年を経過した場合には、できなくなります(同条第6項)。
事業を切り出す際は、分割会社に残る債務を返済できる見込みがあるかを、分割の前に確認します。
事業の一部を切り出して売却する方法については、下記もあわせてご覧ください。
カーブアウトM&Aとは?事業の一部を売却する3つのスキームと注意点を解説
決算公告をしていないと公告に貸借対照表の要旨を載せる必要がある
決算公告をしていない会社は、債権者保護手続の公告に、最終事業年度の貸借対照表の要旨を載せる必要があります。 公告する計算書類に関する事項の内容は、会社法施行規則第188条(吸収分割会社の場合)が定めています。
同規則によると、決算公告をしている会社は、掲載した官報の日付や頁などを示せば足ります。決算公告をしていない会社は、貸借対照表の要旨の内容自体を公告に載せることになります。
中小企業では、決算公告をしていない会社もあります。貸借対照表の要旨を載せると、公告の分量が増え、準備に時間がかかります。公告の準備を始める前に、最終事業年度の決算書を確定させておきます。
会社分割の債権者保護手続に関するよくある質問
会社分割の債権者保護手続について、経営者から寄せられることの多い質問を3つ取り上げます。手続きを省いた場合、事業譲渡との違い、分割の効力が生じる時期の3点です。
債権者保護手続をしないで会社分割をするとどうなりますか?
会社法第759条第10項は、吸収分割について、債権者保護手続が終了していない場合には、承継会社が権利義務を承継するといった分割の効力が生じないとしています。登記の申請にも、手続きを行ったことを証する書面が必要です。手続きは省略せず、日程に組み込みます。
事業譲渡でも債権者保護手続は必要ですか?
事業譲渡には、会社分割のような会社法上の債権者保護手続はありません。代わりに、債務を買い手に移すには、原則として債権者から個別に承諾を得る必要があります。残る債権者を害する事業譲渡には、会社分割と同じく買い手への請求の規定があります(会社法第23条の2)。
会社分割と事業譲渡のどちらを選ぶかについては、下記で詳しく解説しています。
会社分割と事業譲渡の違いとは?一部事業を売る売り手の5つの判断軸を解説
会社分割の効力はいつ生じますか?
吸収分割では、分割の契約で定めた効力発生日に、承継会社が権利義務を承継します。新設分割では、新しく設立する会社の設立の登記をした日に効力が生じます。いずれも、債権者保護手続を効力の発生までに終える必要があります。
まとめ
会社分割の債権者保護手続は、分割によって不利益を受けるおそれのある債権者に、異議を述べる機会を与える手続きです。会社法が、対象となる債権者、公告の内容、期間を定めています。
要点は以下のとおりです。
- 分割会社では分割の後に請求できなくなる債権者が、承継会社ではすべての債権者が対象になる
- 官報の公告と個別の催告を行い、1か月以上の異議申述期間を置く
- 分割会社が引き続き債務を負う形にすれば、分割会社の側の手続きは原則として不要になる
- 二重公告で個別の催告を省略できるが、不法行為の債権者には催告が必要
- 催告から漏れた債権者には、分割会社と承継会社の両方が責任を負う
手続きに不備があると、分割の後に売り手の会社が責任を問われる可能性があります。分割の契約を固める前に、債権者の一覧と公告の日程を専門家と確認してください。
売却前に押さえておきたい注意点は、資料でも確認できます。
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