M&Aでストックオプションの扱いはどうなる?手法別の帰結と税金、売り手が整理する5つの手順

2026.09.29

公開日:2026.09.29

2026.09.29

2026.09.29

更新日:2026.09.29

2026.09.29

M&Aでストックオプションの扱いはどうなる?手法別の帰結と税金、売り手が整理する5つの手順

M&Aでは未行使のストックオプションを行使・買取・消滅のいずれかで整理します。手法ごとの帰結、税制適格と非適格で変わる課税、令和6年度改正の内容、売却価格への影響、確認する4つの条項と整理の手順を解説します。

役員や従業員にストックオプションを付与しているが、売却するとどうなるのか。買い手候補は、未行使の新株予約権が残った状態での取得を避けます。整理の方法によって、付与を受けた人の税負担も、売り手株主の手取りも変わります。

本記事では、手法ごとの帰結と税金の扱いを示したうえで、令和6年度税制改正の内容と売却価格への影響を解説します。あわせて、確認する4つの条項と整理の5つの手順を示します。

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M&Aでは未行使のストックオプションを行使・買取・消滅のいずれかで整理する

ストックオプションは、会社法上の新株予約権(会社法第2条第21号)として発行されます。行使されれば新株が発行され、株主構成が変わります。

買い手候補が求めるのは、取得後に株式が希薄化しない状態です。未行使の新株予約権が残っていれば、将来的に持分が薄まる可能性を抱えることになります。

会社法(e-Gov法令検索)

整理の方法は、クロージング前に行使してもらう、会社や買い手候補が買い取る、消滅させるの3つに大別されます。選び方によって、付与を受けた人の税負担も変わります。

付与者の同意が必要になる場面もあり、人数が多いほど調整には時間がかかります。整理の見通しが立たなければ、買い手候補は条件を固められません。

国税庁 質疑応答事例

まずは新株予約権原簿を確認し、付与者と未行使数を把握します。

M&Aの手法ごとに異なるストックオプションの帰結

手法によって、新株予約権の行方は変わります。押さえる点は以下の3つです。

  • 株式譲渡では新株予約権が残るため買い手候補は消滅か買取を求める
  • 合併では消滅会社の新株予約権が消滅し買取請求の対象になる
  • 株式交換や株式交付では買い手候補のストックオプションに引き継げる

それぞれを順に解説します。

株式譲渡では新株予約権が残るため買い手候補は消滅か買取を求める

株式譲渡では、新株予約権は会社に残ります。 発行した会社が存続するため、権利も存続するからです。

買い手候補は、完全な支配を得るために整理を求めます。クロージングの前提条件として、未行使分の消滅または買取を挙げられるのが一般的です。

新株予約権原簿から未行使数を集計し、交渉の前提として買い手候補へ開示します。

合併では消滅会社の新株予約権が消滅し買取請求の対象になる

合併では、消滅する会社の新株予約権も消滅します。 会社法第787条は、組織再編に際して新株予約権者が買取請求を行える場面を定めています。

会社法(e-Gov法令検索)

存続会社の新株予約権を交付する定めを置く場合もあります。合併を選ぶ場合は、新株予約権の扱いを組織再編の条件に含めます。

株式交換や株式交付では買い手候補のストックオプションに引き継げる

買い手候補の新株予約権へ切り替える方法もあります。 株式交換では、完全親会社となる会社の新株予約権を交付する設計が可能です。

付与を受けた人にとっては、権利が失われずに引き継がれます。買い手候補が上場企業であれば、市場で売却できる株式に切り替わる点も利点です。

切り替えの可否は買い手候補の方針によります。

※参考:国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/230428/pdf/01.pdf

交渉の早い段階で、対応の可否を確認します。

株式交換・株式交付の仕組みと使い分けについては、下記で詳しく解説しています。

株式交換とは?仕組みや株式移転との違い、メリット・デメリットも解説

株式交換と株式移転の違いとは?株式交付も含めた使い分けや手続きも解説

役員や従業員のストックオプションにかかる税金

課税の扱いは、要件を満たすかどうかで分かれます。押さえる点は以下の3つです。

  • 税制適格の要件を満たして行使すれば売却時の譲渡所得だけが課税される
  • 要件を満たさずに行使すると行使時の利益が給与所得として課税される
  • 買い手候補や発行会社がストックオプションを買い取ると対価は給与所得になる

それぞれを順に解説します。

税制適格の要件を満たして行使すれば売却時の譲渡所得だけが課税される

要件(租税特別措置法第29条の2)を満たせば、課税が繰り延べられます。 経済産業省は、ストックオプション税制について、権利行使時の取得株式の時価と権利行使価額との差額に対する給与所得課税を株式売却時まで繰り延べ、株式売却時に売却価格と権利行使価額との差額を譲渡所得として課税する制度だと説明しています。

No.1540 ストック・オプション税制の適用を受けて取得した株式を譲渡した場合|国税庁

権利行使の時点では納税が生じません。付与契約が要件を満たしているかを、税理士へ確認します。

要件を満たさずに行使すると行使時の利益が給与所得として課税される

非適格であれば、行使の時点で課税されます。 株式を売却していない段階で、給与所得として納税が必要になります。

No.1543 税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について|国税庁

給与所得は総合課税の対象です。他の所得と合算されるため、所得が大きいほど税率も上がります。

現金を得ていない段階での納税になるため、資金の手当てが要ります。付与者へ説明する内容として、税理士とまとめます。

買い手候補や発行会社がストックオプションを買い取ると対価は給与所得になる

買取という方法もあります。 行使せず、権利自体を譲る形です。

役職員の地位に基づいて付与された権利の対価は、給与所得として扱われる場合があります。会社側には源泉徴収の義務が生じます。

国税庁 質疑応答事例

買取を選ぶ場合は、源泉徴収の要否と税額を事前に確認します。付与者への説明も、手取り額を示したうえで行います。

会社売却にかかる税金と手取りの考え方については、下記で解説しています。

会社売却後にかかる税金は?計算方法や確定申告、税引後手取りを増やす対策を解説

令和6年度の税制改正で変わったM&A時の税制適格の維持

改正により、実務は変わりました。押さえる点は以下の3つです。

  • 発行会社が株式を管理すれば証券会社への保管委託がなくても適格を維持できる
  • 年間の権利行使価額の限度額が引き上げられた
  • 改正前に発行したストックオプションは契約変更で対応できる場合がある

それぞれを順に解説します。

発行会社が株式を管理すれば証券会社への保管委託がなくても適格を維持できる

保管委託の要件が緩和されました。 従来は、権利行使により取得した株式を証券会社等へ保管委託することが要件でした。

改正により、譲渡制限株式について発行会社が株式を管理する場合には、証券会社等への保管委託に代えて発行会社自身による管理も認められる扱いになりました。

ストックオプション税制|経済産業省

自社の付与契約が改正後の要件を満たすかを、税理士へ確認します。

年間の権利行使価額の限度額が引き上げられた

限度額も引き上げられました。 経済産業省は、設立から5年未満の株式会社が付与するものを年2,400万円へ、設立から5年以上20年未満で非上場または上場から5年未満の会社が付与するものを年3,600万円へ引き上げたとしています。

ストックオプション税制|経済産業省

限度額を超えて行使すれば、超えた部分は適格の扱いを受けられません。付与者ごとの行使予定額を集計し、限度額との関係を確認します。

改正前に発行したストックオプションは契約変更で対応できる場合がある

経過措置は、すでに終了しています。 経済産業省は、令和6年12月31日をもって経過措置の適用期間が終了したとしています。

あわせて同省は、同期間の後は税制適格要件について当初契約の範囲を超える契約変更はできないとしています。

ストックオプション税制|経済産業省

改正前に発行した契約の扱いは、税理士へ個別に確認します。

ストックオプションが売却価格と手取りに与える影響

価格への影響は、複数の経路で生じます。押さえる点は以下の3つです。

  • 買い手候補は潜在株式を含めた完全希薄化ベースで1株あたりの価格を計算する
  • 買取費用を誰が負担するかで売り手株主の手取りが変わる
  • 未行使のストックオプションが残ると価格交渉が長引く

それぞれを順に解説します。

買い手候補は潜在株式を含めた完全希薄化ベースで1株あたりの価格を計算する

評価では、潜在株式も数に含まれます。 完全希薄化ベースとは、未行使の新株予約権がすべて行使された前提で株式数を数える考え方です。

企業価値が同じでも、分母となる株式数が増えれば1株あたりの価格は下がります。オーナー株主の手取りも減ります。

発行済株式数と潜在株式数を並べ、希薄化の程度を把握します。

売却価格の決まり方と株式価値の算定については、下記で解説しています。

会社の売却価格はどう決まる?決まり方の流れや価格を高める方法を売り手目線で解説

買取費用を誰が負担するかで売り手株主の手取りが変わる

買取の原資も、交渉の論点です。 会社が買い取れば会社の資金が減り、株式価値に影響します。

負担の形は次のとおりです。

  • 会社が買い取り、株式価値から控除される
  • 買い手候補が別途負担する
  • 売り手株主が譲渡対価から負担する

どの形でも、実質的には売り手側の負担になりやすい構造です。買取に要する総額を試算し、負担の配分を交渉します。

未行使のストックオプションが残ると価格交渉が長引く

整理が済んでいなければ、交渉は進みません。 買い手候補は、整理の見通しが立たない限り条件を固められないためです。

付与者の同意が得られなければ、消滅させられない場合もあります。人数が多いほど、調整には時間がかかります。

交渉を始める前に、整理の方針を固めます。付与者の一覧と想定される対応を、FAと共有します。

売り手専属のFAの役割については、下記で解説しています。

M&AにおけるセルサイドFAとは?業務内容や仲介との違いも解説

売却前に押さえておきたい注意点は、資料でも確認できます。無料でダウンロードできます。

【無料資料】超大手企業も頼るM&Aのプロが厳選した注意点

売り手が基本合意前に確認するストックオプションの4つの条項

条項の確認は、交渉の前に済ませます。発行要項の書きぶりしだいで、整理の難易度は大きく変わります。見る条項は以下の4つです。

  • 取得条項の有無と発動の要件
  • M&Aや支配権の移動をトリガーとする行使条件
  • 上場を行使条件とする条項
  • 譲渡制限と相続時の扱い

それぞれを順に解説します。

取得条項の有無と発動の要件

会社が強制的に取得できる定めがあれば、整理は容易になります。 取得条項とは、一定の事由が生じた場合に会社が新株予約権を取得できる定め(会社法第236条第1項第7号)を指します。

確認する内容は次のとおりです。

  • 取得の事由として何が定められているか
  • 取得の対価は金銭か無償か
  • 取得に必要な決議機関

条項がなければ、付与者一人ひとりの同意が必要です。

M&Aや支配権の移動をトリガーとする行使条件

M&Aを行使の契機とする定めもあります。 支配権の移動が生じた場合に、権利を行使できるようになる設計です。

行使されれば株式が発行され、株主が増えます。買い手候補にとっては、取得する株式数が変わる要因です。

該当する条項があれば、行使の見込みを買い手候補へ開示します。

上場を行使条件とする条項

上場を条件とする定めが置かれている場合もあります。 非上場のまま売却すれば、条件を満たさないまま権利が失効する形になります。

付与者にとっては、期待していた利益が実現しません。説明を怠れば、不満が離職につながります。

条件の内容を確認し、付与者への説明の方針を決めます。

譲渡制限と相続時の扱い

権利の移転にも定めがあります。 新株予約権の譲渡に会社の承認を要する旨や、相続時の扱いが記載されています。

確認する項目は次のとおりです。

  • 譲渡に会社の承認が必要か
  • 退職時に権利が失効するか
  • 相続の対象になるか

退職者の権利が残っていれば、整理の対象に含まれます。過去の付与者まで遡って確認します。

売り手がストックオプションを整理する5つの手順

整理は、順序を踏んで進めます。手順は以下の5つです。

  • 付与者の一覧と未行使数を確定する
  • 買い手候補と行使・買取・消滅・切り替えのどれにするか合意する
  • 付与者に説明して同意や放棄の書面を取る
  • 取得条項の発動や買取について取締役会で決議する
  • 源泉徴収と申告の手続きを税理士と確認する

それぞれを順に解説します。

付与者の一覧と未行使数を確定する

出発点は、現状の確定です。 過去に複数回発行していれば、付与条件も異なります。

一覧に記載する項目は次のとおりです。

  • 付与者の氏名と現在の在籍状況
  • 付与回次と付与数、未行使数
  • 権利行使価額と行使可能期間
  • 税制適格かどうか

新株予約権原簿と発行要項を突き合わせます。退職者の分も漏らさず含めます。

買い手候補と行使・買取・消滅・切り替えのどれにするか合意する

方針は、買い手候補と合意します。 買い手候補の意向を確認せずに進めれば、やり直しになります。

論点になるのは次の点です。

  • 買い手候補が切り替えに応じるか
  • 買取の場合の対価と負担者
  • 整理の完了をクロージングの条件とするか

基本合意の段階で方針を固めます。整理の方法を、条件の一つとして書面に残します。

最終契約で確認したい項目は、弁護士監修のチェックリストにまとめています。

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付与者に説明して同意や放棄の書面を取る

付与者の理解が必要です。 取得条項がなければ、同意なしに整理できないためです。

説明する内容は次のとおりです。

  • 売却の事実と整理が必要な理由
  • 選択肢と、それぞれの手取り額
  • 税金の扱いと納税の時期

一方的に放棄を求めれば、反発を招きます。個別に面談し、手取り額を示したうえで同意を得ます。

従業員への説明の順番と時期については、下記で解説しています。

M&Aを従業員に説明する適切なタイミングは?役職別の順番と3つの注意点

M&Aでキーマンの処遇はどうなる?経営者と従業員を守る5つのポイント

取得条項の発動や買取について取締役会で決議する

会社としての手続きも必要です。 取得条項の発動や自己新株予約権の取得には、決議が要ります。

会社法(e-Gov法令検索)

必要な決議機関は、発行要項と定款によって変わります。取締役会設置会社かどうかでも手続きは異なります。

司法書士や弁護士などの専門家へ確認し、議事録を作成します。

源泉徴収と申告の手続きを税理士と確認する

税務の手続きも忘れずに行います。 買取や非適格の行使では、会社に源泉徴収の義務が生じます。

確認する項目は次のとおりです。

  • 源泉徴収の要否と税額
  • 納付の期限
  • 付与者が確定申告を要するか

国税庁 質疑応答事例

手続きを誤れば、会社に不納付加算税が課される可能性があります。クロージングの前に、手順を税理士と確認します。

M&Aとストックオプションに関するよくある質問

M&Aとストックオプションについて、相談の現場で多く寄せられる質問を3つ取り上げます。従業員が放棄に応じない場合、信託型ストックオプションの扱い、有償ストックオプションの場合の3点です。

従業員がストックオプションの放棄に応じない場合はどうなりますか?

取得条項があれば、会社の決議で取得できます。条項がなければ、個別の合意が必要です。応じない権利者が残れば、買い手候補が取得を見送る判断をする場合もあります。整理の方法は、発行要項の内容に左右されます。早い段階で条項を確認します。

信託型ストックオプションはM&Aでどう扱われますか?

課税関係について、国税庁がQ&Aを公表しています。信託を用いた仕組みでは、権利行使時の経済的利益の扱いが論点になります。取り扱いは仕組みの設計によって変わるため、自社の制度について税理士へ確認します。

※参考:国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/230428/pdf/01.pdf

有償ストックオプションなら非適格でも不利になりませんか?

設計によります。有償で発行された新株予約権は、投資契約に基づく権利として扱われる場合があり、課税の扱いが無償の場合と異なる場合があります。ただし発行時の価額の算定や設計の内容によって結論が変わります。自社の制度について、税理士へ判定を依頼します。

まとめ

M&Aでは、未行使のストックオプションを行使・買取・消滅のいずれかで整理します。買い手候補は希薄化しない状態での取得を求めるためです。

要点は以下のとおりです。

  • 株式譲渡では新株予約権が会社に残り、消滅か買取を求められる
  • 税制適格であれば権利行使時の課税が繰り延べられ、非適格では行使時に給与所得として課税される
  • 令和6年度改正で、発行会社による株式管理が認められ、年間の権利行使価額の限度額も引き上げられた
  • 改正前の契約を変更する経過措置は、令和6年12月31日で終了している
  • 買い手候補は潜在株式を含めた完全希薄化ベースで1株あたりの価格を計算する

まずは新株予約権原簿を確認し、付与者と未行使数の一覧を確認してください。

売却前の準備と契約の確認点は、こちらの資料でも確認できます。

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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