事業譲渡の個人情報の引き継ぎに同意は要る?第三者提供の例外と契約書で決める4つの項目を解説
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- M&Aの進め方
公開日:2026.09.29
2026.09.29
更新日:2026.09.29
2026.09.29
事業譲渡に伴う個人情報の引き継ぎは、本人の同意なしに行えることがあります。手法による扱いの違い、交渉段階での開示のしかた、追加対応が必要な4つのケース、従業員情報の扱い、契約書で決める4つの項目を売り手視点で解説します。

顧客名簿を買い手に渡してよいのか。一人ひとりから同意を取るのは現実的ではない。事業譲渡で個人情報を扱う場面では、多くのオーナー経営者が同じ疑問に突き当たります。結論として、事業の承継に伴う引き継ぎは原則として本人の同意なしに行えますが、承継後の使い方や交渉段階の開示には別の配慮が必要です。
本記事では、手法による扱いの違いと交渉段階での開示のしかたを示したうえで、追加対応が必要なケースを解説します。あわせて、従業員情報の扱いと契約書で決める項目を示します。
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事業譲渡に伴う個人情報の引き継ぎは本人の同意なしに行える
個人情報の保護に関する法律は、個人データを第三者に提供する場合に、原則として本人の同意を求めています。
一方で同法第27条第5項第2号は、合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合について、提供を受ける者を第三者に該当しないものとしています。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、この事業の承継に合併・分社化・事業譲渡が含まれるとしており、事業譲渡による引き継ぎもこの例外に当たります。
ただし、同意が不要であることと、何をしてもよいことは別です。承継後の利用目的や、交渉段階での開示には別の規律が及びます。まずは自社が保有する個人データの種類と件数を一覧に書き出します。
M&Aの手法によって変わる個人情報の扱い
引き継ぎの扱いは、スキームで変わります。押さえる点は以下の3つです。
- 株式譲渡では会社が変わらないため個人情報の提供は発生しない
- 事業譲渡と会社分割・合併では承継に伴う提供として同意なしに移せる
- 承継後に利用目的を変えるなら本人の同意が要る
それぞれを順に解説します。
株式譲渡では会社が変わらないため個人情報の提供は発生しない
株式譲渡では、個人データは移動しません。 株主が替わるだけで、個人情報を保有する主体は同じ会社のままだからです。
提供という行為が生じないため、第三者提供の規律は問題になりません。顧客への通知も、原則として不要です。
自社のスキームが株式譲渡であれば、本記事の論点は生じません。想定するスキームを確認します。
株式譲渡と事業譲渡の違いについては、下記で詳しく解説しています。
M&Aにおける株式譲渡とは?メリットや注意点、手続きの流れを解説
事業譲渡とは何か?オーナー経営者が知っておくべき基本と実務ポイント
事業譲渡と会社分割・合併では承継に伴う提供として同意なしに移せる
事業譲渡では、個人データが別法人へ移ります。 提供に当たりますが、事業の承継に伴うものとして例外の対象になります。
個人情報保護委員会のガイドラインも、事業の承継に伴って個人データが提供される場合を、第三者に該当しない場面の一つとして示しています。
該当するかは切り出しの範囲と方法で変わります。引き継ぐ個人データの範囲を確認し、弁護士などの専門家へ判断を求めます。
会社分割と事業譲渡のどちらで切り出すかの判断軸は、下記で解説しています。
会社分割と事業譲渡の違いとは?一部事業を売る売り手の5つの判断軸を解説
承継後に利用目的を変えるなら本人の同意が要る
例外が及ぶのは、提供の場面までです。 同法第18条第2項は、事業の承継に伴って個人情報を取得した場合について、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前における利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱ってはならないとしています。
買い手が別の目的で使いたい場合は、原則として本人の同意が必要です。自社が通知・公表している利用目的を確認し、買い手へ書面で伝えます。
買い手候補に個人情報を開示する交渉段階の扱い
成立前の開示は、承継とは別の局面です。成立していない段階では例外の前提を満たさないため、別の手当てが要ります。押さえる点は以下の3つです。
- 秘密保持契約を結び利用目的をデューデリジェンスに限定する
- 開示は必要最小限にして匿名化や件数情報で代替する
- 交渉が終了した場合は返還または消去を求める
それぞれを順に解説します。
秘密保持契約を結び利用目的をデューデリジェンスに限定する
交渉段階の開示は、事業の承継には当たりません。 成立していない時点では、承継に伴う提供という例外の前提を満たさないためです。
秘密保持契約で定める事項は次のとおりです。
- 開示する情報の範囲と目的
- 目的外での利用と複製の禁止
- 閲覧できる相手の限定
買い手候補側のアドバイザーへも同じ義務を及ぼします。契約書の目的条項に、調査のためである旨を明記します。
秘密保持契約の内容と、違反があった場合の責任については、下記で解説しています。
M&Aで機密保持違反が起きるとどうなる?民事・刑事・行政上の責任と対処法を解説
開示は必要最小限にして匿名化や件数情報で代替する
渡す情報は、最小限に絞ります。 買い手候補が知りたいのは、顧客の構成や取引の継続性であり、個人を特定できる情報ではない場合が多くあります。
代替の方法は次のとおりです。
- 氏名や連絡先を伏せた一覧を渡す
- 取引額の上位から順位と金額だけを示す
- 顧客の件数、地域、業種などの集計値で示す
成約後に完全な情報を渡す前提で進めます。買い手候補の要求に対し、上記のような情報で足りるかを先に確認します。
開示資料の管理に使うデータルームの運用は、下記で解説しています。
M&Aにおけるデータルームとは?VDRの活用方法や注意点も解説
交渉が終了した場合は返還または消去を求める
交渉が不成立に終わった場合の扱いも定めます。 渡した情報が相手方に残れば、後に流出する懸念が残ります。
秘密保持契約に記載する事項は次のとおりです。
- 返還または消去の対象と方法
- 実施の期限
- 完了の報告義務
写しや電子データも対象に含めます。不成立となった時点で、書面で返還または消去を求めます。
交渉段階で売り手が押さえておきたい注意点は、資料でも確認できます。無料でダウンロードできます。
引き継ぎに追加の対応が必要になる4つのケース
例外が及ばない、または慎重な扱いを要する場面があります。該当するのは以下の4つです。
- 健康診断結果など要配慮個人情報を含む従業員や顧客の情報
- 承継前の利用目的の範囲を超える使い方
- カルテなど業種別ガイダンスの対象になる情報
- 個人事業主が保有する顧客情報
それぞれを順に解説します。
健康診断結果など要配慮個人情報を含む従業員や顧客の情報
扱いが厳格なのが、要配慮個人情報(同法第2条第3項)です。 個人情報保護委員会のガイドラインは、要配慮個人情報として本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴などを挙げています。
従業員の健康診断結果や、医療・福祉の顧客情報が該当します。引き継ぐ範囲を限定し、取り扱いを弁護士などの専門家へ確認します。
承継前の利用目的の範囲を超える使い方
使い方が変われば、原則として本人の同意が必要になります。 買い手が自社のサービス案内に使う、グループ会社と共有するといった場面が該当します。
確認する項目は次のとおりです。
- 自社が通知・公表している利用目的の文言
- 買い手が想定している使い方
- 差がある場合の同意取得の方法
現在の利用目的を書き出し、買い手の計画と突き合わせます。
カルテなど業種別ガイダンスの対象になる情報
業種によっては、別の規律が加わります。 医療、金融、電気通信などの分野には、分野ごとのガイダンスが定められています。
診療記録や金融取引の情報は、通常の個人情報より厳格な取り扱いが求められます。自社の業種に該当するガイダンスがあるかを、弁護士などの専門家へ確認します。
個人事業主が保有する顧客情報
個人事業主でも、法の適用を受けます。 法人か個人かを問わず、個人情報データベース等を事業に使っていれば個人情報取扱事業者(同法第16条第2項)に当たります。
事業譲渡で顧客情報を引き継ぐ場合の考え方も同じです。規模を理由に対応を省かず、同じ手順で進めます。
個人事業主の事業譲渡の進め方は、下記で解説しています。
個人事業主の事業譲渡(M&A)とは?方法や流れ、成功させるポイントを紹介
従業員の個人情報と雇用の引き継ぎで売り手が行うこと
従業員の情報は、雇用の引き継ぎと一体で扱います。個人情報の移転と労働契約の承継は、別の手続きとして扱います。行うことは以下の3つです。
- 転籍には従業員一人ひとりの同意を得る
- 人事評価や健康診断の情報は引き継ぐ範囲を決めて本人に説明する
- 転籍しない従業員の情報は買い手に渡さない
それぞれを順に解説します。
転籍には従業員一人ひとりの同意を得る
雇用の承継には、本人の承諾が要ります。 厚生労働省の指針は、事業譲渡における権利義務の承継が特定承継であることから、労働契約を承継させる場合には承継予定労働者から個別の承諾を得る必要があるとしています。
事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針|厚生労働省
個人情報の引き継ぎとは別の手続きです。転籍対象者を特定し、説明と同意取得の日程を組みます。
転籍の手続きと、従業員に拒否された場合の対応は、下記で解説しています。
事業譲渡が従業員に与える影響とは?転籍手続きや拒否された時の対応も紹介
M&Aを従業員に説明する適切なタイミングは?役職別の順番と3つの注意点
人事評価や健康診断の情報は引き継ぐ範囲を決めて本人に説明する
従業員情報にも、機微な内容が含まれます。 人事評価、賞罰、健康診断の結果などが該当します。
引き継ぐ範囲を決める観点は次のとおりです。
- 買い手の労務管理に必要な情報か
- 要配慮個人情報に当たるか
- 本人が引き継ぎを望まない可能性があるか
転籍の説明の場で、引き継ぐ情報の範囲を伝えます。同意書に記載する形が望ましいです。
転籍しない従業員の情報は買い手に渡さない
移らない従業員の情報は、対象外です。 事業譲渡は個別に移す手法であり、承継の対象に含まれない従業員の情報を渡す理由がありません。
データを抽出する際に、対象者を絞り込む作業が必要になります。給与システムや人事台帳から、転籍者のみを抽出した形で引き渡します。
抽出の方法と確認者を決め、引き渡し前に照合します。
事業譲渡契約と引き継ぎ作業で決めておく4つの項目
契約と実務の両面で、取り決めが要ります。決める項目は以下の4つです。
- 引き継ぐ個人情報の項目と件数を別紙で特定する
- 利用目的と通知・公表の内容を承継後も引き継ぐと定める
- データの受け渡し方法と売り手側の消去時期を決める
- 漏えい時の責任と表明保証の範囲を定める
それぞれを順に解説します。
引き継ぐ個人情報の項目と件数を別紙で特定する
範囲は、契約書で特定します。 事業譲渡は承継の対象を個別に指定する手法のため、曖昧なままでは何が移ったか分かりません。
別紙に記載する項目は次のとおりです。
- データの種類(顧客名簿、購買履歴、従業員情報など)
- 保有する項目(氏名、住所、電話番号など)
- 件数と保管している媒体
データの種類ごとに件数を数え、別紙にまとめます。
利用目的と通知・公表の内容を承継後も引き継ぐと定める
見落とされやすいのが、利用目的の通知・公表です。 個人情報保護委員会は、利用目的の確認を行わず、正しく通知・公表していない状態で個人情報を利用している事例が発生しているとしています。事業内容に変更が生じる際には、通知・公表している利用目的が正しく反映されているかの確認が必要です。
契約書に、承継後も同じ利用目的で取り扱う旨と、利用目的を変更する場合は買い手が本人の同意取得または通知・公表を行う旨を定めます。自社の通知・公表文を買い手へ渡し、承継後の文言を確認します。
データの受け渡し方法と売り手側の消去時期を決める
渡し方と、渡した後の扱いを決めます。 売り手側にデータが残れば、管理の責任も残ります。
取り決める事項は次のとおりです。
- 受け渡しの方法と暗号化の要否
- 売り手側での消去の対象と時期
- 法令上の保存義務がある情報の扱い
帳簿など保存義務のある書類は、消去できません。消去の対象と保存する範囲を、税理士などの専門家とともに確認します。
漏えい時の責任と表明保証の範囲を定める
責任の所在も、契約で定めます。 引き渡しの前後どちらで漏えいが生じたかで、責任の帰属は変わります。
定める事項は次のとおりです。
- 個人情報の適法な取得と管理に関する表明保証
- 違反があった場合の補償の範囲と上限
- 漏えいが判明した場合の通知の義務
過去の漏えい事故があれば、先に開示します。
表明保証条項の内容と、売り手が注意したい文言については、下記で解説しています。
表明保証で「売り手の知りうる限り…」はNG 事業売却を不利にする「最終契約書の要注意ワード」
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事業譲渡の個人情報の引き継ぎに関するよくある質問
事業譲渡の個人情報の引き継ぎについて、相談の現場で多く寄せられる質問を3つ取り上げます。顧客への通知の要否、有給休暇の残日数、個人情報以外に引き継ぐものの3点です。
顧客一人ひとりに引き継ぎの通知は必要ですか?
法律上、事業の承継に伴う提供について本人の同意は求められていません。ただし取引の継続という観点からは、事業を引き継いだ旨を案内する実務上の意義があります。通知の要否と方法を、弁護士などの専門家および買い手と確認します。
有給休暇の残日数も引き継がれますか?
転籍の条件として、当事者間で決めます。事業譲渡では労働契約が自動的に承継されないため、勤続年数や有給の残日数の扱いも合意事項です。従業員への説明時に、扱いを明示する必要があります。最終契約と転籍の同意書に、条件を記載します。
個人情報のほかに事業譲渡で引き継ぐものは何ですか?
資産、契約上の地位、許認可、知的財産、従業員との雇用契約などが対象になりえます。事業譲渡は承継する範囲を個別に指定する手法のため、対象を一覧化して契約書に記載します。名義変更や許認可の再取得が必要なものを、先に洗い出します。
買い手による調査(デューデリジェンス)で確認される範囲は、下記で解説しています。
まとめ
事業の承継に伴う個人情報の引き継ぎは、本人の同意なしに行えます。ただし承継後の利用目的や交渉段階の開示には、別の配慮が要ります。
要点は以下のとおりです。
- 株式譲渡では提供が生じないが、事業譲渡では承継に伴う提供として扱われる
- 承継前の利用目的の範囲を超える使い方には、本人の同意が必要になる
- 交渉段階の開示は承継に当たらないため、秘密保持契約と最小限の開示で対応する
- 要配慮個人情報と業種別ガイダンスの対象は、追加の確認が要る
- 承継後の利用目的の通知・公表が更新されているかを、買い手と確認する
範囲の特定が、実務の出発点です。まずは保有する個人データの種類と件数を一覧にまとめてください。
事業譲渡を含むM&Aの進め方と注意点は、こちらの資料でも確認できます。
【無料資料】オーナー経営者がM&A仲介会社から事業売却の提案を受けたら、弁護士と一緒に最初に読むべき 事業承継・M&A完全ガイド
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