「いくらで売るか、ではなく、何を残すか。」ソルトワークス創業者が4年かけて選んだ事業承継

2026.09.21

公開日:2026.09.21

2026.09.21

2026.09.21

更新日:2026.09.21

2026.09.21

「いくらで売るか、ではなく、何を残すか。」ソルトワークス創業者が4年かけて選んだ事業承継

企業名株式会社ソルトワークス
事業内容WEB・アプリサービスの企画・制作・運営事業
ホームページhttps://saltworks.jp

株式会社ソルトワークス(札幌)は2026年3月、オーナーズグループの投資会社「社内承継支援機構」への株式譲渡を実行しました。創業オーナーの鶴尾 康氏は、社長を継続しながら社内の役職員への承継に向けた準備を進めています。

親族承継か、第三者売却か。多くの経営者が前提とする二択の外側にある形を、鶴尾氏は約4年の模索の末に選びました。その4年間に何があったのか、売却額をどう捉えていたのか。鶴尾氏に伺いました。

株価算定シミュレーター

M&Aの検討は4年。会社の「文化」を守り、「何を残すか」

――事業承継を考え始めてから、今回の形に至るまでの経緯を教えてください。

鶴尾社長:M&Aの検討は4年ほど続けていました。最初は証券会社に依頼し、事業会社とファンドの両方を相手に動いていましたが、2年半から3年ほど活動しても、なかなか希望に合う相手が見つからず、成約には至りませんでした。大きな要因は、当社が年賀状を主体とする事業だったことです。年に1度の年賀状商戦が終わると、翌年まで売上が大きく動きません。そのため、売却の好機が限られていました。2年ほど成果が出ず、「これはダメだな」と思いました。

その中で、僕はファンドではなく事業会社に譲りたいと考えるようになりました。ファンドには、将来の再売却、いわゆるExitを前提とした保有への不安があったからです。

――事業会社との交渉は、どこでうまくいかなくなったのでしょうか。

鶴尾社長:相手はオーナー系の大企業が中心で、数千億円規模の企業のオーナーともお会いしました。オーナー同士は話が合い、共感も共鳴もします。ただ、いざ現場レベルで具体化が進むと、「事業部のどこでどう手伝ってもらうか」という話になりがちでした。

グループ会社である上場企業の社長兼務を打診されたこともありましたが、お断りしました。僕の目的は、この会社のアイデンティティを守り、社内のメンバーに託すことでした。他社の社長を務めるのは本末転倒だからです。

交渉が最終段階に近づくほど、ソルトワークスという会社が分解されてしまうように聞こえる話が、現実味を帯びて増えていきました。それが、どうしても嫌だったのです。

――守りたかった「アイデンティティ」とは、何を指しているのでしょうか。

鶴尾社長:僕はもともと広告会社に勤務していて、グラフィックデザインの仕事に疑問を感じていました。仕事量は多いのに給料が安く、労働環境も厳しい。そんな状況を変えたいと思って始めたのがソルトワークスです。

創業時から「クリエイター天国を作る」と掲げ、デザインをコンテンツとして販売することで、デザイナーの価値を高めることを目指してきました。

僕が一番守りたかったのは、そうした考え方を含めたソルトワークスの文化そのものです。

「ある水準を超えたら、金額の差は大して変わらない」――金額よりも優先すべきもの

――事業会社との交渉では、相手から提示される経済条件も見えていたと思います。それでも金額を最優先にしなかったのはなぜですか。

鶴尾社長:正直、ある一定額を超えたら使い切れないと思っていました。ある水準を超えれば、金額の差は僕にとってそれほど大きな意味を持ちません。

それよりも、「この会社が、この会社のまま残る可能性が高いのはどこか」。僕はそこに賭けるべきだと考えていました。

会社は、自分の子どものようなものです。中小企業の経営者は、社員のためなら何でもできると思ってしまうところがあります。それくらい魂を込めて会社をつくってきました。

だから、いざ会社を引き継ぐとなったとき、僕の中では「いくらで売るか」より「何を残すか」の方が大切になっていました。

――株式を手放すことに迷いはありませんでしたか。

鶴尾社長:もちろん寂しさはありました。「もっと価格を求めてもよかったのではないか」と思う気持ちが、まったくなかったと言えば嘘になります。

それでも最後は、自分がいくら得るかより、この会社をどう残すかという思いの方が強かったですね。

――環境変化も、決断に影響しましたか。

鶴尾社長:AIやロボットの進化がこれだけ速い時代ですから、これからは30代、40代の世代が会社を引っ張っていく方が、新しい技術を積極的に取り入れて戦っていけると思っています。

新しい情報へのアンテナは、やはり現場に立っている人間の方が強い。経営だけをしていて、現場と同じ感覚でアンテナを張れるかというと、僕は難しいと思っています。

人は困難に直面するからこそ、戦うための道具を変えます。逆に、困っていなければなかなか変わりません。

だから、若い世代に現場を任せた以上、ある段階で僕自身が最前線から引くことも、会社を成長させるために必要だと考えるようになりました。

アイデンティティを残す方法が「RISONAL社内承継」だった

――オーナーズとの出会いは、どのような経緯だったのでしょうか。

鶴尾社長:M&A仲介会社を通じた交渉がなかなかうまくいかなかった時期に、「売り手側の立場に立って事業承継を支援してくれる会社はないか」と探していました。その中で出会ったのがオーナーズです。

僕が相談したのは、「ソルトワークスのアイデンティティを残したまま承継する方法はないか」ということでした。

当時はまだ、社内承継支援機構による永続保有型の仕組みや「RISONAL社内承継」というサービス自体が存在していなかったため、すぐに「できます」という回答ではありませんでした。

ところが、それから約3カ月後にサービスが始まると聞き、「ぜひソルトワークスを第一号案件として検討してほしい」とお願いしました。

――最終的な決め手は何でしたか。

鶴尾社長:一番は、ソルトワークスを「ソルトワークスのまま」残せる可能性が最も高いと感じたことです。

RISONAL社内承継は、第三者に会社を売却して終わる一般的なM&Aとは考え方が違いました。株式は社内承継支援機構が再売却を前提としない永続保有型で保有する。一方で僕は社長を続けながら、時間をかけて社内から次の経営者を育てていく。その間、財務や経営管理についてはオーナーズに支援してもらう。

「売って終わり」ではなく、会社が自分たちの力で次の時代を歩いていけるようになるまで伴走してもらえる。そういう仕組みだったからこそ、売却価格よりも、会社のアイデンティティや文化、そして社員が主役になれる環境を守ることを優先できました。

「自分はスーパーマンではない」――承継を考える経営者へ

――最後に、承継を考え始めた経営者に伝えたいことはありますか。

鶴尾社長:経営者は誰しも、「自分はスーパーマンであり、死なない」とどこかで思っているものです。しかし、経営に関与していない家族が株式を持っている状況は、いざという時に大変です。経営者が亡くなり、会社の行き先を判断してほしいと言われても、経営に関わっていない家族には判断がつきません。おそらく、士業の先生にお任せします、となるのが普通でしょう。

それは会社のためにも家族のためにも良い結果になるとは思えませんでした。だからこそ、自分が元気で判断できるうちに、きちんと整えておくべきだと考えました。

編集後記

今回の取材で印象的だったのは、約4年間もの検討の中で、判断軸が一貫して「いくらで売るか」ではなく「何を残すか」に置かれていたことです。交渉が具体化するほど会社の「分解」が現実味を帯びたという語りは、条件面だけでは見えない統合後の姿を契約前にどこまで想像できるか、という論点を示しています。

もう一つの示唆は時間軸です。財務にも健康にも問題がない時期から先を見据えて動き始めていたからこそ、不成約の期間を経てもなお選択肢を探し続ける余地が残されていました。企業文化と社員を残すことを目的とした承継の形は、二択の外側に実在します。本件はそれが実装段階にあることを示す事例です。

RISONAL社内承継のサービスはこちらから

ソルトワークスの社内承継に関する従業員・後継者への実際のコミュニケーションについて

インタビューした後編記事はこちらから。

株価算定シミュレーター

この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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