カーブアウトのシステム分離とは?3つの進め方と売り手の注意点を解説
公開日:2026.09.03
2026.09.03
更新日:2026.09.03
2026.09.03
一部の事業の売却を検討したものの、基幹システムも経理も全社で一体になっていて、切り出せる気がしない。そのような壁に直面している経営者の方は多いのではないでしょうか。
事業を切り出して売却するカーブアウトでは、対象事業が使うシステムとデータを本体から切り離す「システム分離」が大きな検討事項になります。技術的な話に見えますが、実際には売却の成立と価格に関わる経営の論点です。
本記事では、システム分離の対象になる領域、3つの進め方、ライセンスや個人情報といった売り手側の注意点、期間の考え方までを解説します。
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カーブアウトにおけるシステム分離とは
カーブアウトにおけるシステム分離とは、切り出す事業が使っている基幹システム、業務システム、データを本体から切り離し、事業単独で業務を回せる状態にする作業です。
カーブアウトは、会社の一部の事業や子会社を切り出して第三者に売却する取引を指します。切り出した事業がその日から業務を続けるには、会計、受発注、給与計算といった仕組みが事業側で動いている必要があり、その仕組みを用意する工程がシステム分離です。
契約の移転、従業員の転籍と並んで、システム分離は切り出し準備の主要な論点の1つです。売却の計画を立てる段階から、自社のシステムがどこまで一体になっているかを把握しておくことが重要です。
システムを分けられない会社は売却の選択肢が狭まる
システムと管理の仕組みが全社一体のままだと、事業を切り出して売却するという選択肢そのものが取りにくくなります。買い手候補が対象事業を評価し、引き継ぐ姿を描けないためです。
売却の検討が止まりやすいのは、主に次の3つの状態です。
- 事業別の損益が出せず、買い手候補が対象事業の収益力を評価できない
- 基幹システムが全社一体で、切り出すと会計や受発注が回らなくなる
- 業務の手順が本体の管理部門に組み込まれていて、単独で運営する姿を示せない
このいずれかに当てはまると、買い手候補の検討は長期化しやすく、分離の手間がリスクとして価格に織り込まれる場合があります。状態によっては、検討の見送りにつながることもあります。
逆にいえば、事業別の数字とシステムの独立性を高めておくほど、売却という選択肢は現実的になります。
システム分離で対象になる主な領域
システム分離と聞くと基幹システムだけを想像しがちですが、対象はより広い範囲に及びます。代表的な領域は以下のとおりです。
- 基幹システム:会計、販売管理、在庫管理、生産管理
- 業務アプリケーション:見積もり、勤怠管理、経費精算などの個別ツール
- メール・グループウェア:メールアドレス、共有カレンダー、社内の情報共有基盤
- 機器類:パソコン、サーバー、ネットワーク機器、複合機
- ソフトウェアのライセンス契約:利用許諾の名義、利用範囲、台数
- データ:顧客情報、取引履歴、設計図面などの事業データ
売り手の段階でこの一覧の細部まで詰め切る必要はありません。重要なのは、どの領域が対象になるかの全体を掴んだうえで、詳細の洗い出しを情報システムの担当者や外部の専門家と進めることです。漏れた領域は後工程で費用と期間の想定外になりやすいため、最初に幅を広く取っておきます。
システム分離の3つの進め方
切り出した事業のシステムをどう用意するかには、大きく3つの方法があります。どれを選ぶかで、費用、期間、買い手候補との交渉の内容が変わります。
- 買い手側のシステムへ移行する方法
- 切り出した事業で新たに構築する方法
- TSAで一時的に本体のシステムを使い続ける方法
それぞれを順に解説します。
買い手側のシステムへ移行する方法
買い手側が同種のシステムを持っている場合は、そこへ移行する方法が選択肢になります。受け皿がすでにあるため、3つの方法のなかでは移行を短期間で終えやすい形です。
主な作業は、データの移し替えと、対象事業の業務手順の変更です。勘定科目の体系や在庫の管理単位が異なると、データの変換に想定より手間がかかる場合があります。
この方法が取れるかどうかは買い手側の体制次第のため、交渉の過程で買い手候補の受け入れ環境を確認しながら検討を進めることになります。
切り出した事業で新たに構築する方法
切り出した事業が独立会社として存続する場合や、買い手側に受け皿となるシステムがない場合は、事業側で新たにシステムを構築する方法が検討されます。
事業の実態に合わせた仕組みを最初から選べる一方、システムの選定、設計、データ移行、操作の習熟までを含めると、構築には相応の期間と費用がかかります。クロージングまでに間に合わない場合は、TSA(移行サービス契約)と組み合わせて、稼働までの空白を埋める設計が取られます。
TSAで一時的に本体のシステムを使い続ける方法
移行や構築が売却の実行日までに完了しない場合、売り手が一定期間、本体のシステムの利用を提供し続ける契約で空白を埋める方法があります。この契約はTSA(移行サービス契約)と呼ばれます。
切り出した事業は従来どおりのシステムで業務を続けながら、期間内に自前の環境へ移っていきます。売り手にとっては、提供の範囲、対価、期間を適切に定めないと負担が続く契約でもあるため、内容の設計が重要です。
TSAの仕組みと契約で決める項目は、以下の記事で詳しく解説しています。
システム分離で売り手が注意すべきポイント
システム分離は技術の問題に見えて、実際には契約と交渉の論点が多くを占めます。売り手として押さえておきたい注意点は以下の4つです。
- ソフトウェアのライセンス契約は移転できない場合がある
- 顧客データの引き渡しには個人情報保護の確認が要る
- 分離にかかる費用の負担は交渉で決まる
- 情報システム担当者の負荷と退職への備えが要る
それぞれを順に解説します。
ソフトウェアのライセンス契約は移転できない場合がある
会社で使っているソフトウェアの利用許諾は、本体の法人名義で契約されているのが通常であり、切り出した事業側が引き続き使えるとは限りません。
ライセンス契約には、譲渡の禁止や、利用できる法人の範囲が定められていることがあります。契約先に無断で切り出した事業側に使わせると、契約違反を指摘されるリスクがあります。
対象事業で使っているソフトウェアについて、契約名義、利用範囲、台数、譲渡の可否、再契約時の費用を早い段階で一覧化し、契約先への確認を進めておくことが望ましいです。再契約の費用は分離コストの一部として、後述の費用負担の交渉にも関わります。
なお、オープンソースソフトウェア(OSS)を組み込んでいる場合は、利用条件の確認が別途必要になります。詳細は以下の記事で解説しています。
M&AにおけるOSSライセンスとは?調査で見られる3つのポイントと売り手の準備
顧客データの引き渡しには個人情報保護の確認が要る
顧客の個人データを買い手側へ移す行為は、個人情報保護法の規律を受けます。合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データを提供する場合は、同法第27条第5項第2号の定めにより、提供を受ける側は本人の同意が必要な「第三者」に該当しないものとされています。
ただし、承継の形態がこの定めに当てはまるか、承継後の利用が従前の利用目的の範囲に収まるかは、案件ごとの確認が必要です。事業の承継に伴って個人情報を取得した側は、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前の利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱うことができないと同法第18条第2項に定められています。
顧客名簿を含む事業の売却では、どのデータを、どの根拠で、どの範囲まで引き渡すのかを、法務のデューデリジェンスや契約交渉のなかで確認しておきます。判断に迷う場合は、個人情報保護委員会のガイドラインと専門家の助言を確認することが望ましいです。
※参考:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
分離にかかる費用の負担は交渉で決まる
分離にかかる費用には、システムの構築費、データ移行の費用、ライセンスの再契約費、TSAの提供コストがあります。これらの費用を売り手と買い手候補のどちらが負担するかに、決まったルールはありません。交渉で決まる事項です。
注意したいのは、費用の見積もりが曖昧なまま交渉が進むと、買い手候補が分離リスクを大きめに見積もり、その分が価格の引き下げという形で実質的に売り手の負担になりやすい点です。
分離に何が必要で、いくらかかるのかを売り手側で先に把握しておくと、費用の分担を根拠を持って協議しやすくなります。見積もりの精度が、そのまま交渉力を左右します。
情報システム担当者の負荷と退職への備えが要る
中小企業では、システムの管理を1人の担当者が担っている場合が多く、分離の作業はその担当者に集中します。通常業務との掛け持ちが長く続くと、負担から退職に至り、システムの全容を知る人がいなくなるという事態も起こり得ます。
備えとして、設定情報や運用手順の文書化、アカウントと権限の一覧化、外部の支援会社との連携体制の確保を進めておくことが有効です。担当者にはプロジェクトの位置づけと期間を説明し、業務量の調整や処遇への配慮まで含めて計画しておくと、作業の中断リスクを抑えやすくなります。
システム分離の進め方と期間の考え方
システム分離は、M&Aの交渉と並行して段階的に進みます。おおまかな流れは以下のとおりです。
- デューデリジェンスの段階で、システムの構成と本体への依存関係を洗い出す
- クロージングまでの分離計画を買い手候補と共同で作る
- 期日までに完了しない領域はTSAで橋渡しし、終了の時期を区切る
必要な期間は、対象になるシステムの数、データの量、ライセンス契約の確認状況によって変わるため、一律の目安はありません。対象の範囲が広いほど、数か月単位の準備を要する場合が多いと考えておくと、スケジュールの認識齟齬を避けやすくなります。
出発点になるのは、ITの領域を含むデューデリジェンスでの洗い出しです。調査で何を確認されるのかは、以下の記事で解説しています。
M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)とは?目的や流れ、売り手側のポイントを解説
事業別の損益とシステムの整理が売却の選択肢を広げる
売却をまだ決めていない段階でも、事業別の損益の把握とシステム・契約の棚卸しを進めておく価値があります。この2つが、いざというときに「売れる状態」を作るためです。
事業別の損益が出せる会社は、買い手候補への説明資料を短期間で用意でき、収益力の説明にも説得力を持たせやすくなります。システムと契約の一覧が整っている会社は、分離の費用と期間を早く見積もれるため、検討が止まりにくくなります。
整理には、会計の管理単位の見直しは経理や顧問税理士と、システムの棚卸しは情報システムの担当者や支援会社と、というように分野ごとの協力者が要ります。そのうえで、どの事業をいくらで売れる可能性があるのかという売却側の設計は、M&A支援会社やFAとの相談で確かめる形が現実的です。売却を決める前の整理が、いざ検討するときの選択肢を広げます。
カーブアウトのシステム分離でよくある質問
カーブアウトのシステム分離について、よく寄せられる質問に回答します。
カーブアウト分析とは何ですか?
カーブアウト分析とは、事業の切り出しに伴う影響、課題、費用を事前に洗い出す調査を指します。システムの領域では、構成の把握、本体への依存関係の特定、分離費用の試算が中心になります。
買い手候補側が行う調査という文脈で使われることが多い言葉ですが、売り手側が先に同様の分析を済ませておくと、質問への回答が速くなり、費用負担の交渉でも主導権を持ちやすくなります。
スピンアウトとカーブアウトの違いは何ですか?
カーブアウトは事業を切り出す取引の全般を指し、実務では第三者への売却を指して使われることが多い言葉です。一方、スピンアウトは切り出した事業を親会社との資本関係を断って独立させる形を指します。
売却対価を得る取引か、独立させること自体が目的かという違いがあります。似た言葉にスピンオフもあり、こちらは親会社との資本関係が残る独立の形を指す点で区別されます。
カーブアウトのメリットとデメリットは何ですか?
売り手から見たメリットは、会社全体を手放さずに売却対価を得られること、そして残した本業に経営資源を集中しやすくなることです。
デメリットは、切り出し準備の負担です。システム分離、契約の移転、従業員の転籍といった工程に手間と費用がかかります。準備の負担と得られる対価・効果を比べて判断することになります。
まとめ
カーブアウトにおけるシステム分離は、切り出した事業が単独で業務を回すための土台づくりであり、売却の成立と価格に関わる経営の論点です。進め方には、買い手側のシステムへの移行、新規の構築、TSAによる橋渡しの3つがあり、案件の条件に応じて組み合わせて使われます。
売り手として押さえたいのは、ライセンス契約、個人情報、費用負担、担当者の体制という4つの注意点です。いずれも早い段階の棚卸しで対処しやすくなります。
なお、切り出しの手法そのものをどう選ぶかも、システム分離の負担に影響します。事業譲渡と会社分割の違いを知っておくと、全体の設計を考えやすくなります。
会社分割と事業譲渡の違いとは?一部事業を売る売り手の5つの判断軸を解説
事業別の損益とシステムの整理から始めることが、売却という選択肢を現実にする第一歩になります。
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