M&Aを従業員に説明する適切なタイミングは?役職別の順番と3つの注意点
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- M&Aの進め方
公開日:2026.07.30
2026.07.30
更新日:2026.07.30
2026.07.30
M&Aで会社売却を検討する際に、長年働いてきた従業員へいつ・どう伝えるか悩む売り手もいます。伝えるタイミングを誤ると、従業員の動揺や離職を招き、交渉そのものに影響することもあります。M&Aは原則として、最終契約の締結まで一般従業員には伏せて進めます。
本記事では、なぜ従業員に伏せて進めるのか、役職別の説明のタイミング、伝える内容、スキーム別の進め方、反対する従業員への対応に加え、失敗しないための注意点まで解説します。従業員への説明を控えている売り手経営者の方に、進め方を考える材料になる内容です。
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なぜM&Aは従業員に伏せて進めるのか
M&Aは、原則として最終契約の締結まで、一般従業員には伏せて進めます。その理由を3つの点から確認します。
- 情報が漏れると取引が中止になる場合がある
- 従業員の動揺や離職を招く場合がある
- 取引先との取引条件に影響する場合がある
それぞれを順に解説します。
情報が漏れると取引が中止になる場合がある
M&Aの情報が社内外に漏れると、取引が中止になる場合があります。売り手と買い手候補は、交渉の段階で秘密保持契約を結び、情報の管理を約束するためです。
確定していない段階で情報が広まると、買い手候補が交渉から撤退したり、条件を見直したりすることがあります。中小M&Aガイドラインでも、秘密保持は円滑な手続きの重要な要素とされています。
売り手は、社内での共有範囲を絞り、情報の管理を徹底する必要があります。
従業員の動揺や離職を招く場合がある
確定していない段階で従業員へ伝えると、動揺や離職を招く場合があります。今後の雇用や待遇が見通せない状態で、情報だけが広まるためです。
特に、事業を支えるキーマンとなる従業員が不安を抱くと、交渉の途中で離職につながることもあります。キーマンの離職は、買い手候補の評価に影響する場合があります。
売り手は、伝える時期と内容を設計し、不安を抑えられるタイミングで説明することが望ましいです。
取引先との取引条件に影響する場合がある
情報が取引先へ伝わると、取引条件に影響する場合があります。経営体制が変わるという情報だけが先行すると、取引先が不安を抱くためです。
たとえば、取引の継続や与信の見直しについて、取引先から問い合わせが生じることがあります。確定前の情報は、こうした不安につながる場合があります。
売り手は、取引先への説明の時期も、買い手候補と相談しながら設計する必要があります。
※参考:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」
役職別に見る従業員への説明のタイミング
従業員への説明は、役職や立場によって適したタイミングが変わります。
主に次の4つに分けて確認します。
- 経営幹部や役員には基本合意の前後に個別で伝える
- 部長や管理職には全体公表の直前に伝える
- 一般従業員には最終契約の締結後に一斉に伝える
- キーマンには買い手候補の要請で早めに伝える場合がある
それぞれを順に解説します。
経営幹部や役員には基本合意の前後に個別で伝える
経営幹部や役員には、基本合意の前後に個別で伝えます。経営に関わる立場で、交渉やデューデリジェンスへの協力が必要になるためです。
役員は、財務や事業の資料の準備など、M&Aの手続きに関与する場面があります。全体への公表より前に、個別に事情を伝え、協力を求めます。伝える範囲は、交渉の段階に応じて絞ります。
部長や管理職には全体公表の直前に伝える
部長や管理職には、全体公表の直前に伝えます。現場を統率する立場で、一般従業員への説明を支える役割があるためです。
管理職が事情を把握していないまま全体公表を迎えると、部下からの質問に答えられず、現場が混乱することがあります。全体への説明の直前に伝えることで、管理職が心構えを持って現場に対応しやすくなります。
売り手は、管理職に伝える内容と、公表までの時間の取り方を設計しておく必要があります。
一般従業員には最終契約の締結後に一斉に伝える
一般従業員には、最終契約の締結後に一斉に伝えるのが基本です。確定前に伝えると、動揺や離職が生じ、交渉に影響する場合があるためです。
最終契約を締結した段階であれば、M&Aが確定しており、雇用や待遇の方針もある程度定まっています。一斉に伝えることで、情報の伝わり方に差が出ることを抑えられます。説明の場では、買い手候補となる相手や今後の方針もあわせて伝えます。
キーマンには買い手候補の要請で早めに伝える場合がある
キーマンとなる従業員には、買い手候補の要請で早めに伝える場合があります。買い手候補が、事業の継続に重要な役割を担う人材の定着を確認したいと考えるためです。
デューデリジェンスの段階で、買い手候補からキーマンの残留の意向を確認したいと求められることがあります。この場合、対象者を絞り、秘密保持を前提に、早めに個別で説明します。誰をキーマンとするかは、買い手候補と相談して決めます。
キーマンの定着に向けた手法については、以下の記事でも解説しています。
M&Aにおけるロックアップとは?期間の相場・従業員への影響と売り手が知るべき注意点を解説
従業員に説明する内容
従業員へ説明する際は、伝える内容をあらかじめ決めておきます。主に次の3つを伝えます。
- M&Aの目的と買い手候補を伝える
- 雇用や待遇がどうなるかを伝える
- 今後の体制や働き方の変化を伝える
それぞれを順に解説します。
M&Aの目的と買い手候補を伝える
M&Aの目的と買い手候補を伝えます。なぜ会社を承継するのか、相手はどのような会社かを、従業員が理解できるように説明するためです。
後継者不在の解消や、事業の成長のためなど、M&Aに至った理由を伝えます。あわせて、買い手候補となる会社の事業内容や方針を説明します。目的が伝わらないと、従業員が不安や不信を抱くことがあります。
売り手は、M&Aの目的と相手の情報を、従業員の立場に立って伝える必要があります。
雇用や待遇がどうなるかを伝える
雇用や待遇がどうなるかを伝えます。従業員にとって、雇用の継続や給与の扱いは大きな関心事だからです。
M&Aの後も雇用が継続されるのか、給与や労働条件がどうなるのかを、分かっている範囲で説明します。確定していない事項は、確定していない旨を伝え、憶測で断定しません。
M&Aの後に雇用や待遇がどう変わるかについては、以下の記事でも解説しています。
M&A後の社長や従業員はどうなる?変化や成功のポイントと紹介
今後の体制や働き方の変化を伝える
今後の体制や働き方の変化を伝えます。指揮系統や評価の仕組みが変わる場合、従業員の働き方に影響するためです。
誰が新しい経営者になるのか、部署や業務の進め方が変わるのかなど、分かる範囲で説明します。変化がある場合は、いつごろどのように変わるのかも、あわせて伝えます。
売り手は、変化の見通しを、適切な範囲とタイミングを踏まえて伝えることが望ましいです。
スキーム別で変わる説明の進め方
M&Aのスキームによって、従業員への説明の進め方は変わります。株式譲渡と事業譲渡の2つを確認します。
- 株式譲渡は雇用契約が原則そのまま続く
- 事業譲渡は転籍への同意が必要になる
それぞれを順に解説します。
株式譲渡は雇用契約が原則そのまま続く
株式譲渡では、雇用契約が原則としてそのまま続きます。株主が変わるだけで、対象会社の法人格は変わらないためです。
従業員と対象会社との雇用契約は、対象会社に残り、原則として継続します。そのため、従業員から個別の同意を得る手続きは、原則として必要ありません。ただし、承継後に労働条件を変更する場合は、別途の手続きや同意が必要になることがあります。
事業譲渡は転籍への同意が必要になる
事業譲渡では、従業員の転籍への同意が原則として必要になります。事業譲渡による権利義務の承継は、個別に移す特定承継にあたるためです。
厚生労働省の指針では、事業譲渡で労働契約を承継させるには、個別の労働者の承諾を得る必要があるとされています。承諾は、時間的な余裕をもって説明と協議を行い、真意によるものとして得ることが求められます。
事業譲渡での従業員への影響や転籍の手続きについては、以下の記事でも解説しています。
事業譲渡が従業員に与える影響とは?転籍手続きや拒否された時の対応も紹介
M&Aに反対する従業員への対応
説明の後に、M&Aへ反対する従業員が出ることもあります。
反対への対応を主に3つの点から確認します。
- 反対する理由を個別に聞き取る
- 雇用や待遇の維持を交渉で確認する
- 反対を理由に解雇はできないことを踏まえる
それぞれを順に解説します。
反対する理由を個別に聞き取る
反対する理由を個別に聞き取ります。反対の背景には、雇用や待遇、働き方への不安があることが多いためです。
一斉の説明の場だけでは、一人ひとりの不安を把握しきれません。個別の面談の場を設け、何に不安を感じているのかを聞き取ります。理由が分かれば、対応できる点と、確定していない点を分けて伝えられます。
売り手は、反対の理由を丁寧に聞き取り、対応できる範囲を確認する必要があります。
雇用や待遇の維持を交渉で確認する
雇用や待遇の維持を、買い手候補との交渉で確認します。従業員の不安の多くは、雇用と待遇に関わるためです。
売り手として、買い手候補が雇用の継続や労働条件をどう扱う方針かを、交渉のなかで確認します。従業員の処遇を譲渡の条件に含めることを、あらかじめ検討しておく方法もあります。確認した内容は、適切な範囲とタイミングで従業員へ伝えます。
売り手は、従業員の処遇を交渉の論点として、早めに買い手候補と確認しておくことが望ましいです。
反対を理由に解雇はできないことを踏まえる
反対を理由に解雇はできないことを踏まえて対応します。M&Aへの反対のみを理由とする解雇は、原則として認められないためです。
厚生労働省の指針でも、事業譲渡で承継を拒否したことのみを理由とする解雇などは、権利の濫用として禁止されるとされています。反対する従業員がいても、解雇を前提とせず、対話による対応を進めます。
売り手は、反対する従業員への対応を、法令を踏まえて慎重に進める必要があります。
※参考:厚生労働省「企業組織の再編(会社分割等)に伴う労使関係(労働契約の承継等)について」
従業員への説明で失敗しないための注意点
従業員への説明では、進め方を誤ると離職や不信につながることがあります。失敗を避けるための主な注意点を確認します。
- 楽観的な見通しを断定して伝えない
- 答えられない質問に憶測で答えない
- 説明後の個別面談でフォローする
それぞれを順に解説します。
楽観的な見通しを断定して伝えない
楽観的な見通しを断定して伝えないようにします。確定していないことを断定すると、後で異なる結果になったときに不信を招くためです。
たとえば、待遇が良くなると言い切ったり、雇用は変わらないと断定したりする伝え方は避けます。確定している事項と、これから決まる事項を分けて伝え、見通しには幅があることも説明します。
売り手は、確定した内容と未確定の内容を区別して、正確に伝える必要があります。
答えられない質問に憶測で答えない
説明の場では、従業員から待遇や配属について具体的な質問が出ることがあります。まだ決まっていない事項は、決まっていない旨を伝えます。想定される質問と回答を、事前に準備しておく方法もあります。
売り手は、答えられない質問への対応方針を、あらかじめ決めておくことが望ましいです。
説明後の個別面談でフォローする
説明後の個別面談でフォローします。一斉の説明だけでは、一人ひとりの不安を解消しきれないためです。
全体への説明の後に、部署ごとや個人ごとの面談の場を設け、個別の疑問や不安に対応します。特に、離職の可能性がある従業員には、早めに面談の機会を設けます。面談で把握した不安は、その後の対応に反映します。
売り手の立場で説明を進めるならFAに相談する
従業員への説明は、売り手の立場で支援するFAに相談しながら進める方法もあります。仲介とFAの違いを踏まえて確認します。
- 仲介は買い手も顧客にあたるため従業員配慮が後回しになりやすい
- FAは売り手側で説明の順番や内容を設計する
それぞれを順に解説します。
仲介は買い手も顧客にあたるため従業員配慮が後回しになりやすい
仲介は買い手も見るため、従業員への配慮が後回しになりやすい面があります。仲介は、売り手と買い手候補の双方から手数料を受け取り、双方の間に立つ立場だからです。
双方の間に立つ仲介では、取引の成立が優先され、売り手側の従業員の処遇や説明の設計が後回しになる場合があります。売り手として、従業員への配慮をどこまで交渉に反映できるかは、支援者の立場によって変わります。
FAは売り手側で説明の順番や内容を設計する
FAは、売り手側に立って説明の順番や内容を設計します。FAは、依頼者である売り手のみを支援する立場だからです。
いつ、誰に、何を伝えるかという説明の設計や、従業員の処遇を交渉の条件に含める進め方を、売り手の意向を踏まえて整理しやすくなります。従業員への配慮を交渉方針に反映しやすくなる場合があります。
売り手の立場でのM&Aの進め方やFAの役割については、以下の記事でも解説しています。
「FAサービス」の売却アプローチとは?事業承継M&Aを有利に進めるための知識
M&Aの従業員説明に関するよくある質問
M&Aの従業員説明について、よく寄せられる質問を確認します。
従業員への説明は誰が行うのがよいですか?
従業員への説明は、現経営者である売り手が中心となって行うのが基本です。長く経営してきた立場から伝えることで、従業員の受け止めが変わるためです。買い手候補や、支援するFAが同席する場合もあります。誰がどの場面で話すかは、説明の段階に応じて決めます。
パートやアルバイトにも説明は必要ですか?
パートやアルバイトなど、雇用形態にかかわらず、働いている従業員には説明が必要になります。M&Aによる経営体制の変化は、雇用形態を問わず影響する場合があるためです。伝える時期や内容は、正社員と同様に、適切な範囲とタイミングを踏まえて設計します。
従業員に反対されるとM&Aは中止になりますか?
株式譲渡の場合、従業員の同意はM&Aの成立の要件ではないため、反対があっても直ちに中止になるわけではありません。ただし、キーマンの離職や現場の混乱は、買い手候補の評価や交渉に影響する場合があります。反対への対応を丁寧に進めることが望ましいです。
説明のときに買い手候補に同席してもらう必要はありますか?
買い手候補の同席は、状況に応じて検討します。最終契約後の全体説明で、買い手候補が今後の方針を直接伝えることで、従業員が理解しやすくなる場合があります。一方で、確定前の段階では、同席の要否やタイミングを慎重に判断します。同席の有無は、買い手候補やFAと相談して決めます。
まとめ
M&Aは、原則として最終契約の締結まで、一般従業員には伏せて進めます。確定前に情報が漏れると、取引の中止や従業員の離職、取引先への影響につながる場合があるためです。説明は、経営幹部や役員、管理職、一般従業員という順で、段階に応じて伝えます。
伝える内容は、M&Aの目的と買い手候補、雇用や待遇の見通し、今後の体制の変化です。株式譲渡では雇用契約が原則として続き、事業譲渡では転籍への同意が原則として必要になります。反対する従業員には、理由を聞き取り、法令を踏まえて対応します。
従業員への説明は、売り手の立場で支援するFAに相談しながら、順番と内容を設計することで、進めやすくなります。
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