M&Aで機密保持違反が起きるとどうなる?民事・刑事・行政上の責任と対処法を解説

2026.05.30

公開日:2026.05.30

2026.05.30

2026.05.30

更新日:2026.05.30

2026.05.30

M&Aで機密保持違反が起きるとどうなる?民事・刑事・行政上の責任と対処法を解説

M&Aで会社の売却や買収を進める際は、財務情報、顧客情報、従業員情報など外部に開示されていない情報を相手方と共有することになります。これらの情報が機密保持契約(NDA)に違反する形で漏洩すると、損害賠償や差止請求などの対象になる場合があります。

特に売り手のオーナー経営者にとっては、自社の情報が漏れることで取引先や従業員の不安を招いたり、譲渡条件が悪化したりするリスクがあります。買い手選定や仲介会社・FAの情報管理体制を確認しないまま進めると、想定外の経路から情報が外部に出るリスクがあります。

本記事では、機密保持違反で問題となる責任と、起きやすいトラブルや対応手順を解説します。

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M&Aにおける機密保持違反とは

M&Aにおける機密保持違反とは、譲渡の検討段階で当事者間で締結した機密保持契約(NDA)や守秘義務契約の内容に反して、相手方の機密情報を第三者に開示・漏洩させたり、本来の目的外で使用したりする行為を指します。M&Aでは、財務情報、顧客リスト、技術情報、従業員情報、経営計画など、外部に出ると競争上の不利益や信用低下につながり得る情報が広く共有されます。

機密保持違反が起きると、契約条項や法令に基づき、損害賠償請求や差止請求の対象になる場合があります。さらに、漏洩した情報が営業秘密や個人情報に該当する場合は、不正競争防止法や個人情報保護法などの法律上の責任にも問われる場合があります。売り手としては、譲渡準備の初期段階から情報管理の体制を確認しておくことが重要です。

機密保持契約(NDA)の基本的な内容や締結のポイントについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

秘密保持契約(NDA)とは?重要性や締結メリットを解説

M&Aで機密保持違反が起こりやすい場面

M&Aでは、複数の当事者が機密情報にアクセスするため、漏洩リスクが各所に分散しています。違反が起こりやすい主な場面は以下の通りです。

  • 売り手側からの情報漏洩
  • 買い手側からの情報漏洩
  • M&A支援会社など第三者経由の情報漏洩

それぞれの場面で原因と対策が異なるため、当事者別に漏洩経路を理解しておくことが重要です。

売り手側からの情報漏洩

売り手側からの情報漏洩は、社内の従業員や役員が譲渡検討の事実を外部に話してしまうケース、譲渡準備で作成した資料を社外に持ち出してしまうケース、メールやクラウドストレージのアクセス権限が広すぎて情報が漏れるケースなどが該当します。

譲渡検討の事実は、社内でも限られた経営層や専任担当者のみに共有することが一般的です。売り手としては、譲渡関連の情報にアクセスできる従業員を最小限に絞り、外部開示の前段階から社内の情報管理ルールを徹底しておくことが重要です。

買い手側からの情報漏洩

買い手側からの情報漏洩は、デューデリジェンスで受領した資料を社内の検討メンバー以外に共有してしまうケース、競合他社との情報交換で売り手の情報を話題に出してしまうケース、買収を見送った後も資料を返還・破棄せず保管し続けるケースなどがあります。

買い手側の情報管理体制は売り手から直接統制できないため、NDAの条項で第三者への開示制限、目的外使用の禁止、契約終了後の情報返還・廃棄義務を具体的に定めておくことが重要です。

M&A支援会社など第三者経由の情報漏洩

M&A支援会社など第三者経由の情報漏洩は、支援会社の担当者が複数案件を並行で扱う中で情報が混在するリスク、買い手候補に対するティーザー資料やネームクリア前のノンネームシートに特定可能な情報が含まれているケース、担当者の異動・退職時に情報管理が不十分となるケースなどがあります。

特に仲介会社は両当事者の間に立つ立場のため、売り手と買い手の双方の情報を扱います。売り手としては、支援会社の情報管理体制と過去の漏洩事故の有無を契約前に確認しておくことが望ましいです。

機密保持違反による民事上の責任

機密保持違反が起きると、契約上の責任として相手方から複数の請求を受ける場面があります。M&A実務で問題になる主な請求は以下の通りです。

  • 損害賠償請求
  • 差止請求
  • 違約金の支払い

請求の根拠と内容を理解しておくことで、違反発生時の対応を進めやすくなります。

損害賠償請求

損害賠償請求は、機密保持違反によって相手方が被った経済的損害を金銭で填補するよう求める請求です。M&Aの場面では、取引が破談になったことによる準備費用の損失、競合他社への情報流出による事業価値の低下、取引先や従業員の離反による営業損害などが対象となります。

損害額は実際に発生した損害をもとに算定されるのが原則ですが、立証が難しい場面が多いのが実務上の課題です。NDAに損害額の予定条項や違約金条項を盛り込んでおくと、損害額の立証負担を軽減できる場合があります。

差止請求

差止請求は、機密情報の使用や第三者への開示を止めるよう求める請求です。漏洩がすでに起きた場合でも、さらなる情報拡散を防ぐ目的で利用されます。裁判所に対して仮処分を申し立てることで、判決を待たずに迅速な対応を取れる場合があります。

ただし、差止請求が認められるためには、漏洩によって重大な損害が発生するおそれがあることを裁判所に示す必要があります。売り手としては、漏洩の事実と被害範囲を裏付ける証拠を早期に確保しておくことが重要です。

違約金の支払い

違約金は、機密保持違反が起きた場合に、一定額の支払いを定める条項です。NDAに違約金条項を入れておくことで、損害の立証が難しい場面でも請求しやすくなる場合があります。

違約金の金額は当事者間で自由に設定できますが、不当に高額な場合は公序良俗違反として無効と判断される可能性があります。M&Aの実務では、情報の重要性や取引規模に応じて個別に設定されます。

機密保持違反に関連する刑事責任・行政上の責任

機密保持違反は契約上の責任にとどまらず、漏洩した情報の性質によっては関連法令に基づく刑事責任や行政上の対応の対象になる場合があります。M&A実務で関係する主な法令は以下の通りです。

  • 不正競争防止法上の責任
  • 個人情報保護法上の責任
  • 会社法・金融商品取引法上の責任

法令ごとに保護される情報の範囲や責任の内容が異なるため、漏洩した情報がどの法令の対象になるかを確認することが必要です。

不正競争防止法上の責任

不正競争防止法上の責任は、漏洩した情報が同法の「営業秘密」に該当する場合に発生します。営業秘密として保護されるには、「秘密として管理されていること」「事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること」「公然と知られていないこと」の3要件を満たす必要があります。

営業秘密の不正取得や開示には、10年以下の拘禁刑または2,000万円以下の罰金などが科される場合があります。法人にも罰金刑が科される場合があります。M&Aで開示する技術情報や顧客リストは、営業秘密として管理されている場合は、刑事責任の対象となる可能性があります。

※参考:経済産業省「営業秘密〜営業秘密を守り活用する〜

個人情報保護法上の責任

個人情報保護法上の責任は、漏洩した情報に氏名・住所・連絡先などの個人情報が含まれていた場合に問題になります。M&Aの場面では、従業員情報、顧客名簿、取引先担当者の連絡先などが対象となります。

個人情報の漏えい等が発生し、個人の権利利益を害するおそれがある場合、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要になります。事案の内容によっては、個人情報保護委員会による指導・助言、勧告・命令の対象となり、命令違反には、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される場合があります。

※参考:個人情報保護委員会「個人情報保護法ハンドブック

会社法・金融商品取引法上の責任

会社法・金融商品取引法上の責任は、M&Aの当事者が上場企業や役員、関係者である場合などに問題になります。会社法では、取締役の善管注意義務や忠実義務の違反として、損害賠償責任や株主代表訴訟の対象になる場合があります。

金融商品取引法では、未公表の重要事実を利用して株式の売買を行うインサイダー取引規制の対象となります。M&A情報は重要事実に該当し得るため、漏洩によって関係者が未公表の重要事実を知り、インサイダー取引を行えば、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその併科の対象となる場合があります。

機密保持違反でM&Aに起こりやすいトラブル

機密保持違反は法的責任だけでなく、M&A取引そのものや関係者との関係に影響を及ぼす場合があります。実務で発生しやすいトラブルは以下の通りです。

  • 取引が破談になるケース
  • 譲渡条件が悪化するケース
  • 従業員・取引先との関係が崩れるケース

それぞれの影響を理解しておくことで、違反が起きた場合の被害を抑える対応が取りやすくなります。

取引が破談になるケース

取引が破談になるケースでは、譲渡検討の事実が外部に漏れた段階で、買い手側からの信頼が低下します。「情報管理に不安がある会社とは取引しにくい」と判断され、買い手が交渉から離脱する場合があります。

すでに基本合意書が締結されている段階での漏洩は、契約解除事由として明記されている場合、交渉が止まる可能性があります。売り手としては、譲渡準備の初期段階から社内の情報管理ルールを徹底し、漏洩の原因になりやすい部分を事前に抑えておくことが重要です。

譲渡条件が悪化するケース

譲渡条件が悪化するケースでは、取引自体は継続されるものの、漏洩によって発生した混乱の責任を売り手側に求める形で、譲渡対価の引き下げや表明保証条項の強化、補償条項の拡大などが要求されます。

たとえば、顧客リストが流出したことを理由に「主要顧客の離反リスクを売り手が補償する」条項が追加されることがあります。売り手としては、譲渡対価が確定する前の段階で漏洩が発覚した場合、価格交渉と並行して責任範囲の合意を慎重に進めることが重要です。

従業員・取引先との関係が崩れるケース

従業員・取引先との関係が崩れるケースでは、譲渡の事実を本来共有すべきタイミングより前に従業員や取引先が知ってしまい、不安や不信感から離反が生じる場合があります。従業員は退職を検討し、取引先は取引条件の見直しや解消を持ち出すことがあります。

M&A実務では、譲渡完了の直前または直後に従業員と取引先への説明を一斉に行うことがあります。情報が事前に漏れると、会社側が十分に説明できない状態で関係者の不安が広がり、譲渡後の事業運営に影響する可能性があります。

機密保持違反が起きた場合の対応手順

機密保持違反が起きた場合は、被害を抑え、再発を防ぐために順を追った対応が必要です。実務で取るべき主な手順は以下の通りです。

  • 漏洩経路と被害範囲の特定
  • 関係者への通知・説明
  • 法的措置の検討
  • 再発防止策の実行

初動の早さによって被害の規模が変わるため、対応手順をあらかじめ把握しておくことが望ましいです。

漏洩経路と被害範囲の特定

漏洩経路と被害範囲の特定は、対応の最初の段階で行う作業です。誰がいつ、どの情報を、誰に対して開示したのかを聞き取りや記録の確認によって明らかにし、漏洩した情報の範囲と影響を受ける関係者を洗い出します。

社内の関係者へのヒアリング、メールやチャットログの確認、アクセス権限の利用履歴の照会などが具体的な調査手段です。売り手としては、調査結果を時系列で記録に残し、後の法的措置や交渉での証拠として活用できる形にまとめておくことが重要です。

関係者への通知・説明

関係者への通知と謝罪は、漏洩の事実を被害を受ける当事者へ報告する対応です。M&Aの相手方、漏洩した情報の本人、関連する取引先や従業員などに対して、漏洩の経緯と影響範囲、今後の対応方針を伝えます。

個人情報が含まれる場合は、個人情報保護法に基づき個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務付けられています。売り手としては、通知の時期と内容を弁護士と相談したうえで、誠実かつ迅速に対応することが重要です。

法的措置の検討

法的措置の検討は、漏洩した情報をこれ以上拡散させないための差止請求や、被った損害を回復するための損害賠償請求を行うかを判断する段階です。違反者が特定できている場合は、相手方への警告書送付、仮処分の申立て、訴訟提起などが選択肢になります。

違反者の特定が難しい場合や、漏洩した情報が営業秘密や個人情報に該当する場合は、警察への相談や監督官庁への報告・相談も検討対象になります。売り手としては、弁護士と早期に協議して取り得る選択肢を確認しておくことが必要です。

再発防止策の実行

再発防止策の実行は、同じ漏洩が起きないよう、社内の情報管理体制を見直し、改善する取り組みです。情報へのアクセス権限を限定する、社内の情報管理ルールを文書化する、関係者への研修を実施するなどが具体策として挙げられます。

M&A後の関係者間の信頼回復のためにも、再発防止策の内容と実施スケジュールを相手方や関係先に説明することが望ましいです。売り手としては、漏洩事故を契機に情報管理体制を全面的に見直す機会とすることが、長期的な信用維持につながりやすくなります。

M&Aで機密保持違反を防ぐためのポイント

機密保持違反を未然に防ぐには、契約面、運用面、相手方の選定の3方向から準備を進める必要があります。具体的なポイントは以下の通りです。

  • NDA締結時に範囲と義務を具体的に定める
  • 情報共有の範囲を最小限にとどめる
  • 仲介会社・FAの情報管理体制を確認する
  • 売り手の立場に立てる専門家とともに進める

売り手としては、これらを譲渡準備の段階で一つずつ整えていくことが望ましいです。

NDA締結時に範囲と義務を具体的に定める

NDA締結時に範囲と義務を具体的に定めるには、機密情報の定義、目的外使用の禁止、第三者開示の制限、契約終了後の情報返還・廃棄義務、違約金条項などを具体的に記載することが重要です。

ひな型をそのまま使うと、実態に合わない条文が残ったり、保護したい情報が定義から漏れたりすることがあります。売り手としては、NDAの内容を弁護士に確認してもらい、自社の業種特性や開示する情報の重要度に応じて条文をカスタマイズしておくことが重要です。

情報共有の範囲を最小限にとどめる

情報共有の範囲を最小限にとどめるには、譲渡検討の段階に応じて開示する情報の粒度を変える運用が有効です。初期段階では業種や規模だけのノンネームシート、ネームクリア後に概要資料、基本合意後にデューデリジェンス資料というように、段階的に開示範囲を広げます。

社内でも、譲渡関連の情報にアクセスできる従業員を経営層と専任担当者に限定することが重要です。売り手としては、誰にどの段階で何を開示したかを記録に残し、漏洩発生時の調査に備えることが望ましいです。

仲介会社・FAの情報管理体制を確認する

仲介会社・FAの情報管理体制を確認するには、契約前の段階で支援会社のセキュリティ規程、過去の漏洩事故の有無、担当者の守秘義務遵守の仕組みを確認することが重要です。M&A支援会社は両当事者の情報を扱う立場のため、情報管理の質が漏洩リスクに影響します。

特に仲介会社は売り手と買い手の双方を支援する構造上、情報管理や開示範囲について、売り手側の意向が十分に反映されるか確認が必要です。売り手としては、売り手専属で支援するFAを選ぶことで、売り手側の意向を踏まえた情報管理体制を設計しやすくなります。

売り手の立場に立てる専門家とともに進める

売り手の立場に立てる専門家とともに進めるには、M&A仲介会社のように両当事者の間に立つ立場ではなく、売り手の利益を一貫して支援するFA(ファイナンシャル・アドバイザー)や、弁護士と連携することが重要です。機密保持違反が起きた場合の対応は、売り手側の証拠の確保や法的措置の判断を素早く行う必要があるためです。

売り手専属のFAであれば、譲渡条件の交渉と情報管理体制の構築を一体で進められます。利益相反が生じにくい支援者を選ぶことが、譲渡前後を通じた情報漏洩リスクの抑制につながります。M&A仲介とFAの違いについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

M&A仲介とFAの違いとは?向いているケースや役割、失敗しない選び方も解説

まとめ

M&Aにおける機密保持違反は、契約上の損害賠償や差止請求の対象となるだけでなく、不正競争防止法・個人情報保護法・会社法・金融商品取引法上の責任、さらに取引そのものの破談や関係者の離反といった広範な影響を及ぼす場合があります。譲渡準備の初期段階から漏洩リスクを想定し、契約・運用・支援者選びの3方向で備えを固めておく必要があります。

特に売り手にとっては、以下のような論点を踏まえたうえで進めることが重要です。

  • 違反パターンを当事者別に把握しておく
  • NDAに具体的な定義・義務・違約金を定める
  • 情報共有の範囲を段階的に絞り込む
  • 売り手の立場で支援する専門家とともに体制を組む

M&Aは、譲渡対価の交渉や契約条件の調整と並行して、情報管理の質をどこまで高められるかが、譲渡の安全性と関係者の信頼維持に影響します。情報管理の体制づくりから違反発生時の対応まで売り手の立場で支援できる専門家とともに、早い段階から準備を進めていくことが、リスクを抑えたM&Aの実現につながりやすくなります。

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ株式会社 )

RISONAL編集部

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