事業売却の前に知るべき…買い手が投資ファンドだと「過半数の株式取得」が基本条件になる理由
公開日:2024.12.05
2024.12.05
更新日:2024.12.05
2024.12.05
株式の持分割合に応じた権利を理解する
前回記事では、投資ファンドが投資を行う場合には、一般に過半数の株式取得が前提となるというお話をしました(⇒前回記事『【事業売却の予備知識】「買い手の類型」からわかる“提示される売却条件”の傾向』)。
投資ファンドが過半数の株式取得を求める理由を理解するには、株式の過半数を持つことで得られる株主の権利について整理する必要があります。
会社法では、過半数のほか、1/3超、2/3超といった特定の割合を超える株式を有する株主に対して、特別な権利を認めています。今回は、こうした持株比率に応じた株主の権利を見ていきましょう。
なお、本稿はM&Aの実行にあたって考慮するべき株主の権利にフォーカスを当てたいと思います。M&Aにおいてあまり論点にならない株主の権利(各種閲覧権など)に関しては割愛しますので、ご了承ください。
株主の基本的な権利
株主の基本的権利には、株主総会の決議に加わる権利である「議決権」、配当を受けることができる「配当請求権」、会社が解散する際に残余財産の分配を受けられる「残余財産請求権」があります。このうち配当請求権と残余財産請求権は、行使の結果が株主個人の利益だけに影響する権利(=自益権)に該当します。一方、議決権は、行使の結果が株主全体の利益に影響を及ぼす権利(=共益権)に該当します。
会社法はこうした株主の基本的な権利を認めたうえで、1株だけで行使できる権利(単独株主権)のほか、一定数の株式を保有していなければ行使できない権利(少数株主権)を定めています。少数株主権は、株主平等原則の例外で、一定以上の株式を保有する株主に認められている特別な権利です。
なお、持株比率という言葉は、議決権比率とほぼ同義で用いられることが多くありますが、厳密にいうと、議決権のない種類株式を発行する場合は両者の意味が異なってきます。無議決権株式が存在する場合には、持株比率ではなく議決権比率に基づき少数株主権を議論する必要がある点については申し添えておきます。
◆持株数1株以上
株式を6ヵ月以上前(定款で短縮することは可)より継続して保有する株主は、会社に対して役員等の責任追及などの訴えを起こすよう求めることができ、会社が訴えを起こさなかった場合、自ら原告となり、会社に代わり訴えを起こすことができます(いわゆる株主代表訴訟)。
◆議決権1%以上
議決権が1%以上または300個以上の議決権(定款で減らすことは可)を6ヵ月以上前(定款で短縮することは可)より継続して保有する株主は、取締役に対し、株主総会に提出する特定の議案の要領を株主に通知するよう求めることができます(いわゆる株主総会における議案要領通知請求権)。
◆議決権3%以上
議決権の3%以上(定款で減らすことは可)を6ヵ月以上前(定款で短縮することは可、ただし非公開会社では不要)より継続して保有する株主は、取締役に対して、株主総会の目的である事項および招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができます(株主総会招集請求権)。
◆議決権1/3超
議決権が1/3超(これを下回る割合を定款で定めた場合はその割合)の株主は、単独で株主総会の特別決議を否決できます。
◆議決権50%超(過半数)
議決権が50%超の株主は、単独で株主総会の普通決議を可決できます。例えば、剰余金の配当や役員報酬変更、役員や会計監査人の選任、取締役の解任などは普通決議の対象です。
◆議決権2/3以上
議決権が2/3以上(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)の株主は、単独で株主総会の特別決議を可決できます。例えば、株式併合・定款変更・M&A(合併・会社分割・事業譲渡・株式交換など)・増資・解散などは特別決議の対象です。
(参考)株主総会特別決議の可決要件
当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(1/3以上の割合を定款で定めた場合はその割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の2/3(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上に当たる多数。
◆議決権90%以上
議決権が90%以上(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)を一定の方法で保有している特別支配株主は、対象会社の承認を得るなどの一定の手続きを経て、対象会社および特別支配株主以外のすべての株主に対して、対象会社の株式を特別支配株主に売り渡すよう請求することができます(いわゆるスクイーズアウト)。
M&A後も一定の株式保有をしたい場合は、持分比率を要検討
以上のように、株主には、その持分比率に応じて異なる権利が認められています。
PEファンドが投資をする場合、一般的には過半数の株式取得が前提となることは前述のとおりですが、オーナー経営者がM&A後にも一定の株式保有を継続しようと考える場合には、持分比率に応じて認められている株主の権利を念頭に、自身の持分比率を検討する必要があります。例えば、M&A後においても1/3超は引き続き議決権比率を維持することで、組織再編など重要な意思決定については拒否権を確保する、といったケースが考えられます。
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