個人版事業承継税制とは?3つの対象資産と要件、法人版との違いを解説
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公開日:2026.07.31
2026.07.31
更新日:2026.07.31
2026.07.31
個人事業を次の世代へ承継するとき、事業に使う宅地や建物にかかる贈与税や相続税の負担を心配する個人事業主もいます。個人版事業承継税制は、一定の要件を満たす場合に、こうした特定事業用資産の贈与や相続にかかる税の納税を猶予し、後継者の死亡など一定の事由に該当することで免除する制度です。
対象となる資産や要件が細かく定められており、法人版事業承継税制とは対象や仕組みが異なります。本記事では、個人版事業承継税制の対象資産、適用要件、法人版との違い、手続きの流れに加え、後継者が決まっていない場合の選択肢まで解説します。親族に後継者がいない個人事業主の方にも、承継の方法を考える材料になる内容です。
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個人版事業承継税制とは
個人版事業承継税制は、個人事業主が事業に使う資産を後継者へ承継する際の税負担に関わる制度です。まず、制度の概要と、創設の背景を確認します。
- 制度の概要
- 創設の背景と目的
それぞれを順に解説します。
制度の概要
個人版事業承継税制とは、個人事業主の後継者が特定事業用資産を贈与または相続で取得した場合に、その資産にかかる贈与税や相続税の納税を猶予し、後継者の死亡など一定の事由で免除する制度です。個人事業では、事業に使う宅地や建物などの資産に贈与税や相続税がかかり、後継者の税負担が承継の課題となる場合があるためです。
対象となるのは、青色申告に係る事業を行っていた個人事業主の後継者です。特定事業用資産を承継し、経営承継円滑化法に基づく認定などの手続きを行うことで、納税の猶予を受けられます。猶予は後継者が事業を続けることを前提とした仕組みで、猶予された税は、後継者の死亡など一定の事由に該当することにより免除されます。
創設の背景と目的
個人版事業承継税制は、平成31年(2019年)1月1日以後の贈与または相続に適用される制度です。個人事業の承継の際の税負担を抑えることを目的として設けられました。個人事業主の高齢化が進むなかで、事業用資産にかかる税負担が、後継者への承継を検討するうえでの負担となる場合があるためです。
事業に使う宅地や建物は評価額が大きくなることがあり、後継者が納税資金を用意しにくいケースが見られます。制度の利用によって、こうした税負担を抑えながら承継を進めやすくなる場合があります。
※参考:国税庁「No.4153 個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除(個人版事業承継税制)」
個人版事業承継税制の対象となる資産
個人版事業承継税制の対象となる資産は、範囲が定められています。対象となる特定事業用資産と、対象外となる資産に分けて確認します。
- 対象となる特定事業用資産
- 対象外となる資産
それぞれを順に解説します。
対象となる特定事業用資産
対象となるのは、被相続人や贈与者の事業に使われていた特定事業用資産です。宅地等(400平方メートルまで)と建物(床面積800平方メートルまで)のほか、事業に使う一定の減価償却資産が対象になります(2026年7月時点)。個人版事業承継税制が、実際に事業に使われている資産の承継を対象とした制度であるためです。
減価償却資産には、機械や器具備品などの固定資産税の課税対象となる資産、営業用の自動車、乳牛や果樹などの生物、特許権などの無形固定資産が含まれます。いずれも、青色申告書の貸借対照表に計上されていたものが対象になります。個人事業主として、自身の事業用資産のうち、どれが対象に含まれるかをあらかじめ確認しておきます。
対象外となる資産
一方で、事業に使っていない資産や、限度面積を超える部分は、対象外になります。たとえば、事業と関係のない不動産や、個人的に使っている資産は、対象に含まれません。宅地等が400平方メートルを、建物が床面積800平方メートルを超える部分も、猶予の対象から外れます。
個人事業主として、対象になる資産と対象外の資産を分けて把握しておくことで、承継後の税負担を見込みやすくなります。
※参考:国税庁「No.4153 個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除(個人版事業承継税制)」
個人版事業承継税制の適用要件
個人版事業承継税制の適用を受けるには、複数の要件を満たす必要があります。事業、先代事業者、後継者のそれぞれに定められた要件を確認します。
- 事業の要件
- 先代事業者の要件
- 後継者の要件
それぞれを順に解説します。
事業の要件
事業の要件として、対象となる事業が、資産の管理や運用を主な目的とする事業などに該当しないことが求められます。個人版事業承継税制が、実際に事業を営む個人事業主の承継を対象とした制度であるためです。
対象となる事業に当たるかどうかは、事業の内容によって判断されます。自身の事業が対象となるかを、中小企業庁の公式情報や専門家への相談によって確認することが望ましいです。
先代事業者の要件
先代事業者の要件として、原則として、贈与または相続の前に事業を営み、その事業について青色申告を行っていたことが求められます。制度が、継続して営まれてきた事業の承継を対象としているためです。
具体的には、贈与により承継する場合には、廃業の届出などの手続きが必要になります。これまでの申告の状況や、必要となる手続きを、早めに確認する必要があります。
後継者の要件
後継者の要件として、原則として、経営承継円滑化法に基づく認定を受けること、承継後に開業の届出を行い青色申告の承認を受けること、事業を継続することが求められます。後継者が実際に事業を承継し、継続して営むことを前提とした制度であるためです。
後継者は、贈与税または相続税の申告期限までに、開業の届出書を提出し、青色申告の承認を受ける必要があります。後継者が満たすべき要件を、承継の前に後継者と共有しておきます。
※参考:中小企業庁「個人版事業承継税制の前提となる認定」
法人版事業承継税制との違い
個人版事業承継税制は、法人版事業承継税制と対象や仕組みが異なります。対象となる財産、対象者、納税猶予割合や手続きの違いを確認します。
- 対象となる財産の違い
- 対象者の違い
- 納税猶予割合や手続きの違い
それぞれを順に解説します。
対象となる財産の違い
対象となる財産は、個人版と法人版で異なります。個人版事業承継税制の対象は、個人事業に使う特定事業用資産です。法人版事業承継税制の対象は、会社の非上場株式です。個人事業には株式がないため、事業に使う資産そのものが対象になります。会社の場合は、事業に使う資産ではなく、会社の株式が対象になります。
個人事業と法人のどちらに当たるかによって、対象となる財産が変わります。
対象者の違い
対象者も、個人版と法人版で異なります。個人版事業承継税制の対象者は、個人事業主とその後継者です。法人版事業承継税制の対象者は、会社の代表者などとその後継者です。個人事業を営むか、会社を経営するかによって、適用される制度が分かれます。事業の形態に応じた制度を選ぶことが重要です。
納税猶予割合や手続きの違い
納税猶予の割合や、提出する計画にも違いがあります。個人版事業承継税制では、特定事業用資産に対応する贈与税や相続税の全額が、納税猶予の対象になります。手続きの面では、個人版では個人事業承継計画を、法人版では特例承継計画などを都道府県へ提出します。計画の名称や様式が異なります。
利用する制度の手続きを、公式情報や専門家への相談によって確認する必要があります。
※参考:国税庁「個人版事業承継税制」
個人版事業承継税制の手続きの流れ
個人版事業承継税制の適用を受けるには、いくつかの手続きを順に進める必要があります。個人事業承継計画の提出から、継続届出書の提出までの流れを確認します。
Step1. 個人事業承継計画を提出する
最初に、認定経営革新等支援機関の所見を付した個人事業承継計画を、都道府県へ提出します。計画には、承継の予定や承継後の取り組みなどを記載します。個人事業承継計画の提出期限は、令和10年(2028年)9月30日までです(2026年7月時点)。期限は税制改正により変更されることがあるため、最新の情報は中小企業庁の公式情報で確認する必要があります。
期限を過ぎると、この制度の適用を受けられません。計画の作成を早めに進めることが望ましいです。
Step2. 贈与または相続を行う
次に、特定事業用資産を、贈与または相続によって後継者へ承継します。適用の対象となるのは、平成31年(2019年)1月1日から令和10年(2028年)12月31日までの贈与または相続です(2026年7月時点)。贈与により承継する場合と、相続により承継する場合とで、手続きや時期が異なります。どちらの方法で承継するかを、税負担や後継者の状況を踏まえて検討します。
Step3. 都道府県知事の認定を受ける
贈与または相続の後に、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けます。認定は、先代事業者と後継者が要件を満たしていることを確認する手続きです。認定の申請には期限があります。必要な書類や申請の期限を、事前に把握しておきます。
Step4. 税務署へ申告し担保を提供する
認定を受けた後は、後継者が贈与税または相続税の申告を行い、猶予される税額に見合う担保を税務署へ提供します。申告や担保の提供には期限があります。後継者が期限内に手続きを行えるよう、早めに準備を進めることが望ましいです。
Step5. 継続届出書を提出し続ける
猶予を継続して受けるには、定められた期間ごとに、継続届出書を税務署へ提出します。届出を怠ると、猶予が打ち切られる場合があります。承継後も後継者が届出を続けられるよう、手続きの流れを引き継いでおく必要があります。
※参考:中小企業庁「個人版事業承継税制の前提となる認定」
個人版事業承継税制のメリットと注意点
個人版事業承継税制には、税負担に関わるメリットがある一方で、利用のうえで確認すべき点もあります。メリットと、注意する点を確認します。
- 税負担の猶予・免除というメリット
- 小規模宅地等の特例とは選択適用になる
- 適用期間や取消事由に注意する
それぞれを順に解説します。
税負担の猶予・免除というメリット
個人版事業承継税制のメリットは、特定事業用資産にかかる贈与税や相続税の納税が猶予され、後継者の死亡など一定の事由に該当すると免除される点です。後継者が納税資金を用意しにくい場合でも、税負担を抑えながら事業を承継しやすくなります。事業に使う宅地や建物は評価額が大きくなることがあり、税負担が承継の課題となるケースが見られるためです。
制度を利用することで、承継の時点での納税資金の負担を抑えられる場合があります。想定される税負担と、制度を利用した場合の負担の違いを、専門家とともに確認しておきます。
小規模宅地等の特例とは選択適用になる
注意する点として、個人版事業承継税制は、小規模宅地等の特例と選択適用になります。小規模宅地等の特例は、相続した事業用や居住用の宅地の評価額を減額する相続税の特例で、個人版事業承継税制とは別の制度です。同じ宅地について、両方を併せて使うことはできず、どちらを利用するかを選ぶ必要があります。事業の状況や資産の内容によって、有利になる制度が変わります。
どちらの制度が状況に合うかを、税理士などの専門家とともに検討することが重要です。
適用期間や取消事由に注意する
適用期間や取消事由にも注意が必要です。適用の対象となるのは、令和10年(2028年)12月31日までの贈与または相続で、個人事業承継計画の提出期限は令和10年(2028年)9月30日までです(2026年7月時点)。最新の情報は、中小企業庁の公式情報で確認する必要があります。また、事業をやめた場合や、対象資産を事業に使わなくなった場合など、一定の取消事由に該当すると、猶予されていた税に加えて、利子税の納付が求められる場合があります。
猶予は、納税の免除が確定するまで、継続的な要件を伴います。この点を後継者と共有しておきます。
※参考:国税庁「No.4153 個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除(個人版事業承継税制)」
後継者がいない個人事業主のM&Aという選択肢
個人版事業承継税制は、後継者への承継を前提とした制度です。後継者がいない場合には、別の選択肢を検討することになります。制度の前提と、事業譲渡による承継、相談先を確認します。
- 個人版税制は親族などへの承継が前提になる
- 後継者がいない場合は事業譲渡で第三者へ
- 売り手の立場で進めるならFAに相談する
それぞれを順に解説します。
個人版税制は親族などへの承継が前提になる
個人版事業承継税制は、親族や従業員などの後継者が事業を引き継ぐことを前提とした制度です。特定事業用資産を後継者へ贈与または相続で承継する仕組みのため、承継する後継者がいることが前提になります。後継者が定まっていない場合、この制度をそのまま利用することは難しくなります。後継者の有無によって、利用できる承継の方法が変わります。
後継者がいない場合は事業譲渡で第三者へ
後継者がいない場合は、事業譲渡によって第三者へ事業を承継する方法があります。事業譲渡では、事業に使う資産や、契約上の地位、権利義務を買い手へ移転することで、事業を引き継げる可能性があります。廃業を選ぶと、取引先や従業員に影響が及ぶ場合がありますが、第三者への承継であれば、事業を続けられる可能性があります。
個人事業の事業譲渡による承継の進め方を確認したい場合は、以下の記事でも解説しています。
個人事業主の事業譲渡(M&A)とは?方法や流れ、成功させるポイントを紹介
売り手の立場で進めるならFAに相談する
第三者への承継を検討する場合、売り手の立場で支援するFAに相談することで、進めやすくなる場合があります。M&Aの支援には、売り手と買い手の双方から手数料を受け取る仲介と、依頼者側のみを支援するFAがあり、立場が異なります。売り手として、売却対価や承継後の条件について、自身の意向を踏まえた方針を整理しやすくなります。
後継者がいない場合の選択肢を広く確認したい場合は、以下の記事でも解説しています。
後継者がいない会社はどうなる?廃業を避けてM&Aで事業を存続させる方法を解説
個人版事業承継税制に関するよくある質問
個人版事業承継税制について、よく寄せられる質問を確認します。
個人版と法人版の違いは何ですか?
個人版事業承継税制は個人事業主の特定事業用資産を対象とし、法人版事業承継税制は会社の非上場株式を対象とします。対象となる財産に加えて、対象者や提出する計画の名称も異なります。個人事業と法人のどちらに当たるかによって、適用される制度が変わります。
個人版事業承継税制とは何ですか?
個人版事業承継税制とは、個人事業主の後継者が特定事業用資産を贈与または相続で取得した際に、その資産にかかる贈与税や相続税の納税を猶予し、後継者の死亡など一定の事由に該当すると免除する制度です。事業に使う宅地や建物などの税負担を抑えながら、個人事業を承継しやすくすることを目的としています。
個人事業主でも事業承継できますか?
個人事業主も、相続や贈与、事業譲渡によって事業を承継できます。親族や従業員へ承継する場合には、個人版事業承継税制を利用できる場合があります。後継者がいない場合には、事業譲渡によって第三者へ承継する方法もあります。
個人版事業承継税制の対象となる資産は何ですか?
対象となるのは、宅地等(400平方メートルまで)と建物(床面積800平方メートルまで)のほか、事業に使う一定の減価償却資産です(2026年7月時点)。事業に使っていない資産や、限度面積を超える部分は、対象外になります。
※参考:国税庁「個人版事業承継税制」
まとめ
個人版事業承継税制は、個人事業主が特定事業用資産を後継者へ承継する際に、贈与税や相続税の納税を猶予し、後継者の死亡など一定の事由に該当すると免除する制度です。対象となるのは、宅地等(400平方メートルまで)、建物(床面積800平方メートルまで)、一定の減価償却資産で、法人版事業承継税制とは対象や仕組みが異なります。
適用の対象は、令和10年(2028年)12月31日までの贈与または相続で、個人事業承継計画の提出期限は令和10年(2028年)9月30日までです(2026年7月時点)。
最新の情報は、中小企業庁の公式情報で確認する必要があります。
後継者がいる場合には、制度の利用によって、税負担を抑えながら承継しやすくなる場合があります。後継者が定まっていない場合には、事業譲渡によって第三者へ承継する方法もあります。自身の状況に合う承継の方法を、専門家とともに検討することが、納得度の高い選択につながりやすくなります。
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