調剤薬局業界のM&A|調剤薬局業界のM&A動向やメリットも解説!
公開日:2024.08.29
2024.08.29
更新日:2024.11.19
2024.11.19
昨今、調剤薬局業界は競争が激しく、M&A取引が活発に行われるようになっています。
調剤薬局業界では、薬価や調剤報酬の引き下げによって経営が苦しい状況に置かれる企業が多く、オンライン服薬指導の解禁や大手占有率の低さによる競争の激化への対策として、有効な手段のM&Aが注目されています。
では、具体的に調剤薬局業界のM&A事情はどうなっているのでしょうか。本記事では、最新の調剤薬局業界のM&A事情を解説します。さらに、調剤薬局業界におけるM&Aのメリットや事例も紹介しているため、調剤薬局業界でM&Aを考えている方はぜひ参考にしてください。
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調剤薬局業界の動向
厚生労働省「調剤医療費の動向」によると、本業界の市場規模といえる調剤医療費は、2022年度に約7.8兆円となっています。また、調剤医療費に含まれ調剤薬局の直接的な付加価値とも言える技術料は約2.1兆円です。
参照:厚生労働省「調剤医療費の動向」
調剤薬局の主な収入源は調剤報酬に依存しており、その内訳は薬剤料・特定保険医療材料料・調剤技術料・薬学管理料の4つに規定されています。多くを占める薬剤料は原価として支払われ、調剤技術料と薬学管理料は処方箋1枚ごとに算定されます。そのため、処方箋の枚数が収入において重要です。
しかし、これまでの調剤報酬改定では、24時間対応や医療機関との連携、服薬情報の一元的・継続的な把握など、機能面が重視されるようになりました。また、特定の医療機関からの処方箋が多く集まっている薬局の報酬は、大幅に引き下げられてきました。これらの改定によって、今まではとにかく立地を活かして処方箋の数をさばくことが主眼とされてきましたが、多様性やサービスの質、薬剤師の確保が重要となりました。
また、少子高齢化にともなって医療費の削減を目指す動きがとられるようになり、薬価の値下げや診療報酬、調剤報酬の減額が進んでいます。そのため、調剤薬局業界全体として利益の確保が難しくなり、深刻な問題となっています。
さらに、かかりつけ薬局への移行も推進されるようになりました。かかりつけ薬局とは、自宅の近くなど「いつもの相談先」となる身近な薬局です。過去の来歴や処方薬を記録しており、どこの病院で処方箋をもらっても、かかりつけ薬局で薬を処方してもらうような付き合い方が推奨されています。しかし、かかりつけ薬局の推進において、薬剤師の人材不足が問題となっています。
コロナウイルス流行時の2020年には、オンライン服薬指導が解禁され注目されるようになりました。コロナウイルス感染拡大を受け、当初予測されていたニーズを超えて急速に拡大し、実店舗型の調剤薬局は大きな打撃を受けました。
一方で、業種の垣根を超えた異業種からの参入も見られます。従前より、調剤薬局併設型のドラッグストアは見られましたが、ドラッグストアが調剤薬局機能を取り込む動きは近年になって加速しています。
Amazonは2018年に米国でオンライン薬局のPillPackを買収し、薬剤一包化をした上で服用日・服用時間を薬袋に記載し、患者宅まで配達するサービスを提供してきました。米国で先行したサービスですが、日本においてはアマゾンジャパンが2024年7月にAmazonのアプリ上でオンライン服薬指導から処方薬の配送までを手がけるサービス(Amazonファーマシー)を開始しました。
Amazonファーマシーは、国内主要ドラッグストア・調剤薬局2,500店舗で服薬指導を受けることを可能とする提携を業界トップ企業9社と行っており、今後の動向が注目されます。
調剤薬局業界のM&A動向
調剤薬局業界の特徴として、大手の占有率が他の業種と比較して低い点が挙げられます。そのため、個人経営や小規模経営の調剤薬局が多く存在している状態です。
しかし、その中で個人経営や小規模経営の薬局は、厳しい状態に置かれています。まず、規制緩和によってOTC医薬品の販売は異業種との競合となりました。また、薬価や調剤報酬の引き下げによって収益の減額が予想され、かかりつけ薬局への移行が推進される中でさらなる人件費や設備費が必要となります。
そのため、大手企業とM&A契約を締結し、大手の傘下となることで店舗の継続を図っているケースが多くなっています。
一方で大手企業側でも、大手チェーンや中規模企業の展開によって調剤薬局数が飽和状態に近づき競合が多くなる中で、自社の事業拡大を図ってM&Aを進めるケースが増えている状態です。
異業種からの調剤薬局業界への参入も注目すべきポイントです。オンラインでの服薬指導や、電子処方箋の運用開始によるデリバリーサービスとの連携など、より消費者に近い場所での調剤薬局出店が増えている中で、今後も異業種の新規参入は増加し、M&Aも活発になると予想されています。
特に、事業領域が重複するドラッグストア業界と調剤薬局業界では業界の垣根を超えたM&Aが進行しています。具体的には、調剤薬局併設型のドラッグストア運営企業が事業基盤拡充のために調剤薬局運営企業を買収するケースが出てきており、今後もこの流れが継続すると考えられます。
また、投資ファンドが母体となり、ヘルスケア業界で新たな「地域ケアモデル」の構築をもくろむ地域ヘルスケア連携基盤(CHCP)という会社が、積極的に小規模の調剤薬局を買収する動きもあります。
CHCPは、調剤薬局事業に限らず、医療・介護事業者(医療機関(医科・歯科)・調剤薬局・看護事業者・介護事業者など)において、より効率的で質の高いサービスを構築するために、その手段としてM&Aを活用しており、今後もM&Aを戦略の一つとして地域ケアモデルの強化を狙うものと考えられます。
他方、積極的な拡大路線が裏目に出た結果、破産に至るケースも出ています。なぎさ薬局などの屋号で調剤薬局グループを運営する寛一商店株式会社は、近年積極的に地方小規模調剤薬局を買収してきましたが、2024年7月に負債総額約111億円の規模で東京地裁に会社更生法の適用を申請し、同日保全管理命令を受けました。競争激化に歯止めがかからず、コロナ禍による受診控えの影響から処方箋枚数が伸び悩み、売上も減少し、多大な借入金負担も相まって、今回の措置となりました。
調剤薬局業界のM&Aの流れ
調剤薬局業界におけるM&Aの流れは、大きく分けて下記の3つのステップから構成されます。
1.M&Aの事前準備、助言会社の選定
2.譲渡候補先企業との接触、意向受領表明
3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング
それぞれ詳しくみていきましょう。
Step1.M&Aの事前準備、M&A助言会社の選定
まず、M&Aの事前準備とM&A助言会社を選定します。
事前準備として、M&A助言会社と秘密保持契約を締結し、初期的な資料を開示します。秘密保持契約とは、自社の秘密情報を他社に開示する場合に、その情報を秘密に保持することを締結する契約です。
その上で、売却戦略をM&A助言会社と策定し、譲渡候補先企業を優先順位ごとに並べたロングリスト(※1)を作成します。
譲渡の目的を満たすストラクチャー(※2)の検討や、譲渡完了に至るまでの全体のスケジュールについても事前準備の段階で検討します。
また、この段階でM&A助言会社とエージェント契約を締結します。
M&A助言会社を選定する際に注意しておきたいのが、仲介とFA(フィナンシャル・アドバイザー)の違いです。
仲介とは、いわゆるマッチングサービスのことで、売り手と買い手の双方とそれぞれ仲介契約を締結します。M&Aの当事者双方から依頼を受けているため、いずれか一方の利益のみを優先的に取り扱うことはできず、双方の意向を一元的に把握し、双方の共通の目的であるM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。また、手数料は売り手と買い手の双方から受領します。
それに対してFAとは、M&Aを実行するためのアドバイスを提供するサービスのことで、M&Aの当事者一方のみから依頼を受けます。M&Aの相手方(譲渡候補先企業を含む)に対して、依頼者に対して提供するのと同様の業務を提供することはありません。M&Aの当事者一方のみから依頼を受けているため、依頼者の意向を踏まえて、依頼者にとって有利な条件でのM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。
弊社では、売り手のみと契約を締結してM&Aを支援する専属エージェントサービス(売り手特化型FAサービス)を提供しており、手数料は依頼者である売り手のみから受領し、売り手の利益を最大化することを目指します。
また、譲渡戦略の策定と並行して、譲渡候補先企業へ開示する資料準備も進めます。M&Aプロセスの初期に譲渡候補先企業に対して開示する資料には、匿名の企業概要書(ティーザー(※3))、インフォメーション・パッケージ(※4)があります。
※1 ロングリスト:一定の条件で絞り込んだ譲渡候補先の企業をまとめたリストのこと。
※2 ストラクチャー:M&Aを実行するための手段や方法のこと。
※3 ティーザー:匿名の企業概要書で、通常1枚から2枚で構成される資料のこと。
※4 インフォメーション・パッケージ:譲渡候補先企業がM&Aを検討するために参考にする資料。対象会社(事業)の魅力を伝え、譲渡候補先企業が企業価値評価を実施できることを目的に作成される。
Step2.譲渡候補先企業との接触、意向表明受領~
次に、譲渡候補先企業と接触します。
ロングリストに基づき、M&A助言会社が譲渡候補先企業と接触し、ティーザーを開示します。その上で関心を示す相手に対して、秘密保持契約を締結した上でインフォメーション・パッケージを開示します。
対象会社の譲受を希望する譲渡候補先企業は、売り手に対して意向表明書を提出します。意向表明書には、譲渡価格の水準や取引の前提条件、取引後の対象会社の運用方針などが記載されます。売り手はこれを検討・比較し、受け入れ(基本合意)可能かを判断します。
売り手においては、後述する詳細調査(デュー・デリジェンス:DD)のプロセスにおいて、対象会社の秘密情報が譲渡候補先企業に開示されることになるため、DDを受け入れる前に納得感の得られる取引条件であることを確認することが非常に重要です。譲渡候補先企業においても、DDにおける専門家起用の費用負担や多大な労力が生じるため、この段階で独占交渉権を求めることが一般的です。
そのため、基本合意を締結し、守秘義務や独占交渉権などを取り決めた上で、次のステップに進むことになります。
Step3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング~
意向表明書を受理して基本合意書の締結をしたら、DDと呼ばれる詳細調査と最終締結・クロージングです。
M&Aにおいては、売り手と買い手との間に、情報の非対称性が必然的に生じます。この非対称性をできるだけ解消するために、買い手が実施する対象企業への調査がDDです。
買い手にとってDDには、以下のような目的があります。
・自社のM&A戦略に合致した事業かどうか詳細まで検討する
・定量化可能なDDの発見事項を、譲渡価格へ反映する
・定量化できないDDの発見事項を、最終契約書の条件へ反映し、リスクを遮断する
・M&Aの目的を達成するためのストラクチャーを検討する
・M&A実行後に必要な対応を明確化し、統合計画に反映させる
その後、最終契約締結に移ります。譲渡価格や契約条件を交渉し、双方が納得のいく形で契約を締結します。そしてM&A取引が実行され、対象の株式・事業の引き渡しをし、譲渡代金を支払って経営権の移転が完了します。
譲渡企業オーナーの譲渡を想定したより詳細なM&Aのプロセスは、以下の記事で解説していますので、ぜひご活用ください。
[M&Aのプロセス]
調剤薬局業界のM&Aのメリット
調剤薬局業界でM&Aを実施するメリットとして、下記の3つが挙げられます。
・事業を継続でき、従業員の雇用を守れる
・病院や患者さんへの影響を最小限に抑えられる
・事業規模の拡大を狙える
それぞれ詳しく解説します。
調剤薬局業界のM&Aのメリット①:事業を継続でき、従業員の雇用を守れる
第三者への事業承継を選択せずに廃業を選択した場合は、従業員は職を失うことになり、新しい職を探す必要があります。また、経営者としては、従業員のために新しい職を見つけてあげるなどの対応をするケースも考えられます。
一方で、M&Aの実施により、従業員の雇用を継続でき、経営者は従業員に対する責任を果たせるでしょう。
調剤薬局業界のM&Aのメリット②:病院や患者さんへの影響を最小限に抑えられる
廃業を選択した場合には、病院との関係性を終了させる必要があります。また、既存の患者さんにとっても普段利用している調剤薬局がなくなってしまうため、少なからず影響が及んでしまいます。
一方で、M&Aを実施する場合、すでに構築されている病院や患者さんとの関係を引き継ぐことが多く、廃業による影響を最小限に抑えることができます。
調剤薬局業界のM&Aのメリット③:事業規模の拡大を狙える
個人経営や小規模経営の調剤薬局は、資金や人材の点において、事業の拡大が難しくなっています。ドラッグストアや家電量販店などにも調剤薬局が出店するようになり、かかりつけ薬局やオンラインでの服薬指導、大手のチェーン展開など、さまざまな要因が重なって地域の中ですら厳しい状況に置かれています。
しかし、大手企業の傘下となれば、費用面や人材面においても事業規模の面でメリットが得られるため、経営が効率化されるでしょう。また、大手企業が有するノウハウとサービスメニューをグループで活用でき、患者さんのニーズに応えたサービスの展開が可能となります。調剤薬局業界でM&Aを実施すると、事業規模の拡大と競争力の強化に期待できます。
調剤薬局業界のM&Aの相場
調剤薬局業界の相場は、一概にいくらと明言できません。その企業の売り上げやブランド力、立地などさまざまな要素から判断されます。
これまでM&A仲介会社では年買法といわれる簡便的な株式評価手法を用いて評価を実施することが一般的でした。これは純資産に営業利益の数年分を加算する簡単な計算方法であり、理解が容易な一方、実績ベースの評価で、加算される営業利益の年数も業界ごとに固定的なものとなります。
その結果、成長性のある事業ほど低く株式価値が算定されてしまうリスクがあります。正しく買い手の株式価値評価手法を理解することは、売り手オーナーが自身の利益を守るために重要です。
調剤薬局業界のM&A実務において事業価値の算定には、大きく分けて2つの方法があります。
・インカムアプローチ
・マーケットアプローチ
インカムアプローチは、営業資産が生み出す将来キャッシュフローを評価の基礎とする方法です。代表的なディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法では、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を試算します。
理論的に優れた方法ではあるものの、将来キャッシュフローの見積もりや割引率の計算は非常に難易度が高く、経験を積んだ専門家でないと試算が困難で、初見では理解しづらいのが大きな欠点でしょう。
本稿では「価値の概算を簡単に知る」ことを目的にしていますので、インカムアプローチの詳細な説明は割愛します。
マーケットアプローチは、市場における取引価格を参考にして事業価値を算定する方法です。具体的には、以下のような方法が存在します。
・類似会社比較法
・類似取引比較法
類似会社比較法は、評価する対象の企業の類似会社にあたる上場会社の企業価値と、営業利益や収益力(EBITDA)といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで、事業価値を算出する方法です。
具体的には、以下のように算定します。
EBITDA×業界相場の倍率(EBITDAマルチプル)=企業価値
(EBITDAマルチプル=上場類似会社の企業価値/上場類似会社のEBITDA)
EBITDAは、営業利益に減価償却費を足して算出されるものです。
また、類似会社は、業界が同じ上場企業を選定するのはもちろんのことですが、ビジネスモデルや収益構造、顧客の層などの類似性から選定するパターンもあります。類似会社をどのように選ぶかで算定結果は大きく依存します。
企業価値を算出したら、株式価値を算出しましょう。株式価値は、以下のように算出します。
企業価値-有利子負債+現金同等物=株式価値
第三者に譲渡する場合に、どの程度の価値がつくかを把握しておくことは重要なため、理解しておきましょう。
なお、マーケットアプローチには、類似会社比較法のほか、類似するM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法という方法が存在します。
しかし、参照する過去の取引における対象会社が非上場である場合、入手可能な財務数値が限定的であるため、同方法が中小企業のM&Aで利用されることは少ないのが現状です。
M&Aにおける価値の算定については、下記で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
[うちの会社、結局いくらで売れるの?~事業オーナーの疑問に答えるコラム①~]
また、自社の具体的な株式価値を知りたい場合には、株価シミュレーターを用意していますので、以下で試算可能です。ぜひご活用ください。
[株価シミュレーター]
調剤薬局業界のM&Aのポイント
調剤薬局業界でM&Aを実施する際に押さえておきたいポイントとして、下記の3つが挙げられます。
・適切なM&A助言会社を選定する
・自社の正当な収益力・財務状況を把握する
・病院や患者さんからの理解を得る
それぞれ詳しく解説します。
調剤薬局業界のM&Aのポイント①:適切なM&A助言会社を選定する
M&A助言会社に求められる能力は、法務・会計・税務・ファイナンスに精通していること、誠実であること、顧客の立場に寄り添って助言を提供できる立ち位置であること、M&Aの売り手・買い手の双方の行動原理を理解しそれを交渉に活かせること、と多岐に渡ります。
真に顧客に寄り添える立場であるか、また、上記を見極めるためにも売り手・買い手の双方から報酬を受領する仲介会社ではなく、売り手と同じ船に乗り事業オーナーに対し助言する会社(FA)であるかを選定することが重要です。また、その会社に在籍するアドバイザーの知識や経験、ノウハウ等を含むFAサービスの品質が重要です。
調剤薬局業界のM&Aのポイント②:自社の正当な収益力・財務状況を把握する
売り手にとって、自社をよい条件で売却するために必要なのは、自社の正当な収益力・財務状況の把握です。
税務対策やオーナーの個人的な経費を費用計上している中小企業は数多くあるため、具体的な買い手候補にアプローチする前に、自社の実質的な収益力や、貸借対照表においても現金化可能資産や非事業用資産を確認し、実質的な自社の財務状況の把握が必要です。
調剤薬局業界のM&Aのポイント③:病院や患者さんからの理解を得る
個人経営や小規模経営の調剤薬局では、M&Aを実施するとサービス内容が大きく変化し、既存のお客様が離れてしまうケースが考えられます。
すでに構築されている病院や患者さんとの関係が大手の傘下になることで切れてしまうと、逆にM&Aの実施がマイナスとなってしまうかもしれません。そのため、既存の病院や患者さんの理解を得られるように配慮しながらM&Aを進める必要があります。
調剤薬局業界のM&A売却事例
ここでは、調剤薬局業界で実施されたM&Aの売却事例を紹介します。本記事では、下記の3つの事例を紹介します。
・地域ヘルスケア連携基盤×調剤薬局運営3社
・スギホールディングス×I&H
・CVCキャピタル・パートナーズ×総合メディカルグループ
実際の取引を参考にして、自社の売却のために役立ててください。
調剤薬局業界のM&A売却事例①:地域ヘルスケア連携基盤×調剤薬局運営3社
2024年3月25日、ユニゾン・キャピタルの投資先でヘルスケア分野での経営支援を行う地域ヘルスケア連携基盤(CHCP)は、グループ会社を通じて調剤薬局4店舗を運営する、エムエム薬局、エムアペックス、ももたろう薬局の3社をグループ化し、株式を取得しました。
CHCPはヘルスケア分野での経営支援に強みを持っています。地域に根差した新たなヘルスケアサービスの構築や地域ケアモデルの主たる担い手である調剤薬局の連携を進め、支援します。
CHCPは、同時点で全国195店舗の調剤薬局をグループで支援しており、地域医療の発展と効率化を支援するための医療従事者連携プラットフォームを提供しています。事業は医療・介護事業者向けの支援サービスに焦点を当て、病院、薬局、訪問看護、歯科医院など多岐にわたり、新たな地域ケアモデルを創出します。
具体的には、医療連携基盤の提供や、地域密着型の医療サービスの推進を目指しています。各分野の事業継承を通じて、患者ファーストの医療環境を実現することを使命としており、今回の買収はその事業戦略の一環として実施されたものと考えられます。
調剤薬局業界のM&A売却事例②:スギホールディングス×I&H
2024年2月27日、スギホールディングスが、調剤薬局運営のI&Hを同年8月30日付で買収し、岩崎裕昭社長らから61.89%の株式を取得することを発表しました。
同社は2019年設立、売上高約2233億300万円。調剤事業を中心として、介護・福祉、ヘルスケア、医師開業コンサルティング、認定栄養ケアステーションに至る多彩な事業を展開しています。
スギホールディングスは事業連携によるノウハウの相互提供に基づく事業の質向上、事業規模の拡大による事業推進力の強化を図っており、薬局専門性の深耕、生産性の高い訪問調剤業務の確立、調剤DX化の推進などに取り組んでいます。
I&Hは調剤薬局業界においては主要なM&Aの買い手であり、多数の買収を重ねてきました。一方スギホールディングスは、関東・中部・関西・北陸信州エリアに1,700店舗以上を展開し、約4,000名の薬剤師と約500名の管理栄養士を擁する調剤併設型ドラッグストアを強みに地域の生活者の病気予防・健康管理に生涯にわたって関わり、健康増進に貢献する「トータルヘルスケア戦略」を展開してきました。
今回のM&Aにより、両社グループの事業ノウハウやリソースを融合することで、双方の事業成長を加速させ、より強固なヘルスケアカンパニーを創ることが可能になるとされています。
ドラッグストア運営企業は、コロナ禍以降生鮮食品の取り扱いを強化する企業が増加してきており、食品スーパーとの競争が激化してきている中、近年集客力や収益力向上のために調剤薬局事業の強化を注力領域としています。その中でも、スギホールディングスは調剤薬局併設率が80%を超え、トップクラスに調剤薬局事業へ注力している企業であり、I&Hを買収することでさらにドラッグストア他社との差別化を図り強みを伸ばすという戦略が色濃く出ていると考えられます。
調剤薬局業界のM&A売却事例③:CVCキャピタル・パートナーズ×総合メディカルグループ
2023年12月、欧州系ファンドのCVCキャピタル・パートナーズ(CVC)が調剤薬局大手の総合メディカルグループを買収すると発表しました(買収額は1,700億円程度と想定)。
CVCは、1981 年に設立され、ヨーロッパ、アジア、アメリカの全土に29の拠点と1,000 名の従業員から成るネットワークを有する未公開株式投資および投資アドバイザリー業務を行う会社です。
総合メディカルグループは、約740店舗の調剤薬局のほか、医療機関へのコンサルティング、医業継承・医療連携・医師転職支援システムを活用した転職・開業支援・医療機器・設備のリース・レンタル、院内売店運営など、医業経営にかかるサービスを包括的に提供する企業グループです。
総合メディカルグループは、2020年にポラリス・キャピタル・グループ(ポラリス)と組んでMBOを実施し、株式上場を廃止し非公開化しました。その後、ポラリス傘下で多数のM&Aによる買収を進め、病院向け調剤薬局事業といった調剤薬局以外の事業展開を進めてきました。
CVCは、ポラリスから株式を譲り受けた後も、ポラリスが進めてきた施策と同様にM&Aによる規模の拡大を進めつつ、業界再編を目指す考えであり、企業価値を高めた上で再上場する方針です。
調剤薬局業界のM&Aに関するよくある質問
調剤薬局業界でのM&Aにおいてよくある質問を紹介します。
最適な取引を実現するためにも、ぜひ参考にしてください。
調剤薬局業界のM&Aに関するよくある質問①:地方企業でもM&Aは可能ですか?
もちろん全国問わず、M&Aは可能です。
全国対応するM&A助言会社はありますし、買い手もまだ事業展開していない地域への進出を目的として、M&Aを戦略の一つとして活用することは一般的です。
調剤薬局業界のM&Aに関するよくある質問②:よい条件で会社を売却できますか?
いくつかの留意点を押さえれば、よい条件で売却できる可能性は高まります。
業界によって、株式価値評価の相場が異なるため、M&A助言会社に相談し、企業評価を取得することから始めるのが、よい選択であると考えられます。
調剤薬局業界のM&Aに関するよくある質問③:規模の小さい調剤薬局でもM&Aは可能ですか?
規模の小さい調剤薬局でも、問題ありません。規模の大小問わず、買収意欲の強い企業が地域密着型の調剤薬局を欲しているケースが多くみられます。
大規模企業のみならず、中小規模の企業でも個人開業を希望している企業など、さまざまな企業がM&Aを考えているため、規模が小さくてもM&Aは可能です。
まとめ
調剤薬局業界では、薬価や調剤報酬の引き下げによって、利益の確保が難しい状態にあるのが現状です。そのため、大手企業の資金力や人材の豊富さを基盤に安定した経営や事業の強化を図ってM&Aを実施するケースが多くみられます。
調剤薬局業界でM&Aを実施すれば、事業拡大が可能となり、他業種も参入してくる中で競争力の強化も実現できるでしょう。
しかし、個人経営や小規模経営ならではの病院や患者さんとのつながりもあるため、しっかりと考慮したうえで自社に利益のあるM&Aを実施できるようにしましょう。
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