介護業界のM&A事情とは?取引のポイントやメリットも解説!

2024.08.29

公開日:2024.08.29

2024.08.29

2025.06.30

更新日:2025.06.30

2025.06.30

介護業界のM&A事情とは?取引のポイントやメリットも解説!

昨今、介護業界は少子高齢化などによって需要が高まっており、それに伴ってM&Aが活発に行われるようになっています。

一方で、介護業界では多くの企業で人材不足や後継者不足が問題となっており、M&Aが有効な解決手段として注目されています。

では、具体的に介護業界のM&A事情はどうなっているのでしょうか。本記事では、最新の介護業界のM&A事情を解説します。さらに、介護業界におけるM&Aのメリットや事例も紹介しているため、介護業界でM&Aを考えている方はぜひ参考にしてください。

オーナーズ株式会社では、売り手に特化したFAサービスを展開しています。専属のエージェントがお客様の理想の取引実現に向けて、お客様のご希望に即したサービスをとことん提供いたします。よりよい評価額での売却に向けたアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を削減した案件成約も実現可能です。

また、具体的な買いニーズを持っている企業のほか、業界・買い手企業分析に基づき事業親和性の高い企業を買い手候補としてご提案します。大手金融機関や大手M&A仲介、M&Aマッチングサービスとも連携しているため、買い手探索のルートが豊富です。

まずは一度、弊社の無料相談サービスをご利用ください。

介護業界とは?業界の現状を解説

介護業界の動向

介護業界は、高齢者や障害のある方の日常生活を支援するサービス分野です。日本では少子高齢化が進行しており、それに伴って介護サービスの需要は年々増加傾向にあります。

一方で、人材不足や経営負担の増加といった課題も抱えていますが、近年では多様な介護サービスが整備・拡充されつつあります。たとえば、訪問介護やデイサービスの利用者数は増加傾向にあり、今後も市場の拡大が見込まれています。

介護業界の定義

介護業界とは高齢者や障害のある方など、日常生活上にサポートを必要とする方を対象としたサービス分野です。具体的には食事や排せつなどの身体介助や掃除や洗濯といった家事支援、通院の付き添いなどの生活援助が含まれます。

訪問介護や施設介護など多様なサービス形態が存在し、公的保険制度を活用して提供されるケースも多くみられます。また、リハビリテーションや看護サービスとの連携も行われています。

そのため、介護業界は幅広いニーズに対応するため、多様な専門性と連携体制が求められる領域です。

介護業界の動向

介護サービスは、今後ますます需要が高まっていくと予想される業界の一つです。日本は高齢化の道をたどっている状況で、内閣府によると、令和3年10月1日時点で、総人口における65歳以上の割合(高齢化率)は28.9%です。昭和45年時点では7.1%だったにも関わらず、平成12年には17.4%、令和47年には38.4%が高齢者となると予測されており、2.6人ほどに1人が65歳以上になると推計されています。

高齢者の割合が増えていく中で、介護サービスの利用者も急激に増加しています。介護保険の受給者数は2016~2017年に一時減少したものの、減少した分は要支援者で、訪問・通所サービスを介護保険給付から市町村の総合事業へ移管した背景によります。一方で要介護3以上の認定者は継続的に増加しており、2018年以降は要支援者も再び増加傾向です。

介護給付費等実態統計の概況

参照:厚生労働省「介護給付費等実態統計の概況

こうした状況の中、介護サービス業界は深刻な人材不足に直面しています。

令和元年度の介護職員が211万人ほどだったのに対し、令和7年度には243万人ほどが必要となり、32万人ほどが不足すると推計されています。さらに、令和22年度には、介護職員は280万人ほど必要とされており、令和元年度と比較すると69万人ほど不足すると推計されています。

人材不足の最大の要因は、低賃金による就業者の定着率の低さです。

「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、介護職員の平均賃金の水準は産業計と比較して低い傾向にあります。政府はこれまで、処遇改善加算や交付金の支給などを通じて賃金引き上げに取り組んできましたが、十分な効果が得られているとは言えません。

介護サービスの需要が年々増加し、事業者数も拡大している一方で、労働環境の厳しさが人材確保の大きな障壁となっているのが現状です。

高齢化社会の進展

日本では高齢化率が加速し、今後ますます介護サービスの需要が拡大すると見込まれています。医療と介護をつなぐ地域包括ケアシステムの重要性も高まっており、地域全体で高齢者を支える仕組みづくりが求められています。

一方で介護事業者の数は増加しているものの、市場競争の激化により差別化が難しい状況となっています。今後は、行政や企業が連携し、サービスの質を高めながら、地域全体で暮らしやすい環境の実現を目指すことが重要です。

人材不足と介護職の需要拡大

介護業界では慢性的な人材不足が深刻化しており、その主な要因として低賃金や労働環境が指摘されています。対策として、外国人介護人材の受け入れや、国の補助金活用・助成金制度の活用が進められています。また、キャリアアップ制度の導入や職場環境の整備といった、定着率向上を目指す取り組みも重要です。

たとえば、資格取得支援や研修制度の充実によって、働きやすさを高め、長期的に介護職に従事する人材の増加が期待されます。

人材確保が進めば、介護サービスの質が向上し、利用者と事業者の双方にとって大きなメリットとなるでしょう。

サービス・運営形態の多様化

介護サービスは、利用者のライフスタイルやニーズに応じて選択できるよう、多様な形態が整備されています。たとえば有料老人ホームやサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)は、高齢者の独立した生活と安心感を両立させる点が注目されています。

一方、自宅での生活を希望する方に対しては、訪問介護やデイサービスといった在宅支援型サービスが拡充しており、より柔軟な対応が可能になっています。

さらに、地域密着型施設や小規模多機能型居宅介護など、地域との連携を重視した新たなサービス形態も登場しており、多様化するニーズへの対応が進んでいます。

今後は、利用者一人ひとりの生活環境や価値観に寄り添ったサービスの開発と提供が、介護業界の持続的な発展の鍵となるでしょう。

コロナ禍の影響

新型コロナウイルスの流行により、介護事業者は感染対策に多くの費用と労力ををかけざるを得ない状況が続きました。利用者やその家族の不安も高まり、面会制限や衛生管理の強化など、徹底した対応が求められました。

その一方で、リモート面会やオンライン相談といった新たなコミュニケーション手段が普及しました。

ただし、高齢者は感染リスクが高いことから、対面での接触を伴う場面では依然として慎重な対応が求められています。

今後は、コロナ禍で浮き彫りとなった課題を教訓とし、安全性と快適さを両立させる継続的な取り組みが不可欠です。

介護業界のM&A動向とは?

介護業界のM&A動向

昨今の介護業界におけるM&A動向として、人材不足の解消を目的とした取引が多くなっています。介護業界では、給与や待遇が他業種と比較すると十分とは言えず、離職率も比較的高い傾向にあります。

こうした中、同業種とM&Aを実施することで、事業だけでなく人材も承継するケースもあり、即戦力となる有資格者・経験者の確保が期待されています。

また、介護保険制度が創設してからすでに20年以上経過し、創業当初から経営してきた事業者の中には、後継者不在に悩むケースも増えています。介護業界では人材難が続く中、最適な後継者を見つけ、育成し、事業を引き継ぐには多大な時間と労力が必要です。

そのため、M&Aを活用して、経験豊富な人材を後継者として迎え入れ、円滑に事業承継を行う事例も増加傾向にあります。

同業種間でのM&A

介護業界でのM&A(合併・買収)は近年増加傾向にあります。特に、複数の介護施設を統合して経営規模を拡大することで、コスト削減や運営の効率化を図る事例が増加しています。。

人材や運営ノウハウを共有することで、サービスの品質向上や新規拠点の開設がスムーズに進みやすくなりました。地域に根ざしてきた中小の介護事業者が、大手グループの傘下に加わるケースも増えており、地域密着型の強みと、大手の資本力やブランド力を掛け合わせたシナジー効果が期待されています。

その結果、より高品質で安定した介護サービスの提供が可能となり、利用者にとっても安心感のある環境が整いつつあります。

異業種間でのM&A

近年は、保険会社や警備会社、教育関連企業など、異業種による介護業界への参入が活発化しています。各社が自社のビジネスモデルと介護サービスを掛け合わせ、シナジー(相乗効果)を創出することで、新たな付加価値を生み出そうとする取り組みが注目されています。

たとえば、警備会社と連携し、安全管理体制を強化した高齢者施設を運営する事例などが代表的です。このような新規参入が進むことで、介護業界全体の再編や大規模化がさらに進む可能性があります。

異業種の強みが介護サービスと融合することで、利用者にとっての利便性や安心感の向上が期待されており、今後の市場展開に注目が集まっています。

介護業界のM&Aの流れ

介護業界のM&Aの流れ

介護業界におけるM&Aの流れは、大きく分けて下記の3つのステップから構成されます。

1.M&Aの事前準備、助言会社の選定
2.譲渡候補先企業との接触、意向受領表明
3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング

それぞれ詳しくみていきましょう。

Step1.M&Aの事前準備、M&A助言会社の選定

まず、M&Aの事前準備とM&A助言会社を選定します。

事前準備として、M&A助言会社と秘密保持契約を締結し、初期的な資料を開示します。秘密保持契約とは、自社の秘密情報を他社に開示する場合に、その情報を秘密に保持することを締結する契約です。

その上で、売却戦略をM&A助言会社と策定し、譲渡候補先企業を優先順位ごとに並べたロングリスト(※1)を作成します。

譲渡の目的を満たすストラクチャー(※2)の検討や、譲渡完了に至るまでの全体のスケジュールについても事前準備の段階で検討します。

また、この段階でM&A助言会社とエージェント契約を締結します。

M&A助言会社を選定する際に注意しておきたいのが、仲介とFA(フィナンシャル・アドバイザー)の違いです。

仲介とは、いわゆるマッチングサービスのことで、売り手と買い手の双方とそれぞれ仲介契約を締結します。M&Aの当事者双方から依頼を受けているため、いずれか一方の利益のみを優先的に取り扱うことはできず、双方の意向を一元的に把握し、双方の共通の目的であるM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。また、手数料は売り手と買い手の双方から受領します。

それに対してFAとは、M&Aを実行するためのアドバイスを提供するサービスのことで、M&Aの当事者一方のみから依頼を受けます。M&Aの相手方(譲渡候補先企業を含む)に対して、依頼者に対して提供するのと同様の業務を提供することはありません。M&Aの当事者一方のみから依頼を受けているため、依頼者の意向を踏まえて、依頼者にとって有利な条件でのM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。

弊社では、売り手のみと契約を締結してM&Aを支援する専属エージェントサービス(売り手特化型FAサービス)を提供しており、手数料は依頼者である売り手のみから受領し、売り手の利益を最大化することを目指します。

また、譲渡戦略の策定と並行して、譲渡候補先企業へ開示する資料準備も進めます。M&Aプロセスの初期に譲渡候補先企業に対して開示する資料には、匿名の企業概要書(ティーザー(※3))、インフォメーション・パッケージ(※4)があります。

※1 ロングリスト:一定の条件で絞り込んだ譲渡候補先の企業をまとめたリストのこと。
※2 ストラクチャー:M&Aを実行するための手段や方法のこと。
※3 ティーザー:匿名の企業概要書で、通常1枚から2枚で構成される資料のこと。
※4 インフォメーション・パッケージ:譲渡候補先企業がM&Aを検討するために参考にする資料。対象会社(事業)の魅力を伝え、譲渡候補先企業が企業価値評価を実施できることを目的に作成される。

Step2.譲渡候補先企業との接触、意向表明受領~

次に、譲渡候補先企業と接触します。

ロングリストに基づき、M&A助言会社が譲渡候補先企業と接触し、ティーザーを開示します。その上で関心を示す相手に対して、秘密保持契約を締結した上でインフォメーション・パッケージを開示します。

対象会社の譲受を希望する譲渡候補先企業は、売り手に対して意向表明書を提出します。意向表明書には、譲渡価格の水準や取引の前提条件、取引後の対象会社の運用方針などが記載されます。譲渡側(売り手)はこれを検討・比較し、受け入れ(基本合意)可能かを判断します。

売り手においては、後述する詳細調査(デュー・デリジェンス:DD)のプロセスにおいて、対象会社の秘密情報が譲渡候補先企業に開示されることになるため、DDを受け入れる前に納得感の得られる取引条件であることを確認することが非常に重要です。譲渡候補先企業においても、DDにおける専門家起用の費用負担や多大な労力が生じるため、この段階で独占交渉権を求めることが一般的です。

そのため、基本合意を締結し、守秘義務や独占交渉権などを取り決めた上で、次のステップに進むことになります。

Step3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング~

意向表明書を受理して基本合意書の締結をしたら、DDと呼ばれる詳細調査と最終締結・クロージングです。

M&Aにおいては、売り手と買い手との間に、情報の非対称性が必然的に生じます。この非対称性をできるだけ解消するために、買い手が実施する対象企業への調査がDDです。

買い手にとってDDには、以下のような目的があります。

・自社のM&A戦略に合致した事業かどうか詳細まで検討する
・定量化可能なDDの発見事項を、譲渡価格へ反映する
・定量化できないDDの発見事項を、最終契約書の条件へ反映し、リスクを遮断する
・M&Aの目的を達成するためのストラクチャーを検討する
・M&A実行後に必要な対応を明確化し、統合計画に反映させる

その後、最終契約締結に移ります。譲渡価格や契約条件を交渉し、双方が納得のいく形で契約を締結します。そしてM&A取引が実行され、対象の株式・事業の引き渡しをし、譲渡代金を支払って経営権の移転が完了します。

譲渡企業オーナーの譲渡を想定したより詳細なM&Aのプロセスは、以下の記事で解説していますので、ぜひご活用ください。
[M&Aのプロセス]

介護業界のM&Aのメリットとは?5つを紹介

介護業界のM&Aのメリット

医療業界でM&Aを実施するメリットとして、以下の3つが挙げられます。

・事業を継続でき従業員の雇用を守れる
・お客様への影響を最小限に抑えられる
・人材不足の中、後継者問題を解決できる

・大手企業の資金力・ブランド力を活かせる
・経営者・事業双方の成長機会を得られる

それぞれ詳しくみていきましょう。

介護業界のM&Aのメリット①:事業を継続でき、従業員の雇用を守れる

第三者への事業承継を選択せずに廃業を選択した場合は、従業員は職を失うことになり、新しい職を探す必要があります。また、経営者としては、従業員のために新しい職を見つけてあげるなどの対応をするケースも考えられます。

一方で、M&Aの実施により、従業員の雇用を継続でき、経営者は従業員に対する責任を果たせるでしょう。

介護業界のM&Aのメリット②:お客様への影響を最小限に抑えられる

事業承継において廃業を選択した場合、すでにサービスを受けている利用者との契約を終了させる必要があります。入居者には他の施設へ転居してもらう必要が生じますが、人材不足や施設不足が続く中、新たな受け入れ先を見つけることは容易ではありません。

一方、M&Aによる事業承継を実施すれば、一般的に利用者との契約関係はそのまま引き継がれることが多く、継続的なサービス提供が可能です。

介護業界のM&Aのメリット③:人材不足の中後継者問題を解決できる

介護業界では、慢性的な人材不足に加え、後継者不足も深刻な問題となっています。経営者が第一線から退く年齢になっても適任となる後継者が見つからなければ、やむを得ず事業を廃業せざるを得ないケースも少なくありません。

しかし、介護サービスの需要は今後ますます高まっていくことが見込まれており、価値ある事業を継続するための手段として、M&Aによる事業承継が注目されています。M&Aを通じて事業を売却/譲渡すれば、後継者不在の問題が解消しながら、事業も継続させることが可能です。また、人材の確保や資金力の強化といった、経営基盤の向上も期待されます。

介護業界のM&Aのメリット④:大手企業の資金力・ブランド力を活かせる

M&A(企業の合併や買収)を通じて、大手企業の豊富な資金力を活用できるようになります。これにより、施設の設備投資や新しいサービス展開がスピーディに進められるようになります。

また、大手企業の知名度やブランド力を活かすことで、集客力の向上や共同プロモーションの展開も期待できるでしょう。さらに、ITシステム(情報技術を使った仕組み)の導入が進むことで、職員の業務負担が軽減され、業務の効率化も実現できます。

これは人手不足の解消や職員の定着率の向上に繋がり、結果的にサービス品質の向上にも貢献する点が大きなメリットです。

介護業界のM&Aのメリット⑤:経営者・事業双方の成長機会を得られる

M&Aを実施することで、経営者が譲渡利益を獲得できる可能性が高まります。得られた資金は新たな事業への投資やセカンドキャリアの構築、資産運用などに活用することが可能です。

また、M&Aによってグループ内で連携体制を強化することで、他の地域への活動の展開や事業の多角化も進めやすくなります。実務や管理業務を分担する体制が進めば、現場のスタッフが本来の介護サービスに集中しやすくなる点も大きなメリットです。

経営者にとっても新たな挑戦やスキル向上の機会となり、長期的なキャリア形成にプラスの影響を与えるでしょう。

介護業界のM&Aの相場

介護業界のM&Aの相場

介護業界の相場は、一概にいくらと明言できません。その企業の売り上げやブランド力、立地などさまざまな要素から判断されます。

これまでM&A仲介会社では年買法といわれる簡便的な株式評価手法を用いて評価を実施することが一般的でした。これは純資産に営業利益の数年分を加算する簡単な計算方法であり、理解が容易な一方、実績ベースの評価で、加算される営業利益の年数も業界ごとに固定的なものとなります。

その結果、成長性のある事業ほど低く株式価値が算定されてしまうリスクがあります。正しく買い手の株式価値評価手法を理解することは、売り手オーナーが自身の利益を守るために重要です。

介護業界のM&A実務において事業価値の算定には、大きく分けて2つの方法があります。

・インカムアプローチ
・マーケットアプローチ

インカムアプローチは、営業資産が生み出す将来キャッシュフローを評価の基礎とする方法です。代表的なディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法では、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を試算します。

理論的に優れた方法ではあるものの、将来キャッシュフローの見積もりや割引率の計算は非常に難易度が高く、経験を積んだ専門家でないと試算が困難で、初見では理解しづらいのが大きな欠点でしょう。

本稿では「価値の概算を簡単に知る」ことを目的にしていますので、インカムアプローチの詳細な説明は割愛します。

マーケットアプローチは、市場における取引価格を参考にして事業価値を算定する方法です。具体的には、以下のような方法が存在します。

・類似会社比較法
・類似取引比較法

類似会社比較法は、評価する対象の企業の類似会社にあたる上場会社の企業価値と、営業利益や収益力(EBITDA)といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで、事業価値を算出する方法です。

具体的には、以下のように算定します。

EBITDA×業界相場の倍率(EBITDAマルチプル)=企業価値
(EBITDAマルチプル=上場類似会社の企業価値/上場類似会社のEBITDA)

EBITDAは、営業利益に減価償却費を足して算出されるものです。

また、類似会社は、業界が同じ上場企業を選定するのはもちろんのことですが、ビジネスモデルや収益構造、顧客の層などの類似性から選定するパターンもあります。類似会社をどのように選ぶかで算定結果は大きく依存します。

企業価値を算出したら、株式価値を算出しましょう。株式価値は、以下のように算出します。

企業価値-有利子負債+現金同等物=株式価値

第三者に譲渡する場合に、どの程度の価値がつくかを把握しておくことは重要なため、理解しておきましょう。

なお、マーケットアプローチには、類似会社比較法のほか、類似するM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法という方法が存在します。

しかし、参照する過去の取引における対象会社が非上場である場合、入手可能な財務数値が限定的であるため、同方法が中小企業のM&Aで利用されることは少ないのが現状です。

M&Aにおける価値の算定については、下記で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
[うちの会社、結局いくらで売れるの?~事業オーナーの疑問に答えるコラム①~]

 また、自社の具体的な株式価値を知りたい場合には、株価シミュレーターを用意していますので、以下で試算が可能です。ぜひご活用ください。
[株価シミュレーター]

介護業界のM&Aのポイントとは?押さえておきたい3つを紹介

介護業界のM&Aのポイント

介護業界でM&Aを実施する際に押さえておきたいポイントとして、下記の3つが挙げられます。

・適切なM&A助言会社を選定する
・自社の正当な収益力・財務状況を把握する
・サービスを受けている方の属性を考慮する

それぞれ詳しく解説します。

介護業界のM&Aのポイント①:適切なM&A助言会社を選定する

M&A助言会社に求められる能力は、法務・会計・税務・ファイナンスに精通していること、誠実であること、顧客の立場に寄り添って助言を提供できる立ち位置であること、M&Aの売り手・買い手の双方の行動原理を理解しそれを交渉に活かせること、と多岐に渡ります。

真に顧客に寄り添える立場であるか、また、上記を見極めるためにも売り手・買い手の双方から報酬を受領する仲介会社ではなく、売り手と同じ船に乗り事業オーナーに対し助言する会社(FA)であるかを選定することが重要です。また、その会社に在籍するアドバイザーの知識や経験、ノウハウ等を含むFAサービスの品質が重要です。

介護業界のM&Aのポイント②:自社の正当な収益力・財務状況を把握する

売り手にとって、自社をよい条件で売却するために必要なのは、自社の正当な収益力・財務状況の把握です。

税務対策やオーナーの個人的な経費を費用計上している中小企業は数多くあるため、具体的な買い手候補にアプローチする前に、自社の実質的な収益力や、貸借対照表においての現金化可能資産や非事業用資産を確認し、実質的な自社の財務状況の把握が必要です。

介護業界のM&Aのポイント③:サービスを受けている方の属性を考慮する

介護サービスといっても、受ける方の属性によって、提供すべきサービス内容は異なります。提供するサービスの種類はもちろん企業によって異なりますし、それによってターゲットとする方も変わってきます。

そのため、事前に売り手でサービスを受けている方の属性を把握し、買い手企業と一致しているか、対応できるかを確認したうえでの取引が必要となるでしょう。

介護業界のM&A売却事例6選

介護業界のM&A売却事例

ここでは、介護業界で実施されたM&Aの売却事例を紹介します。本記事では、下記の3つの事例を紹介します。

日本生命保険×ニチイホールディングス
ニチイ学館×ピアーズ
綜合警備保障(ALSOK)×かんでんジョイライフ・かんでんライフサポート

実際の取引を参考にして、自社の売却のために役立ててください。

介護業界のM&A売却事例①:日本生命保険×ニチイホールディングス

日本生命保険は、2023年11月28日付でニチイホールディングスの全株式を保有するBCJ-43の買収を発表しました。

日本生命保険は99.6%の株式を取得し、うち1%を子会社のニッセイ情報テクノロジーに譲渡しました。BCJ-43は社名を「ニッセイ・ライフサポート」に変更。有効日の2024年6月3日、新会社名に「ニッセイ・ライフサポート」を追加しています。

日本生命保険は、生命保険業免許に基づく保険の引き受けや資産の運用、その他付随業務を行っている企業です。

ニチイホールディングスは2020年に設立され、医療事務受託や介護、保育に関する事業を展開している企業です。

日本生命保険は1999年にニチイホールディングスと業務提携し、幅広い領域で協業してきました。本件M&Aによって、ニチイホールディングスの事業安定化および日本生命グループへの定着を図るとともに、介護・医療関連・保育事業をグループの中核事業として活性化させ、生産性・持続性の向上を通してお客様への安心の多面化を目指しています。

介護業界のM&A売却事例②:ニチイ学館×ピアーズ

ニチイ学館は、2023年10月1日付でピアーズから認知症対応型共同生活介護事業所3カ所、小規模多機能型居宅介護事業所1カ所に係る事業を譲り受けました。

ニチイ学館は、米ベインキャピタルが投資助言を行うファンドの投資先で医療・教育・保育サービスなどを提供している企業です。

ピアーズは2000年に設立された企業で、介護福祉事業運営を行っています。

本件M&Aによって、「グループホーム シルバーピアーズ」などを取得し、名称を「ニチイケアセンター」に変更しています。

介護業界のM&A売却事例③:綜合警備保障(ALSOK)×かんでんジョイライフ・かんでんライフサポート

綜合警備保障(ALSOK)は、2022年6月22日付で関西電力の100%子会社で介護事業のかんでんジョイライフ、かんでんライフサポートの2社を買収しました。2社は社名を「ALSOKジョイライフ」、「ALSOKライフサポート」に変更しました。

綜合警備保障は、セキュリティサービス会社です。国や地方公共団体、各種金融機関、一般事業者また個人に、多種多様な警備サービスを提供しており、介護事業にも参入し高齢者生活支援サービスなども行っています。

かんでんジョイライフは、2000年に設立され、売上高47億8,600万円の企業です。かんでんライフサポートは2002年に設立され、売上高は22億8,600万円です。両社は主に特定施設を中心に、高齢者施設や住宅施設を1,200室規模で展開しています。

本件M&Aによって、ALSOKグループは積極的に事業拡大を図っており、実績も十分なため、介護事業会社2社の持続的な成長・運営に期待できます。

また、関西電力グループは、事業の選択と集中によって限られた経営資源を適切に配分でき、変化を繰り返す事業環境に柔軟かつ迅速に対応することで、将来にわたって持続的な成長の実現を目指しています。

介護業界のM&A売却事例④:ZIGExN×ツクイスタッフ

ZIGExNは、2022年4月12日付でツクイスタッフに対する株式公開買付け(TOB)を開始し、その後同年6月に買収を完了しました。

ZIGExNは求人広告や不動産、自動車といった多彩な分野のメディア事業を展開する企業です。インターネット上のプラットフォームを強みとし、求職者と企業をつなぐサービスを中心に事業領域を広げてきました。IT技術を駆使したマッチング精度の高さが注目されています。

ツクイスタッフは2006年に設立され、介護・福祉・医療分野に特化した人材派遣・人材紹介サービスを提供する企業です。全国に拠点を展開しながら求人企業と就職希望者をサポートしてきました。

本件M&Aによって、ZIGExNのインターネット集客力とツクイスタッフの専門性が融合し、多様な雇用ニーズに迅速に応えられる体制が整うと期待されています。双方のリソースを活用することで、人材マッチングの精度向上やサービス地域の拡大が一段と加速する見込みです。

介護業界のM&A売却事例⑤:SOMPOホールディングス×メッセージ

SOMPOホールディングスは2015年12月にメッセージを買収し、1,200億円ほどでグループに迎えました。

SOMPOホールディングスは保険事業を軸にしながら、介護にも積極的に参入しています。幅広い企業を傘下に収め、施設運営や在宅サービスなど多面的な事業を行ってきました。

メッセージは1997年に設立され、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を中心に全国展開してきた企業です。2000年代に事業規模を拡大し、入居者の生活支援やリハビリに力を注ぐことで高い満足度を獲得しました。

本件M&Aによって、SOMPOホールディングスは介護事業の基盤を一段と強化できると考えられます。メッセージの現場運営力と結びつき、新たな施設開設や職員の育成が進み、利用者へのサービス品質向上につながる見込みです。

介護業界のM&A売却事例⑥:SOMPOホールディングス×ワタミの介護

SOMPOホールディングスは2015年2月26日付でワタミの介護を買収し、113億円ほどで全株式を取得しました。

同社は保険事業だけでなく、介護分野を重要な成長領域として位置づけています。豊富な資金力とノウハウを生かし、高齢者福祉におけるさまざまなニーズをカバーしてきました。

ワタミの介護は1992年に設立され、有料老人ホームやグループホームを中心に事業を展開しています。外食大手ワタミのブランド力を背景に成長し、長年にわたり地域密着型の運営を続けてきました。

本件M&Aによって、SOMPOホールディングスの経営力や資本力が加わり、ワタミの介護での業務効率化が期待されます。研修体制やシステム導入が進み、より質の高いケアサービスを提供できるようになるでしょう。

介護業界のM&Aに関するよくある質問

介護業界のM&Aに関するよくある質問

介護業界でのM&Aにおいてよくある質問を紹介します。

最適な取引を実現するためにも、ぜひ参考にしてください。

介護業界のM&Aに関するよくある質問①:地方企業でもM&Aは可能ですか?

もちろん全国問わず、M&Aは可能です。

全国対応するM&A助言会社はありますし、買い手もまだ事業展開していない地域への進出を目的として、M&Aを戦略の一つとして活用することは一般的です。

介護業界のM&Aに関するよくある質問②:よい条件で会社を売却できますか?

いくつかの留意点を押さえれば、よい条件で売却できる可能性は高まります。

業界によって、株式価値評価の相場が異なるため、M&A助言会社に相談し、企業評価を取得することから始めるのが、よい選択であると考えられます。

介護業界のM&Aに関するよくある質問③:売却後の介護事業の許認可はどうなりますか?

M&Aの形態によって、介護事業の許認可の取り扱いは異なります。

事業譲渡の場合は、許認可を引き継ぐことができません。このため、売り手側はM&A契約の締結後に事業廃止届を提出し、買い手側は新たに許認可を申請する必要があります。

この手続きは、売り手・買い手双方が行政と相談しながら、協力して進めていくのが一般的です。

一方で、株式譲渡によるM&Aの場合は、法人そのものが存続するため、許認可もそのまま引き継がれます。

したがって、原則として特別な手続きは不要で、継続して介護サービスを提供できます。

まとめ

まとめ

介護業界では、需要が高まっているのにもかかわらず働き手が不足しており、人材不足が深刻な課題となっています。

M&Aを活用すれば、人材不足の解消が期待でき、後継者問題の解決にもつながる可能性があります。

M&Aを成功させるためには、買い手企業側が自社のサービス内容や経営方針と合致する相手先を選定することが重要です。特に、既存の利用者や職員への影響を最小限にとどめながら、自社にとっても経営的なメリットのある取引となるよう、慎重に進める必要があります。

オーナーズ株式会社では、売り手に特化したFAサービスを展開しています。専属のエージェントがお客様の理想の取引実現に向けて、お客様のご希望に即したサービスをとことん提供いたします。よりよい評価額での売却に向けたアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を削減した案件成約も実現可能です。

また、具体的な買いニーズを持っている企業のほか、業界・買い手企業分析に基づき事業親和性の高い企業を買い手候補としてご提案します。大手金融機関や大手M&A仲介、M&Aマッチングサービスとも連携しているため、買い手探索のルートが豊富です。

まずは一度、弊社の無料相談サービスをご利用ください。

この記事の著者

RISONAL 編集部(オーナーズ )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

まずは無料で
ご相談ください

お電話でのお問い合わせ

03-6831-9322

(平日9:00〜18:00