マンション開発業界のM&A相場はいくら?売却の手法やコツも解説!
公開日:2026.10.08
2026.10.08
更新日:2026.10.08
2026.10.08
マンション開発業界は、分譲マンションの用地取得(仕入れ)から、企画・設計の取りまとめ、建設会社への発注、販売、購入者への引き渡し、引き渡し後のアフターサービスまでを手がける事業領域です。全国規模の大手デベロッパーから、特定の沿線・エリアに強みを持つ中小・中堅デベロッパーまで、幅広い事業者が存在します。
一方で、用地取得競争の激化と仕入価格の上昇、資材価格・労務費の高騰による建築費の増加、販売価格の上昇に伴う購入者層の絞り込み、プロジェクト資金の調達負担、環境性能への対応、経営者の高齢化と後継者不足など、複数の経営課題を抱えています。
こうした環境を背景に、用地情報ルートの確保、事業エリアの拡大、開発・販売ノウハウや人材の獲得などを目的として、大手デベロッパーや建設会社、不動産管理会社、投資ファンドが中小・中堅デベロッパーの買収を検討・実行するケースがあり、中小のマンションデベロッパーにとっても、売却や事業承継は検討対象となり得る選択肢の一つです。
本記事では、マンション開発業界のM&Aを行う際の相場の考え方をはじめ、業界の現状や代表的な売却手法について解説します。
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マンション開発業界の現状
マンション開発業界は、用地の仕入れと事業採算の判断を起点に、設計・施工の発注、販売、引き渡し、アフターサービスまでを一連のプロジェクトとして進める事業領域です。大手デベロッパーが大規模物件や再開発を手がける一方、中小・中堅デベロッパーは、特定エリアでの用地情報網や機動力を強みに事業を組み立てているケースが多くみられます。
市場環境をみると、供給の絞り込みと価格の上昇が同時に進んでいます。不動産経済研究所によれば、2025年の首都圏の新築分譲マンション発売戸数は前年比4.5%減の2万1,962戸と、1973年以降の最少を更新した一方、戸当たり平均価格は9,182万円、㎡単価は139.2万円といずれも最高値となりました。東京23区の平均価格は1億3,613万円に達しており、2026年の発売戸数は2万3,000戸が見込まれています。用地・建築費の上昇分を販売価格に反映せざるを得ない状況が続き、供給戸数を絞りながら採算を確保する事業運営が求められています。
※参考:不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2025年のまとめ」
コスト面では、建築費の上昇が事業採算を圧迫しています。帝国データバンクの集計では、物価高を要因とする倒産は2025年に949件と過去最多を更新し、業種別では建設業が240件と最も多くなっています。発注先である建設会社の採算悪化や工期の長期化は、デベロッパーの事業計画にも影響します。
※参考:帝国データバンク「倒産集計 2025年報」
担い手の面でも、国土交通省の資料によれば、建設業就業者は55歳以上が36.6%を占める一方、29歳以下は11.9%にとどまり、施工体制の確保は開発計画の前提として不確実性を増しています。
※参考:国土交通省「参考資料集(建設業を巡る現状)」
こうした環境のなかで、用地情報ルートや事業エリアの補完を目的とした大手デベロッパーによる中堅デベロッパーの取得、開発から分譲後の管理・修繕までをグループ内で完結させる垂直統合、後継者不在を背景とした事業承継型の譲渡など、マンション開発業界のM&Aは多様な目的で検討・実行されるケースが見られ、事業承継や経営基盤の強化を目的にM&Aが選択肢として検討される場面があります。
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マンション開発業界でM&Aを行うのはなぜ?売却の理由を紹介
マンション開発業界でM&Aが検討される理由は、主に「事業承継」と「用地取得競争・資金負担など業界固有の経営課題への対応」の二つに整理できます。
まず、事業承継の観点では、帝国データバンクの調査によれば、2025年の全国の後継者不在率は50.1%と、なお半数の企業で後継者が決まっていない状況です。地域の中堅デベロッパーでも、経営者の高齢化が進む一方で、用地情報網や金融機関との関係、事業採算の判断を引き継げる後継者を確保できず、事業承継が課題となるケースがあるとみられます。
※参考:帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2025年)」
特に、用地の仕入れ判断や地主・仲介業者との関係、金融機関との折衝が経営者本人に集中している企業では、キーパーソンの引退が事業継続に直接影響する可能性があります。
次に、業界固有の経営課題への対応という観点では、用地取得競争のなかでの仕入れ資金の確保、建築費上昇下での採算管理、プロジェクト資金の調達、環境性能への対応、販売・企画人材の確保などに、中小企業が単独で取り組むには、資金面・人材面で負担が大きくなる場合があります。大手デベロッパーや建設会社などの傘下に入ることで、仕入れ資金、施工力の確保、販売網、ブランド力などについて、買い手候補の経営資源を活用できる可能性があります。
また、マンション開発業界のM&Aでは、免許と責任の承継が重要な確認事項となります。宅地建物取引業の免許は、株式譲渡であれば法人格が継続するため原則として維持されます(役員等の変更届は必要)が、事業譲渡の場合には買い手側での新規取得が原則となります。あわせて、新築住宅の売主は、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)により構造耐力上主要な部分などについて10年間の瑕疵担保責任を負い、住宅瑕疵担保履行法により保険加入または供託による資力確保措置が義務付けられています。引き渡し済み物件への責任が長期にわたるため、廃業ではなく承継が選ばれやすい構造でもあります。
※参考:国土交通省 関東地方整備局「宅地建物取引業の免許申請・変更届等」、国土交通省 中部地方整備局「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」
マンション開発業界での企業売却方法は?3種類を紹介
マンション開発業界のM&Aでは、売却対象(会社全体か、特定のプロジェクト・事業か)、宅建業免許の取扱い、用地・販売用不動産などの資産、プロジェクト融資や共同事業契約の扱いによって、適した手法が変わります。
代表的な手法は以下の3つです。
- 株式譲渡
- 会社分割
- 事業譲渡
マンションデベロッパーのM&Aでは、宅建業免許の維持・再取得、仕入済み用地・仕掛中プロジェクトの承継、金融機関からのプロジェクト融資・借入契約に含まれる資本異動時の条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)、共同事業(JV)の持分と契約上の同意要件、引き渡し済み物件の瑕疵担保責任とアフターサービス保証の引き継ぎなどが論点となるため、手法選択にあたっては、これらをどのように承継するかを慎重に検討する必要があります。
それぞれの手法について解説します。
株式譲渡とは?中小企業M&Aで最も選ばれる手法の仕組みと特徴
株式譲渡とは、企業の株主が保有する株式を他者に譲渡することで、経営権を移転するM&Aの手法のひとつです。中小企業のM&Aにおいては最も多く活用されており、後継者不在や事業承継を目的としたケースでよく採用されています。
株式譲渡のメリット
株式譲渡において、売却対象となるのはあくまで「株式」であり、会社そのものの法人格や契約関係、資産・負債はそのまま引き継がれます。
そのため、以下のようなメリットがあります。
- 従業員や取引先との契約を維持したまま、スムーズな引き継ぎが可能
- 許認可や契約の再取得が原則不要で、実務上の負担が少ない
- 法人格が継続するため、営業活動を中断せずに承継できる
とくに、現経営者が引退を検討している場合でも、事業を止めることなくバトンタッチできるため、後継者問題の有効な解決策となります。ただし、契約上のチェンジ・オブ・コントロール(COC)条項による相手方同意や、業種許認可の変更届・再許可が必要となる場合があるため、事前確認は不可欠です。
株式譲渡の注意点・デメリット
一方で、株式とともに過去の負債や簿外債務(帳簿に載っていないリスク)も引き継がれるという側面もあるため、買い手企業にとっては慎重な対応が必要です。
そのため、M&Aを進める際には、財務・法務・税務などに関するデューデリジェンス(詳細調査)を丁寧に実施し、リスクを洗い出すことが不可欠です。
会社分割とは?M&Aで活用される組織再編の手法と注意点
会社分割とは、企業が事業の一部を他の会社に移転することで、権利義務を承継させる法的な組織再編手続きです。M&Aにおいては、売却対象の事業を切り出してスムーズに移転させる手段として活用されています。
会社分割の主な種類
会社分割には、以下のような分類があります。
- 新設分割:新たに設立した会社に事業を承継させる
- 吸収分割:既存の他社に事業を承継させる
さらに、分割により得る対価の受け取り先によっても分類されます。
- 分割型分割:対価を分割元会社の株主が受け取る
- 分社型分割:対価を分割元会社自身が受け取る
会社分割のメリットと特徴
会社分割の最大の特徴は、契約・資産・負債などの権利義務を包括的に移転できる点です。これにより、個別契約ごとの承継手続きを省略でき、事業の引き継ぎが円滑に進められます。
また、分割によって整理された事業をその後に売却することで、M&Aの手続きも効率化されます。
税務上の注意点:適格分割と非適格分割の違い
会社分割には税務上の取り扱いに注意が必要です。「適格分割」であれば譲渡益の課税は繰り延べされますが、採用するスキームによっては「非適格分割」に該当します。
非適格分割では、資産が時価で評価され、譲渡益課税やみなし配当課税の対象となるため、税負担が発生します。
また、会社分割と株式譲渡をセットで行う場合、タイミングによって課税リスクが高まるため、スキーム設計は専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが重要です。
事業譲渡とは?M&Aで活用される承継手法と税務上の注意点
事業譲渡は、企業が事業の一部または全部を、契約に基づいて他社へ売却するM&A手法のひとつです。
譲渡の対象となる資産・負債・契約関係を個別に指定して承継する点が特徴であり、柔軟性が高い一方で、手続きは煩雑になりやすいという側面もあります。
事業譲渡のメリット:簿外債務を回避しやすい
事業譲渡では、契約書に記載されたものだけが承継対象となるため、買い手企業にとっては、不要な債務やリスクを回避しやすくなります。
特に、簿外債務の存在が懸念されるケースでは、株式譲渡ではなく事業譲渡を希望する買い手企業が多い傾向にあります。
売り手側の税務上の扱い:事業譲渡益に課税
事業譲渡によって得た対価のうち、譲渡対象資産・負債の簿価純額との差額は「事業譲渡益」として、売り手側に法人税が課税されます。
また、事業譲渡には以下のような消費税に関する注意点もあります。
課税資産と非課税資産の両方をまとめて譲渡するため、資産ごとの課税・非課税を区分し課税対象資産部分の消費税を計算する必要があり、それぞれの対価を合理的に区分し、課税・非課税の計算を行う必要があります。
事業譲渡のデメリット:承継手続きが煩雑
個別承継であるため、以下のような実務負担が大きい点はデメリットと言えます。
- すべての契約(従業員との雇用契約含めて)を再締結する必要がある
- 許認可や届出が一から取得し直しとなる場合がある
マンション開発業界の売却の流れは?3つのステップを紹介
マンション開発業界のM&Aを進める場合は、大きく3つのステップに分けて進められます。
- M&Aの準備と助言会社の選定
- 買い手候補先企業との接触、意向表明受領
- 詳細調査(DD)、最終契約とクロージング
それぞれの段階で必要となる準備や手続きが異なるため、流れを把握しておきましょう。
Step1.M&Aの準備と助言会社の選定
はじめに、売却目的と希望条件を整理したうえで、M&AアドバイザーやFAなどの助言会社を選定します。
この段階で重要なのは、想定される売却価格だけでなく、どのような買い手候補に、仕掛中のプロジェクト、従業員、金融機関・地主・仲介業者との関係をどのように承継したいのかを明確にしておくことです。
マンションデベロッパーの場合、買い手候補の評価や取引条件に影響し得る論点として、仕入済み用地・販売用不動産の一覧(取得時期、簿価と時価、事業化の見通し)、仕掛中プロジェクトの進捗(企画・設計・着工・販売の段階、予算と実績、完成引渡時期)、プロジェクト融資・借入の残高と条件・チェンジ・オブ・コントロール条項の有無、共同事業(JV)の持分と契約上の同意要件、宅建業免許の区分と専任の宅地建物取引士の在籍状況、販売済み物件のアフターサービス保証と瑕疵保険の加入状況、管理会社との関係(グループ会社の有無、管理受託の状況)、用地情報の入手ルートと過去の仕入実績、企画・販売人材の体制などが挙げられます。
これらを事前に棚卸しし、資料として説明できる状態に整えておくことで、後工程での論点整理や条件交渉を進めやすくなる場合があります。
Step2.買い手候補先企業との接触、意向表明受領
次に、助言会社を通じて買い手候補へ打診を行います。初期段階では概要資料を提示し、関心を示した企業と秘密保持契約を締結したうえで、財務・事業などに関する詳細情報を段階的に開示します。
買い手候補からは、譲渡価格のレンジ、取引方法、引き継ぎ条件、売却後の運営方針などをまとめた意向表明書が提出されます。
売り手は、提示金額だけでなく、従業員の処遇、仕掛中プロジェクトの継続方針、マンションブランドや販売体制の運営方針なども含めて比較し、基本合意に進むかを判断します。
Step3.詳細調査(DD)、最終契約とクロージング
基本合意後は、買い手による詳細調査が行われます。
マンションデベロッパーでは、財務・税務・法務・労務・ビジネス面の確認に加えて、販売用不動産の評価(含み損益・滞留の有無)、仕掛中プロジェクトの採算と完成引渡リスク、プロジェクト融資の承継可否、共同事業契約の同意要件、販売済み物件の瑕疵・クレーム対応履歴と保険の加入状況、宅建業免許と専任の宅地建物取引士の体制などが重視されやすい点が特徴です。
調査結果を踏まえて、譲渡価格、表明保証、補償条項、クロージング条件、仕掛中プロジェクト・アフターサービスの取扱いなどを調整し、最終契約を締結します。
その後、対価の決済と引き渡しを行うクロージングをもって、取引が完了します。
M&Aの流れについてより詳しく知りたい方は以下のページをご覧ください。
マンション開発業界の売却の相場は?価値算定方法を解説
マンション開発業界のM&Aにおける売却価格は、「〇〇円が相場」と一律に決まるものではありません。
実務では、保有用地と販売用不動産の内容、仕掛中プロジェクトの採算、借入の条件、用地情報ルート、収益力、負債、買い手候補の評価方針などを踏まえ、最終的には売り手と買い手候補の交渉によって価格が決まります。
マンションデベロッパーは、期ごとの引き渡し戸数によって業績が大きく変動し、貸借対照表に占める販売用不動産と借入の比重が大きい業態です。そのため、保有用地の含み損益と、仕掛中プロジェクトの採算見通しが買い手候補の評価上重視されやすい点が特徴です。同規模の売上であっても、用地の簿価と時価の差、事業化までの期間、借入の条件、販売の消化状況によって、買い手候補の評価に差が出る可能性があります。
特に、優良な立地の用地を適正な価格で仕入れられるルートを持つ事業者、特定エリアでブランドと販売実績を積み上げてきた事業者、企画・販売・アフターサービスの体制を整えている事業者は、財務数値に加えて、用地情報網、ブランド、人材の体制などが評価上考慮される場合があります。
こうした理由から、マンションデベロッパーのM&Aでは、まず企業価値を算定し、そのうえで負債や現金などを考慮しながら、評価の全体像を整理するのが一般的です。
以下では、その基本的な考え方について解説します。
1.企業価値を算定する
マンション開発業界のM&A実務において事業価値の算定には、大きく分けて2つの方法があります。
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
インカムアプローチは、営業資産が生み出す将来キャッシュフローを評価の基礎とする方法です。代表的なディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法では、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を試算します。
理論的に優れた方法ではあるものの、将来キャッシュフローの見積もりや割引率の計算は非常に難易度が高く、経験を積んだ専門家でないと試算が困難で、初見では理解しづらいのが大きな欠点でしょう。
本稿では「価値の概算を簡単に知る」ことを目的にしていますので、インカムアプローチの詳細な説明は割愛します。
マーケットアプローチは、市場における取引価格を参考にして事業価値を算定する方法です。具体的には、以下のような方法が存在します。
- 類似会社比較法
- 類似取引比較法
類似会社比較法は、評価する対象の企業の類似会社にあたる上場会社の企業価値と、営業利益や収益力(EBITDA)といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで、事業価値を算出する方法です。
具体的には、以下のように算定します。
EBITDA×業界相場の倍率(EBITDAマルチプル)=企業価値 (EBITDAマルチプル=上場類似会社の企業価値/上場類似会社のEBITDA)
EBITDAは、営業利益に減価償却費を足して算出されるものです。
また、類似会社は、業界が同じ上場企業を選定するのはもちろんのことですが、ビジネスモデルや収益構造、顧客の層などの類似性から選定するパターンもあります。類似会社をどのように選ぶかによって、算定結果は大きく左右されます。
2.株式価値を算定する
企業価値を算出したら、株式価値を算出しましょう。株式価値は、以下のように算出します。
企業価値-有利子負債+現金同等物=株式価値
第三者に譲渡する場合に、どの程度の価値がつくかを把握しておくことは重要なため、理解しておきましょう。
なお、マーケットアプローチには、類似会社比較法のほか、類似するM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法という方法が存在します。
しかし、参照する過去の取引における対象会社が非上場である場合、入手可能な財務数値が限定的であるため、同方法が中小企業のM&Aで利用されることは少ないのが現状です。
M&Aにおける価値の算定については、下記で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
うちの会社、結局いくらで売れるの?~事業オーナーの疑問に答えるコラム①~
また、自社の具体的な株式価値を知りたい場合には、株価シミュレーターを用意していますので、以下で試算可能です。ぜひご活用ください。
売却の進め方や仲介会社から提案を受けた際の注意点を、弁護士監修のガイドにまとめています。無料でダウンロードできます。
【無料資料】オーナー経営者がM&A仲介会社から事業売却の提案を受けたら、弁護士と一緒に最初に読むべき 事業承継・M&A完全ガイド
マンション開発業界で企業を売却する3つのメリット
マンション開発業界でM&Aを活用するメリットは、経営者個人の利益にとどまりません。
適切な承継は、従業員の雇用や、購入者・管理組合への対応の継続につながる可能性があります。
- 従業員の雇用と開発ノウハウを維持しやすくなる
- 経営者は売却対価を得られる可能性がある
- 購入者・管理組合への対応を継続しやすくなる
ここでは、売り手にとって特に重要な3つのメリットを解説します。
従業員の雇用と開発ノウハウを維持しやすくなる
マンションデベロッパーは、用地の仕入れ、事業採算の判断、商品企画、販売、顧客対応を担う従業員の存在が重要です。
廃業を選択した場合、従業員の雇用の継続が難しくなるほか、長年にわたって培われた用地の目利き、企画・設計の調整、販売のノウハウが、事業として承継されにくくなる可能性があります。
M&Aにより事業が承継されれば、従業員の雇用を維持しながら開発を継続しやすくなる場合があります。売り手にとっては、人材やノウハウを次の運営体制へ承継しやすくなる点がメリットです。
用地情報の収集や地主・仲介業者との関係が特定の担当者に蓄積されている場合、当該人材の継続関与の可否は、買い手候補の評価や譲渡後の運営に影響する可能性があります。
キーパーソンの処遇と引き継ぎについては、下記もあわせてご覧ください。
M&Aでキーマンの処遇はどうなる?経営者と従業員を守る5つのポイント
経営者は売却対価を得られる可能性がある
M&Aによる売却は、これまで築いてきた用地情報網、ブランド、開発・販売のノウハウ、保有資産を含む事業価値を、譲渡対価として回収する手段の一つです。
売却対価を得られた場合、引退後の生活資金、資産承継、次の事業への投資などに活用できる可能性があります。
後継者不在のまま廃業した場合、仕掛中プロジェクトの完成・引き渡し、購入者・地主・金融機関への説明、販売済み物件のアフターサービスの整理、保有用地の処分、従業員との契約整理などが必要になる可能性があります。また、用地情報網やブランドが事業として評価されにくくなる場合があります。
M&Aでは、買い手候補は一般的には事業の継続性を前提に価値を評価するため、経営者は計画的に出口を設計しやすくなります。
購入者・管理組合への対応を継続しやすくなる
マンションデベロッパーは、引き渡し後も、定期点検、アフターサービス、10年間の瑕疵担保責任への対応、管理組合への対応などを通じて、購入者と長期的な関係を持ちます。
突然の廃業は、購入者にとってアフターサービスの窓口の喪失、不具合発生時の対応先の再確保などの負担につながる可能性があります。引き渡した住宅への責任が長期にわたる点は、廃業をためらう大きな理由にもなっています。
M&Aによって承継されることで、アフターサービス体制を維持しながら購入者への対応を継続しやすくなるため、購入者や管理組合への影響を抑えながら事業を引き継ぎやすくなる点は、売り手にとってメリットの一つです。
マンション開発業界で企業を売却する際の3つのポイント
マンション開発業界でM&Aを円滑に進めるには、売上規模だけでなく、買い手候補が重視する論点を整理しておく必要があります。
買い手候補は、保有用地と仕掛中プロジェクトの採算、借入・契約の承継可否、免許・人材の体制を慎重に確認します。
- 用地・プロジェクト・借入・免許を棚卸しする
- 用地仕入れと採算判断の属人性を下げる
- 信頼できるM&Aアドバイザー、弁護士、税理士などの専門家を活用する
ここでは、マンションデベロッパーの売却を検討する際に、特に重要な3つのポイントを解説します。
用地・プロジェクト・借入・免許を棚卸しする
マンションデベロッパーの買い手候補による評価は、財務数値に加えて、保有用地と仕掛中プロジェクトの内容、借入・契約の条件、免許・人材の体制などに影響を受ける可能性があります。
買い手候補は、これらが譲渡後も維持・活用できるかを慎重に確認します。
そのため、売却前に以下の点を棚卸しし、説明できる状態にしておくことが重要です。
- 仕入済み用地・販売用不動産の一覧(所在、取得時期、簿価と時価、権利関係、事業化の見通し、滞留の有無)
- 仕掛中プロジェクトの進捗(企画・設計・着工・販売の段階、予算と実績、完成引渡時期、施工会社との請負契約)
- プロジェクト融資・借入の残高と条件、担保設定、チェンジ・オブ・コントロール条項の有無、金融機関との取引状況
- 共同事業(JV)の持分・契約内容と、資本異動に関する同意要件
- 宅建業免許の区分・有効期限、専任の宅地建物取引士の在籍状況と後任候補
- 販売済み物件のアフターサービス保証台帳、瑕疵保険の加入状況、クレーム・補修対応の履歴、管理会社・管理組合との関係
これらの整理が不十分だと、DDを経て価格見直し、追加条件の設定、交渉停止などにつながる可能性があります。
用地仕入れと採算判断の属人性を下げる
マンションデベロッパーで買い手候補の評価に影響しやすい要因の一つが、経営者や特定の担当者への過度な依存です。
用地情報の収集、事業採算の判断、金融機関との折衝が一部のキーパーソンに集中している場合、買い手候補から、譲渡後に用地の仕入れが続かず、事業が縮小するリスクが高いと判断される可能性があります。
属人性による懸念を抑えるためには、以下のような取り組みが重要です。
- 用地評価・事業採算判断の基準やプロセスの文書化
- 地主・仲介業者・金融機関との関係の組織的な管理(担当の複数化など)
- 過去プロジェクトの予算実績・原価データ・販売実績の体系的な管理
- 企画・仕入・販売を担う人材の育成と権限移譲
属人性を下げることで、人員交代後も事業を維持しやすい体制として評価される可能性が高くなり、買い手候補が検討しやすくなるというプラスの効果があります。
売却前の準備全般については、下記で詳しく解説しています。
M&Aの磨き上げとは?売却価格を高める5つの領域と進め方を解説
信頼できるM&Aアドバイザー、弁護士、税理士などの専門家を活用する
マンションデベロッパーのM&Aでは、宅建業免許の取扱い、販売用不動産の評価、プロジェクト融資や共同事業契約の承継、引き渡し済み物件の瑕疵担保責任の取扱いなど、業種特有の論点が生じる場合があります。
準備やスキーム設計が不十分なまま進めると、譲渡条件の見直し、クロージング条件の追加、売却後の紛争などにつながる可能性があります。
そのため、以下のような専門家の支援を受けることが重要です。
- 売り手側の立場で支援するFA・M&Aアドバイザー
- 税務は税理士、契約・責任分担は弁護士、会計・財務DDは公認会計士、労務は社会保険労務士、不動産の評価は不動産鑑定士などの専門家
売り手側のFAを活用することで、価格交渉や条件調整において、売り手の意向を踏まえた交渉方針を整理しやすくなります。
感情に左右された場当たり的な判断を避けるという観点でも、第三者による専門的な視点を取り入れることが望ましいです。
マンション開発業界での企業売却にかかる税金とは?
企業を売却する際には、売却益に対して税金が発生します。この税金の仕組みは、「個人オーナーが売却する場合」と「法人が株式を譲渡する場合」で異なるため、正しく理解しておくことが重要です。個人・法人別にわかりやすく解説します。
個人オーナーの場合
個人が自社株などの株式を譲渡し、譲渡益(売却益)が発生した場合、その利益は「譲渡所得」として扱われます。
課税の仕組み
譲渡所得 = 売却価格 -(取得費 + 譲渡費用)
この譲渡所得には、以下の税が課せられます。
- 所得税(復興特別所得税含む)
- 住民税
給与所得などとは分離して課税されるため、所得の合算は不要ですが、確定申告が必要です。
ただし、ミニマムタックスに該当する場合は給与所得等の他の所得と合算して算出する必要があるため、適切に節税するためには、事前に税理士など専門家への相談が欠かせません。
法人の場合
法人が保有する株式を譲渡した場合、その売却益は法人の「益金(収益)」として扱われ、他の事業収益と合算されて法人税等が課税されます。
法人の場合の税務処理
- 譲渡益は法人所得として計上され、通常の法人税率で課税
- 譲渡損失が出た場合、他の所得と損益通算が可能
- 所得と損失の調整により、柔軟な節税が可能
評価差額にも注意
帳簿価額と時価の差(含み益)がある場合、譲渡時に課税対象となる可能性があります。
まとめ
マンション開発業界は、供給を絞りながら価格が上昇するという市場環境のなかで、用地取得競争の激化、建築費の高騰、施工体制の確保、プロジェクト資金の負担、経営者の高齢化と後継者不足など、複数の経営課題を抱えています。
引き渡した住宅への責任が長期にわたるマンション開発業では、単純な廃業を選びにくく、中小・中堅デベロッパーにとって、M&Aは事業継続や購入者・従業員への責任を踏まえた選択肢の一つになり得ます。
売却を円滑に進めるためには、用地・プロジェクト・借入・免許の棚卸しに加えて、用地仕入れと採算判断の属人性の低減、アフターサービス体制の整理を含めた準備を、M&Aアドバイザー、弁護士、税理士、不動産鑑定士などの専門家に確認しながら早期に進めることが望ましいです。
RISONALでは、売り手に特化したFAサービスを提供しています。専属のエージェントがお客様の希望に沿った取引を実現するため、最適なサポートを行います。より高い評価額での売却を目指したアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を抑えた成約も可能です。
マンション開発業界のM&Aでは、買い手目線で条件調整が進みやすい仲介型の支援の場合、価格や引き継ぎ条件が売り手に不利になるケースも少なくありません。そのため、誰の利益を最優先に交渉するのかを明確にした支援体制が重要です。
また、売却前に押さえておきたい注意点を、資料でも確認できます。
無料相談が可能です。実際にどの程度の価格で売却できるのか、また、どのようにすればより高く売却できるのかを、ぜひご確認ください。
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