カーブアウトM&Aとは?事業の一部を売却する3つのスキームと注意点を解説
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- M&Aのスキーム
公開日:2026.09.04
2026.09.04
更新日:2026.09.04
2026.09.04
会社全体を手放す決心はつかなくても、一部の事業だけなら売却を考えられる。そのような場面で選択肢になるのが、カーブアウトM&Aです。
複数の事業を1つの会社で営んできた経営者の方にとって、不採算部門の扱いや、後継者に引き継ぐ範囲の仕分けは避けて通れない課題です。ただ、事業を切り出して売却する取引には、会社全体を売却する場合とは異なる準備と論点があります。
本記事では、カーブアウトM&Aの意味とスピンオフ・スピンアウトとの違い、活用できる3つのスキーム、売り手から見たメリットと注意点、進め方までを解説します。
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カーブアウトM&Aとは
カーブアウトM&Aとは、会社の一部の事業や子会社を切り出して、第三者に売却するM&Aです。カーブアウトは「彫って切り出す」という意味の英語に由来し、会社という全体から事業という一部を切り出す様子を表しています。
会社全体を対象とするM&Aとの違いは、譲渡の対象が「会社そのもの」ではなく「切り出した事業」である点にあります。対象を切り出すための準備が必要になる点が、取引の進め方にも影響します。
大企業の事業再編で使われる手法という印象を持たれがちですが、複数の事業を持つ中小企業が一部の事業だけを売却する場合にも、同じ考え方が使われます。なお、M&Aの契約交渉で特定の資産を対象から除外することや、対象事業の財務諸表を切り出して作成することをカーブアウトと呼ぶ場合もありますが、本記事では事業の切り出しと売却を扱います。
切り出す事業をどう見極めるかは、以下の記事で解説しています。
ノンコア事業の売却とは?中小企業での見極め基準3つと進め方を解説
カーブアウトとスピンオフ・スピンアウトの違い
カーブアウトと似た言葉に、スピンオフとスピンアウトがあります。いずれも事業を本体から切り出す点は共通しており、切り出した事業の行き先によって区別されます。
| 手法 | 切り出した事業の行き先 | 親会社との資本関係 | 売却対価 |
|---|---|---|---|
| カーブアウトM&A | 第三者に売却する | 原則としてなくなる | 受け取る |
| スピンオフ | 独立会社にする | 残る場合がある | 原則として生じない |
| スピンアウト | 独立会社にする | なくなる | 原則として生じない |
スピンオフとスピンアウトは、事業を独立させること自体が目的であり、売却対価を得る取引ではありません。一方、カーブアウトM&Aは第三者への売却によって対価を受け取る取引です。本記事では、この売却型のカーブアウトを前提に解説します。
カーブアウトM&Aが検討される場面
会社を丸ごと手放す決断ができなくても、一部の事業なら動ける場合があります。カーブアウトM&Aが検討されるのは、主に以下の3つの場面です。
- 不採算事業を切り離して本業に集中したい場合
- 後継者に残す事業と売却する事業を分けたい場合
- 成長に投資が必要な事業を外部の力で伸ばしたい場合
それぞれを順に解説します。
不採算事業を切り離して本業に集中したい場合
採算の合わない事業を切り離し、本業に経営資源を集中させたい場合は、カーブアウトM&Aを検討しやすいケースです。
赤字の部門を抱え続けると、本業で得た利益がその補填に回り、経営者の時間も不振事業への対応に割かれ続けます。切り離しによってこの構造を断てれば、本業の収益性が改善し、会社全体に対する買い手候補や金融機関の評価にも良い影響が期待できます。
廃業や清算ではなく売却という形を取ることで、対象事業の従業員の雇用や取引先との関係を引き継げる可能性がある点も、検討の後押しになります。
後継者に残す事業と売却する事業を分けたい場合
事業承継の場面でも、カーブアウトM&Aが選択肢になります。後継者が経験を持つ事業だけを残し、引き継ぎが難しい事業は第三者に売却するという仕分けです。
複数の事業をすべて引き継ぐことは、後継者にとって大きな負担です。専門性の異なる事業や、現経営者の人脈に依存した事業まで抱えると、承継後の経営が行き詰まる要因になりかねません。
承継の範囲を絞り、残りは売却で外部に承継するという組み合わせは、親族内承継とM&Aの併用という発想であり、後継者の負担軽減と事業の存続を両立させやすい方法です。
成長に投資が必要な事業を外部の力で伸ばしたい場合
将来性はあるものの、自社の資金力では十分に投資できない事業を、資金や販路を持つ第三者へ承継する場合もあります。
設備投資や人材採用に資金が必要な成長事業は、自社で抱え続けるとかえって成長の機会を逃す場合があります。投資余力のある企業の傘下に移れば、事業の将来と従業員の活躍の場を確保しやすくなります。
売り手にとっては手放す判断ですが、事業と雇用を引き継ぐ前向きな売却として検討されるケースもあります。
カーブアウトM&Aの3つのスキーム
カーブアウトM&Aを実行する方法は、主に3つあります。どのスキームを選ぶかによって、税金、手続き、承継される範囲が変わります。
- 事業譲渡
- 会社分割と株式譲渡の組み合わせ
- 子会社株式の譲渡
それぞれの仕組みを順に解説します。
事業譲渡
事業譲渡は、対象事業に関する資産、契約、従業員を個別に選んで買い手候補に譲渡する方法です。
譲渡する範囲を資産や契約の単位で決められるため、「この事業のこの部分だけを売る」という柔軟な設計がしやすいスキームです。売却対価は経営者個人ではなく会社が受け取ります。
一方で、契約上の地位や権利義務を個別に移転する必要があり、取引先の承諾や従業員本人の承諾を1件ずつ得ていく手間が生じます。対象の範囲が広いほど、手続きの負担は大きくなります。
会社分割と株式譲渡の組み合わせ
会社分割で対象事業を新しい会社に切り出し、その会社の株式を買い手候補に譲渡する方法です。
会社分割では、事業に関する権利義務が分割計画に従って包括的に承継されるため、事業譲渡と比べて契約関係を移転しやすい特徴があります。切り出した後は通常の株式譲渡として取引できる点も、買い手候補にとって検討しやすい形です。
事業譲渡とどちらを選ぶかは、税負担、許認可、移転する契約の内容によって変わります。判断軸を詳しく知りたい方は、以下の記事が参考になります。
会社分割と事業譲渡の違いとは?一部事業を売る売り手の5つの判断軸を解説
子会社株式の譲渡
売却したい事業がすでに子会社として独立している場合は、その子会社の株式を譲渡するだけで切り出しが完了します。
法人格ごと買い手候補に移転するため、子会社が持つ契約や許認可はそのまま維持しやすく、3つのスキームの中では手続きが比較的シンプルです。
事業部門の状態から売却を検討する場合でも、先に子会社化してから株式を譲渡するという段階を踏む設計が検討される場合があります。どの形が合うかは、事業の状態と売却の時期によって変わります。
売り手から見たカーブアウトM&Aのメリット
カーブアウトM&Aには、会社全体の売却とは異なる利点があります。売り手から見た主なメリットは以下の3つです。
- 会社を丸ごと手放さずに売却対価を得られる
- 残した事業に経営資源を集中できる
- 赤字事業や不採算部門でも売却できる場合がある
それぞれを順に解説します。
会社を丸ごと手放さずに売却対価を得られる
カーブアウトM&Aでは、会社の経営権を維持したまま、一部の事業の売却によって対価を得られます。
経営者の立場を続けながら資金を確保できるため、引退を前提とせずに検討できる点が、会社全体の売却との大きな違いです。得られた売却対価は、本業への投資、借入金の返済、財務体質の改善などに充てられます。
売却後も会社が存続するからこそ、対価の使い道が次の経営戦略に直結します。何のために切り出すのかという目的を先に固めておくことが重要です。
残した事業に経営資源を集中できる
事業を切り出すことで、人材、資金、そして経営者自身の時間を本業に振り向けられるようになります。
複数の事業を並行して経営していると、管理の手間は事業の数だけ増えていきます。会議、資金繰り、人事といった間接的な負担が減るだけでも、本業の意思決定を速めやすくなります。
いわゆる「選択と集中」という言葉で語られる効果ですが、中小企業では、経営者の時間という代えのない資源が本業に戻ることの意味が大きい場合があります。
赤字事業や不採算部門でも売却できる場合がある
赤字の事業であっても、買い手候補が付く場合があります。会社全体では評価が難しくても、事業単位で見れば価値が認められることがあるためです。
買い手候補が評価するのは、過去の損益だけではありません。技術やノウハウ、顧客基盤、経験を積んだ人材、取得に時間のかかる許認可などは、赤字であっても評価の対象になります。同業の買い手候補であれば、自社の体制に取り込むことで採算を改善できると判断する場合もあります。
赤字だから売れないと自己判断せず、事業に残る価値を確かめてから結論を出すことが望ましいです。
カーブアウトM&Aの注意点
カーブアウトM&Aと会社全体の売却との一番の違いは、切り出す準備の重さにあります。売り手として押さえておきたい注意点は以下の4つです。
- 本体の管理機能に依存した事業は切り出しに準備が要る
- 許認可や契約は自動では引き継がれない場合がある
- 対象事業の従業員への説明と転籍の同意が要る
- 事業単位の損益資料がないと価格交渉で不利になりやすい
それぞれを順に解説します。
本体の管理機能に依存した事業は切り出しに準備が要る
経理や総務、システムを本体に依存している事業は、切り出しただけでは単独で業務が回りません。切り出した事業が単独で事業を運営できるかというこの論点は、スタンドアローンイシューと呼ばれ、カーブアウトM&A特有の検討事項です。
中小企業では、管理部門を全社で共通化している場合が多く見られます。切り出した事業が単独で業務を回せるようにするには、管理機能の移管や再構築の計画が必要になります。なかでもシステムの切り離しは、以下の記事で解説しています。
カーブアウトのシステム分離とは?3つの進め方と売り手の注意点を解説
移行期間中は、売り手が一定期間、経理やシステムなどの業務を提供し続ける契約で空白を埋める実務があります。この契約はTSAと呼ばれます。仕組みを知っておくと、買い手候補との協議を進めやすくなります。
カーブアウトのTSAとは?売り手が契約で決める5つの項目と注意点を解説
許認可や契約は自動では引き継がれない場合がある
事業譲渡でカーブアウトする場合、許認可は原則として買い手候補側での再取得が必要であり、契約も再締結や相手方の承諾が必要になります。
また、契約書にチェンジ・オブ・コントロール(COC)条項(経営権の移転を理由に相手方が契約を解除できるなどと定めた条項)がある場合は、会社分割や株式譲渡の形を取っても、相手方への通知や承諾が求められることがあります。
対象事業に関する契約の棚卸しが、切り出し準備の第一歩です。取引基本契約、賃貸借契約、リース契約、ライセンス契約、代理店契約などを一覧にし、移転の可否と必要な手続きを早い段階で確認しておきます。
対象事業の従業員への説明と転籍の同意が要る
事業譲渡で従業員を買い手候補側に移す場合、転籍には従業員本人の承諾が原則として必要です。使用者は労働者の承諾を得なければその権利を第三者に譲り渡せないと民法に定められており、会社の決定だけで自動的に移せるわけではありません。
※参考:e-Gov法令検索「民法」第625条第1項
説明の時期と内容を誤ると、不安から離職者が出たり、転籍を断られて事業の引き継ぎに支障が生じたりする場合があります。処遇の継続性、勤務地、業務内容など、従業員が知りたい点に答えられる状態で説明することが重要です。
従業員への影響と対応の詳細は、以下の記事で解説しています。
事業譲渡が従業員に与える影響とは?転籍手続きや拒否された時の対応も紹介
事業単位の損益資料がないと価格交渉で不利になりやすい
会社全体の決算書しかない状態では、買い手候補は対象事業の収益力を評価できません。検討が止まり、価格の議論も進みにくくなります。
カーブアウトM&Aでは、対象事業の売上、費用、資産を切り分けた資料が検討の出発点になります。事業別の損益、本社費用の配賦、対象事業に帰属する資産と負債の一覧を用意できるかどうかが、検討の速度と価格の説得力を左右します。
日頃から事業別の損益を把握している会社は、この準備を短期間で終えられます。売却を決めていない段階でも、事業別の管理資料を整えておく価値があります。
カーブアウトM&Aの進め方
カーブアウトM&Aは、おおむね以下の流れで進みます。通常のM&Aと比べて、切り出しの準備工程が加わる点が特徴です。
- 方針と対象範囲の決定:切り出す事業の範囲と売却の目的を固める
- 切り出し準備と資料整備:契約の棚卸し、管理機能の依存関係の確認、事業単位の損益資料の作成を進める
- 買い手候補の探索・打診:秘密保持契約を結んだうえで、候補先に情報を開示する
- 交渉・デューデリジェンス:買い手候補による調査に対応し、条件を協議する
- 最終契約とクロージング:契約締結後、事業の移管と引き継ぎを実行する
準備工程の質が、その後の交渉の速度と条件を左右します。2番目の工程に十分な時間を確保しておくことが望ましいです。
なお、中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)では、M&Aの標準的な進め方や支援機関の役割が示されています。進め方の全体像を確認する際の参考になります。
※参考:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」(2024年8月30日改訂)
カーブアウトM&Aの代表的な事例
カーブアウトM&Aは、国内の大手企業でも実施されてきました。
例えば、ソニーは2014年、PC事業を投資ファンドの日本産業パートナーズに譲渡することで合意し、同事業はVAIO株式会社として独立しました。ソニー本体はエレクトロニクス事業の再編を進める一方、VAIOブランドのPC事業は新会社の下で存続しています。
また、オリンパスは、カメラなどの映像事業を日本産業パートナーズに譲渡し、2021年1月1日付で譲渡を完了しました。映像事業はOMデジタルソリューションズ株式会社に承継され、製品のサポートも新会社が引き継いでいます。
いずれも「事業を切り出して、その事業に注力できる買い手に承継する」という構造であり、規模は違っても、中小企業の一部事業売却と考え方は同じです。事業にとって適した経営環境を外部に求めるという発想は、会社の規模を問わず応用できます。
※参考:日本産業パートナーズ株式会社・ソニー株式会社「PC事業の譲渡に関する正式契約の締結について」(2014年5月2日)
※参考:オリンパス株式会社「オリンパスの映像事業の譲渡完了に関するお知らせ」
カーブアウトM&Aでよくある質問
カーブアウトM&Aについて、売り手経営者からよく寄せられる質問に回答します。
カーブアウトとバイアウトはどう違いますか?
カーブアウトは事業を切り出して売却する行為を指し、バイアウトは経営陣や従業員などが会社や事業を買い取る行為を指します。売り手側の動きか、買い手側の動きかという着眼点の違いです。
切り出した事業をその事業の経営陣が買い取る場合のように、両者が組み合わさる取引もあります。バイアウトの種類と仕組みは、以下の記事で解説しています。
バイアウトとは?M&A・イグジットとの違いや4つの手法を売り手目線で解説
小規模な事業部門だけでも売却できますか?
事業の規模が小さくても、売却が成立する場合があります。買い手候補が評価するのは規模そのものではなく、顧客基盤、技術、人材、許認可といった事業の中身だからです。
近年は小規模な譲渡案件を扱うM&A支援会社やマッチングの仕組みも見られるようになっており、買い手候補の裾野は広がっています。ただし、成立の可能性や条件は事業の内容によって異なるため、個別の評価を確かめてから判断することが望ましいです。
まとめ
カーブアウトM&Aは、会社を丸ごと手放さずに、事業の一部を切り出して売却する手法です。事業譲渡、会社分割と株式譲渡の組み合わせ、子会社株式の譲渡という3つのスキームがあり、どれを選ぶかで手続きと承継の範囲が変わります。
円滑に進むかどうかを分けるのは、切り出しの準備です。管理機能の依存関係、許認可と契約の棚卸し、従業員への説明、事業単位の損益資料という4つの論点を早い段階で整えておくと、交渉を円滑に進めやすくなります。
どの事業を残し、どの事業を託すかは会社ごとに異なります。事業別の現状把握から始めることが、納得度の高い選択につながりやすくなります。
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