カーブアウトのTSAとは?売り手が契約で決める5つの項目と注意点を解説

2026.09.04

公開日:2026.09.04

2026.09.04

2026.09.04

更新日:2026.09.04

2026.09.04

カーブアウトのTSAとは?売り手が契約で決める5つの項目と注意点を解説

一部の事業を売却する交渉のなかで、買い手候補やM&A支援会社から「TSAが必要です」と言われ、初めてこの言葉を調べている方は多いのではないでしょうか。

TSAは、事業の切り出し後も売り手が一定期間、経理やシステムなどの業務を提供し続ける契約です。買い手側のための仕組みに見えますが、実際には売り手の負担と対価を左右する契約であり、内容を理解しないまま引き受けると、売却後に想定外の業務とコストを抱えることになりかねません。

本記事では、カーブアウトでTSAが必要になる理由、契約で決める5つの項目、売り手側の注意点、売却の成立と価格への影響までを解説します。

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カーブアウトにおけるTSAとは

カーブアウトにおけるTSAとは、事業の切り出し後、売り手が一定期間、経理・IT・人事などの管理機能を買い手側へ提供し続ける契約です。TSA(Transition Service Agreement)は、移行サービス契約と訳されます。

カーブアウトで切り出される事業は、多くの場合、本体の管理部門やシステムに支えられて動いています。切り出した瞬間にその支えがなくなると業務が止まるため、買い手側の体制が整うまでの橋渡しとしてTSAが結ばれます。カーブアウトでは、TSAが事実上セットで検討されるケースが多く見られます。

M&A全般におけるTSAの位置づけや契約のタイミングから確認したい方は、以下の記事が参考になります。

M&AにおけるTSAとは?目的や流れ、タイミングを解説

カーブアウトとは

カーブアウトとは、会社の一部の事業や子会社を切り出して、第三者に売却する取引です。会社全体ではなく事業単位を対象とする点に特徴があり、不採算部門の切り離しや、後継者に残す事業の仕分けといった場面で検討されます。

切り出しの方法には事業譲渡や会社分割があり、どちらを選ぶかで契約や許認可の承継のしかたが変わります。手法の選び方は、以下の記事で詳しく解説しています。

会社分割と事業譲渡の違いとは?一部事業を売る売り手の5つの判断軸を解説

カーブアウトでTSAが必要になる理由

事業を売却した後まで売り手が業務を提供するのは、切り出した瞬間から事業が単独で回るわけではないためです。理由は以下の3つに整理できます。

  • 切り出した事業は本体の管理機能なしでは回らない
  • 買い手が自前の体制を整えるまで時間がかかる
  • 引き継ぎの空白は事業価値の低下に直結する

それぞれを順に解説します。

切り出した事業は本体の管理機能なしでは回らない

切り出しの対象になる事業は、経理、給与計算、システム、仕入といった機能を本体に依存している場合が多く見られます。切り離すと、請求書の発行や給与の支払いといった日常業務がその日から立ち行かなくなります。

切り出した事業が単独で事業を運営できるかというこの論点は、スタンドアローンイシューと呼ばれ、カーブアウト特有の検討事項です。中小企業では管理部門を全社で共通化していることが多く、依存の度合いはむしろ大企業より高い場合があります。

どの業務をどれだけ本体に頼っているかの棚卸しが、TSAを設計する出発点になります。なかでもシステムの切り離しは、TSAの期間を左右する論点です。以下の記事で解説しています。

カーブアウトのシステム分離とは?3つの進め方と売り手の注意点を解説

買い手が自前の体制を整えるまで時間がかかる

買い手側が対象事業のための経理体制やシステムを用意するには、人材の採用、システムの構築、業務手順の整備といった準備が必要であり、クロージングまでに間に合わない場合があります。

とくに買い手候補が投資ファンドの場合や、同種の管理体制を持たない場合は、受け入れ準備に一定の期間を要します。その間の業務を誰が担うのかという問いに対する答えが、売り手によるTSAの提供です。

引き継ぎの空白は事業価値の低下に直結する

請求が出せない、給与が払えない、出荷が止まる。こうした空白が生じると、顧客離れや人材流出が起こり、譲渡したばかりの事業の売上や収益力に影響します。

買い手候補はこのリスクを事前に織り込んで検討するため、移行の空白が懸念される案件では、価格や条件の面で慎重に判断されやすくなります。空白を防ぐ設計は、買い手側だけでなく、円滑な承継を実現したい売り手にとっても重要な確認事項です。

TSAの対象になる主な業務

TSAの対象になるのは、対象事業が本体に依存している管理系の業務です。代表的には以下が挙げられます。

  • 経理・財務:仕訳、請求、支払い、月次決算
  • 人事・給与計算:給与支給、社会保険手続き、勤怠管理
  • IT・システム:基幹システムやメールの利用、運用サポート
  • 物流・購買:出荷、在庫管理、仕入先との取引窓口
  • 総務・施設管理:事務所の利用、備品、契約管理

どの業務を、どの水準で、いつまで提供するかを業務ごとに決めていきます。一方、営業や顧客対応といった事業の中核業務は、TSAではなく事業自体の承継のなかで引き継ぐのが基本です。管理系の業務とあわせて線引きしておくと、契約の設計がしやすくなります。

TSA契約で決める5つの項目

TSAの中身は案件ごとに異なりますが、決めるべき骨格は共通しています。以下の5つの項目です。

  1. サービスの範囲と内容
  2. サービス水準
  3. 対価と費用の算定方法
  4. 契約期間と延長の条件
  5. 終了と自立への移行計画

この5点が曖昧なまま開始すると、後の認識齟齬や紛争の種になります。それぞれを順に解説します。

サービスの範囲と内容

提供する業務は、タスクの単位まで具体化して定めることが重要です。「経理業務一式」のような書き方では、どこまでが契約内でどこからが範囲外なのかが判断できず、後の争いにつながります。

たとえば経理であれば、仕訳入力、請求書発行、支払い代行、月次試算表の作成、監査対応のどこまでを含むのかを1つずつ確認します。あわせて、範囲外の依頼を受けた場合の取り扱いも決めておくと、開始後の運用が安定しやすくなります。

サービス水準

提供する業務の頻度、納期、品質の目安を定めます。この取り決めはSLA(Service Level Agreement。サービス水準の合意)と呼ばれます。

売り手として注意したいのは、「従来と同水準」という漠然とした約束を避けることです。売却後の売り手は、対象事業のためだけに人員を割ける体制ではなくなっています。月次決算は営業日何日以内、問い合わせ対応は何営業日以内といった形で、自社が続けられる水準を確認したうえで合意することが望ましいです。

対価と費用の算定方法

TSAの対価は、担当者の人件費、システムの利用料、外部委託費といった実費を基準に算定するのが基本です。

金額の相場は案件の内容によって大きく異なるため、一律の目安はありません。重要なのは、自社で発生するコストを先に積算し、それを下回らない水準で対価を設定するという考え方です。無償や実費割れでの提供は、売り手の持ち出しとなり、受け取った売却対価を実質的に目減りさせます。

支払いのサイクルや、実費が変動した場合の見直し方法もあわせて定めておきます。

契約期間と延長の条件

期間は、業務ごとに分けて設計できます。給与計算は早期に移行できる一方、基幹システムの利用は長引きやすいといった差があるためです。

あわせて、延長の可否、延長時の条件、追加料金の扱いを事前に定めておく必要があります。延長のルールがないまま期限を迎えると、業務を止められない事情を抱えた状態で再交渉することになり、売り手に不利な条件を受け入れやすくなります。

終了と自立への移行計画

TSAは終わらせ方まで含めて設計する契約です。買い手側の体制構築の工程表とセットで終了時期を定め、完了の確認方法を決めておきます。

終了時には、データの引き渡し、アカウントの削除、貸与物の返却といった実務が発生します。とくに顧客情報や会計データの取り扱いは、引き渡しの範囲、形式、消去の確認方法まで含めて契約に定めておくと、終了後の紛争を抑えられる場合があります。

売り手がTSAで注意すべきポイント

TSAは買い手側の移行を助ける契約であると同時に、売り手の人員と時間を差し出す契約でもあります。売り手として押さえておきたい注意点は以下の4つです。

  • 提供コストを下回る対価で引き受けない
  • 範囲を曖昧にすると追加対応が際限なく増える
  • 期間の上限と終了の条件を先に決めておく
  • 自社の人員への負荷を見積もっておく

それぞれを順に解説します。

提供コストを下回る対価で引き受けない

TSAの対価は、担当者の人件費、システム維持費、管理の手間まで含めた実費を基準に主張することが重要です。無償や実費割れでの提供は、売却対価を実質的に目減りさせる持ち出しになります。

売却交渉の終盤でTSAの条件が議題になると、「まとめるためにここは譲ろう」という判断に流れやすい場面があります。しかし、TSAは締結後も数か月にわたって続く継続的な負担です。1か月あたりのコストを積算し、根拠を示して交渉することが、納得度の高い合意につながりやすくなります。

範囲を曖昧にすると追加対応が際限なく増える

「困ったときは何でも相談できる」という状態でTSAを始めると、契約に書かれていない依頼が次々と持ち込まれ、売り手の負担が膨らみ続けやすくなります。

移行期間中の買い手側は、分からないことだらけの状態で事業を運営しています。悪意がなくても、問い合わせや依頼は自然と増えていきます。そのため、範囲外の依頼を受ける場合の受付方法、判断者、追加料金を契約に明記しておく対応が有効です。範囲の線引きは、断るための仕組みではなく、双方の期待値を揃えるための仕組みです。

期間の上限と終了の条件を先に決めておく

買い手側の自立が遅れると、TSAは延長を重ね、売り手はいつまでも本業に集中できない状態が続きます。この長期化を防ぐには、期間の上限と早期終了の権利を設計段階で確保しておく必要があります。

具体的には、全体の最長期間、業務ごとの終了予定、買い手側の移行義務、売り手から終了を申し入れられる条件を定めておきます。「終わりの決まっていない支援」を引き受けないことが、売却後の自社を守る備えになります。

自社の人員への負荷を見積もっておく

TSAの実務を担うのは、売り手に残った従業員です。通常業務に加えて移行支援が上乗せされるため、担当者の負担と不満が積み上がり、離職の引き金になる場合があります。

誰が対応するのかを契約前に特定し、業務量を見積もり、必要に応じて処遇や業務分担の調整まで計画しておくことが望ましいです。担当者が退職すると、TSAの履行自体が難しくなり、買い手側との契約上の問題にも発展しかねません。人の手当てはTSAの実行可能性そのものだと捉えておきます。

TSAが売却の成立と価格に与える影響

TSAをどこまで提供できるかは、売却の成立可能性と条件に影響します。買い手候補が強く懸念するのは「引き継いだ事業を止めずに運営できるか」であり、TSAの提示はその不安への具体的な答えになるためです。

移行の道筋が見えている案件は、買い手候補の検討が進みやすく、受け入れ準備の不安を理由とした価格の引き下げ交渉も受けにくくなります。反対に、売り手が移行支援に応じられない場合、買い手候補は移行リスクを価格に織り込むか、検討自体を見送る判断をする場合があります。

売り手として、どの機能をどの期間なら提供できるかを交渉の早い段階で把握しておくと、TSAを受け身の義務ではなく、条件交渉の材料として使いやすくなります。

TSA開始までの流れ

TSAは、M&Aの交渉と並行して形になっていきます。おおまかな流れは以下のとおりです。

  1. デューデリジェンスの段階で、対象事業が本体に依存している機能を洗い出す
  2. 最終契約の交渉と並行して、TSAの範囲、水準、対価、期間を協議する
  3. クロージングと同時にTSAを開始し、移行の進捗を双方で確認する
  4. 移行の完了とともにTSAを終了し、以後は買い手側の体制で運営する

出発点になるのは、財務・法務・ITの各デューデリジェンスでの依存関係の洗い出しです。調査の受け方は、以下の記事で解説しています。

M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)とは?目的や流れ、売り手側のポイントを解説

カーブアウトのTSAでよくある質問

カーブアウトのTSAについて、売り手経営者からよく寄せられる質問に回答します。

TSAの期間はどのくらいになるのですか?

提供する業務の内容と、買い手側の体制構築の速度によって変わるため、一律の目安はありません。給与計算のように移行しやすい業務は短く、基幹システムの利用のように移行に準備を要する業務は長くなる傾向があります。

共通する原則は、長期化させない設計です。業務ごとに終了時期を分け、全体の上限を定めておくことで、期間の議論を具体的に進めやすくなります。

TSAの対価は無償でもよいのですか?

無償とする契約が法律で禁止されているわけではありませんが、売り手の立場では有償が原則と考えることが望ましいです。無償で引き受ければ、人件費やシステム維持費が売り手の持ち出しになるためです。

「買収してもらう立場だから」と遠慮する必要はありません。TSAは買い手側の移行を支える正当なサービス提供であり、実費に基づく対価を求めることは交渉上も自然な主張です。

売り手が買い手側からサービスを受ける場合もあるのですか?

切り出した事業側に共用のシステムや機能が残る場合、逆に売り手が切り出した事業側からサービスの提供を受ける契約を結ぶことがあり、リバースTSAと呼ばれます。

たとえば、共用していたシステムの管理者が対象事業側に転籍する場合などが該当します。依存関係は売り手から買い手側への一方向とは限らないため、双方向で洗い出して契約に反映することが重要です。

まとめ

カーブアウトにおけるTSAは、切り出した事業の移行期間を支える契約であり、範囲、水準、対価、期間、終了の5点を売り手が主体的に設計することが重要です。

売り手にとってTSAは、人員と時間を差し出す負担である一方、買い手候補の不安を解消し、売却の成立と条件を支える交渉材料でもあります。提供コストの積算、範囲の明確化、期間の上限という守りを固めたうえで、どこまで応じるかを判断することが、納得度の高い売却につながりやすくなります。

TSAの終了後は、買い手側による本格的な統合の段階に入ります。売り手がどこまで関わるのかを含め、統合の全体像を知っておきたい方は、以下の記事が参考になります。

M&AにおけるPMIとは?重要性や進め方、売り手が知っておきたいポイントを解説

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ株式会社 )

RISONAL編集部

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