のれんの会計処理とは?3つの仕訳と日本基準・IFRSの違いを解説
公開日:2026.07.30
2026.07.30
更新日:2026.07.30
2026.07.30
M&Aや事業承継を調べるなかで、「のれんの会計処理が複雑でわからない」と感じていませんか。のれんは、買収額と純資産の差額として生じる無形の資産であり、発生・償却・減損という場面ごとに処理のルールが決まっています。
本記事では、のれんの会計処理に必要な3つの仕訳に加えて、日本基準とIFRSの違い、税務上の扱いとの差異まで体系的に解説します。
会社売却を考えるオーナー経営者にとって、のれんは譲渡価格の水準を左右する重要な概念です。買い手との交渉に備えて、基本から押さえていきましょう。
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のれんとは(会計処理の前提)
のれんの会計処理を理解するには、まず「のれんとは何か」を正しく押さえる必要があります。本章では、会計上の定義から発生する取引の形態まで、前提となる3つの知識を整理します。
- 会計上ののれん
- 負ののれん
- のれんが発生する取引形態(株式取得・事業譲渡・合併)
それぞれを順に解説します。
会計上ののれん
会計上ののれんとは、M&Aの取得原価が、受け入れた資産・負債の時価純額を上回る場合の超過額です。企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第31項に定めがあり、貸借対照表では無形固定資産(形のない長期資産)として計上します。たとえば、時価純資産2,000万円の事業を3,000万円で買収した場合、差額の1,000万円がのれんです。超過額の実体は、ブランドや技術、顧客基盤といった帳簿に表れない収益力にあります。売り手としては、のれんが「自社の見えない価値への評価額」だと理解しておくことが重要です。
※参考:企業会計基準委員会「企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準」
負ののれん
負ののれんとは、取得原価が受け入れた純資産の時価を下回る場合の不足額です。企業結合会計基準第33項では、資産・負債の把握や取得原価の配分を見直してもなお差額が残る場合に、発生した事業年度の利益として処理すると定めています。たとえば、時価純資産2,000万円の会社を1,500万円で取得すると、500万円が負ののれんです。業績不振や簿外債務(帳簿に載らない債務)への懸念から発生する例が代表的です。
売り手としては、負ののれんでの売却は自社が実力より安く評価されているサインだと受け止め、価格の妥当性を検証することが重要です。
のれんが発生する取引形態(株式取得・事業譲渡・合併)
のれんは、株式取得・事業譲渡・合併など、支配や事業が移転するM&Aで発生します。ただし、計上される財務諸表は手法によって異なります。
事業譲渡や合併では、買い手の個別財務諸表に直接のれんが計上されます。一方、株式取得(株式譲渡)では、買い手の個別財務諸表に子会社株式が計上されるだけで、のれんは連結財務諸表を作成する際に、投資と資本の相殺消去差額として認識されます(企業会計基準第22号第24項)。
連結財務諸表を作らない中小企業が株式譲渡で会社を買った場合、帳簿上にのれんは登場しません。売り手としては、選ぶ手法により買い手側の会計処理が変わり、価格交渉にも影響し得る点を知っておくことが重要です。
※参考:企業会計基準委員会「企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準」
のれんの会計処理(仕訳)
のれんの位置づけを押さえたところで、次は具体的な会計処理を確認しましょう。のれんは、発生・償却・負ののれんの各局面で仕訳が異なります。本章では、実務で押さえるべき3つの仕訳を数値例つきで解説します。
- のれん発生時の仕訳
- のれん償却時の仕訳
- 負ののれんの仕訳
それぞれを順に解説します。
のれん発生時の仕訳
のれん発生時は、受け入れた資産・負債を時価で計上し、対価との差額をのれんとして借方に計上します。取得原価を時価で配分した残りが、のれんになります(企業結合会計基準第28項・第31項)。たとえば、時価で資産5,000万円・負債3,000万円の事業を現金3,000万円で譲り受けた場合の仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 諸資産 | 5,000万円 | 諸負債 | 3,000万円 |
| のれん | 1,000万円 | 現金預金 | 3,000万円 |
時価純資産2,000万円と対価の差額1,000万円が、のれんとして資産に残ります。売り手としては、買い手がのれん計上を前提に投資判断するため、資産・負債の時価情報を整理して開示することが重要です。
のれん償却時の仕訳
日本基準では、決算時に「のれん償却額」を費用計上し、同額だけのれんを直接減額します。のれんは20年以内の効果の及ぶ期間で規則的に償却し、償却額は損益計算書の販売費及び一般管理費(営業費用の区分)に表示します(企業結合会計基準第32項・第47項)。のれん1,000万円を10年で均等償却する場合、毎期の仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| のれん償却額 | 100万円 | のれん | 100万円 |
償却期間中は、営業利益が毎期押し下げられます。売り手としては、償却負担が買い手の利益計画に入る分、提示価格に影響する場合がある点を理解しておくことが重要です。
のれんの償却については、以下の記事でも詳しく解説しています。
負ののれんの仕訳
負ののれんは、資産・負債の受け入れと同時に「負ののれん発生益」として貸方に一括計上します。日本基準では発生した事業年度の利益(特別利益)とし、複数年での取り崩しは行いません(企業結合会計基準第33項)。時価純資産2,000万円の事業を現金1,500万円で譲り受けた場合の仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 諸資産 | 5,000万円 | 諸負債 | 3,000万円 |
| 現金預金 | 1,500万円 | ||
| 負ののれん発生益 | 500万円 |
貸借対照表に資産として残らない点が、正ののれんとの違いです。売り手としては、負ののれん前提の提案を受けたら、値付けの根拠を買い手に確認することが重要です。
会計基準によるのれんの扱いの違い
仕訳の型を押さえたら、次は採用する会計基準による違いに目を向けましょう。計上後ののれんの扱いは、日本基準・IFRS・米国基準で大きく分かれます。本章では、3つの基準を比較しながら解説します。
- 日本基準(20年以内で償却する)
- IFRS(償却せず毎年減損テストを行う)
- 米国基準
それぞれを順に解説します。
日本基準(20年以内で償却する)
日本基準では、のれんを20年以内の効果の及ぶ期間にわたり、定額法などで規則的に償却します。金額の重要性が乏しい場合には、発生した事業年度に全額を費用処理できます(企業結合会計基準第32項)。
償却期間は、投資の回収見込期間などを踏まえて会社ごとに決定します。なお、2025年に経済同友会などから「のれん非償却の導入」が提案され、企業会計基準委員会(ASBJ)による公聴会や情報要請が続いていますが、2026年7月時点で基準の変更には至っていません。
売り手としては、日本基準の買い手が償却負担を織り込んで投資回収を計算する以上、収益力を裏づける説明資料を充実させることが重要です。
※参考:財務会計基準機構「のれんの会計処理に関するテーマ提案への対応状況」
IFRS(償却せず毎年減損テストを行う)
IFRSでは、のれんを償却せず、少なくとも年1回の減損テストで価値を検証します。IAS第36号「資産の減損」に基づく処理で、減損の兆候がある場合には年次のテストとは別に追加の検証も求められます。いったん計上した減損損失の戻入れは認められません。償却費が発生しないため買収後の利益が目減りしにくい半面、業績悪化時には多額の減損損失が一度に計上されるリスクがあります。売り手としては、IFRS採用企業が買い手候補の場合、償却負担を理由とした値下げ圧力が生じにくい傾向を交渉材料にできる点を押さえておくことが重要です。
※参考:IFRS Foundation「IAS 36 Impairment of Assets」
米国基準
米国基準でも、のれんは原則として償却せず、減損テストで検証します。IFRSと同じく減損のみのモデルですが、非公開会社には特例があり、10年以内の定額償却を選択できます(FASB・会計基準更新書2014-02号)。減損テストの実務負担を軽くするための簡便的な選択肢という位置づけです。売り手としては、米国基準の枠組みを知っておくと、外資系の買い手候補が現れた場合にも会計面の論点を整理しやすくなる点が重要です。
※参考:FASB「Accounting Standards Update No. 2014-02」
のれんの減損
日本基準を採用していても、償却だけで処理が完結するわけではありません。買収後の業績が想定を下回れば、のれんの減損が必要になります。本章では、減損の考え方から仕訳、起きやすい場面までを解説します。
- のれんの減損とは
- 減損処理の仕訳
- 減損が起きやすい場面
それぞれを順に解説します。
のれんの減損とは
のれんの減損とは、収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合に、帳簿価額を回収可能価額まで減額する処理です。「固定資産の減損に係る会計基準」(企業会計審議会、2002年公表)に基づき、減損の兆候の把握、割引前キャッシュ・フローによる認識の判定、減損損失の測定という手順で進めます。のれんは単独では収益を生まないため、関連する事業と合わせたより大きな単位で判定し、認識された減損損失はのれんに優先的に配分します。売り手としては、買い手が減損リスクを見込んで慎重な価格を提示する場合がある点を理解しておくことが重要です。
※参考:金融庁「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」
減損処理の仕訳
減損時は「減損損失」を借方に計上し、のれんの帳簿価額を直接減額します。減損損失は、損益計算書では原則として特別損失に表示されます。たとえば、償却後ののれん帳簿価額700万円に対し、回収可能価額が300万円まで低下した場合の仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 減損損失 | 400万円 | のれん | 400万円 |
のれんの減損損失は、後から状況が改善しても戻し入れができません。多額の減損は純資産を直接毀損し、金融機関からの評価にも影響します。売り手としては、買収後の事業計画の実現性を丁寧に示すことが、買い手の減損への不安を和らげ、価格の維持につながるため重要です。
減損が起きやすい場面
減損が起きやすいのは、買収後の業績が計画を下回り続ける場面です。減損の兆候としては、営業損益やキャッシュ・フローの継続的なマイナス、事業の使用範囲・方法の大きな変更、経営環境の著しい悪化、市場価格の著しい下落が例示されています。収益力に見合わない高額なのれんを計上した買収ほど、兆候に該当しやすくなります。シナジー(相乗効果)の見込み違いや、キーパーソンの離職も引き金になりがちです。
売り手としては、引き継ぎ体制の整備や主要取引先との関係維持に協力する姿勢を示すことが、買い手からの高い評価を支えるため重要です。
会計と税務でのれんの扱いはどう違うか
前章まで見てきた償却や減損は、あくまで会計上のルールです。法人税の計算では、のれんは別の枠組みで扱われます。本章では、会計と税務の主な違いを3つの観点から解説します。
- 税務上は資産調整勘定として扱う
- 税務上の償却期間は5年
- M&Aの手法によって税務の扱いが変わる
それぞれを順に解説します。
M&Aにかかる税金の全体像については、以下の記事でも詳しく解説しています。
税務上は資産調整勘定として扱う
税務上、会計ののれんに相当する差額は「資産調整勘定」として扱われます。法人税法第62条の8は、非適格合併等(税制上の適格要件を満たさない合併・分割・現物出資・事業の譲受け)で交付した対価が、移転を受けた資産・負債の時価純資産価額を超える場合に、超過額を資産調整勘定とすると定めています。反対に対価が下回る場合は「差額負債調整勘定」となり、取り崩した額が益金(税務上の収益)に算入されます。会計と税務では、名称も金額の計算方法も一致しない点が実務上の注意点です。
売り手としては、買い手が税務メリットを織り込んで価格を検討している可能性を理解しておくことが重要です。
※参考:e-Gov法令検索「法人税法第62条の8」
税務上の償却期間は5年
資産調整勘定は、当初計上額を60で除した金額に各事業年度の月数を乗じて減額し、5年間で均等に損金算入します。会計上の償却期間を何年に設定していても、税務上は5年(60か月)で償却が進みます。たとえば資産調整勘定が1,000万円なら、毎期200万円が損金(税務上の費用)になります。差額負債調整勘定も同じく5年で取り崩し、益金に算入します。会計の償却年数と一致しない場合には、申告調整が必要です。
売り手としては、5年での損金算入という買い手側の節税効果が、買収資金の回収計画を後押しする材料になる点を押さえておくことが重要です。
※参考:e-Gov法令検索「法人税法第62条の8」
M&Aの手法によって税務の扱いが変わる
資産調整勘定が生じるのは、事業譲渡や非適格の組織再編に限られます。株式譲渡では、対象会社の資産・負債は移転しないため、買い手側に資産調整勘定は発生せず、5年償却による節税効果もありません。一方、事業譲渡や非適格合併では資産調整勘定が生じ、買い手は損金算入の恩恵を受けられます。税制上の適格組織再編に該当する場合は帳簿価額での引き継ぎとなり、調整勘定は生じません。手法の選択が買い手の税負担を左右し、提示価格にも影響します。売り手としては、手取り額と買い手の税効果を合わせて比較し、双方に合理的なスキームを検討することが重要です。
事業譲渡の仕組みについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
売り手にとってののれんの意味
会計・税務の扱いを踏まえると、のれんが売り手に持つ意味も見えてきます。のれんは買い手側の勘定科目ですが、売却価格や税負担を通じて売り手にも直結します。本章では、譲渡オーナーの視点から3つのポイントを解説します。
- のれんは譲渡価格が純資産を上回る部分
- のれんを正当に評価してくれる買い手を見つける
- 事業譲渡ののれんは売り手の税務にも影響する
それぞれを順に解説します。
のれんは譲渡価格が純資産を上回る部分
売り手から見たのれんは、譲渡価格のうち時価純資産を上回る部分、つまり純資産を超えて評価された金額です。買い手は、将来の収益力やシナジーへの期待があるからこそ、純資産を超える対価を支払います。たとえば時価純資産2,000万円の会社が3,000万円で売れたなら、1,000万円分は収益力への評価です。裏を返せば、収益力を示す根拠が弱ければ、譲渡価格は純資産の水準に近づきます。
売り手としては、営業利益の推移や顧客基盤の強みを定量的に整理し、のれんに相当する価値を買い手へ説得力をもって示すことが重要です。
企業価値の算定方法については、以下の記事でも詳しく解説しています。
のれんを正当に評価してくれる買い手を見つける
同じ会社でも、のれんの評価額は買い手によって大きく変わります。シナジーが見込める事業会社は高いのれんを許容しやすい一方、シナジーの薄い買い手は純資産に近い価格しか提示できません。日本基準かIFRSかという会計基準の違いも、償却負担を通じて買い手が許容できる価格に影響します。だからこそ、候補先を幅広く比較し、自社の強みを高く評価する相手と交渉する進め方が売却成功への近道です。売り手としては、1社との相対交渉に絞らず、売り手側の利益を代弁するアドバイザーを活用して複数の候補を検討することが重要です。
売り手側FAの活用方法については、以下の記事でも詳しく解説しています。
事業譲渡ののれんは売り手の税務にも影響する
事業譲渡では、のれん相当額を含む譲渡益に法人税等が課され、のれん部分は消費税の課税対象にもなります。譲渡対価が、移転した資産・負債の帳簿価額の純額を上回る差額は、譲渡した法人の益金として課税されます。さらに、国税庁の質疑応答事例では、営業譲渡の対価を課税資産と非課税資産に合理的に区分し、営業権(のれん)は課税対象に含めて消費税を計算すると示されています。のれんが大きいほど買い手が支払う消費税も増え、取引総額の設計に影響します。売り手としては、株式譲渡と事業譲渡で税負担の構造が異なるため、手取り額のシミュレーションを事前に行うことが重要です。
※参考:国税庁「営業の譲渡をした場合の対価の額」
のれんの会計処理に関するよくある質問
最後に、のれんの会計処理について検索されることが多い質問へ、要点を絞って回答します。売却検討の初期段階でオーナー経営者から寄せられやすい疑問を集めました。
のれんの会計処理の方法は?
日本基準では、のれんを無形固定資産に計上し、20年以内の効果の及ぶ期間で規則的に償却します。収益性が低下して投資額の回収が見込めなくなった場合には、減損処理により帳簿価額を回収可能価額まで減額します。税務上は資産調整勘定として、5年間で均等に損金算入する点が会計との違いです。
のれんはなぜ費用になるのですか?
のれんの実体であるブランド力や顧客基盤の効果は、時間の経過や競争によって薄れていくと考えられるためです。日本基準では、買収投資の成果である収益と、投資額の一部であるのれんを対応させる観点から、効果の及ぶ期間にわたり償却額として費用配分します。費用化により、買収の採算が損益計算書に反映されます。
のれんはなぜ償却しない場合があるのですか?
IFRSや米国基準を採用する企業では、のれんの価値が減少するパターンを合理的に見積もれないという考え方から、規則的な償却を行わないためです。償却の代わりに、年1回以上の減損テストで価値を検証します。日本国内の企業でも、IFRSを任意適用している場合には償却を行いません。
会計で「のれん」とは何ですか?
M&Aの取得原価が、受け入れた資産・負債の時価純額を上回る場合の超過額を指す勘定科目です。ブランドや技術力、顧客との関係、従業員のノウハウといった、貸借対照表に個別には表れない無形の収益力を金額で表したものであり、無形固定資産の区分に計上されます。
まとめ
のれんの会計処理は、無形固定資産への計上、20年以内の償却、減損という流れで整理でき、税務上は資産調整勘定として5年で損金算入される別のルールが適用されます。売り手オーナーにとってののれんは、譲渡価格のうち純資産を上回る評価額にほかなりません。要点を振り返ります。
- のれんは取得原価と時価純資産の差額で、無形固定資産に計上する
- 日本基準は20年以内の償却、IFRS・米国基準は非償却で減損テストを行う
- 税務上は資産調整勘定として5年で均等に損金算入され、株式譲渡では生じない
- 事業譲渡ののれんは売り手の法人税等・消費税にも影響する
のれんを高く評価してもらえるかどうかは、どの買い手と、どの手法で交渉するかによって決まります。売却を検討し始めた段階から、自社の収益力を示す準備を進めましょう。
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