M&Aにおけるオーナー経費の調整とは?対象になりやすい5つの経費と売却前の整理

2026.08.25

公開日:2026.08.25

2026.08.25

2026.08.25

更新日:2026.08.25

2026.08.25

M&Aにおけるオーナー経費の調整とは?対象になりやすい5つの経費と売却前の整理

会社の経費に、自分や家族に関わる支出が混ざっている。M&Aを考え始めたとき、それが売却でどう見られるのか、気になっていないでしょうか。役員報酬や保険、車の費用を会社で負担してきた経営者ほど、「不利になるのではないか」という不安と、「実力より低く評価されないか」という疑問の両方を抱えがちです。

オーナー経費は、隠すものではなく、調整という形で評価に織り込まれるものです。本記事では、オーナー経費の調整の意味、売却価格に影響する仕組み、対象になりやすい5つの経費、そして売却前に進めたい整理を解説します。売却を検討し始めた段階の売り手の方は、事前準備の参考にしてください。

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M&Aで行われるオーナー経費の調整とは

M&Aにおけるオーナー経費の調整とは、オーナー個人に紐づく費用や一時的な損益を決算の利益から除き、事業本来の収益力に引き直す評価実務です。決算書の利益を無調整で使うのではなく、「承継後の会社が稼ぐ力」に近づけて評価するための手順といえます。

中小企業では、役員報酬の決め方や経費の使い方にオーナーの裁量が反映され、私的な性質を帯びた支出が損益に混ざっていることが多くあります。買い手候補もそれを承知したうえで評価に臨むため、調整は不正を疑う手続きではなく、M&Aで標準的に行われる手順と受け止めて差し支えありません。

むしろ売り手にとっては、足し戻しの調整によって、決算書の利益より実質の収益力が高く評価される場合があるという意味を持ちます。仕組みを知っているかどうかで、交渉の準備が変わる論点です。

オーナー経費の調整が売却価格に影響する仕組み

中小企業のM&Aにおける企業価値評価は、対象会社の利益やEBITDAといった収益力の指標を基準に行われることが多く、評価手法の一般的な考え方は中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)でも示されています

この構造のもとでは、オーナー経費の足し戻しによって実質の利益が増えれば、それを基準に算定される評価額も上がりやすくなります。たとえば、承継後には発生しない費用が利益に上乗せして評価されれば、決算書の見た目より高い収益力を前提に価格の議論ができるということです。逆に、調整を知らずに決算書の数字だけで交渉に入ると、実力より低い水準が議論の出発点になりやすくなります。

評価の基準となるEBITDAという指標の意味と使われ方は、以下の記事で解説しています。調整の議論についていく土台として確認しておくと、買い手候補との協議を進めやすくなります。

M&AにおけるEBITDAとは?計算方法や企業価値評価での使われ方を解説

※参考:中小企業庁「中小M&Aガイドライン

調整の対象になりやすい5つのオーナー経費

実務でよく挙がるものを5つに分けて解説します。なお、この5つは代表的な例示であり、実際に対象になるかどうかは、その支出と事業との関連性の実態に照らして個別に判断されます

  • 役員報酬のうち適正水準を上回る部分
  • オーナーを被保険者とする保険料
  • 社用車や交際費の私的利用分
  • 経営に関与していない親族への給与
  • オーナー個人が所有する資産の賃借料

それぞれを順に解説します。

役員報酬のうち適正水準を上回る部分

オーナーの役員報酬が、経営者としての労働の対価として見た適正水準を上回る場合、その上回る部分が足し戻しの候補になります。承継後は買い手側の報酬体系に置き換わるため、上回る分は「承継後には発生しない費用」として利益に戻して評価されるという考え方です。

ここでいう適正水準に一律の基準があるわけではなく、事業の規模、業務の内容、後任者を雇う場合の想定人件費などを踏まえ、買い手側の引き直しを前提に幅を持って協議されます。売り手として、自分の報酬額の根拠と業務の実態を説明できるようにしておくと、協議の幅を狭めずに済みます。

オーナーを被保険者とする保険料

オーナーや親族を被保険者とする生命保険などの保険料は、承継後には継続の必要がなくなることが多いため、調整の候補になりやすい費目です。事業のリスクに備える保険というより、オーナー個人の保障や退職金の準備として契約されているものが典型です。

あわせて、解約返戻金のある保険は、費用の側だけでなく資産の側の扱いも論点になります。解約するのか、契約者を変更するのか、返戻金をどう扱うのかによって取引条件に関わるため、保険証券や契約内容の開示が求められます。契約の一覧を用意しておくと、協議が進めやすくなります。

社用車や交際費の私的利用分

事業にほとんど使っていない車両の維持費や、私的な性質の強い飲食・旅費は、調整の対象として挙がりやすい費目です。オーナーの生活と事業の境目にある支出であるため、買い手候補の確認も具体的になります。

ここで押さえたいのは、全額が一律に足し戻されるのではなく、私的利用の割合で見られるという点です。営業活動に使っている車両や、取引先との関係維持に要した交際費まで戻してしまうと、承継後の実力値が過大になるためです。だからこそ、利用実態や相手先を説明できる記録の有無が、協議の説得力を左右します。

経営に関与していない親族への給与

勤務実態が乏しい親族への給与は、承継後には発生しない費用として、足し戻しの候補になります。名目上は在籍していても、実際の業務への関与が薄い場合が典型です。

一方で、経理や現場業務を実際に担っている親族への給与は、承継後も同じ機能に人件費がかかるため、原則として調整の対象にはなりません。対象になるかどうかの分かれ目は、肩書ではなく勤務の実態です。担当業務の内容、勤務日数や時間、業務の成果物を説明できるようにしておくと、実態のある給与まで足し戻しの議論に巻き込まれることを避けやすくなります。

オーナー個人が所有する資産の賃借料

オーナー個人名義の不動産などを対象会社が借りている場合、その賃料が周辺の相場より高ければ、差額が調整の候補になります。承継後に相場水準へ改定される前提で、実質の利益を引き直すためです。

注意したいのは、相場より低い賃料で貸している場合には、逆に費用を増やす方向で引き直されるという点です。承継後は相場並みの賃料負担が生じるとみなされ、実質の利益はその分低く評価されます。個人名義の資産を会社が使っている取引は、金額の高低にかかわらず一覧にして、賃貸借契約書と、可能であれば相場を示す資料を用意しておくことが望ましいです。

利益が下がる方向に調整される場合もある

オーナー経費の調整は、足し戻しによって利益を増やす方向にだけ働くわけではありません。実態への引き直しである以上、利益を減らす方向の調整もあります。

代表例は、オーナーが無報酬や相場より低い報酬で働いているケースです。承継後に経営を担う人材には相応の人件費がかかるため、適正水準の人件費を差し引いて実質の利益が引き直されます。オーナーの家族が無償で業務を手伝っている場合も、同じ考え方で費用が見積もられることがあります。ほかにも、本来必要な修繕費や外注費が先送りされている場合は、承継後に発生する費用として織り込まれます。

また、補助金や資産の売却益といった一時的な収入も、毎年繰り返される収益ではないため、実力値からは除いて評価されます。「調整すれば評価が上がる」という期待だけで臨むと、協議の場で認識齟齬が生じやすくなります。両方向があると知ったうえで、自社の場合はどちらの要素が多いかを先に点検しておくことが重要です。

売却前に進めたいオーナー経費の整理

オーナー経費の整理で重要なのは、買い手候補に指摘される前に、自分の側で支出の実態を把握しておくことです

進めたい整理は、主に以下の3つです。

  • 経費の内訳と根拠資料を一覧にしておく
  • 私的性質の強い支出は早めに見直す
  • 調整の候補は自ら開示する

それぞれを順に解説します。

経費の内訳と根拠資料を一覧にしておく

売却前の整理としてまず有効なのは、調整候補になり得る経費を勘定科目ごとに拾い出し、金額、内容、事業との関連性を一覧にしておくことです。役員報酬、保険料、車両費、交際費、親族への給与、個人資産の賃借料の順に点検すれば、大きな漏れは防ぎやすくなります。

一覧には、賃貸借契約書、保険証券、役員報酬を決めた際の議事録といった根拠資料をひも付けておきます。財務デューデリジェンスの過程で買い手側の専門家から質問を受けたとき、資料に基づいて説明できる項目は、そのまま調整として評価に織り込まれやすくなります。説明できない項目は保守的に扱われがちであり、資料の有無がそのまま評価の差になります。

私的性質の強い支出は早めに見直す

私的な性質の強い支出を見直すなら、売却検討の初期が適しています。早い段階でやめれば、直近の決算にその分の利益が実力値として表れ、そもそも調整の議論をする項目自体が減るためです。調整はあくまで「引き直しの主張」であるのに対し、決算に表れた数字は説明の要らない実績になります。

逆に、売却の直前だけ経費を絞って利益を作る形は、推移を見れば分かるため、実態を伴わない改善と受け取られやすくなります。単年の見栄えではなく、継続した数字で収益力を示すことに意味があります。売却時期から逆算して、どの支出をいつから見直すかを決めておくと動きやすくなります。

調整の候補は自ら開示する

調整候補の扱いで判断が分かれるのが、自分から言うべきかどうかです。結論としては、デューデリジェンスで確認される事項であることを踏まえ、求められる開示の範囲で自ら先に示す方が、交渉上は有利に働きやすくなります。根拠とともに提示された調整は、協議の土台に乗りやすいためです。一方、買い手側の調査で後から発見された私的経費は、金額の問題にとどまらず、「他にも説明されていないことがあるのではないか」という売り手への信頼の問題に変わります。

とはいえ、どこまでを調整候補として示すか、どの資料を添えるかの線引きは、個別の判断が難しい領域です。売却の初期からFAと相談しながら開示の範囲と順序を決めていくと、判断に迷う場面を減らしやすくなります。

オーナー経費の調整をめぐる注意点

調整を進めるうえで、売り手が知っておきたい注意点を挙げます。調整は主張すれば通るものではなく、検証を前提とした協議だからです。

  • 実態を離れた足し戻しは認められにくい
  • 直近数期分の実績がまとめて確認される
  • 評価上の調整と税務の取り扱いは別の問題になる

それぞれを順に解説します。

実態を離れた足し戻しは認められにくい

売り手側が提示した調整は、財務デューデリジェンスの過程で買い手側の会計士などの専門家に検証されます。実態の裏付けがない足し戻しは削られ、評価には残りません

注意したいのは、過大な調整を主張することの副作用です。明らかに実態を離れた項目が混ざっていると、その項目が削られるだけでなく、他の数字や説明への信頼まで下がり、全体が保守的に見られやすくなります。調整は「多く積む」ことではなく「説明できるものを正確に積む」ことが、結果として評価を守ります。

デューデリジェンスで何がどう確認されるかは、以下の記事で解説しています。検証を受ける側の準備として一読をおすすめします。

M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)とは?目的や流れ、売り手側のポイントを解説

直近数期分の実績がまとめて確認される

調整の検証は、単年の決算だけでなく、直近数期分の推移をまとめて見る形で行われるのが通常です。単年だけでは、たまたまの増減と実力の区別がつかないためです。

そのため、年によって扱いが違う経費は説明を求められます。ある年だけ保険料が大きい、ある年だけ親族への給与がない、といった凸凹は、理由を添えて説明できるようにしておく必要があります。一覧資料を作る際も、単年分ではなく期をまたいだ一貫性を意識して整えておくと、検証の場での質問に答えやすくなります。

評価上の調整と税務の取り扱いは別の問題になる

本記事で扱ってきた調整は、企業価値評価のうえで利益を引き直す作業であり、過去の税務申告の適否を判定するものではありません。足し戻しの協議で「この費用は私的なもの」と扱ったからといって、それ自体が税務上の結論になるわけではなく、両者は別の枠組みで判断されます。

一方で、私的経費のなかに税務上の取り扱いとして問題を含む可能性があるものが見つかる場合もあります。その場合は、評価の議論とは切り分けて、税理士へ相談してください。税務の判断は個別性が高く、評価の協議の中で自己判断すると、別のリスクを抱えることになりかねません。

M&Aのオーナー経費でよくある質問

オーナー経費の調整について、売り手からよく寄せられる疑問に回答します。

私的経費があると売却で不利になるのですか?

私的経費が存在すること自体が不利になるわけではありません。中小企業の損益にオーナーの裁量的な支出が混ざっていることは珍しくなく、買い手候補もそれを理解したうえで調整を前提に評価します

不利に働くのは、内容を説明できない場合や、確認の過程で開示されていなかった支出が見つかった場合です。評価を左右するのは経費の有無ではなく、管理と開示の姿勢だと捉えておくと、準備の方向を誤りにくくなります。

会社の飲食費や車はすべて調整されるのですか?

すべてが一律に調整されるわけではありません。対象になるかどうかは、その支出と事業との関連性の実態で個別に見られます

営業のための飲食や、業務に使っている車両の費用まで足し戻すと、承継後の実力値が実態より大きくなってしまうため、買い手側も線引きをして検証します。売り手としては、事業に必要な支出であることを示す記録を残しておくことが、必要以上の足し戻しを避ける備えになります。

過去の税務申告をやり直す必要があるのですか?

評価上の調整のために、過去の申告をやり直す必要はありません。調整は企業価値評価の枠組みで利益を引き直す作業であり、税務申告とは別の枠組みだからです。

ただし、点検の過程で申告内容そのものに誤りの可能性がある支出に気づいた場合は、評価とは別の問題として税理士へ相談してください。対応の要否や方法は個別の事情によって異なるため、専門家の判断を仰ぐのが確実な進め方です。

まとめ

オーナー経費の調整は、決算の利益を事業本来の収益力に引き直す、中小企業のM&Aで標準的な評価実務です。足し戻しで評価が上がる場合もあれば、適正人件費の引き直しなどで下がる方向に働く場合もあり、鍵を握るのは実態と根拠資料です

だからこそ、経費の内訳と根拠資料の一覧化、私的性質の強い支出の早めの見直し、調整候補の自らの開示という整理は、売却検討の初期に始めるほど効果を発揮します。

売却前の準備の全体像は、以下の記事で解説しています。オーナー経費の整理をどの順番で進めるかの参考になります。

“納得のいく事業売却”を実現するには?売り手オーナー経営者が「最初に」やるべき事前準備

自社の実質的な収益力を正しく評価してもらうには、開示の範囲と調整の組み立てを早い段階から設計することが重要です。売り手側の専門家と相談しながら進めることが、納得度の高い売却につながりやすくなります。

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また、具体的な買いニーズを持っている企業のほか、業界・買い手企業分析に基づき事業親和性の高い企業を買い手候補としてご提案します。大手金融機関や大手M&A仲介、M&Aマッチングサービスとも連携しているため、買い手探索のルートが豊富です。

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ株式会社 )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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