M&Aにおける簿外債務の対策とは?種類やリスク、売り手側の確認ポイントを解説

2026.06.29

公開日:2026.06.29

2026.06.29

2026.06.29

更新日:2026.06.29

2026.06.29

M&Aにおける簿外債務の対策とは?種類やリスク、売り手側の確認ポイントを解説

M&Aで会社を売却する際、自社に簿外債務や潜在的な債務リスクがあると、価格・補償条件・取引スケジュールに影響することがあります。簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない、または十分に認識・開示されていない債務や負債性のリスクを指します。決算書だけでは把握しにくく、デューデリジェンスで見つかると、売却価格の見直し、補償条項の強化、クロージング条件の追加、交渉停止につながる可能性があります。

特に売り手にとっては、簿外債務の対策が、M&Aを円滑に進めるうえで重要になります。事前に把握し、整理・開示・契約条件の調整を行うことで、デューデリジェンスで指摘された際の不利を抑えられる場合があります。

本記事では、M&Aで問題になる簿外債務の種類や引き起こす問題に加え、取引スキーム上の対応と、売り手が事前にできる洗い出し・整理・開示のポイントまで解説します。

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簿外債務とは

簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない債務のことです。会社の決算書には表れていないものの、実際には支払義務が発生している債務や、将来支払義務が顕在化する可能性がある負債性のリスクを指します。帳簿の外にある債務という意味で、簿外負債とも呼ばれます。

簿外債務には、未払残業代や未払社会保険料のように既に発生している可能性がある未払債務と、保証債務や係争中の訴訟のように将来の条件次第で顕在化する偶発債務・偶発損失があります。いずれも、決算書を見ただけでは把握しにくい点が共通しています。

簿外債務は、中小企業のM&Aで特に問題になりやすい論点です。中小企業では、労務管理、社会保険手続き、保証関係、引当金の管理などが属人的になりやすく、簿外債務や潜在リスクがM&A時に確認事項となることがあります。株式譲渡では、対象会社の法人格は変わらないため、簿外債務は対象会社に残り、買い手は株式取得を通じてそのリスクを経済的に負うことになります。売り手としては、自社にどのような簿外債務があるかを、早い段階で把握しておくことが重要です。

M&Aで問題になる主な簿外債務

簿外債務には、さまざまな種類があります。M&Aで問題になりやすい類型を知っておくと、自社に当てはまるものを確認しやすくなります。主な簿外債務は以下の通りです。

  • 未払残業代・未払給与などの労務債務
  • 未払社会保険料・加入漏れ
  • 保証債務・訴訟などの偶発債務
  • 退職給付・賞与・保証等に関する引当金の計上不足

それぞれを順に解説します。

未払残業代・未払給与などの労務債務

未払残業代や未払給与は、既に発生している場合には代表的な簿外債務・未払債務になります。労働時間の管理が適切でなかったり、残業代を正しく支払っていなかったりすると、後から未払分の請求を受け、過去分の支払義務が問題になる可能性があります。未払賃金の請求権の時効期間内であれば、過去分について支払いを求められることがあります。

売り手としては、残業代の支払いや労働時間の管理に問題がないかを、事前に確認しておくことが重要です。労務の問題は、労務デューデリジェンスで確認されやすい論点の一つです。

未払社会保険料・加入漏れ

未払社会保険料や加入漏れは、簿外債務・潜在的な労務リスクになることがあります。本来加入対象となる従業員を社会保険に加入させていなかった場合などに、過去分の保険料負担や手続き上の是正が問題になることがあります。加入の漏れや、保険料の計算の誤りが原因になります。

売り手としては、社会保険への加入状況が適切かを、確認しておくことが重要です。中小企業では社会保険手続きが属人的になりやすく、M&A時に確認・是正が必要になる場合があります。

保証債務・訴訟などの偶発債務

保証債務や係争中の訴訟は、偶発債務・偶発損失として、簿外リスクに含めて確認されることがあります。対象会社が第三者の借入を保証している場合や、係争中の訴訟を抱えている場合、将来支払義務や損失が顕在化する可能性があります。現時点では確定していないものの、条件によっては債務になる点が特徴です。

売り手としては、自社がどのような保証をしているか、抱えている訴訟がないかを、確認しておくことが重要です。これらは引当金計上や注記の対象となる場合もありますが、管理・開示が不十分だと見落とされやすい論点です。

退職給付・賞与・保証等に関する引当金の計上不足

引当金の計上不足も、簿外債務の一つです。退職給付、賞与、保証損失など、発生可能性が高く金額を合理的に見積もれる将来の費用・損失は、引当金計上が必要になる場合があります。必要な引当金が十分に計上されていないと、会社の実態より負債が少なく見え、将来の支払い時に負担が顕在化することがあります。

売り手としては、退職給付、賞与、保証損失、訴訟損失などの引当金が必要に応じて適切に計上・注記されているかを、確認しておくことが重要です。計上が不足していると、会社の実態より財務が良く見えていることになります。

簿外債務がM&Aで引き起こす問題

簿外債務は、M&Aにさまざまな問題を引き起こします。どのような問題があるかを知っておくと、対策の必要性が分かります。主な問題は以下の通りです。

  • 株式譲渡で対象会社に残る債務リスク
  • 売却価格の見直し・補償条件の強化・交渉停止
  • 表明保証違反による補償請求

それぞれを順に解説します。

株式譲渡で対象会社に残る債務リスク

株式譲渡では、対象会社の法人格や契約関係は原則として維持されるため、簿外債務は対象会社に残ります。買い手は株式取得により、そのリスクを経済的に負うことになります。買い手は、対象会社に潜在する簿外債務を含めた負債リスクを踏まえて、株式価値や取引条件を評価します。そのため、買い手は簿外債務の有無に、特に慎重になります。

売り手としては、株式譲渡では簿外債務が対象会社に残り、買い手の評価・補償交渉に影響する点を理解しておくことが重要です。簿外債務の存在は、買い手にとって懸念となるため、事前の備えが欠かせません。

売却価格の見直し・補償条件の強化・交渉停止

簿外債務は、未払いの残業代や社会保険料のように、調べれば金額を見積もれるものが多く、判明すれば、その金額が会社の実質的な純資産や企業価値評価にマイナスに働く場合があります。買い手は、実質的な純資産、正常収益力、将来キャッシュフローへの影響を踏まえて価格を見直し、計上漏れが多ければ、決算書全体の信頼性を疑って交渉に慎重になります。

売り手としては、簿外債務の金額や発生可能性が、売却価格や補償条件に影響しやすい点を理解しておくことが重要です。決算書に表れない債務が後から積み上がると、買い手の評価前提が変わり、追加調査、価格見直し、交渉停止につながることがあります。

表明保証違反による補償請求

簿外債務は、決算書に載っていないため、売り手自身がその存在を正しく伝えられているとは限りません。未払いの残業代や社会保険料などを開示しないまま譲渡し、契約後に判明すると、表明保証に違反したとして、買い手から補償を求められることがあります。帳簿に載っていないことは、表明保証や開示別紙で説明しなくてよい理由にはなりません。

売り手としては、決算書に表れない簿外債務についても、買い手に伝える内容に漏れがないかを確認することが重要です。帳簿だけを前提に表明保証を行うと、未開示の債務が後から表明保証違反や補償請求につながる可能性があります。表明保証については、以下の記事でも詳しく解説しています。

M&Aにおける表明保証条項とは?重要性や内容、注意点を解説

M&Aにおける簿外債務の対策

M&Aでは、簿外債務に備えるために、事前確認、スキーム選択、開示、表明保証・補償条項の設計が重要になります。取引スキームや契約条件として、どのような対策がとられるかを知っておくことが重要です。主な対策は以下の通りです。

  • 売り手側でも事前に洗い出し、デューデリジェンスに備える
  • 事業譲渡で承継対象から外すことを検討する
  • 表明保証・補償条項・開示別紙でリスク分担を明確にする

それぞれを順に解説します。

売り手側でも事前に洗い出し、デューデリジェンスに備える

簿外債務の対応としては、買い手のデューデリジェンスを待つのではなく、売り手側でも事前に洗い出しておくことが重要です。買い手は、財務、法務、労務、税務などの面から会社を調べ、簿外債務がないかを確認します。簿外債務の有無や金額を把握することで、価格、補償条項、エスクロー、クロージング条件などに反映しようとします。

売り手としては、デューデリジェンスで何を調べられるかを理解し、事前に備えておくことが重要です。調査される前に自社で把握し、必要に応じて資料・説明・是正方針を準備しておくことが望ましいです。デューデリジェンスについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)とは?目的や流れ、売り手側のポイントを解説

事業譲渡で承継対象から外すことを検討する

簿外債務の承継を避けたい場合、事業譲渡を検討することがあります。事業譲渡は、会社そのものではなく、対象事業に関する資産・契約・従業員等を個別に移転する手法です。承継する資産・債務・契約を個別に定めるため、一定の債務を承継対象から外せる場合があります。ただし、買い手が補償や価格調整を求めることもあります。

売り手としては、簿外債務の懸念が大きい場合、事業譲渡が選択肢になることがある点を理解しておくことが重要です。ただし、手続きや税金は株式譲渡と異なります。事業譲渡については、以下の記事でも詳しく解説しています。

事業譲渡とは何か?オーナー経営者が知っておくべき基本と実務ポイント

表明保証・補償条項・開示別紙でリスク分担を明確にする

契約の表明保証、補償条項、開示別紙は、簿外債務リスクの分担を明確にする手段になります。売り手が会社の状態を表明保証し、クロージング後に未開示の簿外債務が判明した場合の補償範囲、上限、期間、免責、既知事項の扱いをあらかじめ取り決めておきます。これにより、当事者の間で簿外債務のリスクの分担を明確にしやすくなります。

売り手としては、表明保証の範囲や補償の条件が、自社にとって過度に重くなっていないかを確認することが重要です。条項の内容は、弁護士などの専門家に確認することが望ましいです。

売り手が事前にできる簿外債務の対策

簿外債務には、売り手が事前にできる対策もあります。取引の仕組みに頼るだけでなく、自ら動くことで、リスクを抑えられます。主な対策は以下の通りです。

  • 簿外債務・潜在リスクを正確に把握する
  • 解消・是正できる債務は売却前に整理する
  • 買い手に適切な範囲・タイミングで開示する

それぞれを順に解説します。

簿外債務・潜在リスクを正確に把握する

最初に行うべきは、自社にどのような簿外債務、未払債務、偶発債務、潜在的な労務・税務・法務リスクがあるかを正確に把握することです。未払いの残業代や社会保険料、保証債務、引当金の不足など、項目ごとに確認します。

売り手としては、自社だけでは気づきにくい債務もあるため、税理士、公認会計士、弁護士、社会保険労務士、M&Aアドバイザーなどと連携して把握することが重要です。早めに把握できれば、解消や開示の準備に時間を確保できます。

解消・是正できる債務は売却前に整理する

把握した簿外債務のうち、解消・是正できるものは、売却前に整理しておくことが望ましいです。未払いの残業代や社会保険料を支払う、不要な保証を解除するなど、減らせる債務を減らしておきます。簿外債務を整理することで、買い手がリスクを評価しやすくなり、条件交渉を進めやすくなる場合があります。

売り手としては、解消に時間がかかる債務もあるため、早めに着手することが重要です。売却の直前では整理が間に合わず、価格や交渉に影響することがあります。

買い手に適切な範囲・タイミングで開示する

解消しきれない簿外債務や潜在リスクは、守秘や交渉段階を踏まえ、適切な範囲・タイミングで買い手に開示することが重要です。開示を怠ると、デューデリジェンスで指摘された際に買い手の信頼を損ない、価格見直しや交渉停止につながる可能性があります。あらかじめ適切に開示しておけば、買い手がリスクを織り込んで検討しやすくなり、売却後のトラブルを抑えられる場合があります。

売り手としては、重要性のある事項は、開示別紙やデューデリジェンス資料で整理して説明することが重要です。計上漏れの内容と金額を先に示せば、買い手は実態を踏まえて検討でき、調査で後から見つかって不信を招くより、条件調整を進めやすくなる場合があります。

簿外債務の把握から整理、開示までを売り手の立場で進めるには、税理士、公認会計士、弁護士、社会保険労務士、M&Aアドバイザーなどの専門家がいると進めやすくなります。売り手専属のFA(ファイナンシャル・アドバイザー)の役割については、以下の記事でも詳しく解説しています。

M&AにおけるセルサイドFAとは?業務内容や仲介との違いも解説

まとめ

簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない債務です。未払いの残業代や社会保険料、保証債務などの偶発債務、引当金の計上不足などがあり、決算書だけでは把握しにくく、注記・契約書・労務資料・税務資料まで確認が必要になる点が特徴です。M&Aでは、株式譲渡の場合に対象会社に残り、買い手が経済的にリスクを負うことになり、発覚すると価格見直しや補償請求につながる可能性があります。

特に売り手にとっては、以下のような論点を踏まえたうえで備えることが重要です。

  • 自社にどのような簿外債務があるかを、正確に把握すること
  • 解消できる債務は、売却の前に整理しておくこと
  • 解消しきれない債務は、買い手に隠さず開示すること
  • 表明保証や補償の条件が、過度に重くなっていないか確認すること

簿外債務は、対策をとらなければM&Aのつまずきになりますが、早めに把握して整理・開示すれば、リスクを抑えられる場合があります。隠さずに対応を進めることが、買い手がリスクを評価しやすくなり、M&Aを円滑に進めるうえで重要です。安心してM&Aを進めるためには、早い段階から売り手の立場で支援できる専門家と連携し、簿外債務の把握から対策までを一緒に進めていくことが、納得のいく結果につながりやすくなります。

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この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ株式会社 )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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