M&Aでみなし配当は発生する?課税の仕組みや手取りへの影響を売り手目線で解説
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- M&Aの基礎
公開日:2026.06.29
2026.06.29
更新日:2026.06.29
2026.06.29
M&Aや事業承継で自社株を現金化する際、その方法によっては「みなし配当」が生じ、税負担が変わることがあります。みなし配当とは、会社から株主に金銭その他の資産が交付された場合に、その交付額のうち資本金等の額に対応する部分を超える金額が、配当とみなされて課税される仕組みです。会社法上の配当ではなくても、税務上は配当として扱われます。
特に売り手にとっては、みなし配当が生じるかどうかで、所得区分や課税方法が変わり、手取りに影響します。みなし配当は、第三者への通常の株式譲渡とは異なる課税関係になるため、所得状況によっては税負担が重くなる場合があります。
本記事では、M&Aでみなし配当が発生するケースと発生しないケースに加え、譲渡所得との税負担の違いや、売り手が注意すべき点まで解説します。
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みなし配当とは
みなし配当とは、会社が株主に金銭その他の資産を交付した際に、その金額のうち一定の部分が、配当を受け取ったものとみなされて課税される仕組みです。個人株主については所得税法、法人株主については法人税法で定められており、会社法上の配当には当たらなくても、個人株主については、税務上、配当所得として扱われる部分が生じます。
具体的には、会社が株主に交付した金額のうち、原則として、交付額のうち資本金等の額に対応する部分を超える金額が、みなし配当となります。税務上、資本の払戻しを超える部分は、利益の分配に相当すると捉えられるためです。
個人株主が非上場会社等からみなし配当を受ける場合、原則として配当所得として総合課税の対象になります。上場株式等の配当等では、要件により申告分離課税や申告不要制度を選択できる場合があります。
M&Aでは、自社株や会社財産の現金化の仕方によって、みなし配当が生じる場合と生じない場合があります。みなし配当が生じると、第三者への株式譲渡に比べて税負担が重くなることがあるため、売り手としては、想定するM&Aスキームで、みなし配当の論点が生じるかどうかを、あらかじめ確認しておくことが重要です。
※参考:e-Gov法令検索「所得税法」
M&Aでみなし配当が発生するケース
M&Aや事業承継では、一定の場面でみなし配当が発生することがあります。どのような場面で生じるかを知っておくと、税負担を見越して準備できます。主なケースは以下の通りです。
- 自己株式の取得(自社株買い)
- 会社の解散と残余財産の分配
- 非適格の組織再編等による金銭その他の資産交付
それぞれを順に解説します。
自己株式の取得(自社株買い)
会社が株主から自社株式を取得する場合、交付額が資本金等の額に対応する部分を超えると、みなし配当が発生することがあります。会社が支払う金額のうち、資本金等の額に対応する部分を超える金額が、配当とみなされて課税されます。事業承継などで、オーナー株主が自社株を発行会社に買い取ってもらう場合に問題になりやすいケースです。
売り手としては、自社株を発行会社に買い取ってもらう場合、みなし配当が生じる可能性がある点を理解しておくことが重要です。第三者に株式を譲渡する場合とは、所得区分や課税方法が変わる可能性があります。
会社の解散と残余財産の分配
会社を解散し、残余財産を株主に分配する場合も、分配額が資本金等の額に対応する部分を超えると、みなし配当が発生することがあります。分配額のうち、資本金等の額に対応する部分を超える金額が、配当とみなされます。清算時に、資本の払戻しを超える利益相当部分が株主に分配されたものと扱われるためです。
売り手としては、廃業や清算で会社をたたむ場合にも、残余財産の分配額によってはみなし配当が生じる点を理解しておくことが重要です。会社を売却する場合と、たたむ場合とでは、税負担が変わることがあります。
非適格の組織再編等による金銭その他の資産交付
合併、分割型分割、株式分配、組織変更などで、株主に株式以外の金銭その他の資産が交付される場合、みなし配当や株式等の譲渡所得等が問題になることがあります。交付された金銭その他の資産のうち、資本金等の額に対応する部分を超える金額が、配当とみなされる場合があるためです。
売り手としては、組織再編を用いる場合、適格・非適格の区分、交付対価の内容、株主に交付される資産の内容によって、課税関係が変わる点を理解しておくことが重要です。適格か非適格かの判断は、専門家に確認することが望ましいです。
M&Aでみなし配当が発生しないケース
一方で、M&Aの中には、みなし配当が発生しないケースもあります。発生しない場合でも、株式等の譲渡所得等として課税されることがあります。主なケースは以下の通りです。
- 第三者への通常の株式譲渡
- 適格組織再編等で株式のみを受け取る場合
それぞれを順に解説します。
第三者への通常の株式譲渡
売り手が保有する株式を第三者である買い手に譲渡する通常の株式譲渡では、会社から株主への金銭交付ではないため、原則としてみなし配当は発生しません。発行会社から株主に金銭その他の資産が交付される取引ではなく、株主と第三者との株式売買だからです。受け取った対価は、通常、株式等の譲渡所得等として申告分離課税の対象になります。
売り手としては、第三者への株式譲渡であれば、みなし配当が生じず、株式等の譲渡所得として課税される点を理解しておくことが重要です。中小企業のM&Aで用いられることが多い方法です。株式譲渡の仕組みについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
M&Aにおける株式譲渡とは?メリットや注意点、手続きの流れを解説
適格組織再編等で株式のみを受け取る場合
合併や会社分割などの組織再編でも、税務上の一定の要件を満たす適格組織再編等で、株主が株式のみを受け取る場合には、課税が繰り延べられることがあります。株式以外の金銭その他の資産が交付されないなど、一定の要件を満たす場合に課税繰延べの扱いとなるためです。再編の前後で、株主の立場が引き継がれると捉えられます。
売り手としては、適格組織再編等では、対価の内容や要件によって課税関係が大きく変わる点を理解しておくことが重要です。適格の要件を満たすかどうかで、課税の扱いが変わります。
みなし配当と譲渡所得の税負担の違い
みなし配当と譲渡所得では、課税のされ方が異なり、税負担にも差が生じます。違いを理解しておくことが、手取りを見据えるうえで重要です。主な違いは以下の通りです。
- みなし配当部分の配当所得としての課税
- 株式等の譲渡所得等としての課税
- 売り手の手取りへの影響
それぞれを順に解説します。
みなし配当部分の配当所得としての課税
個人株主のみなし配当部分は、原則として配当所得として課税されます。配当所得は原則として総合課税の対象ですが、上場株式等の配当等では一定の場合に申告分離課税や申告不要制度を選択できる場合があります。総合課税では、他の所得と合算され、累進税率の影響を受けます。所得が大きい場合には、税負担が高くなることがあります。
売り手としては、みなし配当が総合課税の対象となり、所得が多いほど税負担が重くなりやすい点を理解しておくことが重要です。ほかの所得と合算されるため、想定より税負担が大きくなることがあります。
株式等の譲渡所得等としての課税
第三者への株式譲渡で生じる譲渡所得は、ほかの所得と分けて税額を計算する申告分離課税の対象です。株式等の譲渡所得等は、申告分離課税により、所得税・復興特別所得税15.315%と住民税5%を合わせた20.315%で課税されるのが基本です。他の所得と区分して、原則として一定税率で計算される点が特徴です。
売り手としては、株式等の譲渡所得等が申告分離課税で計算される点を理解しておくことが重要です。非上場会社の個人オーナーなどでは、みなし配当部分の総合課税に比べて、税負担が軽くなることがあります。株式の譲渡所得にかかる税金については、以下の記事でも詳しく解説しています。
「税引後の売却対価」はいくら?個人・法人の「株式の譲渡所得」にかかる税金
売り手の手取りへの影響
みなし配当部分の配当所得と、株式等の譲渡所得等では、同じ総額を受け取っても、どの部分が配当所得・譲渡所得等に区分されるかで税負担が変わることがあります。他の所得が大きい場合、総合課税となるみなし配当部分の税負担が、株式譲渡の申告分離課税より重くなることがあります。どの方法で現金化するかが、手取りの差につながります。
売り手としては、現金化の方法によって手取りが変わる点を理解しておくことが重要です。税負担を抑えるには、自己株式取得、第三者への株式譲渡、清算、組織再編などのスキームごとに税務を試算し、自社の状況に合った方法を選ぶことが重要です。
みなし配当で売り手が注意すべき点
みなし配当には、売り手が見落としやすい点もあります。事前に把握しておくことで、税負担への備えができます。主な注意点は以下の通りです。
- 現金化の手法によって所得区分と税負担が変わる
- 自社株買いはみなし配当が生じる場合がある
- 相続した非上場株式にはみなし配当課税の特例がある
それぞれを順に解説します。
現金化の手法によって所得区分と税負担が変わる
同じように会社や自社株を現金化する場合でも、用いる手法によって、みなし配当が生じるかどうかが変わり、税負担も変わります。第三者への株式譲渡では株式等の譲渡所得等、自社株買いではみなし配当部分と譲渡所得等部分に区分される場合があるように、課税のされ方が異なります。手法の選び方が、税引後の手取りに影響します。
実際に、当社が実施した調査では、富裕層への課税強化をきっかけに、事業承継のためのM&Aを前倒しで考える経営者が増えていることがうかがえます。売り手としては、税負担を意識して、手法やタイミングを早めに検討することが重要です。
※参考:PR TIMES「富裕層課税強化をきっかけに、事業承継M&Aの前倒しを意識する層が約半数」
自社株買いはみなし配当が生じる場合がある
自社株買いによる現金化では、みなし配当部分が生じる場合があり、第三者への株式譲渡とは税負担が異なる点に注意が必要です。申告分離課税で一定税率により計算される第三者への株式譲渡に比べ、総合課税となるみなし配当部分は、他の所得が大きいほど負担が重くなることがあります。
売り手としては、自社株を会社に買い取ってもらう前に、税負担がどうなるかを確認することが重要です。第三者への譲渡、組織再編、清算など、他の方法と比較して判断することが望ましいです。
相続した非上場株式にはみなし配当課税の特例がある
相続または遺贈により取得した非上場株式を発行会社に譲渡する場合、一定の要件と届出により、その譲渡対価の全額を非上場株式の譲渡所得の収入金額として扱う特例があります。相続税の納付税額があること、譲渡日までに所定の届出書を発行会社へ提出することなどの要件があり、事業承継の場面で用いられることがあります。
売り手としては、相続した自社株を現金化する場合、こうした特例が使える可能性がある点を理解しておくことが重要です。適用には要件があるため、国税庁の手続案内や租税特別措置法上の要件を踏まえ、税理士などの専門家に確認することが望ましいです。
みなし配当を含め、M&Aにかかる税金は、現金化の方法によって変わります。M&Aにかかる税金・手取りの全体像については、以下の記事でも詳しく解説しています。
まとめ
みなし配当とは、会社から株主に金銭などが交付された際に、その一部が配当とみなされて課税される仕組みです。M&Aでは、自社株買いや会社の解散による残余財産の分配などで生じる場合がある一方、第三者への通常の株式譲渡では原則として生じず、株式等の譲渡所得等として課税されます。
特に売り手にとっては、以下のような論点を踏まえたうえで進めることが重要です。
- 自社のM&Aスキームで、みなし配当が発生するかどうかを確認すること
- 個人株主の非上場株式等に係るみなし配当部分は原則として総合課税で、株式等の譲渡所得等より税負担が重くなる場合があること
- 現金化の方法によって、税負担と手取りが変わること
- 相続または遺贈により取得した非上場株式には、発行会社への譲渡時にみなし配当課税の特例が使える場合があること
みなし配当が生じるかどうかは、会社や自社株をどう現金化するかによって変わり、売り手の手取りに影響します。税負担を踏まえて方法を選ぶことで、税引後の手取りを見通しやすくなる場合があります。納得のいくM&Aを実現するためには、早い段階から売り手の立場で支援できる専門家と連携し、税務を含めて手取りを見据えた準備を進めていくことが、よりよい結果につながりやすくなります。
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