EV/EBITDA倍率とは?計算方法や目安、業種別の平均を売り手目線で解説
公開日:2026.06.29
2026.06.29
更新日:2026.06.29
2026.06.29
M&Aで自社を売却する際、買い手が企業価値をどのように評価するかは、売り手にとって特に気になる点の一つです。その評価で用いられる代表的な指標の一つが、EV/EBITDA倍率です。EV/EBITDA倍率とは、企業価値(EV)が、EBITDAの何倍にあたるかを示す指標で、M&Aの場面では、企業価値や買収価格水準の妥当性を測る目安として用いられます。
特に売り手にとっては、この倍率の意味を理解しているかどうかで、提示された価格水準を判断しやすくなります。買い手の評価ロジックを知らないまま交渉に入ると、自社の収益力や成長性が十分に反映されない条件を受け入れてしまう可能性があります。
本記事では、EV/EBITDA倍率の意味と計算方法に加え、業種別の考え方や目安、売り手が評価額を高めるために準備できることまで解説します。
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EV/EBITDA倍率とは
EV/EBITDA倍率は、企業価値が本業の利益の何倍にあたるかを示す指標で、M&Aや株式投資の場面で企業の評価に用いられます。仕組みを理解するには、「EV」と「EBITDA」という2つの要素に分けて押さえることが重要です。主な論点は以下の通りです。
- EV/EBITDA倍率の意味
- EVの意味
- EBITDAの意味
それぞれを順に解説します。
EV/EBITDA倍率の意味
EV/EBITDA倍率とは、企業価値(EV)をEBITDAで割って算出する指標で、企業を買収した場合に、EBITDAを基準として投資回収年数を簡便的に見るための目安です。たとえば倍率が5倍であれば、EBITDAの5年分に相当する企業価値として評価されていると捉えられます。
売り手としては、この倍率が自社の企業価値評価に影響する点を理解しておくことが重要です。買い手は、EBITDAに類似会社や類似取引を踏まえた倍率を掛けて企業価値を見積もることがあるため、同じEBITDAでも倍率が高く評価されれば、企業価値評価が高まり、結果として売り手の受取対価にプラスに働く可能性があります。
EVの意味
EV(Enterprise Value)とは、日本語で企業価値と呼ばれ、株主価値だけでなく有利子負債なども含めて企業全体の価値を表す指標です。上場企業では、株式時価総額に有利子負債を加え、現預金などを差し引いて求めるのが一般的です。非上場企業のM&Aでは、株式価値と純有利子負債の調整によって整理されます。株主価値だけでなく、有利子負債なども含めた企業全体の価値を示す点が特徴です。
売り手にとって重要なのは、EVと株式価値は異なるという点です。一般に、株主が受け取る金額は、EVから有利子負債を差し引き、現預金などを加味して算定されます。株主が最終的に受け取る金額は、EVから純有利子負債などを調整したうえで決まることになります。
EBITDAの意味
EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)とは、利息・税金・減価償却費および無形資産償却費を控除する前の利益を指します。営業利益に減価償却費を足し戻して求めるのが一般的で、本業の収益力や簡易的なキャッシュ創出力を見るための指標として使われます。
EBITDAは、金利水準や税制、減価償却方法の違いによる影響を一定程度除いた利益指標であるため、企業間の収益力を比較しやすい指標として使われます。
EV/EBITDA倍率の計算方法
EV/EBITDA倍率は、EVとEBITDAをそれぞれ求めたうえで、両者を割ることで計算します。手順を分けて理解しておくと、自社のおおよその倍率を把握しやすくなります。主な内容は以下の通りです。
- EV/EBITDA倍率の計算式
- EVとEBITDAの計算方法
- EV/EBITDA倍率の計算例
それぞれを順に解説します。
EV/EBITDA倍率の計算式
EV/EBITDA倍率は、EV(企業価値)をEBITDAで割って求めます。計算式は「EV/EBITDA倍率=EV÷EBITDA」とシンプルで、分子に企業価値、分母にEBITDAを置く形です。
売り手としては、この式の分母であるEBITDAや、株式価値に影響する純有利子負債などは、自社の取り組みによって改善できる余地がある点を意識しておくことが重要です。EBITDAを高め、不要な負債や非事業用資産を整理することで、株式価値や売り手の受取対価にプラスに働く可能性があります。
EVとEBITDAの計算方法
EVは、一般に株式価値に有利子負債を加え、現預金などを差し引いて求めます。非上場企業の場合は市場で形成される時価総額がないため、類似上場企業や類似取引の倍率などを参考に企業価値を見積もることがあります。EBITDAは、営業利益に減価償却費や無形資産償却費を足し戻して計算するのが一般的です。
売り手にとっては、EBITDAの計算において、本業と関係のない費用、一過性損益、オーナー個人に紐づく経費などをどう調整するかが評価額に影響します。これらを適切に調整したうえで計算することで、自社の本来の収益力を示しやすくなります。
EV/EBITDA倍率の計算例
たとえば、ある企業のEBITDAが2億円で、同業の上場企業や類似取引を参考にしたEV/EBITDA倍率が6倍だったとします。この場合、企業価値(EV)は「2億円×6倍=12億円」と算定されます。ここから有利子負債を差し引き、現預金などを加味することで、株主が受け取る株式価値の目安が算出されます。
売り手としては、自社のEBITDAと業種の倍率の目安を参考にすることで、おおよその企業価値や株式価値を試算できます。
自社の株価の目安を簡易的に確認したい場合は、以下のシミュレーターも活用できます。
EV/EBITDA倍率の目安と考え方
EV/EBITDA倍率は、企業の規模や業種によって目安となる水準が異なります。自社がどのような倍率水準で評価される可能性があるかを知る目安として押さえておくとよいでしょう。なお、本記事の倍率は一般的な目安として整理したものであり、実際の評価倍率は案件ごとに異なります。主な目安は以下の通りです。
- 上場企業のEV/EBITDA倍率の考え方
- 中小企業のEV/EBITDA倍率の考え方
- 業種別の目安
それぞれを順に解説します。
上場企業のEV/EBITDA倍率の考え方
上場企業のEV/EBITDA倍率は、業種、成長性、利益率、市場環境によって異なります。上場企業は流動性や情報開示の面で非上場企業より比較しやすく、相対的に高い倍率で評価される場合があります。市場環境や業績の見通しによっても変動します。
売り手として知っておきたいのは、上場企業の倍率は、そのまま中小企業のM&A評価に当てはめにくいという点です。中小企業の売却では、同じ業種でもこれより低い倍率になりやすいため、上場企業の数値をそのまま自社に当てはめないことが重要です。
中小企業のEV/EBITDA倍率の考え方
中小企業のM&Aでは、上場企業よりも低いEV/EBITDA倍率で評価される場合があります。上場企業より低くなる主な理由は、株式の流動性が低いこと、特定の経営者や取引先への依存度が高いこと、情報開示の体制が整っていないことなどです。買い手はこうしたリスクを織り込んで評価するため、倍率が抑えられる要因になります。
売り手としては、なぜ自社の倍率が抑えられやすいのかを理解しておくことが、評価を高める準備につながります。属人性を下げ、収益の安定性を示せる状態を整えることで、評価上プラスに働く可能性があります。
業種別の目安
EV/EBITDA倍率は、業種の成長性や収益構造によっても目安が変わります。成長性が高い業種や、安定収益を見込みやすい業種では、相対的に高い倍率で評価される場合があります。代表的な業種の傾向は以下の通りです。
| 特徴 | 倍率の傾向 |
| 成長性が高い業種(IT・ソフトウェアなど) | 高くなりやすい |
| 安定した収益が見込みやすい業種(インフラ・生活関連など) | 中程度で安定しやすい |
| 景気変動や設備投資負担の影響を受けやすい業種(製造・建設など) | 低め・変動しやすい |
売り手としては、自社が属する業種の傾向を踏まえつつ、同じ業種の中でも収益の安定性や強みによって倍率が変わる点を意識することが重要です。業種の平均だけで判断せず、自社固有の収益安定性、成長余地、顧客基盤、属人性の低さなどをどう示すかが評価に影響します。
EV/EBITDA倍率の見方
EV/EBITDA倍率は、数値そのものだけでなく、その値が何を意味するかを理解することで、評価の妥当性を判断しやすくなります。主な見方は以下の通りです。
- 買収回収年数としての見方
- 倍率が高い・低い場合の見方
それぞれを順に解説します。
買収回収年数としての見方
EV/EBITDA倍率は、買収にかけた企業価値を、EBITDAの何年分で見ているかを示す簡易的な指標として読むことができます。倍率が5倍であれば、EBITDAの5年分に相当する企業価値として評価されていると捉えられます。買い手は、この簡易的な回収年数に加え、成長性、リスク、投資負担、シナジーなどを踏まえて買収価格の妥当性を検討します。
売り手としては、買い手が回収年数という観点で価格を見ていることを理解しておくと、交渉の見通しを立てやすくなります。回収年数が短く見えるほど買い手にとって魅力的に映る場合がありますが、安定してEBITDAを生み出せる体制を示すことが、評価上プラスに働きます。
倍率が高い・低い場合の見方
EV/EBITDA倍率が同業他社や類似取引より高い場合は、EBITDAに対して企業価値が高く評価されている状態を表します。成長への期待が大きい企業ほど倍率は高くなりやすく、その分、回収年数も長くなります。一方、倍率が低い場合は、EBITDAに対して企業価値が低く評価されている状態を示します。ただし、割安かどうかは成長性やリスクも踏まえて判断する必要があります。
売り手としては、自社の倍率が低めに出ているからといって、それが自社の評価余地の限界を意味するわけではない点を理解することが重要です。属人性の高さや一時的な業績の落ち込みが倍率を押し下げている場合は、準備によって評価改善を目指せる余地があります。
自社にどの程度の価値がつくかは、以下の記事でも詳しく解説しています。
うちの会社、結局いくらで売れるの?~事業オーナーの疑問に答えるコラム①~
EV/EBITDA倍率と他の評価指標との違い
EV/EBITDA倍率のほかにも、企業の評価に使われる指標は複数あります。それぞれ評価の対象や前提が異なるため、違いを理解して使い分けることが重要です。代表的な指標との違いは以下の通りです。
| 指標 | 評価の対象 | 特徴 |
| EV/EBITDA倍率 | 企業価値と本業の利益 | 負債も含めた企業価値を評価。資本構成や減価償却方法の違いを一定程度ならして比較しやすい |
| PER(株価収益率) | 株価と純利益 | 株主の視点。税金や金利、資本構成の影響を受けやすい |
| PBR(株価純資産倍率) | 株価と純資産 | 純資産を基準に株式価値の水準を見る |
| DCF法 | 将来のキャッシュフロー | 将来計画を反映しやすい一方、前提の置き方で結果が大きく変わる |
売り手としては、買い手がどの指標を重視しているかによって、評価のされ方が変わる点を理解しておくことが重要です。EV/EBITDA倍率は負債を含めた企業全体を評価するため、有利子負債や現預金が株式価値に与える影響を把握しておくことが、交渉の準備につながります。
EV/EBITDA倍率を使うときの注意点
EV/EBITDA倍率は便利な指標ですが、すべての企業にそのまま当てはめられるわけではありません。使ううえで押さえておきたい注意点があります。主な注意点は以下の通りです。
- 無借金・赤字企業では使いにくい点
- 単独の指標として使わない点
- EBITDAの正常化が必要な点
それぞれを順に解説します。
無借金・赤字企業では使いにくい点
EBITDAが赤字の企業では、EV/EBITDA倍率を計算しても意味のある数値になりません。分母がマイナスになり、倍率自体が評価指標として機能しにくくなるためです。また、現預金が多い企業ではEVが小さく算出され、倍率だけを見ると事業価値を正しく把握しにくい場合があります。
売り手としては、自社がこうしたケースに当てはまる場合、EV/EBITDA倍率だけで価値を判断されると、自社の実態が十分に反映されない場合があります。ほかの評価方法や保有資産の価値も含めて評価してもらう準備が必要になります。
単独の指標として使わない点
EV/EBITDA倍率は、EBITDAを基準にした指標であり、企業のすべての側面を反映するわけではありません。たとえば、保有する不動産の含み益、将来の成長性、設備投資負担、運転資本、簿外債務といった要素は、この倍率だけでは捉えきれません。
売り手としては、EV/EBITDA倍率を一つの目安としつつ、ほかの評価方法とあわせて総合的に判断してもらうことが望ましいです。自社の強みが倍率に表れにくい場合は、それを別の形で示す準備をしておくことが重要です。
EBITDAの正常化が必要な点
中小企業のEBITDAには、オーナーに紐づく報酬、私的経費、一過性損益、本業と関係のない損益が含まれていることが少なくありません。これらをそのままにして倍率を計算すると、本来の収益力が正しく反映されない場合があります。そこで必要になるのが、こうした要素を調整する「EBITDAの正常化」です。
売り手としては、正常化によって本来の収益力を示すことで、評価額の改善につながる余地があります。どの費用を調整できるかは専門的な判断を要するため、デューデリジェンスの観点を踏まえて整理しておくことが重要です。
EBITDAの調整にも関わるデューデリジェンスについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)とは?目的や流れ、売り手側のポイントを解説
売り手がEV/EBITDA倍率を高めるために準備できること
EV/EBITDA倍率は、売り手の準備によって高められる余地があります。当社の調査では、M&A経験者の9割以上が取引に何らかの後悔を感じており、売り手と買い手の情報格差が後悔の一因になっている可能性が示されています。買い手の評価ロジックを理解し、評価を高める準備を進めることが、納得できる売却につながります。
※参考:PR TIMES「M&A経験者の9割以上が『後悔あり』。売り手と買い手の情報格差がトラブルの引き金に」
評価を高めるための主な取り組みは以下の通りです。
- EBITDAを正常化する
- 余剰資金や非事業用資産を整理する
- 売り手の立場で評価を守れる支援者を選ぶ
それぞれを順に解説します。
EBITDAを正常化する
評価額を高めるうえで有効なのが、自社のEBITDAを正常化することです。オーナーへの役員報酬、私的経費、一過性損益、本業と関係のない一時的な損益を調整することで、本来の収益力を数値で示せるようになります。買い手は正常化後のEBITDAを参考に倍率を当てはめることがあるため、調整根拠の明確さが評価に影響します。
売り手としては、決算書上の数字をそのまま提示するのではなく、調整の根拠を説明できる状態にしておくことが重要です。根拠が明確であれば、買い手も安心して評価しやすくなります。
余剰資金や非事業用資産を整理する
EV/EBITDA倍率を通じて算出されるEVから、有利子負債や現預金などを調整して株式価値を算出します。本業に使われていない余剰資金や、事業と関係のない不動産・有価証券などの非事業用資産を整理しておくことで、本業の価値と非事業用資産の価値を分けて説明しやすくなります。
売り手としては、これらの非事業用資産を売却前に整理しておくことで、本業の価値を正しく評価してもらいやすくなります。資産の取り扱いによって売り手の受取対価が変わるため、整理の方法は事前に検討しておくことが望ましいです。
売り手の立場で評価を守れる支援者を選ぶ
EV/EBITDA倍率の交渉では、買い手は、投資回収やリスクを踏まえて価格を提示します。これに対して、売り手の立場で評価額を検証し、条件交渉を支援できる専門家がいるかどうかは、交渉結果に影響します。M&Aの支援者には、売り手・買い手の間に立つ仲介会社と、売り手または買い手の一方に助言するFA(ファイナンシャル・アドバイザー)があります。
FAは依頼者の側に立って助言するため、売り手専属のFAであれば、利益相反が起こりにくい構造で、売り手側の観点から評価や条件を検討しやすくなります。売り手専属のFAの役割については、以下の記事でも詳しく解説しています。
M&AにおけるセルサイドFAとは?業務内容や仲介との違いも解説
まとめ
EV/EBITDA倍率は、企業価値がEBITDAの何倍にあたるかを示す指標で、M&Aの場面では企業価値や買収価格水準の妥当性を測る目安として使われます。計算方法や業種別の目安を理解しておくことで、自社がどの程度の水準で評価される可能性があるかを把握しやすくなります。
特に売り手にとっては、以下のような論点を踏まえたうえで準備を進めることが重要です。
- EV/EBITDA倍率の意味と計算方法を理解すること
- 自社の業種・規模・収益安定性に応じた評価の考え方を把握すること
- EBITDAの正常化で本来の収益力を示すこと
- 売り手の立場で評価を守れる支援者と連携すること
EV/EBITDA倍率を用いた評価では、売り手の準備や支援者の選び方によって、評価水準が変わる場合があります。買い手の評価ロジックを理解し、早い段階から売り手の立場に立てる専門家とともに準備を進めることで、自社の価値を適切に評価してもらいやすくなります。
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