空調衛生工事業界のM&A事情を詳しく解説!業界動向や事例もあわせて紹介

2025.03.11

公開日:2025.03.11

2025.03.11

2026.01.01

更新日:2026.01.01

2026.01.01

空調衛生工事業界のM&A事情を詳しく解説!業界動向や事例もあわせて紹介

近年、空調衛生工事業界では、再開発の進展を背景に需要が高まっています。一方で、深刻な人材不足や後継者不在といった課題も顕在化しています。こうした問題を解決する有効な手段として、M&Aが注目されています。

では、具体的に空調衛生工事業界のM&A事情はどうなっているのでしょうか。本記事では、最新の空調衛生工事業界のM&A事情を解説します。さらに、空調衛生工事業界におけるM&Aのメリットや事例も紹介しているため、M&Aを考えている方はぜひ参考にしてください。

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空調衛生工事業界とは?業界の現状を解説

空調衛生工事業界の動向

空調衛生工事業界は、建物の快適な環境を維持するために欠かせない存在です。オフィスや住宅において、適切な温度調整や給排水の管理は生活の質を左右します。

空調衛生工事業界の定義や、現在の市場を取り巻く動向について詳しく解説します。

空調衛生工事業界の定義

空調衛生工事業界は、建物内の空気調和や給排水といったライフラインの整備を担う業界です。具体的には、エアコンなどの空調設備の設置工事や、キッチン・トイレに関わる給排水配管工事などが含まれます。

人々が室内で健康かつ快適に過ごすためのインフラを支える役割を担っており、社会的な貢献度は極めて高いといえるでしょう。この業界の業務は、建物新築時の施工にとどまりません。設置した設備を長期間にわたって安全に使用するための、保守点検や修理も重要な事業領域です。

近年では、建物全体のエネルギー効率向上を目的としたコンサルティング業務も含まれるようになりました。生活基盤を支えながら、環境負荷の低減にも寄与する専門性の高い職種といえます。

空調衛生工事業界の動向

空調衛生工事業界は、都市再開発や老朽化したビルの更新需要を背景に、底堅く推移しています。一方で、業界内では深刻な人手不足や技術者の高齢化が、重要な経営課題となっています。現場作業の効率化を図るため、デジタル技術を活用した施工管理システムの導入が、急速に進んでいる状況です。

また、環境負荷の低減を目的とした脱炭素化の流れが、新たなビジネスチャンスを創出しています。従来設備を省エネルギー性能の高い最新機器へ更新するリニューアル案件が、市場を牽引する存在となりました。このように、従来の工事請負型ビジネスから、付加価値の高い提案型ビジネスへと、業界全体が移行しつつあります。

空調衛生工事業界の市場規模

国土交通省「建設工事施行統計調査報告」によると、空調衛生工事に含まれる管工事の2023年の受注高総計は9兆3,558億円ほどです。詳しく見ると、元請受注高が4兆1,655億円ほど、下請受注高が5兆1,902億円ほどとなっています。

今後は、首都圏の再開発や老朽化した建物の建て替えなども含めて需要が拡大すると予想できるでしょう。

しかし、職人の高齢化が進んでいるとともに、若い人材が入ってこないことによる人手不足が深刻な問題となっています。肉体労働のイメージから若者に敬遠されがちであり、教育体制が整っていないため、新人が入ってきても定着しないという問題も挙げられます。

さらに、空調衛生工事業界では多重下請け構造も問題のひとつです。実際に工事を請け負った会社から、下請け、孫請けなどのように仕事が降りていきます。実際に施工する現場には十分な取り分が入ってこないため、利益を出しにくい点が問題です。

サービス・運営形態の多様化

空調衛生工事業界では、提供するサービス内容や運営形態が多様化しています。従来のように依頼された工事のみを請け負うのではなく、設計から施工、アフターメンテナンスまでを一貫して担う体制が主流となりました。

顧客の負担を軽減するワンストップサービスの提供は、他社との差別化要因となっています。近年では、設備の稼働状況を常時監視し、最適なエネルギー運用を提案するサービスにも注目が集まっています。建物のライフサイクル全体を支えることで、顧客と長期的な関係を構築する企業が増えています。

また、特定の産業施設や用途に特化した高度な技術力を強みとする、専門特化型の運営形態も広がりを見せています。

高齢化社会の進展

経営者や熟練技術者の高齢化は、空調衛生工事業界において看過できない深刻な課題です。多くの企業が後継者不在に直面しており、これまで培ってきた独自の技術やノウハウが失われるリスクを抱えています。

若手人材の採用が進まない中、いかにして事業を次世代へ引き継ぐかが、企業の生き残りを左右する重要なポイントとなっています。一方で、高齢化社会の進展は、新たな設備需要を生み出す側面も持ち合わせています。

具体的には、バリアフリー化に伴う水回りの改修や、介護施設における高度な換気設備の導入ニーズが増加しています。医療・福祉分野における設備の重要性が高まる中、社会的要請に応える形で市場の活性化が進んでいます。

コロナ禍の影響

新型コロナウイルスの流行は、空調衛生工事業界に意識変革をもたらしました。室内の換気機能や空気清浄システムへの関心が飛躍的に高まり、オフィスや店舗からの相談が急増しています。衛生環境の整備が企業の責務として認識され、設備投資の優先順位が引き上げられた結果といえるでしょう。

一方で、負の影響として、世界的な部品供給の遅延が工期管理に大きな混乱を招きました。半導体不足の影響により、給湯器やエアコンの納品が遅れ、現場の進行が停滞する事態が相次いでいます。

こうした状況を受け、サプライチェーンの見直しや在庫管理の徹底など、リスク管理の重要性が改めて認識されるようになりました。

空調衛生工事業界のM&A動向とは?

空調衛生工事業界のM&A動向

空調衛生工事業界では、人材不足や後継者問題の解消を目的としてM&Aが実施されるケースが増えています。若い世代の人材不足に加え、団塊世代の引退も大きな影響を及ぼしています。

また、下請け構造や施工に必要な原料の高騰によってコストが増加しており、経営が厳しくなっている事業者も少なくありません。

経営難や後継者不足によって廃業を選択してしまうと、整理解雇や従業員の就職のサポートなどの負担が発生してしまいます。しかし、M&Aを実施すればそれらは必要なくなり、雇用の継続も可能です。

同業種間でのM&A

同業種間のM&Aでは、営業エリアの拡大や施工能力の強化を目的とした事例が多く見られます。近隣地域の企業を傘下に迎えることで、移動コストを抑えつつ、より効率的な現場管理が可能になります。

また、共通の仕入れ先を活用することで資材調達コストを引き下げるなど、規模のメリットを追求する動きも活発です。

さらに、特定資格を有する技術者の確保も大きな動機となっています。1級管工事施工管理技士などの有資格者が慢性的に不足しているため、組織力の強化を目的とした買収が戦略的に行われています。

企業規模を拡大することで、これまで対応が難しかった大規模な公共工事案件への参入を目指すケースも少なくありません。

異業種間でのM&A

異業種間のM&Aでは、建設業界の川上に位置するゼネコンや不動産会社が、設備工事会社を買収する動きが目立ちます。主要工程である空調・衛生工事を内製化することで、外注コストの削減と品質管理の強化を図る狙いがあります。

自社グループ内で施工から管理までの一貫体制を構築し、収益構造の改善を目指す戦略といえるでしょう。

また、IT業界やビルメンテナンス業界からの参入も増加しています。センサー技術を活用した遠隔監視・保守など、最新テクノロジーを空調設備と融合させることで、付加価値の高いサービス提供を実現しようとしています。

さらに、脱炭素関連ビジネスへの進出を計画するエネルギー企業が、施工機能の確保を目的として設備会社を買収する事例も増えています。

なお、空調衛生工事業界と親和性の高い分野として、電気工事業界におけるM&A動向についても、下記記事で詳しく解説しています。
電気工事業界のM&A事情を詳しく解説!業界動向や事例もあわせて紹介

空調衛生工事業界のM&Aの流れ

空調衛生工事業界のM&Aの流れ

空調衛生工事業界におけるM&Aの流れは、大きく分けて下記の3つのステップから構成されます。

1.M&Aの事前準備、助言会社の選定
2.譲渡候補先企業との接触、意向受領表明
3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング

それぞれ詳しくみていきましょう。

Step1.M&Aの事前準備、助言会社の選定

まず、M&Aの事前準備とM&A助言会社を選定します。

事前準備として、M&A助言会社と秘密保持契約を締結し、初期的な資料を開示します。秘密保持契約とは、自社の秘密情報を他社に開示する場合に、その情報を秘密に保持することを締結する契約です。

その上で、売却戦略をM&A助言会社と策定し、買い手候補先企業を優先順位ごとに並べたロングリスト(※1)を作成します。

譲渡の目的を満たすストラクチャー(※2)の検討や、譲渡完了に至るまでの全体のスケジュールについても事前準備の段階で検討します。

また、この段階でM&A助言会社とエージェント契約を締結します。

M&A助言会社を選定する際に注意しておきたいのが、仲介とFA(フィナンシャル・アドバイザー)の違いです。

仲介とは、いわゆるマッチングサービスのことで、売り手と買い手の双方とそれぞれ仲介契約を締結します。M&Aの当事者双方から依頼を受けているため、いずれか一方の利益のみを優先的に取り扱うことはできず、双方の意向を一元的に把握し、双方の共通の目的であるM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。また、手数料は売り手と買い手の双方から受領します。

それに対してFAとは、M&Aを実行するためのアドバイスを提供するサービスのことで、M&Aの当事者一方のみから依頼を受けます。M&Aの相手方(買い手候補先企業を含む。)に対して、依頼者に対して提供するのと同様の業務を提供することはありません。M&Aの当事者一方のみから依頼を受けているため、依頼者の意向を踏まえて、依頼者にとって有利な条件でのM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。

弊社では、売り手のみと契約を締結してM&Aを支援する専属エージェントサービス(売り手特化型FAサービス)を提供しており、手数料は依頼者である売り手のみから受領し、売り手の利益を最大化することを目指します。

また、譲渡戦略の策定と並行して、買い手候補先企業へ開示する資料準備も進めます。M&Aプロセスの初期に買い手候補先企業に対して開示する資料には、匿名の企業概要書(ティーザー(※3))、インフォメーション・パッケージ(※4)があります。

※1 ロングリスト:一定の条件で絞り込んだ買い手候補先の企業をまとめたリストのこと。
※2 ストラクチャー:M&Aを実行するための手段や方法のこと。
※3 ティーザー:匿名の企業概要書で、通常1枚から2枚で構成される資料のこと。
※4 インフォメーション・パッケージ:買い手候補先企業がM&Aを検討する際の参考資料。対象会社(事業)の魅力を伝え、買い手候補先企業が企業価値評価を実施できることを目的に作成される。

Step2.買い手候補先企業との接触、意向表明受領

次に、買い手候補先企業と接触します。

ロングリストに基づき、M&A助言会社が買い手候補先企業と接触し、ティーザーを開示します。その上で関心を示す相手に対して、秘密保持契約を締結した上でインフォメーション・パッケージを開示します。

対象会社(事業)の譲受を希望する買い手候補先企業は、売り手に対して意向表明書を提出します。意向表明書には、譲渡価格の水準や取引の前提条件、取引後の対象会社の運用方針などが記載されます。売り手はこれを検討・比較し、受け入れ(基本合意)可能かを判断します。

売り手においては、後述する詳細調査(デュー・デリジェンス:DD)のプロセスにおいて、対象会社の秘密情報が買い手候補先企業に開示されることになるため、DDを受け入れる前に納得感の得られる取引条件であることを確認することが非常に重要です。買い手候補先企業においても、DDにおける専門家起用の費用負担や多大な労力が生じるため、この段階で独占交渉権を求めることが一般的です。

そのため、基本合意を締結し、守秘義務や独占交渉権などを取り決めた上で、次のステップに進むことになります。

Step3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング

意向表明書を受理して基本合意書の締結をしたら、デュー・デリジェンス(DD)と呼ばれる詳細調査と最終契約締結・クロージングです。

M&Aにおいては、売り手と買い手との間に、情報の非対称性が必然的に生じます。この非対称性をできるだけ解消するために、買い手が実施する対象企業への調査がDDです。

買い手にとってDDには、以下のような目的があります。

・自社のM&A戦略に合致した事業かどうか詳細まで検討する
・定量化可能なDDの発見事項を、譲渡価格へ反映する
・定量化できないDDの発見事項を、最終契約書の条件へ反映し、リスクを遮断する
・M&Aの目的を達成するためのストラクチャーを検討する
・M&A実行後に必要な対応を明確化し、統合計画に反映させる

その後、最終契約締結に移ります。譲渡価格や契約条件を交渉し、双方が納得のいく形で契約を締結します。そしてM&A取引が実行され、対象の株式・事業の引き渡しをし、譲渡代金を支払って経営権の移転が完了します。

譲渡企業オーナーの譲渡を想定したより詳細なM&Aのプロセスは、以下の記事で解説していますので、ぜひご活用ください。
[M&Aのプロセス]

空調衛生工事業界のM&Aのメリットとは?5つを紹介

空調衛生工事業界のM&Aのメリット

空調衛生工事業界でM&Aを実施するメリットとして、以下の5つが挙げられます。

・事業を継続でき、従業員の雇用を守れる
・仕入先・取引先への影響を最小限に抑えられる
・隣接サービスとの事業シナジーを期待できる

・ブランド力・販売力を強化できる
・経営リスクを軽減し、事業承継をスムーズに進められる

それぞれ詳しくみていきましょう。

空調衛生工事業界のM&Aのメリット①:事業を継続でき、従業員の雇用を守れる

第三者への事業承継を選択せずに廃業を選択した場合は、従業員は職を失うことになり、新しい職を探す必要があります。また、経営者としては、従業員のために新しい職を見つけてあげるなどの対応をするケースも考えられます。

一方で、M&Aの実施により、従業員の雇用を継続でき、経営者は従業員に対する責任を果たせるでしょう。

空調衛生工事業界のM&Aのメリット②:仕入先・取引先への影響を最小限に抑えられる

事業承継において、廃業を選択した場合には、仕入先や取引先との契約を終了させる必要が出てきます。債権債務の整理など、さまざまな影響が自社および取引先に波及します。

一方で、M&Aを実施する場合、一般的には既存取引先との契約関係は引き継ぐことが多く、廃業による影響を最小限に抑えられます。

空調衛生工事業界のM&Aのメリット③:隣接サービスとの事業シナジーを期待できる

元請けや下請けなどが存在している構造では、特に下請けの業者は安定した利益確保が難しいケースが多くなっています。

しかし、管工事業は土木工事や電気工事などの隣接サービスを提供する会社と一緒になることで、ワンストップでまとまった工事を受注できるようになり安定した利益確保につながる可能性があります。

空調衛生工事業界のM&Aのメリット④:ブランド力・販売力を強化できる

大手企業グループに参画することで、自社のブランド力や信用力を短期間で高めることができます。知名度が向上すれば、これまで接点のなかった大手ゼネコンや官公庁からの受注機会が広がるでしょう。

買い手企業が有する広範な営業ネットワークを活用することで、営業活動の効率も飛躍的に向上します。

また、信用力の向上は人材採用の面でも大きなプラスに作用します。福利厚生や労働環境が整った大手グループの一員となることで、若手人材の確保がこれまで以上に進めやすくなります。個社では対応が難しかった大規模案件への入札も可能となり、企業としての評価やポジションを引き上げられる点は、大きなメリットといえるでしょう。

空調衛生工事業界のM&Aのメリット⑤:経営リスクを軽減し、事業承継をスムーズに進められる

M&Aを活用することで、経営者が抱えてきた個人保証の解除や資金繰りに対する不安を解消できます。資本力のある買い手企業の傘下に入ることで、突発的な事故や景気変動に対する耐性が高まり、経営の安定性が大きく向上します。不透明な将来リスクに備えつつ、強固な経営基盤を確保できるため、経営者の心理的負担も大幅に軽減されるでしょう。

また、親族内に後継者がいない場合であっても、事業を存続させ、従業員の雇用を確実に守ることが可能です。長年にわたり築き上げてきた技術や顧客との信頼関係を次世代へ引き継ぐ手段として、M&Aは極めて現実的な選択肢といえます。

さらに、引退時には創業者利益を得られるため、経済的な余裕を持ってセカンドライフへ移行できる点も大きな魅力です。

空調衛生工事業界のM&Aの相場

空調衛生工事業界のM&Aの相場

空調衛生工事業界の相場は、一概にいくらと明言できません。その企業の売り上げやブランド力、立地などさまざまな要素から判断されます。

これまでM&A仲介会社では年買法といわれる簡便的な株式評価手法を用いて評価を実施することが一般的でした。これは純資産に営業利益の数年分を加算する簡単な計算方法であり、理解が容易な一方、実績ベースの評価で、加算される営業利益の年数も業界ごとに固定的なものとなります。

その結果、成長性のある事業ほど低く株式価値が算定されてしまうリスクがあります。正しく買い手の株式価値評価手法を理解することは、売り手オーナーが自身の利益を守るために重要です。

空調衛生工事業界のM&A実務において事業価値の算定には、大きく分けて2つの方法があります。

・インカムアプローチ
・マーケットアプローチ

インカムアプローチは、営業資産が生み出す将来キャッシュフローを評価の基礎とする方法です。代表的なディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法では、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を試算します。

理論的に優れた方法ではあるものの、将来キャッシュフローの見積もりや割引率の計算は非常に難易度が高く、経験を積んだ専門家でないと試算が困難で、初見では理解しづらいのが大きな欠点でしょう。

本稿では「価値の概算を簡単に知る」ことを目的にしていますので、インカムアプローチの詳細な説明は割愛します。

マーケットアプローチは、市場における取引価格を参考にして事業価値を算定する方法です。具体的には、以下のような方法が存在します。

・類似会社比較法
・類似取引比較法

類似会社比較法は、評価する対象の企業の類似会社にあたる上場会社の企業価値と、営業利益や収益力(EBITDA)といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで、事業価値を算出する方法です。

具体的には、以下のように算定します。

EBITDA×業界相場の倍率(EBITDAマルチプル)=企業価値
(EBITDAマルチプル=上場類似会社の企業価値/上場類似会社のEBITDA)

EBITDAは、営業利益に減価償却費を足して算出されるものです。

また、類似会社は、業界が同じ上場企業を選定するのはもちろんのことですが、ビジネスモデルや収益構造、顧客の層などの類似性から選定するパターンもあります。類似会社をどのように選ぶかで算定結果は大きく依存します。

企業価値を算出したら、株式価値を算出しましょう。株式価値は、以下のように算出します。

企業価値-有利子負債+現金同等物=株式価値

第三者に譲渡する場合に、どの程度の価値がつくかを把握しておくことは重要なため、理解しておきましょう。

なお、マーケットアプローチには、類似会社比較法のほか、類似するM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法という方法が存在します。

しかし、参照する過去の取引における対象会社が非上場である場合、入手可能な財務数値が限定的であるため、同方法が中小企業のM&Aで利用されることは少ないのが現状です。

M&Aにおける価値の算定については、下記で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
[うちの会社、結局いくらで売れるの?~事業オーナーの疑問に答えるコラム①~]

また、自社の具体的な株式価値を知りたい場合には、株価シミュレーターを用意していますので、以下で試算可能です。ぜひご活用ください。
[株価シミュレーター]

空調衛生工事業界のM&Aのポイントとは?押さえておきたい3つを紹介

空調衛生工事業界のM&Aのポイント

空調衛生工事業界でM&Aを実施する際に押さえておきたいポイントとして、下記の3つが挙げられます。

・適切なM&A助言会社を選定する
・自社の正当な収益力・財務状況を把握する
・条件に優先順位をつける

それぞれ詳しく解説します。

空調衛生工事業界のM&Aのポイント①:適切なM&A助言会社を選定する

M&A助言会社に求められる能力は、法務・会計・税務・ファイナンスに精通していること、誠実であること、顧客の立場に寄り添って助言を提供できる立ち位置であること、M&Aの売り手・買い手の双方の行動原理を理解しそれを交渉に活かせること、と多岐に渡ります。

真に顧客に寄り添える立場であるか、また、上記を見極めるためにも売り手・買い手の双方から報酬を受領する仲介会社ではなく、売り手と同じ船に乗り事業オーナーに対し助言する会社(FA)であるかを選定することが重要です。また、その会社に在籍するアドバイザーの知識や経験、ノウハウなどを含むFAサービスの品質が重要です。

空調衛生工事業界のM&Aのポイント②:自社の正当な収益力・財務状況を把握する

売り手にとって、自社をよい条件で売却するために必要なのは、自社の正当な収益力・財務状況の把握です。

税務対策やオーナーの個人的な経費を費用計上している中小企業は数多くあるため、具体的な買い手候補にアプローチする前に、自社の実質的な収益力や、貸借対照表においても現金化可能資産や非事業用資産を確認し、実質的な自社の財務状況の把握が必要です。

空調衛生工事業界のM&Aのポイント③:条件に優先順位をつける

M&Aを実施する際に、条件交渉においてどうしても譲れないものなどがあるでしょう。しかし、すべての条件を叶えることは難しいかもしれません。

そのため、交渉条件には優先順位をつけておきましょう。売り手企業として譲れない条件を持ちつつ、買い手企業の意思を尊重することが大切です。

空調衛生工事業界のM&A売却事例5選

空調衛生工事業界のM&A売却事例

ここでは、空調衛生工事業界で実施されたM&Aの売却事例を紹介します。本記事では、下記の5つの事例を紹介します。

・ニューホライズン4号投資事業有限責任組合・しこく創生2号投資事業有限責任組合×ダイイチ機設工業
・三共ホールディングス×晴輝工業
・大建工業×清田工業

・新日本空調×日宝工業
・高砂熱学工業×M&Eエンジニアリング社

実際の取引を参考にして、自社の売却のために役立ててください。

空調衛生工事業界のM&A売却事例①:ニューホライズン4号投資事業有限責任組合・しこく創生2号投資事業有限責任組合×ダイイチ機設工業

ニューホライズンキャピタルが運営するニューホライズン4号投資事業有限責任組合、四国地銀4行の共同出資会社である四国アライアンスキャピタルが運営するしこく創生2号投資事業有限責任組合は、2024年6月28日付でダイイチ機設工業に投資しました。

ニューホライズンキャピタルは、創業から10本目のファンドを運営しており、全体で100社超の日本随一の投資実績を有している企業です。

四国アライアンスキャピタルは、株式・社債などへの投資業務や投資事業組合財産の運営管理などを行っています。

ダイイチ機設工業は空調機器や冷蔵冷凍機、発電機などの搬入設置工事を事業展開しており、大手建設請負会社を得意先としています。半導体工場での施工経験を有しており、熟練した担当者が営業から施工までワンストップで対応する体制を構築している企業です。

本件M&Aによって、2ファンドは2022年に投資した大型プラント工事のタカフジとの事業シナジーの創出を追求します。

空調衛生工事業界のM&A売却事例②:三共ホールディングス×晴輝工業

三共ホールディングスは、2023年9月に晴輝工業を買収しました。

三共ホールディングスは売上高70億円ほどで、従業員170人の企業です。空調設備、冷凍冷蔵設備の設計・製作・現地据付・アフターフォロー・保守・メンテナンスを行っています。

晴輝工業は売上高4億5,000万円、従業員19人の企業です。空調・ダクト工事を行っており、現地調査から施工までをワンストップで実施できます。

本件M&Aを行った背景としては、三共ホールディングスは現場技能者を雇用・育成できる環境を整えるため、M&Aによる内製化に取り組んでいることが挙げられます。

空調衛生工事業界のM&A売却事例③:大建工業×清田工業

大建工業は、2024年3月26日付で清田工業を買収し、80%の株式を取得しました。

大建工業は伊藤忠商事の全額出資子会社で、建材製品の製造を行っています。また、室内の空気質や温熱環境など、空間の快適性を向上する技術開発等にも取り組んでいます。

清田工業は1946年に設立され、売上高は21億7,400万円です。高砂熱学工業の子会社で、建築設備のエンジニアリング分野でオフィスビル、病院、マンションなどの給排水衛生空調・冷暖房設備施工の工事実績を持っています。

本件M&Aによって、大建工業はふく射を利用した冷暖房システム「ユカリラ」の販売に、空調の設計・工事までを含めたトータルでの材工提案が可能となります。空調工事も含めた設計提案、材料供給、施工、アフターサービスまでをワンストップで対応する新たなビジネスモデルの構築を進めるでしょう。

空調衛生工事業界のM&A売却事例④:新日本空調×日宝工業

新日本空調は2024年4月1日付で日宝工業を買収し、完全子会社化しました。

買い手の新日本空調は、空調設備の設計や施工、保守を手がける業界大手です。原子力施設や研究施設など、高度な空調制御が求められる特殊領域において国内屈指の技術力を有しています。

売り手の日宝工業は1969年に設立され、売上高は約14億円です。岡山県を中心に、空調・衛生設備の設計施工やメンテナンスを幅広く展開しています。特に病院や公共施設などの地域インフラを支える現場で、長年培った確かな施工技術と厚い信頼基盤を持っている企業です。

本件M&Aによって、新日本空調は中国地方における施工体制の強化と地域密着型のサービス拡充を図っています。両社の技術を融合させることで、より高付加価値なサービスの提供が期待されています。

空調衛生工事業界のM&A売却事例⑤:高砂熱学工業×M&Eエンジニアリング社(タイの設備関連会社)

高砂熱学工業は、2025年7月1日付でタイの設備工事関連会社3社を買収し、子会社化しました。

買い手の高砂熱学工業は、空調設備工事で国内最大手の企業です。環境負荷を低減する省エネ技術に定評があり、アジアを中心とした海外展開も積極的に推進しています。

売り手は、タイで空調・電気設備工事を手がけるM&Eエンジニアリング社、M&Eオペレーション社、M&Eホールディングス社の3社です。タイ国内の製造業やビル市場において、長年にわたり設備施工やメンテナンスの豊富な実績を積み重ねてきました。現地での施工管理能力が高く、多くの優良な顧客基盤を保有している企業群です。

本件M&Aによって、高砂熱学工業はタイにおける事業基盤を強固なものにします。設計から施工、保守までの一貫体制を現地で構築し、海外事業の収益拡大が予測されています。

空調衛生工事業界のM&Aに関するよくある質問

空調衛生工事業界のM&Aに関するよくある質問

空調衛生工事業界でのM&Aにおいてよくある質問を紹介します。

最適な取引を実現するためにも、ぜひ参考にしてください。

空調衛生工事業界のM&Aに関するよくある質問①:地方企業でもM&Aは可能ですか?

もちろん全国問わず、M&Aは可能です。

全国対応するM&A助言会社はありますし、買い手もまだ事業展開していない地域への進出を目的として、M&Aを戦略の一つとして活用することは一般的です。

空調衛生工事業界のM&Aに関するよくある質問②:どうすればよい条件で会社を売却できますか?

いくつかの留意点を押さえれば、よい条件で売却できる可能性は高まります。

業界によって、株式価値評価の相場が異なるため、M&A助言会社に相談し、企業評価を取得することから始めるのが、よい選択であると考えられます。

空調衛生工事業界のM&Aに関するよくある質問③:借入れがあってもM&Aは可能ですか?

借入れがあってもM&Aは可能です。

しかし、借入金の金額が売上規模や利益規模と比較して大きい場合、どうしても買い手が見つかりにくくなる傾向があります。

まとめ

まとめ

空調衛生工事業界では、人材不足や後継者不足、多重下請け構造が深刻な問題となっており、M&Aが解決の有効な手段として注目されています。

空調衛生工事業界でM&Aを進められれば、人材不足の解消が期待でき、後継者問題や経営難の解決にもつながるでしょう。

M&Aを実施する際には、適切な助言会社の選定や自社の収益力・財務状況の把握、交渉条件の優先順位付けが重要です。これらを意識して、理想のM&Aを実現させましょう。

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この記事の著者

RISONAL 編集部(オーナーズ )

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