M&A仲介業者からの「ダイレクトメール」にご用心…〈売り手〉が思わず飛びついてしまう「危険すぎる内容」とは?(幻冬舎ゴールドオンラインへの掲載記事)
公開日:2024.07.02
2024.07.02
更新日:2024.07.03
2024.07.03
M&A仲介サービスとFAの営業スタイルの違い
M&A仲介サービスとFA(ファイナンシャル・アドバイザリー)とでは、業者の異なる役割を背景に、それぞれの営業スタイルも大きく異なります。M&A支援会社と接点を持つ機会のあるオーナー経営者は、M&A仲介とFA、それぞれの営業スタイルを理解しておくことで、業者に対して冷静に対応することができるでしょう。
まず、それぞれのサービスの役割について見ていきましょう。
M&A仲介サービスは、中立の立場で、売り手と買い手のマッチングを提供するサービスです。営業活動で収集した「買いニーズ」と「売りニーズ」をマッチングすることで、M&Aの成約を促していく支援となります。特定の当事者の利益やメリットを考えたアドバイスや支援はできません。
一方のFAサービスは、M&A戦略の立案から相手方の探索、条件交渉、クロージングに至る、すべてのM&Aプロセスにおいて、顧客であるM&Aの当事者の利益を守り、追求するサービスです。売り手オーナーが顧客であれば、売り手オーナーの想いをどのようにM&Aで実現できるかを提案し、実行していくことがミッションです。売り手の利益を優先するため、買い手とは契約関係を持たず、手数料も受領しません。
こうした役割の違いがあるため、それぞれのサービスは、その営業スタイルも大きく異なります。
M&A仲介サービスの営業スタイル
M&A仲介サービスにおいて、「買いニーズ」と「売りニーズ」をマッチングさせることで、M&Aの成約を促していきますが、顕在化した売りニーズを先に捕捉できる機会は多くありません。そのため、収集した買いニーズに合致しそうな企業に対して、買いニーズを提案することで、売り手オーナーと面談を取り付ける営業スタイルが主となります。
これまでM&A仲介業界では、厳しい営業ノルマや極端な給与体系を背景に、事実と異なる情報に基づく営業活動が広く行われてきました。具体的には、「貴社との資本提携に関心がある上場企業の買い手がいる」という内容で、買い手の存在を偽って売り手の関心を惹く営業行為などです。
このような営業活動はごく最近まで横行していましたが、2024年1月にM&A仲介協会の自主規制ルール(倫理規則)により、こうした行為は禁止されました。とはいえ、現在でも、「貴社との資本提携に関心がある“可能性のある”上場企業の買い手がいる」と、ややトーンを控えめにしながら、継続されているようです。
売り手オーナーが飛びつくと危険な「ダイレクトメール」の例
以下、某オーナー経営者へのヒアリングに基づくDM(ダイレクトメール)の具体的事例を紹介します。いずれも倫理規則が施行された後のDMですので、倫理規則におけるルールへの配慮が見られる内容となっています。
A社 2024年5月投函
弊社クライアントが、貴社のような優良企業様との資本提携を具体的に希望されております。
A社からの資本提携の提案について、ぜひご説明を差し上げたく存じます。
B社 2024年4月投函
この度、東京に本社を構え、XXXの運営を行う大手事業グループより、事業拡大に際しての資本提携・事業承継ニーズをお預かりし、ご説明の機会をいただきたくご連絡を差し上げました。
C社 2024年3月投函
弊社クライアント様より、資本提携の要望を受けております。今回、先方からの指名により直接お声がけをさせて頂いた次第です。以下、お相手企業様の概要です。(なお、同仲介会社からは2024年5月にも、違うクライアント企業からの依頼という形で別担当者から同内容のDMが届いたようです)
一見、具体的な買い手が自社のことを認識しており、名指しで仲介会社経由でアプローチしてきたのだと捉えがちですが、いずれの事例も「具体的な買い手が存在し、貴社との資本提携に関心を持っている」とは言及していません。言及されているのは、DM送付先企業と合致する買いニーズを持つクライアント企業がいる、ということだけです。
「先方からの指名により」という文言は非常にややこしいですが、買い手が対象会社を指名しているわけではなく、買い手が仲介会社と仲介契約を締結していることを意味しているものと考えられます。
買い手が実在する場合において、「貴社との資本提携に関心を持っているクライアント企業がいる」と営業することは、現行ルールでも構わないわけですから、曖昧な表現を使う必要はありません。こうしたDMに関しては、具体的な(DM送付先企業に関心を示している)買い手が存在しないパターンだと言ってよさそうです。
もちろん、仲介業者のいう「貴社”のような”事業に関心のある買い手」に実際にアプローチしてみたら、結果として買収に関心を持ってもらえた、というケースはありえると思いますが、いずれにしても飛びつくほどの情報ではありません。
「貴社との資本提携に関心を示している具体的な買い手がいる」と明言している手紙が届いた場合、その業者が倫理規則に反していなければ、具体的に貴社事業に関心を示している買い手がいるのかもしれません。少数派ではある印象ですが、M&A仲介会社が実際に買い手から了承をもらったうえで、対象企業へアプローチしているケースも存在します。
しかし、売り手オーナーにとっては、こうした具体的な提案に飛びつくことのリスクは、極めて大きいといえます。価格はもちろん、そのほかの条件についても、売り手にとって魅力的な条件を勝ち取ることが難しく、さらには売り手を守るために必要な契約書上の手立ても十分に行うこともできず、売り手が不利益を被りやすいのです。
起点は売り手のニーズ…「FA業者」を選ぶときの4つのポイント
一方のFAは、顧客の想いをどのようにM&Aで実現できるか考えることが役割です。売り手オーナーを支援する場合、その起点は買いニーズではなく、売り手オーナーのニーズということになります。
売り手オーナーのニーズには、M&Aで事業承継を実現して早くリタイアしたいというニーズもあれば、まだまだ会社を成長させたいが、単独では限界があるので資本提携を検討したいというニーズもあり、さまざまです。こうした売り手のニーズを聞かずして、具体的な買い手を提案・紹介することは、本来の役割に反します。
FAの営業スタイルは、自社の実績やメンバー、FAだからこそ提供できる顧客に対する価値などを訴求するものが一般的です。架電営業をすることも少なく、M&A仲介サービスと比較すると、かなり大人しい印象です。それゆえ、オーナー経営者がFAサービスを希望する場合、能動的にFAサービスを提供してくれる業者を比較・検討することをおすすめします。
なお、FAサービスがオーナー経営者の利益を守り、追求する役割を果たせるかどうかを評価するに際しては、いくつかポイントがあります。以下、FA業者を比較検討するうえで、参考にしてみてください。
①FAサービスのほか、M&A仲介サービスも提供している業者でないか
その業者がM&A仲介サービスも提供している場合、仲介サービスを敬遠するオーナー経営者に対し、代替案として片手支援の提案をしているケースが多い印象です。
こうした場合、サービスの実態としてはM&A仲介サービスの範疇で片手を支援しているにすぎず、本来FAに求められる機能を果たせていない可能性があります。
②「FA専業チーム」があるかどうか
会計士や税理士、弁護士であっても、あるいはコンサル業界出身であっても、M&Aにおいて「当事者の利益を守るための経験や知見」を持っているわけではありません。特に、中小企業向けにサービスを提供しているコンサルティングファームは、さまざまなサービスを同一チームで担う傾向があります。
例えば、企業再生もやればデューデリジェンスもやれば、買い手FAも売り手FAも、PMI(統合支援)もやります、といった具合です。こうしたファームにおいては、各サービスの専門性に乏しい傾向にある可能性があります。
理想的なのは、国内系・外資系大手証券会社や、大手会計系ファームなどの専業チームで、FA業務を経験してきたメンバーが中心となって構成されている業者だとよいでしょう。
③「ウェルス・マネジメント」の知見を持ち合わせているか
オーナー経営者を支援する場合、事業の売却という側面はもちろん、事業売却後の資産の形成、子ども世代への資産継承といった、ウェルス・マネジメントの観点も踏まえた支援が必要になります。
当然、関連する税務の知見も求められるところでしょう。売却後に後悔しないためにも、オーナー経営者個人の視点からも的確な助言を提供してくれる業者を選択しましょう。
④買い手探索のネットワークを持っているか
一般的に、FA業者は買い手のネットワークの観点で、仲介サービスに劣ります。その業者が十分な買い手候補企業へアクセスが可能な体制を取っているかについては、慎重な評価が必要です。
特に、1桁億円台以下のM&A取引の場合、自社独自の買い手ネットワークに加えて、全国の金融機関などの他業者と買い手探索で連携できる体制をとっているかどうかもポイントになるでしょう。売り手オーナーにとって大切なのは、依頼する業者の買い手探索ネットワークを使うことで、買い手候補の間で十分な競争環境が作れるかどうかです。
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