後継者不在と拠点移転リスク。「良い状態のうちに」決断したオーナーの事業承継M&A

2026.03.03

公開日:2026.03.03

2026.03.03

2026.03.03

更新日:2026.03.03

2026.03.03

後継者不在と拠点移転リスク。「良い状態のうちに」決断したオーナーの事業承継M&A

首都圏の自動車アフターサービスA社は、車体修理の専門工場と、自動車補修関連の機器・資材の輸入販売を柱に事業を展開してきました。

オーナー経営者(B社長)がM&Aを本格的に検討した背景には、後継者不在に加え、行政計画に伴う将来的な拠点移転リスクがありました。

過去には、意向表明まで進んだものの条件面で頓挫した経験や、情報が外部に漏れかけた苦い経験もあったと言います。今回はその反省を踏まえ、守秘と条件設計を軸にプロセスを組み直し、成約に至りました。

事業の全体像:二つの事業は実質一体

――まず御社の事業について、簡単にご説明いただけますか。

B社長: 大きく二つです。一つは自動車の車体修理に特化した専門工場で、具体的には事故などで損傷した車両を直す仕事です。もう一つは、修理用の機械工具や関連商材を海外から輸入して販売する事業です。加えて、塗装設備の設計・保守や、補修関連のサービスなどもやっています。

――二つの事業は別々ではなく、実際には一体だと伺いました。

B社長: そうですね。自分の中では一体で考えています。現場(工場)側と、商材を扱う側って、見方によっては別事業に見えるんですけど、うちは“売り手側と買い手の側”の商売を両方やっている感覚があります。だから一体と考えています。

ただ、今回M&Aを実行するにあたって、買い手さんがそれを一体として捉えるのか、別として捉えるのかは、最初から懸念としてありました。

派手な施策ではなく、事例を積み上げた集客の土台

――受注は営業を強めずに回る状態だったと伺いました。どう設計されたのでしょうか。

B社長: 設計っていうほど大げさなものじゃないですが、以前からインターネットは重視していて、一般のユーザー様から修理の相談が来るように、ホームページを作り込んでいました。

コツがあるかと言われると、正直、特別なことはしていません。ネット上の検索は結局、文字を拾っているので、修理事例をひたすら作って、文章量を増やした。それだけです。

車の修理事例を作り続けて、情報量を積み上げました。結果的に、ユーザーが入力するであろう検索キーワードで、上位に出る状態になっていきました。営業を強めなくても問い合わせが来る下地は、そういう積み上げでできたと思います。

なぜ今M&Aなのか:後継者不在と拠点移転リスク

――M&Aを本格検討し始めた決定的な理由は何でしたか。

B社長: 決定的というより、出口が限られていたんです。身内に後継者がおらず、従業員の中にも次のオーナーとして株式を引き受けられそうな人がいない。そうなると、遅かれ早かれM&Aで株式を譲渡するか、やるところまでやって廃業か。だったら、会社の状態が良いときにM&Aを検討しようと思いました。

――事業拠点の移転リスクもあったと伺っています。

B社長: それも大きいです。行政の計画で、将来的に工場を移転しないといけない可能性があると言われていました。補償は受けられる見込みでしたが、私も60代に差し掛かって、補償をもらってそこから新たに設備投資して工場を刷新するのは、経済的にも現実的にも難しいのではと考えていました。

後継者がいない状態で、それを自分が背負って続けるのは、正直きついなと思い、それが背中を押しました。

前回の頓挫で学んだこと:条件と情報の扱いが山場になる

――過去に意向表明まで進んだのに破談した件について、理由は何でしたか。

B社長: 以前、M&A仲介会社にお願いして、ある大手企業が意向表明を出してくれたことがありました。ただ、金額的な条件が自分の中で合いませんでした。

当時は移転に関して、行政から補償額が具体的に提示されていなかったので、その不確実性が金額面でネガティブに見られた部分はあったと思います。

――さらに情報が外部に漏れかけたと伺いました。何が一番問題でしたか。

B社長: 私に直接確認がくるならまだしも、決定権のない社員に接触が起きたことです。偶然のつながりから、相手側の関係者がこちらの社員にコンタクトしてきたんです。

結果として、私がその社員に事情を説明せざるを得なくなりました。そこが一番まずかったです。守秘の話というより、結果として会社の中で不要な説明コストが発生しました。このことがきっかけで、ちょっと及び腰になりましたね。

ただ幸い、当社は社員も比較的年齢層が高く、最終的には私がどこかで出口を探すことは理解していたので、混乱はおきませんでした。

再挑戦のきっかけ:補償額が固まり、整理がついた

――そこから再度M&Aを進めようと思ったきっかけは?

B社長: 一番大きいのは、行政からの補償額が決まったことです。金額も自分が想定していた金額に近いものでした。補償が見えるなら、もう少し踏み込んでM&Aを進められると腹が決まりました。

――M&Aを進めるにあたっての相談先についてはどう考えましたか。

B社長: 前回は仲介型でしたが、正直、「両方の間に立つ仕組みって、どうなんだろう」という違和感は残っていました。前回の不満もあったので、次は違う形を探していました。

買い手探索の考え方:事業会社だけでなく投資家タイプも視野に

――今回、買い手探索はどう設計しましたか。

B社長: 前回の経験で、事業会社さんだと、うちの二事業を“実質一体”として捉えにくい可能性があると感じていました。商材側だけに興味を持たれて、工場側は現場仕事だから関心が薄い、ということです。

だから今回は、事業会社だけじゃなく、投資会社や投資ファンドにも声をかけた方がいいと思いました。

場所は近い方がいいとは思いつつ、投資家タイプなら所在地は必須条件ではない、という整理もありました。

判断軸の置き方:価格に加えて、譲渡後の運営イメージも見る

――M&Aのプロセス各段階で、次に進める/止めるの判断軸は何でしたか。

B社長: 基本は譲渡価格を中心とした条件です。雇用条件が守られるのは大前提です。その上で価格も重要でした。以前の仲介会社から「このくらい」という相場感を聞いていたので、だいたいの価格帯のイメージもありました。

投資ファンドは事業への理解が深いとは限らないので、感覚的に「この相手だと譲渡後に面倒になりそう」「これはあまり面倒にならなそう」みたいな見方はしていました。

最大の山場①:移転リスクを開示する

――行政計画による移転リスクは、交渉上どう扱いましたか。

B社長: 私が扱ったというより、買い手さんがどう受け止めるかなんですけど、こちらとしては、分かっていることは全部伝えました。

補償額が決まっていること、現時点で「いつ出ていけ」と期限を切られているわけじゃないこと。

それと、立地条件は現状かなり恵まれていて、従業員の通勤も考えると、変な方向に移ると事業に影響が出る可能性がある、ということもありのまま説明しました。

あとは買い手さんがどう判断するか。そこは心配でしたけど、後出しになる方がまずいので、ありのまま開示しました。

最大の山場②:情報管理の設計。社内共有は必要最小限で、必要なタイミングに

――前回の反省を踏まえ守秘と情報管理は、今回はどう設計しましたか。

B社長: 社内で知る必要がある人は、最小限にしました。買い手に「この人たちがキーマンです」と伝えた数名には、意向表明が出て、順調にいけば進むだろうという段階で伝えました。

デューデリジェンスの時に資料作成などで協力が必要になるので、隠すと回らなくなります。だから必要な範囲で、必要なタイミングで、です。

――社内の反発などはありましたか。

B社長: 全くなかったと思います。譲渡条件の中に「私が代表として数年間は残る」という前提もあったので、それが大きかったんじゃないですかね。

当社を選んだ理由:妥協を促さず、納得まで伴走してくれた

――当社(売り手専属FA)を知ったきっかけは?

B社長: 全国紙の電子版で広告を見たのがきっかけです。前回の仲介型で嫌な思いもしていたので、「売り手側に立つFA」という支援方式を見て、「こういった支援の仕方もあるんだな」と知り、相談してみようと思いました。

――当社の支援で良かった点を教えてください。

B社長: 一番条件が良かった買い手が途中で降りた後、モヤモヤは残っていました。

その中で、担当の吉田さんが買い手と交渉してくれて、私が「ここで手を打って良い」と思えるまで、オーナーズさんの方から妥協を促すような言葉を一度も言わなかった。そこがすごく良かったです。

契約書も、実際に文字にされると不安になる内容が普通に入ってくるので、売り手側の立場で「ここを直してくれ」と言ってもらえるパートナーがいることの意味は大きいと思いました。

これから検討するオーナーへ:事業承継を検討しているならやるべきこと

――これから検討するオーナーがやるべきことを3つに絞ると?

B社長:1つ目は、売り手のために動く代理人(売り手専属FA)を選ぶことです。契約面は特に、「売り手側に立ってちゃんと言ってくれる人がいないと怖いな」と、今回改めて思いました。

2つ目は、業績がまだ良い状態のうちに動くこと。辞めたい理由が強くなってからだと遅いかもしれない。

3つ目は、不確実な論点(当社でいう移転など)は、分かっている範囲で最初から開示して整理すること。後出しになる方が、結局うまくいかないと思います。

成約後の変化:運営を崩さず、権限移譲を具体化する

――クロージング後、経営・現場は何が一番変わりましたか。

B社長: 日々の運営自体は、今のところ大きくは変わってないです。

ただ、体制としては、数名を取締役に登用して、なるべく私の権限を移譲していく形にしました。円滑に事業承継していくために、後継者になる人たちが育っていけばいいなと思っています。

――オーナーご自身の気持ちはどう変わりましたか。

B社長: 意識的に何かが劇的に変わった、という感じはないんです。でも、今までは全部自分で決めて、全責任を負わなきゃいけなかったのが、上に“伺いを立てる組織”があるというだけで、かなり楽になります。全部を自分一人で背負う状態ではなくなった、その安心感はありますね。

当社へのメッセージをお願いいたします。

B社長:売り手専属FAを知ったきっかけでも述べたとおり、売り手と買い手の両方の味方というM&Aの仲介というのにはどうも違和感がありました。

ある時、売り手専属のFAだという貴社の新聞(電子版)広告を読んでピンときたのがきっかけで、貴社に依頼させていただきました。

「うたい文句に偽りなし」で、最後まで私に条件面での妥協を促すことなく買い手と粘り強く交渉していただいたので、これがベストの譲渡条件だったのだと素直に納得できました。

とても後味の良いお仕事をしていただき、吉田さんと石川さんには深く感謝しております。

現在は、株式譲渡後の資産運用でも大変お世話になっており、オーナーズさんはとても誠実な会社だと感心しております。

今後とも末永くお付き合いいただけますようお願いいたします。

営業担当者からメッセージ

吉田一陽

本件ではB社長が最初の面談から、前回の失敗談、今回の心配点、事業承継にあたっての優先順位等、いろいろとお話いただけたことで、弊社としても準備や対策をしながら案件を進めることができました。

途中いろいろな出来事がありながらも、対応方針や進め方等について都度密に連絡をとらせていただけたことで乗り越えていけたと思います。この度は弊社をご任用いただき、ありがとうございました。

石川雄大

B社長のコメントの通り、LOI後に最も条件の良い買い手候補が辞退されるなどの出来事もございましたが、最終的にはB社長がご納得のいく形で事業承継を実現され、そのプロセスに最後まで伴走できましたことを大変嬉しく存じます。

特にDDやクロージング前のCP対応等においては密にご連携をさせていただきましたが、B社長の真摯かつ迅速なご対応により円滑に進めることができたと感じております。改めて御礼申し上げます。

編集後記

今回のケースで印象的だったのは、「後継者不在」だけでなく、行政計画に伴う拠点移転リスクという不確実要素を抱えた状態でも、論点を先送りせずに整理し、意思決定につなげている点です。

事業承継M&Aは、価格やスキーム以前に「不確実な論点をどう扱うか」「誰にいつ何を共有するか」といった実務設計でつまずきやすい取引です。分かっている範囲を早期に開示し、後出しを避ける姿勢は、買い手との信頼形成という意味でも合理的です。

後継者不在、拠点・不動産、許認可、主要取引先など、論点は会社ごとに異なります。

もし「自社の場合、どこが論点で、どこから整理すべきか」で迷っているなら、無料相談で一度棚卸ししておくと、検討初期の後戻りコストを減らせます。

この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ株式会社 )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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