不動産賃貸業界のM&A事情を詳しく解説!業界動向や事例もあわせて紹介
公開日:2025.02.05
2025.02.05
更新日:2025.11.30
2025.11.30
昨今、不動産賃貸業界は単身入居者の高齢化などによって需要が高まっており、M&A取引が活発に行われるようになっています。
不動産賃貸業界では、人口減少によって今後は市場が縮小すると予測されているため、M&Aが有効な解決の手段として注目されています。
では、具体的に不動産賃貸業界のM&A事情はどうなっているのでしょうか。本記事では、最新の不動産賃貸業界のM&A事情を解説します。さらに、不動産賃貸業界におけるM&Aのメリットや事例も紹介しているため、不動産賃貸業界でM&Aを考えている方はぜひ参考にしてください。
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不動産賃貸業界の定義

不動産賃貸業界は、住まいやオフィスなどの生活基盤や事業拠点を提供する重要な産業です。近年は人口構造の変化やIT化の進展が続き、市場環境が変化していると考えられます。こうした要因が業界に与える影響を説明します。
不動産賃貸業界の動向
不動産賃貸業界では、入居者の価値観や生活様式が変化し、物件の選ばれ方が多様化しています。特に設備の充実度や住み心地を重視する入居者が増えており、オーナーは継続的な改善を求められる状況です。
一方で、管理業務のデジタル化が進み、オンライン内見やスマートロックの導入が広がっています。これらの取り組みは運営効率に影響するため、導入効果を見極める姿勢が重要になります。
また、地域ごとに賃貸ニーズが異なるため、立地特性に応じた運営戦略の検討が不可欠です。こうした変化を踏まえて柔軟に対応することが、賃貸事業の競争力維持につながるといえます。
不動産賃貸業界の市場規模
総務省統計局の「サービス産業動向調査」によると、2023年の不動産賃貸・管理業の売上高は、1.94兆円となっています。2022年は1.88兆円、2021年は1.81兆円と、売上高は増加傾向です。

参照:総務省統計局「サービス産業動向調査」
近年は、単身入居者の高齢化が進んでいます。2020年には、65歳以上の22.1%が一人暮らしをしているのが実態です。2030年には26.9%が、2050年には29.3%が一人暮らしをすると予測されています。
単身高齢者の中には、親族に頼れない人やそもそも親族がいない人などが存在しており、連帯保証人がいない、もしくは高齢で連帯保証人になれないといったケースが増加している状態です。こういった入居者を受け入れるのはリスクが高いため、不動産賃貸の需要が高まっています。
また、近年はAIやIoTが普及し、導入する企業も増えています。顧客管理や業務管理、高齢化が進む入居者へのサービス充実など、IT技術を活用したサービスの提供が期待されています
売上高は増加傾向にあるものの、今後は人口減少が加速していくと考えられるため、不動産賃貸業界も需要が低下していく可能性が高いです。また、都心に人口が集中しており、地方は住宅需要の低下にともなう空室率の上昇が問題となっています。
これによって地方での商業活動の低迷を招き、地方経済全体が衰退への道を辿っているのが現状です。さらに、地方自治体の税収の減少にも直結し、公共サービスの質の低下や地域インフラの老朽化問題にもつながります。
サービス・運営形態の多様化
不動産賃貸・管理業では、入居者の価値観が年々変化し、求められる物件の特徴も多様化しています。単身者向けに加え、ペットと暮らせる住まいが増えた点はその一例です。
また、在宅勤務の普及によりワークスペースを備えた住まいが登場し、これに合わせて管理会社が提供するサービスも変化しています。オンライン内見や電子契約を導入する企業が増え、入居者は時間に縛られず手続きを進められるようになりました。
利便性が高まった一方で、管理会社にはサービス品質を維持する工夫が求められています。多様なニーズを把握し続ける姿勢が欠かせないため、変化に対応できる企業ほど安定した成長が期待できるといえます。
高齢化社会の進展
日本では高齢化が進み、住まいへのニーズにも変化が生じています。単身で暮らす高齢者が増えたことで、安心して暮らせる物件の需要が高まり、バリアフリー設計や見守りサービスを備えた住まいが注目されています。
外出が難しい高齢者も多く、生活支援への期待が高まる中、不動産会社には新たな提案が求められています。見守り機器の活用や、地域の介護事業者との連携が広がりつつある一方、高齢者の入居審査に慎重な物件もあり、受け入れ体制の整備は課題です。
高齢者向けサービスを強化する企業は、利用者や家族からの信頼を得やすくなり、高齢化は課題でありながら事業価値を高める機会でもあります。
コロナ禍の影響
コロナ禍は住まいの捉え方に大きな影響を与えました。在宅時間が増えたことで、家の快適さを重視する動きが強まり、広めの間取りや収納量の多い物件を選ぶ人が増えています。
人との接触を避ける動きからオンライン内見の利用が急速に広がり、契約手続きの非対面化も進んで電子契約を採用する企業が増加しました。在宅勤務の普及に伴いワークスペース付き物件への需要が高まり、郊外の家賃を抑えた物件へ移るケースも増えています。
こうした動きを踏まえると、不動産会社には柔軟なサービス提供が求められます。コロナ禍は課題を生みながらも、業界のデジタル化を後押しする契機になったといえます。
不動産賃貸業界のM&A動向とは?

不動産賃貸事業は、入居者やオーナーなどの固定客から安定した収入があり、管理委託戸数を維持できれば安定して利益を上げられます。管理委託戸数を一気に増加させることは難しいですが、一気に減ることもないため、不動産に関連している業種や異業種からのM&A需要が高いと考えられるでしょう。
また、不動産賃貸事業はIT技術を活用したサービスを展開しているケースも増えているため、IT企業からの需要も高まっています。
さらに、高齢化が進んでいく中で後継者不足も深刻な問題となっています。
今後は人口が減少し、不動産賃貸業界の需要低下が予測されている中で成功するためには、成長や拡大を目指すべきです。特に、地域シェアが低い企業は利益の確保が難しく、経営難に陥るケースも珍しくありません。そこで、大手企業の傘下となって経営の安定化を目指す動きが活発化しています。
同業種間でのM&A
不動産賃貸・管理業では、同業種間のM&Aが増加しています。管理戸数を拡大することで収益基盤を強化できる点が主な理由です。管理会社は規模が大きくなるほど原価を抑えやすい特徴があります。
この背景から、中小企業が大手グループへ参加する動きが目立つようになりました。少子化や空室率の上昇を見据え、早い段階で体制を整える企業も増えています。統合を進めることで、サービス水準の向上も期待できます。
たとえば、コールセンターや設備メンテナンスを共同で利用すれば、対応力の強化につながります。一方で、企業文化の違いによって運営調整が難しくなるケースもあります。
それでも、統合効果を適切に活用できれば競争力の向上が見込まれます。市場環境が変化する中で、M&Aは有力な選択肢として注目されるようになりました。
異業種間でのM&A
不動産業界では、異業種によるM&Aも増えています。異なる分野のノウハウを取り入れることで、新たな価値を生みやすくなるためです。
たとえば、IT企業が参入すると管理システムの改善が進み、入居者対応の迅速化やコスト削減につながる可能性があります。
また、介護や医療の事業者が不動産会社と連携する動きも広がっています。高齢化が進む中で、住まいと福祉を組み合わせたサービスへのニーズが高まっているためです。
さらに、商社や金融機関が不動産会社を傘下に収めるケースも増えています。事業を多角化することで安定した収益を確保しやすくなる点が背景にあります。
一方で、業界の慣習が異なる場合は、統合後の運営で課題が生じることもあります。しかし、互いの強みを組み合わせることができれば、事業全体の競争力向上につながる効果が期待できます。
不動産賃貸業界のM&Aの流れ

不動産賃貸業界におけるM&Aの流れは、大きく分けて下記の3つのステップから構成されます。
1.M&Aの事前準備、助言会社の選定
2.買い手候補先企業との接触、意向表明書受領
3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング
それぞれ詳しくみていきましょう。
Step1.M&Aの事前準備、助言会社の選定
まず、M&Aの事前準備とM&A助言会社を選定します。
事前準備として、M&A助言会社と秘密保持契約を締結し、初期的な資料を開示します。秘密保持契約とは、自社の秘密情報を他社に開示する場合に、その情報を秘密に保持することを締結する契約です。
その上で、売却戦略をM&A助言会社と策定し、買い手候補先企業を優先順位ごとに並べたロングリスト(※1)を作成します。
譲渡の目的を満たすストラクチャー(※2)の検討や、譲渡完了に至るまでの全体のスケジュールについても事前準備の段階で検討します。
また、この段階でM&A助言会社とエージェント契約を締結します。
M&A助言会社を選定する際に注意しておきたいのが、仲介とFA(フィナンシャル・アドバイザー)の違いです。
仲介とは、いわゆるマッチングサービスのことで、売り手と買い手の双方とそれぞれ仲介契約を締結します。M&Aの当事者双方から依頼を受けているため、いずれか一方の利益のみを優先的に取り扱うことはできず、双方の意向を一元的に把握し、双方の共通の目的であるM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。また、手数料は売り手と買い手の双方から受領します。
それに対してFAとは、M&Aを実行するためのアドバイスを提供するサービスのことで、M&Aの当事者一方のみから依頼を受けます。M&Aの相手方(買い手候補先企業を含む。)に対して、依頼者に対して提供するのと同様の業務を提供することはありません。M&Aの当事者一方のみから依頼を受けているため、依頼者の意向を踏まえて、依頼者にとって有利な条件でのM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。
弊社では、売り手のみと契約を締結してM&Aを支援する専属エージェントサービス(売り手特化型FAサービス)を提供しており、手数料は依頼者である売り手のみから受領し、売り手の利益を最大化することを目指します。
また、譲渡戦略の策定と並行して、買い手候補先企業へ開示する資料準備も進めます。M&Aプロセスの初期に買い手候補先企業に対して開示する資料には、匿名の企業概要書(ティーザー(※3))、インフォメーション・パッケージ(※4)があります。
※1 ロングリスト:一定の条件で絞り込んだ買い手候補先の企業をまとめたリストのこと。
※2 ストラクチャー:M&Aを実行するための手段や方法のこと。
※3 ティーザー:匿名の企業概要書で、通常1枚から2枚で構成される資料のこと。
※4 インフォメーション・パッケージ:買い手候補先企業がM&Aを検討する際の参考資料。対象会社(事業)の魅力を伝え、買い手候補先企業が企業価値評価を実施できることを目的に作成される。
Step2.買い手候補との接触、意向表明受領
次に、買い手候補先企業と接触します。
ロングリストに基づき、M&A助言会社が買い手候補先企業と接触し、ティーザーを開示します。その上で関心を示す相手に対して、秘密保持契約を締結した上でインフォメーション・パッケージを開示します。
対象会社(事業)の譲受を希望する買い手候補先企業は、売り手に対して意向表明書を提出します。意向表明書には、譲渡価格の水準や取引の前提条件、取引後の対象会社の運用方針などが記載されます。売り手はこれを検討・比較し、受け入れ(基本合意)可能かを判断します。
売り手においては、後述する詳細調査(デュー・デリジェンス:DD)のプロセスにおいて、対象会社の秘密情報が買い手候補先企業に開示されることになるため、DDを受け入れる前に納得感の得られる取引条件であることを確認することが非常に重要です。買い手候補先企業においても、DDにおける専門家起用の費用負担や多大な労力が生じるため、この段階で独占交渉権を求めることが一般的です。
そのため、基本合意を締結し、守秘義務や独占交渉権などを取り決めた上で、次のステップに進むことになります。
Step3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング
意向表明書を受理して基本合意書の締結をしたら、デュー・デリジェンス(DD)と呼ばれる詳細調査と最終契約締結・クロージングです。
M&Aにおいては、売り手と買い手との間に、情報の非対称性が必然的に生じます。この非対称性をできるだけ解消するために、買い手が実施する対象企業への調査がDDです。
買い手にとってDDには、以下のような目的があります。
・自社のM&A戦略に合致した事業かどうか詳細まで検討する
・定量化可能なDDの発見事項を、譲渡価格へ反映する
・定量化できないDDの発見事項を、最終契約書の条件へ反映し、リスクを遮断する
・M&Aの目的を達成するためのストラクチャーを検討する
・M&A実行後に必要な対応を明確化し、統合計画に反映させる
その後、最終契約締結に移ります。譲渡価格や契約条件を交渉し、双方が納得のいく形で契約を締結します。そしてM&A取引が実行され、対象の株式・事業の引き渡しをし、譲渡代金を支払って経営権の移転が完了します。
譲渡企業オーナーの譲渡を想定したより詳細なM&Aのプロセスは、以下の記事で解説していますので、ぜひご活用ください。
[M&Aのプロセス]
不動産賃貸業界のM&Aのメリットとは?5つを紹介

不動産賃貸業界でM&Aを実施するメリットとして、以下の5つが挙げられます。
・事業を継続でき、従業員の雇用を守れる
・経営の安定化が図れる
・個人保証を解除できる
・ブランド力、販売力を強化できる
・経営リスクを軽減し、事業承継をスムーズに進められる
それぞれ詳しくみていきましょう。
不動産賃貸業界のM&Aのメリット①:事業を継続でき、従業員の雇用を守れる
第三者への事業承継を選択せずに廃業を選択した場合は、従業員は職を失うことになり、新しい職を探す必要があります。また、経営者としては、従業員のために新しい職を見つけてあげるなどの対応をするケースも考えられます。
一方で、M&Aの実施により、従業員の雇用を継続でき、経営者は従業員に対する責任を果たせるでしょう。
不動産賃貸業界のM&Aのメリット②:経営の安定化が図れる
不動産賃貸企業の中でも、特に地域シェアの低い企業は経営難となってしまいます。都心部への人口集中が進んでいくと、企業や事業の成長は難しいでしょう。
しかし、大手不動産関係の企業などとM&Aを実施し、その傘下となれば、豊富なノウハウや資金などを活用できます。事業拡大や新規事業の開拓、企業の成長を狙えるようになるでしょう。
不動産賃貸業界のM&Aのメリット③:個人保証を解除できる
中小企業においては、金融機関から借入れをする際に経営者個人が個人保証を行うケースが一般的です。経営者保証のガイドラインが策定されたものの、いまだに解消されていないのが現状です。
M&Aを行うと、売り手の借入れ返済義務を買い手が引き継ぐ形となるため、金融機関に対して買い手と連携して、売り手である経営者の個人保証を解除する手続きを行います。
不動産賃貸業界のM&Aのメリット④:ブランド力・販売力を強化できる
不動産賃貸業界では、M&Aによってブランド力を高めやすくなります。知名度の高い企業と統合することで、信頼度を短期間で引き上げやすくなります。
特に管理会社では、ブランドの強さが入居率に影響しやすい点が特徴です。さらに、営業網を共有することで販売力の向上にもつながります。
たとえば、物件の紹介ルートが増えることで成約機会が広がります。広告費を共同で活用すれば、効率的に集客を進めやすくなる点も利点です。また、デジタルマーケティングを得意とする企業と統合すれば、見込み客への訴求も強化されます。
一方で、ブランドの統一には慎重な調整が欠かせません。ただし、統合効果が進めば単独では獲得しにくい市場での存在感を築くことも期待できます。
その結果、競争が激しい地域でも優位性を確保しやすくなります。
不動産賃貸業界のM&Aのメリット⑤:経営リスクを軽減し、事業承継をスムーズに進められる
不動産賃貸業界では、M&Aを活用することで経営リスクを抑えやすくなります。母体企業の規模が大きくなるほど、景気変動の影響を受けにくくなるためです。
管理戸数が増えることで収益が安定し、突発的な空室への対応もしやすくなります。また、後継者不足に悩む企業にとって、M&Aは事業承継を進めるための有効な選択肢です。
経営者が交代しても既存サービスを維持しやすい点は大きな利点であり、従業員の雇用を確保しながら事業を引き継ぐことができるため、地域への影響も抑えられます。
一方で、引き継ぎ期間の調整には慎重な対応が必要です。専門家の支援を受ければ移行を円滑に進めやすく、多くの企業がスムーズな承継を実現しています。結果として、企業は長期的な安定を得やすくなり、次のステップを見据えた経営が可能になります。
不動産賃貸業界のM&Aの相場

不動産賃貸業界の相場は、一概にいくらと明言できません。その企業の売り上げやブランド力、立地などさまざまな要素から判断されます。
これまでM&A仲介会社では年買法といわれる簡便的な株式評価手法を用いて評価を実施することが一般的でした。これは純資産に営業利益の数年分を加算する簡単な計算方法であり、理解が容易な一方、実績ベースの評価で、加算される営業利益の年数も業界ごとに固定的なものとなります。
その結果、成長性のある事業ほど低く株式価値が算定されてしまうリスクがあります。正しく買い手の株式価値評価手法を理解することは、売り手オーナーが自身の利益を守るために重要です。
不動産賃貸業界のM&A実務において事業価値の算定には、大きく分けて2つの方法があります。
・インカムアプローチ
・マーケットアプローチ
インカムアプローチは、営業資産が生み出す将来キャッシュフローを評価の基礎とする方法です。代表的なディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法では、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を試算します。
理論的に優れた方法ではあるものの、将来キャッシュフローの見積もりや割引率の計算は非常に難易度が高く、経験を積んだ専門家でないと試算が困難で、初見では理解しづらいのが大きな欠点でしょう。
本稿では「価値の概算を簡単に知る」ことを目的にしていますので、インカムアプローチの詳細な説明は割愛します。
マーケットアプローチは、市場における取引価格を参考にして事業価値を算定する方法です。具体的には、以下のような方法が存在します。
・類似会社比較法
・類似取引比較法
類似会社比較法は、評価する対象の企業の類似会社にあたる上場会社の企業価値と、営業利益や収益力(EBITDA)といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで、事業価値を算出する方法です。
具体的には、以下のように算定します。
EBITDA×業界相場の倍率(EBITDAマルチプル)=企業価値
(EBITDAマルチプル=上場類似会社の企業価値/上場類似会社のEBITDA)
EBITDAは、営業利益に減価償却費を足して算出されるものです。
また、類似会社は、業界が同じ上場企業を選定するのはもちろんのことですが、ビジネスモデルや収益構造、顧客の層などの類似性から選定するパターンもあります。類似会社をどのように選ぶかで算定結果は大きく依存します。
企業価値を算出したら、株式価値を算出しましょう。株式価値は、以下のように算出します。
企業価値-有利子負債+現金同等物=株式価値
第三者に譲渡する場合に、どの程度の価値がつくかを把握しておくことは重要なため、理解しておきましょう。
なお、マーケットアプローチには、類似会社比較法のほか、類似するM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法という方法が存在します。
しかし、参照する過去の取引における対象会社が非上場である場合、入手可能な財務数値が限定的であるため、同方法が中小企業のM&Aで利用されることは少ないのが現状です。
M&Aにおける価値の算定については、下記で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
[うちの会社、結局いくらで売れるの?~事業オーナーの疑問に答えるコラム①~]
また、自社の具体的な株式価値を知りたい場合には、株価シミュレーターを用意していますので、以下で試算可能です。ぜひご活用ください。
[株価シミュレーター]
不動産賃貸業界のM&Aのポイント

不動産賃貸業界でM&Aを実施する際に押さえておきたいポイントとして、下記の3つが挙げられます。
・適切なM&A助言会社を選定する
・自社の正当な収益力・財務状況を把握する
・属人性の低い組織体制を整える
それぞれ詳しく解説します。
不動産賃貸業界のM&Aのポイント①:適切なM&A助言会社を選定する
M&A助言会社に求められる能力は、法務・会計・税務・ファイナンスに精通していること、誠実であること、顧客の立場に寄り添って助言を提供できる立ち位置であること、M&Aの売り手・買い手の双方の行動原理を理解しそれを交渉に活かせること、と多岐に渡ります。
真に顧客に寄り添える立場であるか、また、上記を見極めるためにも売り手・買い手の双方から報酬を受領する仲介会社ではなく、売り手と同じ船に乗り事業オーナーに対し助言する会社(FA)であるかを選定することが重要です。また、その会社に在籍するアドバイザーの知識や経験、ノウハウなどを含むFAサービスの品質が重要です。
不動産賃貸業界のM&Aのポイント②:自社の正当な収益力・財務状況を把握する
売り手にとって、自社をよい条件で売却するために必要なのは、自社の正当な収益力・財務状況の把握です。
税務対策やオーナーの個人的な経費を費用計上している中小企業は数多くあるため、具体的な買い手候補にアプローチする前に、自社の実質的な収益力や、貸借対照表においても現金化可能資産や非事業用資産を確認し、実質的な自社の財務状況の把握が必要です。
不動産賃貸業界のM&Aのポイント③:属人性の低い組織体制を整える
不動産賃貸事業では、経営者やオーナーへの属人性が高いケースが多くなっています。独自の受注経路やノウハウなどを持っているのは買い手からすると魅力的なポイントです。
しかし、その経営者やオーナーに依存していると、退職した際に価値の向上が難しくなってしまいます。かといって、多種多様な業務をすべて人間の手で行うと工数や人件費がかかってしまうでしょう。そのため、デジタルを活用して属人性への対策をすべきです。
不動産賃貸業界のM&A売却事例6選

ここでは、不動産賃貸業界で実施されたM&Aの売却事例を紹介します。本記事では、下記の6つの事例を紹介します。
・REDWAVE×御幸ビルディング
・JARCOホールディングス×エイコス
・日本エスコン×四条大宮ビル
・商船三井×ダイビル
・東急不動産ホールディングス×学生情報センター
・大東建託×インヴァランス
実際の取引を参考にして、自社の売却のために役立ててください。
不動産賃貸業界のM&A売却事例①:REDWAVE×御幸ビルディング
東栄は、全額出資で設立したRED WAVEを通じて、2024年9月20日付で御幸ビルディングを買収しました。
御幸ビルディングは2005年に設立され、不動産賃貸業を営んでいます。売上高は58億4000万円です。事業ポートフォリオの変革を推進する三菱HCキャピタルを親会社としていました。
東栄は中京圏を中心に不動産賃貸業を営んでいます。東栄を親会社としています。
本取引は、今後御幸ビルディングがより一層の成長を実現していくためには、譲渡先であるRED WAVEの出資者であり、長らく中京圏を中心に不動産賃貸業等を営む東栄との連携が効果的と判断し、実施されました。
不動産賃貸業界のM&A売却事例②:JARCOホールディングス×エイコス
JALCOは、2024年2月29日付でエイコスを買収し、個人株主3人から60億円で全株式を取得しました。
エイコスは2002年に設立され、従業員数は43人、不動産賃貸事業は売上高4億7100万円です。保有する不動産(アミューズメント施設)は大阪の地下鉄・天神橋筋六丁目駅直ぐの好立地に所在しています。通常の商業施設のみならず、多種多様な土地利用のニーズがあります。
JARCOは、不動産事業・設備機器販売等を展開するグループ各社の経営・経理・総務・法務・内部統制等の管理を行う持株会社です。
本取引により、JALCOは、エイコスをグループに迎えることで、不動産事業の拡大とグループの収益性向上が見込めると判断しました。
不動産賃貸業界のM&A売却事例③:日本エスコン×四条大宮ビル
日本エスコンは、2023年3月1日付で四条大宮ビルを買収し、個人から282億円で全株式を取得しました。
四条大宮ビルは2010年に設立され、売上高は31億6400万円です。京都市を中心に事業を展開し、賃貸マンションや商業施設など収益資産を多数保有しています。
日本エスコンは、関西を中心に不動産賃貸事業や不動産の総合開発事業を展開しています。優良な収益資産を多数保有する株式会社ピカソ及び同社グループ会社を子会社化するなど、安定収益構造への転換を着実に推進しています。
本取引により、日本エスコンは収益構造の転換を推進しています。今後の日本エスコンの持続的成長や企業価値向上に寄与すると判断しました。
不動産賃貸業界のM&A売却事例④:商船三井×ダイビル
商船三井は、2022年4月28日付でダイビルを完全子会社化し、手続きを完了しました。これにより、長年の資本関係をさらに強化する形となりました。
商船三井は、鉄鉱石船やタンカー、LNG船などを運航する世界有数の海運会社であり、エネルギー輸送や海洋事業などをグローバルに展開しています。
ダイビルは1923年に設立され、売上高は約406億円(2021年3月期)です。東京・大阪・札幌を中心にオフィスビルの所有・運営管理を行っており、「ダイビル本館」をはじめとする歴史的価値の高い優良物件を多数保有している企業です。
本件M&Aによって、商船三井は海運市況の変動に左右されない安定収益源を確保しました。国内外での不動産事業開発を加速させることが期待されています。
不動産賃貸業界のM&A売却事例⑤:東急不動産ホールディングス×学生情報センター
東急不動産ホールディングスは、2016年11月1日付で学生情報センターを買収し、全株式を取得しました。
東急不動産ホールディングスは、都市開発や住宅、リゾート事業などを幅広く手掛ける総合不動産デベロッパーであり、多様なライフスタイルに対応した事業を展開しています。
学生情報センターは1988年に設立されました。学生用住宅の管理運営を主力事業とし、4万室を超える管理戸数を有しています。「ナジック」ブランドで知られ、学生マンションの企画開発から、学生のアルバイト・就職支援までをトータルでサポートしています。
本件M&Aによって、東急不動産ホールディングスは学生レジデンス事業の基盤を強化しました。若年層顧客との早期接点構築やグループ間シナジーの創出を図っています。
不動産賃貸業界のM&A売却事例⑥:大東建託×インヴァランス
大東建託は、2020年11月2日付でインヴァランスを買収し、全株式を取得しました。
大東建託は、賃貸住宅の企画・設計・施工から管理、仲介までを一貫して手掛ける建設・不動産会社であり、賃貸住宅管理戸数で国内トップクラスの実績を誇ります。
インヴァランスは2004年に設立されました。東京23区を中心とした投資用マンションの開発・分譲を行っています。また、自社開発のスマートホームアプリ「SpaceCore」やIoT機器の提供など、不動産テック分野にも強みを持つ企業です。
本件M&Aによって、大東建託は都心部での投資用マンション供給力の強化に成功しました。インヴァランスの持つ高い技術力を活用して、不動産DXの推進を加速させると考えられます。
不動産賃貸業界のM&Aに関するよくある質問

不動産賃貸業界でのM&Aにおいてよくある質問を紹介します。
最適な取引を実現するためにも、ぜひ参考にしてください。
不動産賃貸業界のM&Aに関するよくある質問①:地方企業でもM&Aは可能ですか?
もちろん全国問わず、M&Aは可能です。
全国対応するM&A助言会社はありますし、買い手もまだ事業展開していない地域への進出を目的として、M&Aを戦略の一つとして活用することは一般的です。
不動産賃貸業界のM&Aに関するよくある質問②:どうすればよい条件で会社を売却できますか?
いくつかの留意点を押さえれば、よい条件で売却できる可能性は高まります。
業界によって、株式価値評価の相場が異なるため、M&A助言会社に相談し、企業評価を取得することから始めるのが、よい選択であると考えられます。
不動産賃貸業界のM&Aに関するよくある質問③:M&Aを始める際に何をすべきですか?
まずはM&Aがどのようなものか知る必要があります。そのうえで、アドバイザーからアドバイスを受けながら進めましょう。あくまでも、主体となってM&Aを進めるのは経営者や事業オーナーの方です。
また、自社の事業に関する情報や財務状況、強みとして打ち出せる部分や譲れない条件なども決めておくとよいです。
まとめ

不動産賃貸業界では、単身入居者の高齢化にともなって需要が高まっているにも関わらず、今後は人口減少によって市場が縮小すると予測されています。
不動産賃貸業界でM&Aを進められれば、大手企業の傘下となって、経営難に陥りやすい地方企業も経営の安定化が図れるでしょう。
M&Aを実施する際には、適切な助言会社の選定や自社の収益力・財務状況の把握、自社の組織体制の見直しが重要です。特に経営者やオーナーなどの属人性が高い企業は注意が必要です。
オーナーズ株式会社では、売り手に特化したFAサービスを展開しています。専属のエージェントがお客様の理想の取引実現に向けて、お客様のご希望に即したサービスをとことん提供いたします。よりよい評価額での売却に向けたアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を削減した案件成約も実現可能です。
また、具体的な買いニーズを持っている企業のほか、業界・買い手企業分析に基づき事業親和性の高い企業を買い手候補としてご提案します。大手金融機関や大手M&A仲介、M&Aマッチングサービスとも連携しているため、買い手探索のルートが豊富です。
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