M&Aで個人保証を解除するには?3つの判断要素や解除の流れ、最新動向を解説
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- M&Aの進め方
公開日:2026.05.30
2026.05.30
更新日:2026.05.30
2026.05.30
M&Aで会社を売却する場面では、経営者個人が会社の借入金に対して負っている個人保証(経営者保証)の解除は、売り手にとって重要な論点となります。経営権が買い手に移っても、個人保証は自動的になくならず、金融機関との協議・合意によって解除する必要があります。
特に売り手のオーナー経営者にとっては、退任後も保証が残ったままだと、借入金の返済責任を抱え続けることになってしまいます。
本記事では、個人保証の解除に必要な要件と手続きの流れに加え、近年の制度動向と解除が進まない場合の対応策まで解説します。
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M&Aにおける個人保証の解除とは
M&Aで個人保証の解除が論点となるのは、譲渡の前後で保証契約をどう扱うかが、当事者間の合意だけでなく金融機関との協議・判断によって左右されるためです。売り手の立場で押さえておきたい論点は、以下の通りです。
- 個人保証解除の定義
- M&Aで個人保証の解除が論点となる場面
それぞれの内容を以下で解説します。
個人保証解除の定義
個人保証の解除とは、経営者が会社の借入金に対して負っている連帯保証契約を、金融機関との合意により終了させる手続きを指します。中小企業の融資慣行では、経営者が会社の債務を個人として保証するケースが多く、会社売却後も、保証契約は原則として自動的にはなくなりません。
M&Aで会社を譲渡した後も保証が残ったままだと、買い手による経営の悪化や借入金の返済滞納が起きた場合に、退任した売り手が返済請求を受ける可能性があります。売り手としては、譲渡完了に併せて、金融機関との合意による解除を進めることが重要です。
M&Aで個人保証の解除が論点となる場面
M&Aで個人保証の解除が論点となるのは、株式譲渡で会社の借入金が会社に残ったまま株主が変わる場面、事業譲渡で借入金が売り手に残る場面、後継者への承継で保証契約を結び直す場面など、譲渡スキームによって扱いが異なるためです。
特に売り手にとっては、譲渡対価を受け取ったあとも保証が残ったままだと、買い手の経営悪化や借入金の返済滞納が起きた際に、退任後も返済請求を受けるリスクが残ります。スキームごとに保証契約をどのように解除・変更するかを事前に確認し、解除の段取りを譲渡条件と並行して進めることが必要です。
個人保証の判断で見られる3つの要素
個人保証の解除は金融機関との協議・判断によりますが、判断の重要な基準となるのが「経営者保証に関するガイドライン」が定める3つの要件です。
- 法人と個人の資産・経理の分離
- 財務基盤の強化
- 経営の透明性確保
金融機関はこれらの要素をどの程度満たしているかを確認したうえで、解除の可否を判断します。
※参考:中小企業庁「経営者保証に関するガイドライン」
法人と個人の資産・経理の分離
法人と個人の資産・経理の分離とは、会社のお金や資産と経営者個人のお金や資産が混在せず、明確に区別された状態を指します。経営者個人の生活費を会社経費として計上していないこと、会社所有の不動産を私的に使用していないこと、役員報酬や配当が適切な手続きを経て支払われていることなどが該当します。
売り手としては、M&A交渉前から経理処理を見直し、公私混同にあたる取引があれば解消しておくことが必要です。混在が残ったままでは、金融機関に対して財務管理の独立性を示しにくくなります。
財務基盤の強化
財務基盤の強化とは、会社の収益力や返済能力が安定しており、経営者個人の保証に頼らなくても借入金の返済が見込める財務状態を維持していることを指します。安定したキャッシュフロー、十分な自己資本比率、債務償還年数の短さなどが評価対象になります。
売り手としては、M&Aの数年前から赤字事業の見直しや遊休資産の処分を進め、決算書上の財務指標を改善しておくことが望まれます。財務基盤が脆弱なままだと、金融機関は買い手側にも保証を求める傾向が強まります。
経営の透明性確保
経営の透明性確保とは、会社の財務状況や経営計画について、金融機関に対して正確かつ適時に情報を提供している状態を指します。月次決算書の提出、資金繰り表の共有、事業計画書の説明など、金融機関が会社の状況を継続的に把握できる体制が評価対象になります。
売り手としては、日頃から取引金融機関と密にコミュニケーションを取り、業績の良し悪しに関わらず開示を続けてきた実績が、解除協議時の信頼につながります。開示が不十分だと、金融機関は判断材料がなく保証継続を求めやすくなります。
M&Aスキーム別の個人保証の取り扱い
M&Aで個人保証がどう扱われるかは、選択するスキームによって異なります。
- 株式譲渡の場合
- 事業譲渡の場合
- 会社分割・合併の場合
スキームの選択は譲渡対価や税務の論点だけでなく、個人保証の取り扱いにも影響するため、設計段階での確認が必要です。
株式譲渡の場合
株式譲渡では、会社の借入金は会社の負債として買い手に引き継がれるため、債務者である会社は変わりません。一方で、経営者個人が結んでいる連帯保証契約は、自動的には買い手側に移転しません。売り手の経営者が保証を外すには、金融機関との個別交渉で解除の合意を取り付ける必要があります。
買い手側で新たに保証人を立てるか、または保証なしで借入を維持できるだけの信用力を会社が有しているかが、解除の判断軸になります。売り手としては、譲渡契約のクロージング条件に個人保証の解除を盛り込むことが重要です。
事業譲渡の場合
事業譲渡では、譲渡対象となる資産・負債を個別に定めるため、借入金が売り手会社に残るケースがあります。借入金が売り手会社に残る場合、経営者個人の連帯保証も継続する可能性があります。譲渡対価で借入金を一括返済する場合は、返済と併せて保証解除の手続きを行うことになります。
譲渡対価が借入金を完済できる水準に届かない場合は、譲渡後も売り手会社で残債を返済し続ける必要があり、その間は保証も継続します。売り手としては、譲渡対価と借入残高のバランスを確認したうえでスキームを選ぶことが必要です。
会社分割・合併の場合
会社分割や合併では、債務の承継関係がスキームや契約内容によって変わるため、借入金と個人保証の扱いを個別に確認する必要があります。吸収分割で借入金が承継会社に移転する場合は、債権者保護手続きを経たうえで承継会社が新たな債務者となる場合でも、個人保証の解除や新たな保証契約の有無は、金融機関との個別協議で決まります。
合併後に既存の個人保証を解除するか、新たな保証契約を求めるかは、金融機関との個別協議によって決まります。法定の効果だけで保証が外れるとは限らないため、売り手としては合併契約や分割計画書の作成段階で、金融機関との解除合意を並行で進めることが必要です。
M&Aで個人保証を解除する手続きの流れ
個人保証の解除は、金融機関との交渉と書面化を順に進めていく実務手続きです。一般的には以下の流れで進みます。
- 金融機関への事前相談
- 後継者や買い手の信用力の確認
- 必要書類の提出と審査
- 解除合意の書面化
各工程に時間を要するため、譲渡完了の数か月前から段取りを組むことが必要です。
金融機関への事前相談
金融機関への事前相談とは、M&Aの実行段階に入る前の早い時期に、取引金融機関に対して個人保証解除の意向を伝え、解除の可能性や条件を確認するプロセスです。融資の主力銀行から地方銀行、信用金庫まで、保証契約のあるすべての金融機関に対して相談を行います。
事前相談を省略してM&Aを進めると、解除に必要な要件を満たしていないことが終盤で発覚し、譲渡完了直前で保証が残ったままになる事態が起こります。売り手としては、M&Aの検討開始と同時期に金融機関への打診を開始することが望まれます。
後継者や買い手の信用力の確認
後継者や買い手の信用力の確認とは、解除後に債務を引き受ける買い手や承継会社の信用力を金融機関が評価するプロセスです。買い手企業の財務状況、事業計画、過去の借入実績、後継者個人の与信などが確認対象になります。
買い手の信用力が金融機関の基準に届かない場合は、新たな保証人を立てる、追加担保を差し入れる、借入条件を変更するなどの代替案が提示されることがあります。売り手としては、買い手選定の段階で金融機関の評価軸を理解しておくことが重要です。
必要書類の提出と審査
必要書類の提出と審査とは、解除申請に必要な書類を金融機関に提出し、解除の可否について正式な審査を受ける工程です。直近3期分の決算書、最新の試算表、事業計画書、買い手企業の財務情報、M&A契約書のドラフトなどが必要書類となります。
金融機関による審査では、形式面の確認だけでなく、ガイドラインの3要件をどの程度満たしているかという実質的な評価が行われます。書類が不足していると審査が長期化するため、売り手としては事前に必要書類のリストを取得し、抜けのない準備を進めることが望まれます。
解除合意の書面化
解除合意の書面化とは、金融機関が解除を承諾した後、保証契約の解除に関する正式な書面を取り交わす最終工程です。既存の保証契約の解除合意書、必要に応じた新たな保証契約書、借入条件の変更契約書などが該当します。
書面化が完了して初めて、個人保証が解除された状態になります。口頭の合意のみでM&Aを完了すると、後から金融機関の方針変更や担当者の交代等で保証の継続を主張される可能性があるため、書面で残しておくことが重要です。
個人保証の解除をめぐる近年の制度動向
個人保証の解除をめぐっては、2024年に制度面の変更がありました。M&A実務に直接影響する主な動向は以下の通りです。
- 経営者保証改革プログラムと関連制度
- M&A仲介協会による経営者保証解除に関する取り組み
売り手としては、これらの制度動向を踏まえて解除協議を進める必要があります。
経営者保証改革プログラムと関連制度
経営者保証改革プログラムとは、金融庁・経済産業省・財務省が2022年12月に策定した施策で、金融機関に対して経営者保証に頼らない融資慣行の確立を求める内容です。経営者保証を求める場合の説明プロセスの厳格化や、保証契約締結時のチェック体制の強化などが含まれます。
このプログラムや関連制度により、経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた環境整備が進んでいます。売り手としては、運用の変化を踏まえたうえで金融機関への打診時期と協議条件を見直すことが望まれます。
※参考:金融庁「経営者保証改革プログラム」
M&A仲介協会による経営者保証解除に関する取り組み
M&A支援機関協会による経営者保証解除に関する取り組みとは、旧M&A仲介協会が2024年9月に会員向けに、経営者保証解除に関する契約条項の整備を求めた取り組みです。協会会員が関与する案件では、最終契約に解除に関する条項を盛り込む運用が求められるようになりました。
この取り組みにより、M&A実行段階で買い手側の保証解除対応を契約上明確にする流れが強まりました。売り手としては、仲介会社や買い手との契約交渉時に解除条項の有無と内容を確認し、不十分であれば修正を求めることが必要です。
※参考:日本経済新聞「M&A仲介協会、企業買収後の連帯保証の解除を義務化」
個人保証が解除されない場合の対応
すべてのケースで個人保証が解除できるとは限りません。解除が進まない場合に取り得る対応策は以下の通りです。
- 部分解除や段階解除を金融機関に求める
- 借換えで個人保証を外す
- M&Aスキームを見直す
売り手としては、初回の協議で難しいとされたとしてもその段階で諦めず、代替案を準備して再交渉に臨むことが望まれます。
部分解除や段階解除を金融機関に求める
部分解除や段階解除を金融機関に求めるには、保証額の一部のみを解除する、または一定期間ごとに段階的に保証額を減らしていく協議を行うことが選択肢になります。買い手側の信用力が現時点で完全な解除には至らないが、徐々に解除を進める余地はある場合に取り得る対応です。
たとえば、一定期間ごとに保証額を減らす、業績や返済状況に応じて解除範囲を広げるといった設計が考えられます。売り手としては、完全な解除が難しい場合でも、段階解除の合意で保証残存期間を短縮できる可能性があります。
借換えで個人保証を外す
借換えで個人保証を外すには、既存の借入金を新規借入で返済し、新規借入の段階で個人保証なしの条件を獲得することが有効な場合があります。経営者保証ガイドラインの運用が積極的な金融機関や、経営者保証なしの融資に積極的な金融機関に切り替えることで、解除が実現するケースがあります。
買い手側の信用力で新規融資が組成できる場合は、買い手主導での借換えも選択肢になります。売り手としては、取引金融機関以外の選択肢も含めて、保証なし融資の可能性を幅広く検討することが必要です。
M&Aスキームを見直す
M&Aスキームを見直すには、当初想定していた譲渡スキームでは個人保証が解除しにくい場合に、別のスキームへ組み替える対応が有効な場合があります。株式譲渡で買い手側が借入を承継する形が難しい場合、譲渡対価で借入金を一括返済する事業譲渡に切り替えることで、返済と同時に保証を解消できる場合があります。
スキームの変更は譲渡対価や税務面にも影響するため、保証解除のためだけに変えるのは慎重な判断が必要です。売り手としては、複数のスキームを比較したうえで、譲渡対価、税務負担、取引実行可能性の優先順位を整理する必要があります。
M&Aで個人保証の解除を進める際のポイント
個人保証の解除をスムーズに進めるためには、M&A検討の初期段階から金融機関との関係を整え、契約面と書類面の準備を並行で進めることが必要です。
- 早期に金融機関と協議する
- 契約書に解除条件と期限を明記する
- 後継者の信用力を高めておく
- 売り手の立場に立てる専門家とともに進める
売り手としては、これらを譲渡完了までに計画的に進めることが望まれます。
早期に金融機関と協議する
早期に金融機関と協議するとは、M&Aの検討開始と同時期に取引金融機関に対して個人保証解除の意向を伝え、解除の見通しと必要条件を事前に把握しておくアプローチです。譲渡契約の最終段階で解除を切り出すと、金融機関側の検討に時間を要し、譲渡スケジュールに影響することがあります。
売り手としては、M&Aの構想段階から取引金融機関と相談を重ね、解除条件の充足状況や追加の準備事項を継続的に確認しておくことが必要です。協議が早いほど、必要な財務改善や書類準備を計画的に進められます。
契約書に解除条件と期限を明記する
契約書に解除条件と期限を明記するとは、M&Aの譲渡契約書の中に、買い手側が個人保証の解除手続きを完了させる責任、解除完了までの期限、解除が完了しない場合の取り扱いなどを具体的に記載することです。クロージング条件として解除を組み込むケースもあります。
契約書に明記がないと、譲渡完了後に買い手側が解除手続きを後回しにして、結果として保証が長期間残るリスクがあります。売り手としては、譲渡契約のドラフト段階で解除条項の有無を確認し、不十分な内容であれば修正を求めることが必要です。
後継者の信用力を高めておく
後継者の信用力を高めておくとは、買い手や後継者となる人物の財務状況、事業実績、経営計画の信頼性を、金融機関が評価しやすい状態に整えておくことです。信用力が不十分だと、金融機関は売り手の保証継続を求めやすくなります。
後継者個人の純資産、過去の経営実績、買い手企業の財務指標、事業計画の合理性などを金融機関に説明できる形でまとめておくことが必要です。売り手としては、買い手候補の選定段階で金融機関の評価軸を踏まえ、信用力に懸念のある相手との交渉では、保証解除の見通しを慎重に確認することが望まれます。
売り手の立場に立てる専門家とともに進める
売り手の立場に立てる専門家とともに進めるとは、M&A仲介会社のように両当事者の間に立つ立場ではなく、売り手の利益を一貫して支援するFA(ファイナンシャル・アドバイザー)や弁護士、税理士と連携することを指します。個人保証の解除交渉は、買い手・金融機関と売り手の利害が一致しない場面が多いためです。
売り手専属のFAであれば、譲渡条件の交渉と並行して金融機関との解除交渉も売り手目線で支援できます。利益相反が生じにくい支援者を選ぶことが、保証残存リスクを抑えるうえで重要になります。M&Aにおける仲介とFAの違いについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
M&A仲介とFAの違いとは?向いているケースや役割、失敗しない選び方も解説
まとめ
M&Aにおける個人保証の解除は、譲渡完了後に売り手のオーナー経営者が借入金の返済責任を抱え続けないようにするための手続きです。経営者保証ガイドラインの3要件を踏まえつつ、スキーム別の取り扱いや近年の制度動向を理解したうえで、金融機関との交渉を計画的に進める必要があります。
特に売り手にとっては、以下のような論点を踏まえたうえで解除を進めることが重要です。
- ガイドラインが定める3つの要件をどの程度満たしているか
- 選択するM&Aスキームで個人保証がどう扱われるか
- 2024年以降の制度動向を踏まえた交渉設計
- 解除が進まない場合の代替案の準備
M&Aは、譲渡対価や条件面の交渉とあわせて、譲渡完了までに個人保証を解除しておけるかが売り手の退任後のリスクや取引条件に影響します。個人保証の解除を含めて売り手の立場を一貫して支援できる専門家とともに、早い段階から準備を進めていくことが、退任後の保証リスクを抑えたM&Aの実現につながりやすくなります。
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